このブログをご覧の皆様は、大野源一九段はご存知だろうか。
大野源一九段はタイトル獲得は無いがA級16期の強豪。
1911年9月1日生まれで享年1979年1月14日なので、
私が生まれる前に活躍していた棋士だ。
振り飛車名人の異名を持ち、当時受け一辺倒だった振り飛車に
「捌き」という概念を取り入れ、現代振り飛車の基礎を築いた。
木見金治郎九段門下で塾頭として兄弟弟子に升田幸三、大山康晴を鍛えたそうだ。
引用元(日本将棋連盟)
さて、大野源一九段の絶局をご覧頂きたい。
1978/12/19 第37期順位戦C級1組07回戦 大野源一九段対本間爽悦八段
現代では、いわゆる先手ゴキゲン中飛車と呼ばれている戦法を駆使して快勝している。
この時なんと67歳だ!!
この早い5筋の歩交換が無理筋と実戦で結論付けられたのが2007/9/20の事だから、
大野源一の振り飛車は30年先を行っていたと言っても過言ではない。
その大野源一九段の著書を、最近Yahoo!オークションで入手した。
大野の振り飛車は若き日の久保利明棋王・王将が愛読書としていた事で有名だ。
いつかこの著書について紹介したいと思う。
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大野源一九段は△5三銀型三間飛車を得意としていた事で有名だが、
愛用戦法のひとつに大野流向かい飛車という角交換振り飛車がある。
大野振り飛車は30年先を行っていた。
ならば、大野流向かい飛車は現代の戦法としても
十分通用するのではないかと私は目を付けた。
まずは、どういう戦法か出だしをご確認頂きたい。
初手からの指し手
▲7六歩△3四歩▲5六歩△8八角成▲同飛△5七角▲6八銀△2四角成(基本図)
大野流向かい飛車とは、故・大野源一九段が多く採用した
今日の角交換振り飛車の原流と言える戦法である。
4手目で角交換せずに△8四歩では▲5五歩ですんなりと5筋位取り中飛車に組める。
つまり、大野流向かい飛車は中飛車党のレパトリーとして
作戦の選択肢を広げてくれるのだ。
基本図は後手に馬を作られているが、盤上の駒が動いた手数を数えると
先手が4手に対し、後手は歩1手と馬を作るのに3手を要している。
ここから更に使易い位置へ馬を移動する必要があるので、実質3手得している計算になる。
馬を作らせる代償に手得をしている事を主張とした作戦なのだ。
現代ではいつの間にか手得の重要性が薄れ、
馬を作られるだけでダメと即断されがちだが果して本当にそうだろうか?
現代において流行しているゴキゲン中飛車や石田流を始めとする
角交換振り飛車は、角を手持ちにして駒の偏る穴熊を牽制している。
ゴキゲン中飛車では、丸山ワクチンに対して向かい飛車にして反撃する手段があるし、
▲7八金型に対して馬を作らせる代償に手得して戦う作戦もある。
では、大野流向かい飛車はどうだろうか。
相手から角交換をしているので、手得しながら持ち角の向かい飛車に組めている。
本来ならば、手損なく向かい飛車に組むだけでも難しいのだ。
また、手得を活かして早い仕掛けが見込めそうで、
持ち角も大きく穴熊にも対抗する目処が立つ。
こうして理論的に考えてみれば、有力な作戦に思えて来ないだろうか。
私自身もつい最近になり注目したばかりで研究も浅いが、
今後不定期に大野流向かい飛車について述べて行きたいと思う。
今回は、大野流向かい飛車の出だしから派生する
相振り飛車について考えてみたい。
私が先手番の時に振り飛車の戦法選択をするにあたり
重視しているのは、後手の相振り飛車に対応できるかである。
大抵の対抗形定跡は一局の将棋になる様に考えられているので、
その時代の相振り飛車事情に対応出来るかが重要である。
現代において石田流が流行している背景も同じ事情であると思う。
初手からの指し手(1)
▲7六歩△3四歩▲5六歩(第1図)
第1図は大野流向かい飛車の基本となる出だし。
まず、第1図に▲1六歩△8四歩の交換があるのが
いわゆるゴキゲン中飛車である。(A図)
これならば△8四歩が邪魔で馬が作れない。
つまり、△8八角成▲同飛△5七角▲6八角だ。
しかし、△8四歩ではなく△1四歩と受けられて相振りになると
端攻めを見せられて損である。
そこで大野流向かい飛車の出番だ。
馬を作られるのを承知で▲5六歩と突くのだ。
第1図の場合は角交換から△5七角で左右に引けるので馬が作れる。
しかし、前述の通りかなり手損するのが気になる。
馬を作っても良いが、相手の研究に乗らずに我が道を行くという考えもあるだろう。
特に、初手から30秒の将棋では踏み込みにくい。
振り飛車党であれば、居飛車を持って乱戦にしたくないと思う人も多いはず。
では、相振り飛車にする場合に考えられる応手は以下の5つ。
(1)△4四歩
(2)△3五歩(テーマ図1)
(3)△3二飛(テーマ図2)
(4)△4二飛(テーマ図3)
(5)△5四歩(テーマ図4)
また、基本図からの相振り飛車も十分に考えられるので後述する。
まず、(1)△4四歩は▲7八飛△4二銀▲7五歩△4三銀▲6八銀△3三角
▲4八玉△2二飛▲7四歩△同歩▲同飛(B図)が一例で一局の将棋だろう。
この形は主導権を握りやすいので先手に不満は無い。
残りの4つをそれぞれテーマとして調べて行こう。
テーマ図1からの指し手
▲2二角成△同銀▲8八飛(第2図)
第2図をどこかで見た事があると言う人は定跡通だろう。
そう、石田流に4手目角交換(C図)をしたときの変化だ。
第2図で△4二飛ならC図よりも1手多く指しているのだ。
第2図で△3六歩▲同歩△5七角なら、▲6八銀△2四角成(D図)
となった時に基本図よりも損をしているのがわかると思う。
D図を選ぶメリットは無いと言える。
なお、石田流に対する4手目角交換の詳細は
よくわかる石田流をご参照頂きたい。
テーマ図1の△3五歩は先手に主張の多い展開なので十分戦えるだろう。
テーマ図2からの指し手
▲2二角成△同銀▲6五角(第3図)
△3二飛には当然ながら角交換からの▲6五角が受からない。
▲5六歩と突いているので△7四角の返し技が無い事をご確認頂きたい。
テーマ図1とテーマ図2は中飛車党にとって大変重要な意味を持つ。
つまり、▲5六歩△3四歩▲5八飛△3二飛(E図)の相振り飛車を
回避する手段となるからだ。
初手▲5六歩から△8四歩には先手中飛車、
△3四歩には大野流向かい飛車という戦法選択ができるのだ。
テーマ図3からの指し手
▲5五歩△6二玉▲5八飛△5二金左▲4八玉△7二玉
▲3八銀△6二金直▲3九玉(第4図)
テーマ図3の角道オープン四間飛車が最も強敵だろう。
先手から角交換して▲8八飛(F図)と相振り飛車にするのは
C図と違い△3五歩と突いていないので馬を作られてしまう。
ここは中飛車対四間飛車の相振り飛車をおススメする。
理由は後手だけ美濃囲いに組めないからである。
順を追って解説しよう。
まず、▲5八飛と振ったところで△7二銀では▲5四歩(G図)がある。
これは次の歩成りが先手になるので△同歩と応じるよりないが、
▲2二角成△同銀▲8二角で香得になる。(H図)
対して、後手から先手の美濃囲いをけん制する手段は無い。
よって、第4図も先手だけ美濃に組んだという
主張のある戦いが出来るので十分だろう。
テーマ図4からの指し手
▲5八飛△6二銀(第5図)または△5二飛(第6図)
テーマ図4の場合、先手から角交換しては△2二同飛と取られて損する。
ここは▲5八飛と振るしかない。
ここで後手には2つの手段があり、1つは△6二銀(第5図)
これは5筋位取り中飛車を防いで居飛車にするという作戦だ。
先手も角交換から近藤流(I図)にできるので双方に主張がある展開と言える。
そしてもう1つが△5二飛(第6図)の相中飛車だ。
同型は先手に主導権を握られる弱みはあるが、
乱戦にならない相振り飛車として有力と言えそうだ。
次に、大野流向かい飛車の基本図からの相振り飛車を見て行きたい。
基本図からの指し手�
▲6六角△2二銀▲8六歩△3三銀▲4八玉△6二銀▲3八銀△7四歩
▲3九玉△7三銀(第7図)
基本図からすぐに自陣角を打って穴熊をけん制する手段が考えられるが、
これは第7図の様に△7三銀型に組まれてしまう。
この後向かい飛車に振られて先手に主張が無くなってしまう。
この事を念頭に基本図から考えてみたい。
基本図からの指し手�
▲8六歩△2二銀▲4八玉△6二銀(途中図)
▲8五歩△3五歩▲7五歩(第8図)
角は手持ちにしておくのが正解。
先程の様に△7三銀型を目指した駒組みをしてみよう。
まず、途中図の△6二銀を見たら▲3八銀を保留しよう。
つまり、△7四歩に▲4六角(J図)を用意している。
以下、△7三銀▲2四角△同歩(K図)はよくある相振りという印象だが、
盤上の駒が動いた手数を数えると先手7手に対し後手6手で先手番。
つまり、純粋に先手が1手得した計算になるので後手が好む変化ではないだろう。
そこで、一度△3五歩と突いて▲4六角の筋を消すが、
▲7五歩と突いた第8図は振り飛車の模様が良い、
後手がここから相振り飛車にするのは難しいだろう。
以上により、後手の相振り飛車には一通り対応出来る事がお分かり頂けるだろう。
また、2手目△3二飛戦法すら嫌だと言う人は
初手▲5六歩から大野流向かい飛車を志向すると良いだろう。
それでも△3二飛なら▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲7八銀
△4二銀▲7九角(L図)でスムーズに引き角戦法に出来る。
以上で、大野流向かい飛車から派生する相振り飛車の解説を終える。
今後は対抗型について述べて行きたいと思う。
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