「世界の美術館」(DVD全18巻)を見た。有名な画家の絵が世界各地の美術館に点在しており、約1000点の絵を美術館ごとに解説している。それらを「西洋絵画史入門」としてまとめてみた。
古代エジプトでは人間の顔を正面から描くことができなかった。眼は正面、鼻は横、肩は正面、腹は横から描いている。これで3000年間やってきたのだからこれはこれですごい。
ルネサンス期になって「遠近法」と「陰影法」という絵画技法が発達した。陰影法のおかげで人間の顔を正面から描き、服のしわなども表現できるようになった。人間はようやく3次元のものを2次元に落とし込む技法を生み出した。
【1】ルネサンス期(14世紀~16世紀)
中世1000年間のキリスト教中心の世界観から抜け出し、古代ギリシャ・ローマの復興を目指す運動が起きた。学生のとき、古代・中世・ルネサンスを「生」「死」「再生」と習って感動した覚えがある。中心となったのはもちろんイタリア。
当時はまだ教会からの注文が多く、聖書に題材を求めた作品が多かった。赤ちゃんを抱えている絵は聖母マリアとキリストの絵であり、天使が女性の下に降り立つシーンは受胎告知のシーンと思ってほぼ間違いない。
代表的な画家にレオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロ、クラーナハ(独)、ブリューゲル(農民画家)らがいる。
↑ボッティチェリ「ビーナスの誕生」 ボッティチェリのパトロンはメディチ家(フィレンツェ)。
西洋絵画にはやたらと裸体が多いが、これは古代ギリシャ・ローマの肉体賛美と共通する。裸体を描くことはキリスト教の禁欲主義の下で長らく禁止されたが、近代に入って再び復活した。
モナリザは輪郭線を一切描かず、色彩のグラデーションと明暗で描かれている。これは絵具を30回ほど塗り重ねて描く技法で「スフマート」(ぼかし技法)と呼ばれる。また、背景は空気遠近法で描かれている。
1600年~
【2】バロック(17世紀~18世紀初期)
「バロック」というのは「ゆがんだ真珠」「規範からの逸脱」を意味する。ルネサンス絵画が均衡がとれたものであったのに対する反動として生まれ、イタリアからオランダ、スペイン、ベルギーへと広まった。ルネサンス期には描かれなかった風俗画、静物画、庶民の生活や肖像なども描かれるようになった。ルイ14世が20年の歳月をかけてつくったヴェルサイユ宮殿はバロック建築の傑作である。
フェルメール(蘭)、レンブラント(蘭)、ベラスケス(ス)、ルーベンス、ヴァン・ダイクらが代表的。ルーベンスはフランドル(現ベルギー)、その弟子のヴァン・ダイクはイギリスのチャールズ1世の宮廷画家として活躍した。
↑レンブラント 「夜警」
左斜め上45度から光を当てる技法は「レンブラント・ライト」と呼ばれる。
「モナリザ」「夜警」「女官たち」は世界三大名画と言われる。ベラスケスはフェリペ4世の宮廷画家であった。左端に絵筆を持っているのがベラスケス本人で、国王夫妻を描いている。ただし、絵は国王夫妻の目線で描かれており、画面中央に描かれているのは王女マルガリータ。国王夫妻は正面の鏡に映りこんでいる。
↑フェルメール「真珠の耳飾りの少女」
フェルメールは青と黄の配色を好んで使った。
1700年
【3】ロココ式(18世紀)
美術の中心はイタリアからフランスに移る。かしこまったバロックに対して、おしゃれで装飾的なところが特徴。「ベルばら」の世界をイメージするとよい。建築物としてはサン・スーシー宮殿(独)がある。個人的には猫足のテーブルなどロココ調の家具は大好き(笑)。
ヴァトー、フラゴナールらが代表的画家。
ジャン・オノレ・フラゴナールの「ぶらんこ」。左下のフランス貴族の視線に注目。このようなちょっとHなシーンは「もっと自由で楽しく」という当時のフランス貴族の世相を表している。ちなみに当時の女性は下着は身に着けていなかったはず(汗)。ルイ15世の時代、貴族がこんなことにうつつを抜かしていたら、そりゃ「革命」も起きますわな。
【4】新古典主義(18世紀中頃~19世紀初期)
ポンペイの遺跡が発見されたことから、古代ギリシャに学ぶ機運が高まる。ロココ式のチャラチャラした絵に対する反発と、もっとフランスの栄光をたたえるべきだという風潮から生まれた。
ダヴィッド「ナポレオンの戴冠式」。このほか、ナポレオンが馬にまたがりアルプス越えをしている絵も新古典主義の代表的な作品である。
1800年
【5】ロマン主義((19世紀)
理性よりも感受性と主観に重きを置く。ロマン主義を理解するには絵を見たほうが早い。女神が上半身をさらけ出して革命を先導するなんてことはおおよそあり得ない。ドラクロワ、ゴヤ、ターナーらが代表的。
↑ドラクロワ「民衆を率いる自由の女神」
西洋絵画史上初の全裸(陰毛を含む)を描いた絵である。裸体の絵が多いとはいえ、これは何とも大胆な! ゴヤはそのため宗教裁判にかけられた。芸術家には社会の常識と戦う強い精神力が求められる。ゴヤはこの後「着衣のマハ」をかいた。その理由はよくわからない。
着衣のほうがなまめかしいのはなぜだろう(笑)。
【6】写実主義(19世紀)
主観を重視したロマン主義に対して、写実主義は目に見えるものを描く。クールベは「天使は目に見えないから描かない」と述べている。産業革命によって生まれた階級の差に注目し、庶民の厳しい生活も美術の主題とした。マルクスの影響がみられるのかもしれない。ミレー(バルビゾン派)、クールベ、コローらが代表的。
ミレー「晩鐘」 遠くの教会の鐘の音に合わせて祈りをする夫婦。「落穂拾い」もそうだが、ミレーは貧しい農村の風景をよく描いた
【7】印象派(19世紀)
1827年に写真が発明された。その結果、それまで多くの肖像画をや風景画を描いていた画家に新たな役割が求められるようになった。
印象派という名称は、モネの「印象・日の出」がその由来。絵具を使って刻々と変化する光を追求する。ルノワール、ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌ、ドガ、シスレーらが代表的。
↑モネの「印象・日の出」。カメラでは表現できない光とタッチがみられる。
↑モネ「睡蓮」 モネは26年間同じモチーフを追い続けた。光線の加減で景色はどんどん変わる。だから1枚の絵に描ける時間は7分。続きは同じ光線になるよう日を改めて描く。同じモチーフでもちょっと見方を変えるだけで、またわずかに頭を傾けるだけで、何か月もの間制作し続けることができると述べている。
↑ルノアール「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」 木漏れ日に印象派の特徴がみられる。
ゴッホの作品は激しいタッチの独特な画風で「ひまわり」(7点)が有名である。ゴッホにとってひまわりは光、希望、友情の象徴であった。ゴッホ(オランダ人)が活躍したのは10年間ほどで、ゴーガンと共同生活を試みるも、精神病の発作で自分の耳を切り落とすという事件を起こし、共同生活は破綻した。作品に出てくる「糸杉」(画面右端の木)は死の想念とされる。ゴッホは37歳のとき麦畑で猟銃自殺した。ゴッホの絵は死後、評価されるようになった。
【8】象徴主義(19世紀)
科学的実証主義に対して、神秘的なもの・内面を重視する。「目に見えないものを信じる」というモローの言葉がこれをよく表している。象徴主義の特徴も作品を見たほうがわかりやすい。
↑ムンク 「叫び」
20世紀になると、それまでの一点透視法をやめて、いろいろな角度から見た形を一つの画面に収める「キュービズム(立体派)」など様々な試みが行われている。代表例にピカソの絵がある。
こうしてみてくると、絵の世界も哲学思想と同じで、Aが出てくるとその否定でBが出てくる。またその否定でCが出てくるといった具合に進んできたのがわかる。
ルネサンス(古代ギリシャ・ローマ文化の再生)
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バロック(名画が多い)
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ロココ(中心は伊から仏に移る。スカートの下、ちゃらちゃら)
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(フランス革命)
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新古典主義(ナポレオンの絵をイメージ)
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ロマン主義(1830年の7月革命を題材にした「自由の女神」)
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目に見えるものを描く!「写実主義」
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(写真の登場)
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印象主義(写真では表現できないものを描く)
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象徴主義(心理を描く)
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現代美術
とまとめることができる。イタリアから発展し、やがて中心がフランスに移っていくプロセスとして記憶するのもよい。