これまで、何度も病魔に冒され、そのたびに何度も生還してきた父。
母親を早くに亡くしそのあとに嫁いできた実母の妹を「母」と呼び 文句ひとつ言わず、高度成長期の日本を技術で支えてきた父。
そんな父が 病院から何度も何度も電話をかけてきて ついには「寂しい」と言ったそうな。耳を疑う母(笑) いや、笑い事では全然ないんだけど、でも、わが父に「寂しい」という感情があったのだね、と母と思わず唸ってしまった。
病院とは、入院とは、それだけ 切なく、苦しく、寂しく、残酷なものなのだと思った。
いっそ、ボケてしまえば何もわからず 恋しい、とか会いたい、とかそういう感情に苦しまないで済むのかな、と思ったりして。
でも、面会もできない病院で 必死に「おのれ」を保ち続け、何とかボケずに 電話のかけ方も忘れずに、でも電話したことは忘れて ワタシが電話に出るたびに「おー、久しぶり」という父が なんとも可笑しいやら悲しいやら愛おしいやら、で、結局 泣けてくる。
主治医からの電話では、向こう1カ月は退院の見込みは立たないらしい。
「雨が降ってるでしょ?」と電話で聞いたら「そうねぇ…空しか見えないからわからないなぁ…」との返事。
そして、最後はいつも「早く帰りたいからお医者さんの言うこと聞いて頑張ります」、と父。
どんな状態でも、一度は家に帰ってきてほしい。誰の援助も受けずに一人で立派に建てた家だもん。お父さんの居場所はここだけなんだもん。あの笑顔で、もう一度帰ってこられるよう、一日に何度電話が掛ってこようとも、元気にいつも、返事をしよう。
「お父さん、気分はどう???」