結構ナンジャコリャ、な展開というのは普通の生活でもあるものなのです。
というわけで続きでどうぞ。
疲れ探偵番外編 彼はこうして刑事になりました
「に、してもとんでも事件ばっかりよく起こりますけどねー」
自転車で交番の前を通るといつものなつこい刑事が探偵を呼び止めて話を始めた。
「うちの交通課の高鹿(こうか)くんも変わった経歴で入って来たっていう話ですよ?」
「へえ、どんな?」
「あ、やめてくださいよ先輩ー」
話を始めようとした先輩の後ろから来たその高鹿君はなんとなく刑事モノの漫画で出て来たあだ名がアルパカという刑事のキャラに似てる感じがした。
「だって、あんな面白い話聞いたことないもん。ね、いいじゃん」
「しょうがないですねえ…ここだけですよ?」
今からざっと20年ほど前。高鹿君が中学生の頃の話である。だとすると高鹿君は30代真ん中くらいだということになるが、見えない童顔である。
当時の高鹿君はわかりやすい表現で言うと、グレていた。
というか、能動的に悪いことをしてたんじゃなくて、単純に学校に行かずにほっつき歩いていた。
学校に行きたくない理由は本人が言うには先天的な無気力、と言うことだったらしい。
ところが顔はそこそこよかったのでなんとなく不良のお姉さん方に人気があったと言うことで、上から睨まれたりなんだり厄介のタネはたくさんあったと言う。
その時も不良のお姉さんに喫茶店でお茶を付き合わされていた高鹿君なのであった。
そこでマクドナルドとかじゃなくて喫茶店というところがちょっとセンスのいい不良な感じなのだが、そのお姉さんは受動喫煙がしたかっただけらしい。不良だがそうそうタバコばっかり吸ってもいられないちょっとお金のない家のこの不良だった。
そこへ、上品そうだが少し暗い顔の女性が入ってくる。
「なんーだあの暗い女。美人台無しじゃん」
その一言だ。その一言で、高鹿君の今まで消されて来た記憶が一気に蘇った。
「お、俺…そう、俺、4歳の時、六つ上の姉貴がいて…姉貴は底なしに明るかったのにある日いきなり笑わなくなって…なんか、自殺、したんだったような…」
「ええ…?なんだよ、それ、ちょっと、しっかりしなよ」
「たぶんこんな感じの人にいじめられたんだ…!俺、こんなことしてる場合じゃない、学校行って勉強して…うん、教師か刑事か弁護士にならなきゃ!!」
「………おーい、戻ってこーい。」
ところが彼は戻って来なかったのである。その後、自殺というのは記憶のすり替えというか思い込みで実は交通事故だったということが発覚したので、彼はそのまま交通課の刑事を目指したのだ、という話。
「それは…すごいね…」
と、思わず探偵は呟いた。
「すごいでしょう」と、先輩刑事が言う。
「お姉さんの無念を晴らすと言うのはなんとなく納得できる理由にしても…」
「そこに至る過程がねえ…」
高鹿君は、ははは、と少し笑顔が引きつっている。
「まあでもこうして刑事になってちゃんとやっていけてると言うことは、その不良のお姉さん偉かったんじゃないかな」
「どんな一言が人を動かすかわからないものですねえ…それも、その後彼のお嫁さんの年の離れた妹さんっていうのがまた可愛くてねえ。それでいじめにあって大変なことになってたっていうおまけ付きで」
「彼女は守りました」
彼の呟きのような声に、一瞬の間が空いて…。
「なんだ、美談じゃないか。」と探偵は手を叩いた。
「そうですよ、これ、実はいい話ですよ」と嬉しそうに先輩は言う。
「やめてくださいよ、恥ずかしい。俺、お茶買って来ます」高鹿君は照れてあっちへ行ってしまった。
探偵はそっと笑って「それじゃ、いい話ありがとう」と自転車漕ぎ漕ぎまた頼まれていた本を探しに行ったのであった。ふわふわの雲と透き通る青空が広がっていた。
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