毎回一生懸命授業をしているが、会心の授業というのは少ない。年に1回か2回か。たまたま昨日それができた。これまでの人生で一番出来がよい授業だったかもしれない。40人の目が食い入るように見つめてくる。なんとも言えない快感である。
授業は今「国際政治」の分野にさしかかったところである。愚かしい戦争を防ぐために人類はこれまでどういう仕組みをつくろうとしてきたのか。勢力均衡と集団安全保障について、教科書には載っていない、教室という密室だからできる話をした。もちろん十分に裏を取っているので内容は確かである。
世の中にはみんなが知っていてそれでいて権力が怖いから誰も口にしないことがいっぱいある。しかし、学校で真実を教えない国は亡ぶ。そんな信念のもと、精いっぱいの授業をした。生徒には、遺言のつもりで聞いてほしいと伝えた。
たとえば、アメリカは本当に広島・長崎に原爆を落とす必要があったのか。当時の状況を考えると、日本近海の海上に1発落してその威力を見せつければ十分だったのではないか。なぜ、一般市民を犠牲にする必要があったのか。明らかな国際法違反であり、戦争犯罪ではないかと述べた。
しかし、日本人はだれもそのことを口にしない。唯一、NHKの朝ドラ「虎に翼」のモデルとなった裁判官三淵嘉子がそのような判決を書いている。
第二次世界大戦とはいったいいかなる戦争であったのか。アメリカの言うように「民主主義対ファシズムの戦い」というのも一方的な言い分でしかない。しかし、だからといって日本の保守派が主張するように「アジアからヨーロッパ勢力を追い出し植民地を解放するための正義の戦争」というのも嘘っぽい。日本軍が中国やシンガポールで行った残虐行為を見ればそのことは明白である。歴史の真実とはいったい何か。そんなことを生徒に問いかけてみた。
授業はビデオ収録されており、天王寺高校のアーカイブとして保存されることになっている。