しかし、年功制には長期的視点からみればさまざまな長所もある。研究職のように成果が出るまでに長い時間がかかり、しかも評価が難しい仕事や、リスクを伴う仕事は、成果主義は不向きである。こうした職場では年功制のほうが向いている。一般に年功制は、競争原理が働かないといわれるが、そんなことはない。短期的な競争ではなく、目に見えにくいゆっくり時間をかけた競争がおこなわれている。
教育界は、長らく年功序列賃金制であった。これに対して、近年、成果主義が一部取り入れられ始めた。
能力給の長所と短所を比較すると、次のようになろうか。
長所
営業職、プロスポーツ選手、ディーラーのように、成果が短期で出る職業で、
かつ評価を客観的に測定できるものに向く。
短所
研究職のように成果が長期的にしか出ないものや、評価が難しいものには向かない。
(例えば、一つの薬を開発するには10年かかるといわれる)。
また、割のいい仕事だけをやって、リスクを伴う仕事をやらなくなる恐れもある。
この結果、大きなイノベーションは起こりにくくなる。
さらには、個人プレーが目立ち、チームプレーがおこなわれにくくなる。
教育現場に能力給を導入する長所としては、教員のやる気を引き出し、組織を活性化させることが考えられる。一般に組織には「2:6:2法則」があるといわれる。一生懸命働く人が2割で、適当にやる人が6割、残り2割はやっているふりをしているだけだという。もし、能力給を導入し給料アップというニンジンをぶら下げれば、こうした沈滞したムードを打ち破ることができるかもしれない。
しかし、能力給には短所もある。
第一に、教員が自分の評価を高めるため「部分最適」を追求し「全体最適」を追求しなくなる。たとえば、進学校では、生徒の総合的な学力アップを考えず、自分の教える教科の点数を上げるために過大な宿題を出す先生が出てくるといった弊害が現に見られる。
第二に、評価の客観性をどのように担保するかも問題である。どのような授業をやっているか管理職が授業見学に教室に入る。授業が年間を通して面白ければこれに越したことはない。しかし、扱う範囲によってはおもしろくないところもある。また、クラスによって雰囲気が異なることもある。また、教員の仕事の大半は管理職の目の届かないところで行なわれている。そうした仕事ぶりを、校長と教頭というわずか二人の管理職で、評価しなければならないのだから、管理職も大変である。管理職も人間である。自分に協力的か非協力的か、あるいは好き嫌いで評価することがあるかもしれない。
第三に、短期的な成果を求めるあまり、長期の視点が失われることだ。たとえば、テストで点を取らせる教育ばかりが評価され、点数に直接結びつかない教育が評価されなくなる恐れがある。また、生活指導でも、力で押し黙らせる即効性のある指導が評価され、生徒の人間性に影響を与えようとするじっくりした取り組みは評価されなくなる恐れもある。
アインシュタインは「教育の効果は学校で習ったことを忘れた後に初めて現れる」と述べているが、教育の本質を考えると、教育という場に能力給を導入することには、慎重であるべきかもしれない。
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