パーソナル・スペース
私たち人間には、様々な特性が備わっています。
その特性に配慮したオフィス設計をすることで、快適で能率の良い仕事を行うことが可能になり、企業業績にもプラスの影響を与えます。
今回は、パーソナル・スペースについて紹介します。
不快・緊張を生じる空間
私達は、映画館では隣の人と一つか二つ席を開けて座り、電車においては最初に両端の席から座り、両端に人がいる場合は真ん中の席に座ります。
つまり、人間は人のすぐ隣に座ろうとはしない。この行動特性は、人間が持っているパーソナル・スペースに起因しています。
それは、こちらの実験映像を見てもらえると一目瞭然です(笑)
他者に侵入されると不快や緊張を生じる空間であるパーソナル・スペースは、前後を長径、左右を短径とする楕円状に広がっており、後方よりも前方に広い。
パーソナル・スペースの距離帯
文化人類学者のホールは、人間が他者との間に持つ距離帯についての観察と、それに関する面接を行い、下記の4つの距離帯を見い出しました。
つまり、私達は他者と物理的な距離をとる時、友人、家族、恋人、他人など、それぞれの人達との関係性に相応しい距離をとっているのである。
下に示したのは、京都府の鴨川の土手に並ぶカップルの様子。カップル達が他のカップルとある程度の距離を置いて座っているのがわかります。
各々の距離が大体同じであることから、他者との間に築かれる距離が、ある種のコミュニケーションになっていると考えられます。
パーソナル・スペースの大きさと形
心理学者の渋谷昌三氏は、パーソナル・スペースの形態を明らかにするために、大学生の男女を被験者とした接近実験を行っています。
目標の人物に接近し、それ以上近づきたくないと思った位置で立ち止まった時の位置を記録して、パーソナル・スペースの境界としました。
【実験結果】
各被験者の4方向の平均距離を分析した結果、男性の被験者は、対象人物が未知の場合、既知の人の場合よりも大きなパーソナル・スペースを取っていることがわかりました。
また、対象人物が女性の場合、男性の時よりも大きなパーソナル・スペースを取っています。
パーソナル・スペースの大きさは、既知の相手より未知の相手に対して大きくて、また、同性より異性に対して大きいようです。
女性の被験者は、対象人物が未知である場合は、既知者の時よりも大きなパーソナル・スペースをとっており、対象が男性の場合、女性の時よりも大きなパーソナル・スペースをとっています。
また、女性の被験者が男性の既知者に接近する条件においてのみ、前方に対するパーソナル・スペースが大きかった。
これは、対象である既知の男性への女性の特別な配慮が存在していることを示唆しています。
【結論】
実験結果より、人はかなり大きなパーソナル・スペースを必要としていると考えられます。
しかし、実際の対人場面でのパーソナル・スペースは、本来人が必要としている空間に比べるとかなり小さいことが多いです。
しかし、実際の対人場面でのパーソナル・スペースは、本来人が必要としている空間に比べるとかなり小さいことが多いです。
こうしたパーソナル・スペースの制約は、対人関係に悪影響を及ぼしていると考えられます。
また、多数の男性が小さな部屋に押し込められると攻撃的になり、友好的な関係が損なわれるという事実があります。
つまり、チームワークの向上にパーソナル・スペースの概念は無視できないといえます。
編集後記
時代環境によって、パーソナルスペースに対する個人の意識は変わってきています。
ベビーブームにより、小さな家で大人数で暮らしていた戦後の家庭環境の場合、パーソナルスペースを持ちようがなく、それに対する意識も育ちません。
一方で、少子化や未婚率の上昇よって一人っ子家庭や一人暮らしが増えると、自分のプライベート空間を確保しながらの作業が当たり前になります。
そうした中で、パーソナルスペースへの配慮の無い職場環境は、目の前の仕事に対する集中力やモチベーションを乱し、労働性に悪影響を与えています。
少子高齢化によって労働者不足が常態化していく今の時代、働きやすい職場環境を作って離職率を下げる取り組みをしている企業があります。
働きやすい職場環境とは、「人間が持っている特性を考慮した職場環境」ということです。
それには個々人のパーソナルスペースへの配慮が重要で、それにはパーテーションの設置が大切になります。
設置するだけで、仕事の精度やスピード、モチベーション、さらには人間関係や会社の離職率などに好影響を与えるのであれば、設置して損はないでしょう――。
【記事/画像引用】「パーソナル・スペースの形態に関する一考察」「human心理」