このシリーズって、割とミステリ的な話をせなんだらラジオ的設定でもよかったような。
まあ、そんな感じにしゃべる系のお話です。
では続きでどうぞ。
薄暗い照明に、無機質な黒いテーブルを囲んで、今日も仮想悪夢研究会なる会はあれこれと語り合う。
「思うに、最近心が置き去りのミステリって増えてないか」
リーダー格のRが呟くようにいった。
「そう、俺のようにスピリットオブゴンチチを買うなりなくすような奴だ」
重々しく、聞いていたAが黒斑の眼鏡の縁を押し上げた。
「いきなり俺のように、っていうのは、何とも言えないな。しかもなんでいきなりCDの話なんだ」
「まあまあ、そういう会じゃん」と隣でTがフォローに回る。
「このCDは、二枚にわけたベスト盤で、赤がボディ、青がスピリット。俺は二枚セットで買って、青を無くしたわけだ。冷静の青。」
「そういう言い方をすれば、ミステリに聞こえなくもないけど。ようは物持ちが悪い話でしょう?」
紅一点のFは華奢な白黒のティーカップを口に運びながらいった。
「そのカップ、妙にちっちゃくないか?」
「持ちやすくていいのよ。ポットにはもうちょっと入ってるから、継ぎ足しながら飲めば」
「ほう」
「赤と青のベスト盤って、最初はビートルズだったよな」
「B'zもあった気がするが」
「やっぱり情熱と冷静かしら」
思うに、と言いかけて、RはFにたずねた。
「もうちょっとでかいカップ無いか。俺もちょっと飲みたい」
「この会のイメージは合わないけど、マグカップがあるわ」
「おう、それ」
白地に猫の柄の、また微妙にファンシーなカップだった。
紅茶は、ほのかに柑橘系の香りのするアールグレイ。
舌にじんわりと渋みがある。
「人間はあっためたり冷やしたりしながら進むもんだ。どっちかが欠ければ、どっちかが暴走する。」
「思うに、客観が足りてないんじゃないか?」
「うんにゃ。客観てのは、理屈であって真実にはないんだよ。客観っぽい、主観であってな。」
「まあそれでも主観っぽい主観よりは客観でしょう」
「ま、そらそうだ。それにしても、動機とかどうでもよすぎだよな。」
だったら、とAが足を組み替えながらいう。
「そも人間自体の種としての限界がきてるっていうならどうだ。世の中が変わりすぎて、人間全体でのルール自体が共有できない時代になった。人間らしくあればあるほどらしくなくなる」
「そも共通認識が通じないから、外れた方を追求するしか無い、か。なるほどな。」
「で、ますます世界は自分になる…ってあたり、いいんじゃないか?」
最近は人をただす事ができない時代になってるしね、といいながらFはカップをおいた。
「そのあたりについては、俺がもひとつ補足的に言いたい事がある」
と、T。
「最近のフィクションは、俺が思うに、主人公のスキルが最初から高すぎる。明らかに成長が話に組み込まれてないような気がするんだ」
「主人公が動かないから、環境の方を動かすしかない、っていう話の作り方?」
「まさにそれ。今日のテーマにぴったり」
「ふーーむ、皆今日はなかなかだな。いや、俺は思ったさ。なくすのはボディの方もなくしてる感じだな。俺はボディもなくしてないからまだいい」
「っていうか、スピリットも探せばあるんじゃない」
「家から外に出してないからあるはずだが」
Aが仰々しい仕草で腕を組みながら言った。
「壊れて出てきたら心が壊れたとか言うのか?」
「聞く前の心が壊れた!!」
おーのー。といった感じでRは天井をあおいだ。
「まいったな。」
「その場合の動機は?」
「なくした、だろ?単なるミスだ。殺意だけが死にいたる道とはいわないさ」
「ミステリだけがミステリって言わないように?」
「だな」
「あら、今日もそろそろ時間がないみたいね」
黒い時計の秒針がこく、こくと動く。
切り刻まれた時間。
この時だけの、時のスライス。
「じゃあ、今日はこれまで、また次回はいつか…」
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