東京株式市場の日経平均がついに史上最高値を付けた。バブル期以来34年ぶりとのことである。まずは「おめでとうさんでございました」と言っておこうか。
しかし、実態を調べてみると喜んでばかりはいられない。今回の株高の要因として次の点があげられる。
① 好調なアメリカ経済=米国株を反映。
② 円安
③ 企業の自社株買い
④ 日銀や年金による買い支え
⑤ 金融緩和の継続
⑥ 日本企業の業績好調
⑦ 不動産不況という爆弾を抱えた中国からの資金流入
⑧ 新NISAの導入
日本の株価は主に外国人投資家によって決まる。日々の取引高の7割近くを外国人投資家が占めるからである。2024年1月の売買高を見ると、日本の個人・法人の売り越しが1兆9370億円だったのに対して、海外投資家は2兆693億円の買い越しであった。つまり、日本人は株を売りそれを外国人投資家が買っているという構図である。
なぜ、いま外国人投資家が日本株を買っているのか? 日本の将来に期待しているからか? もちろんそんなわけはない。②の円安と⑦の中国市場からの資金流入によるものである。簡単に言えば1ドル=80円が1ドル=150円になれば、日本株をほぼ半値で買えることになる。ましてやニューヨーク市場でのダウ平均は34年前に比べて14倍にもなっている。外国人投資家にとって円安の現在、日本株は非常に安く感じるのである。
また、円安は輸出企業に多大なる恩恵を与える。トヨタ自動車は1円の円安で450億円の利益が増えるといわれる。日本は相変わらず輸出中心の経済であり、輸出企業が儲かればその傘下にある関連企業に対する恩恵は大きい。これも日本の株価を引き上げる要因となった。
こうしたことに加えて③企業の自社株買い、④日銀や年金による買い支え、⑤金融緩和の継続、⑧新NISAの導入など政府のなりふり構わぬ株高維持政策がある。日銀の保有するETFは現在70兆円にも達し、1年間の日本の税収に匹敵する。
企業による自社株買いされたのは2001年の商法改正である。なぜ解禁されたのか。一言でいえば株主を優遇するためである。2000年以降、日本では新自由主義政策が声高に叫ばれるようになり、「物言う株主」の存在を無視できなくなってきた。株主優遇には配当を増やす方法のほかに、自社株を購入して株価を高く維持する方法がある。自社株買いも立派な株主優遇政策なのである。
自社株買いによって株価を吊り上げるゆとりがあるなら、それを賃金引き上げになぜ回さないのか。自社株買いの資金を自社製品の研究開発に投資すれば、企業業績はもっと伸びたのではないか。そうしたことをしないで株価ばかりを追求する。こうした政府の誤った政策の原点は新自由主義政策・金持ち優遇政策にあるというのが私の見立てである。
こうして2012年の安倍政権以来、シャカリキになって企業を儲けさせ、株価を上げてきた結果が昨日の史上最高値なのである。
この結果私たちの生活の何が変わったというのか。実質賃金は下がり続け、生活は苦しくなるばかりである。儲かっているのは企業と株式を大量に保有している富裕層ばかりである。
ちなみに富裕層の分布を2015年と2021年を比較すると次のとおりである。超富裕層の資産額が1.4倍になっているのに対して、全世帯の8割近くを占めるマス層の資産額は1.1倍にしかなっていない。おそらくマス層の大半は株式を購入するゆとりなどないものと想像される。なお、富裕層の定義を金融資産のみに限定し不動産を含まないのは調査機関が野村総合研究所ゆえだと思われる。
新自由主義は企業や富裕層に有利に働く。しかし、テレビも新聞も決してこのことについて報道しない。もしそんな報道をすれば、スポンサー企業が黙っていない。ロシアにはプラウダという新聞がある。プラウダとは「真実」という意味だそうだが、「プラウダは真実を報道しない」というジョークがある。他人ごとと笑ってはおれない。
そもそも34年前の日経平均と現在の日経平均を比べること自体いかがなものか。なぜなら、この間に日経平均を算出するための銘柄225企業の3分の2が入れ替わっているからである。株価の足を引っ張る企業が外され、業績が好調なハイテク企業が組み込まれている。成績の悪い生徒を外して成績のいい生徒を入れて平均を算出し、それを比較することにいったいどれほどの意味があるのか。
外国人投資家の逃げ足は速い。円高に振れれば一斉に売り逃げ、利益確定に向かうだろう。新NISAの導入などに踊らされて安易に株式市場に参入すれば大やけどを負いかねない。新高値(または4万円)という目標を達成した後に急落することは十分に考えられる。
たとえ暴落(急落?)しても狼狽売りなどせずずっと持ち続ける覚悟があるならNISA参入もありうる。しかし、行動経済学的に考えれば、暴落した時点で狼狽売りしなくとも(損失の回避)、株価が戻ってきたところで「やれやれ売り」をするのではないか。そうなるとNISAの恩恵を受けられない。NISAはあくまで超長期の投資で臨むのが基本である。
(参考)