『あきない世伝』が実に面白い。天満を舞台にした呉服商の物語である。天満には1年間住んだことがあり、出てくる地名一つ一つが懐かしい。
ある時電車の中で見知らぬおっさんが大きな声で言っていたのを思い出す。
「大阪にはテンマなどという地名はない」(テにアクセント)。
「テンマや」(ンにアクセント)。
ふーん、そうなんだ。
「お早ようさんだす」
「堪忍しとくなはれ」
「ありがとうさんでございました」
この小説は大阪ことばで書かれている。今の関西弁とも違う。どちらかというと京ことばに近い。石川県生まれの私はいまだに関西弁が使えないのだが、この小説を読んでいると自然に「大阪ことば」のアクセントになるから面白い。
天満に住んだのは、今の梅田のマンションが完成するまでの仮住まいであった。上の階には板東英二氏が住んでおり、エレベーターに乗っているとたまに顔を合わせることもあった。駅近で買い物も便利。わずか1年間でこの街がすっかり気に入ってしまった。いつかこの街に住むのも悪くないなあと思った。