にざかな酒店

白いペンキの机

というわけで、ホラーのつもりでしたが、色々とおかしいのでおまけをつけました。
っていうか、ホラーなのに「ケツが溶けるーー」て、お笑いっぽい。
いや、実際溶けたらめっちゃ怖いのに、なんでおかしいんでしょうね?
白いペンキの机。

「なんで机にペンキ塗ってんの?」
「んー?」
と、彼は振り返った。びっくりするほどの黒い瞳。
「落書きされてるみたいだから、上からペンキで塗りつぶせばいいやと思って」
その彼がいなくなったのは、三日後だった。

「ああ、なんかまだペンキくさい気がする…」
ちょっと痩せぎす気味の女子が下敷きをパタパタと振りながら言う。
「だいたいなんでペンキなのよ。落書きされたくらいでさあ…家ペンキやだからってなんなの」
「いなくなったやつのこと悪く言うの、やめろよ。」横からその女子と対照的な男子がたしなめた。
その横で背の低い男子がぶつぶつとぼやく。
「って言うか、誰だよいじめたの。これが就職とかに影響出たらどうしてくれる」
女子はなぜか胸を張った。
「いじめなんていじめられる奴が悪いんじゃない。ちゃんと原因はあるんだから。なんでも原因なしにいじめなんか起こるわけないじゃない」
「殺されたら殺される奴が悪いみたいな言い方するなよな。何もしてない自分だけは平和とかそう言う考え方が未だに差別とか産んでるんじゃないか。誰だって被害者になるときはなるんだよ」
と、言ったのは男子ではなく女子だった。キラリと光る眼鏡の奥の瞳で、そのとき彼女は何かを見た。
「君、そのスカート、ペンキついてる」
「…え?ペンキ?」
「白いペンキ」
「な、なに?いやあーーー!!」
見ると痩せぎすの女子のスカートの尻の部分にしっかりと白いペンキがついていた。
「な、なんだこのペンキ!」
「嫌だくさい!!」
教室のあちこちから悲鳴が上がる。
スカートのペンキは白かったはずなのに、黒く変色して腐食して来たようだ。
「い、いやーケツが溶けるぅうーー!」
「けつって。お前一応女子だろ」と、被害を受けてない男子がツッコミを入れた。自分は被害にあってないので冷めた声だった。
眼鏡の女子が、彼女もペンキの被害を全く受けてなかったので、冷静に言った。
「えーと、これは…ホラーな現象というやつか。無事な人間は帰った方が良さそうだ。」
「うん、帰ろ帰ろ」
「帰ろ帰ろじゃないいいいーーー!」被害を受けた人間の叫びが一気に重なった。
天井から滴り落ちる、白いペンキ。
気づくと足元も白いペンキでドロドロと腐食している。いじめてなかった人間は避けているあたり、なかなか高度な呪いだ。
「いやあああーーー!溶ける、溶けるーーー!!」
「やっぱいじめってしちゃいけないもんだな。呪われるしな」
帰る帰る組のあっさりしたコメントだった。そして、教室自体が白く染まり、腐食した。
これが、ペンキ事件の結末である。

「である…ってこの話、おかしいだろ」
と、この話の綴られたノートを見ながら、保坂という男子が呟いた。
「っていうか、落書きくらいで死んだりとかおかしくないか?」
「それがセンシティブな学生時代には起こるんだな。」
ふふん、と真中という男子が返す。
「っていうか、この話で何がしたいんだよ」
「いじめはいかんという話をだな」
「なんでいじめてない奴らがこんなにドライだよ。普通もうちょっと優しさあるだろ」
「案外みんな優しさないぞー」
「んなことないない。で、なんでペンキ?」
「あー、それはな…」
真中は演劇部だった。
「こないだから装置にペンキ塗りすぎてちょっと疲れたからネタにしたかっただけでさ」
ぷ、と保坂は笑う。
「なんだ結局ペンキに対する恨みかよ!いじめの話とか後付けなんじゃん」
「そうそう、いじめの話にしとけば復讐の話はだいたい整合性がつくだろ?そんなもんだよ」
なーんだー、と保坂は胸をなでおろした。道理でひとごとみたいな話になってるわけだな。
ホラーなんて所詮ひとごとなのだ。
怖い夢とかもその理屈だろう。
気にしすぎたことが夢に出てくるのだ。
「ホラーって結局世の中に対する効用ってストレス解消だもんな。俺もなんか恨みあったかな」
そうなってくると、ちょっと自分も面白いことが描きたくなって来た保坂である。
たまに手伝いでシナリオ補佐入るから。
「長いままの鉛筆の呪いとか面白いかもしらんな。白いノートの呪いとか」
「あ、それ面白い。」
二人はそんな感じで、日々創作に勤しんでいたのであった。
平和な放課後である。
(終)
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