COVID-19は当初呼吸器疾患として注目されたが、中枢神経系(CNS)への影響が徐々に明らかになり、この感染症と神経系との複雑な相互作用が浮き彫りになった。Experimental Neurology誌の本特集号では、急性感染から長期にわたる後遺症に至るまで、SARS-CoV-2が中枢神経系に及ぼすさまざまな影響を調査し、これらの影響を理解し緩和するための革新的なアプローチに焦点を当てている。
特集号のEditorialでは,採択された6本の論文の内容を解説しています.簡単にその概要を以下にご紹介します.
1. Long COVIDによる脳血管障害の治療標的
DPPIV(ジペプチジルペプチダーゼIV)を中心に,代謝や炎症経路から血管機能障害を議論し,DPPIVを治療標的として提案しています.
2. コロナウイルスの神経毒性とアルツハイマー病への影響
HCoV-OC43感染がアミロイドβの蓄積を促進し,アルツハイマー病の病態進行を加速させる可能性について論じています.
3. COVID-19急性感染期の中枢神経病態に関する縦断的報告
感覚・運動皮質の活性化や神経炎症の役割を神経画像と生理学的評価を通じて詳述しています.
4. ACE2を介したCOVID-19後の認知機能障害の分子メカニズム
ACE2やカルシウムシグナル経路が認知機能障害に関与することを示し,可溶性ACE2を治療薬として提案しています.
5. COVID-19による中枢神経の神経炎症経路
血液脳関門の破壊やミクログリア活性化などのメカニズムを解明し,予防と治療への薬物や生活習慣の介入を提案しています.
6. スパイクS1タンパク質によるNLRP3依存性神経炎症と認知障害
スパイクタンパク質がミクログリアのNLRP3インフラマソームを活性化し,神経炎症と認知障害を引き起こすメカニズムを明らかにしています.
しかしながら、COVID-19パンデミックの初期には、研究者たちは、SARS-CoV-2が何らかの形で脳に侵入してニューロンに感染し、ダメージを引き起こすのではないかと考えていた。しかし、その後の研究によると、このウイルスが脳の防御システムである血液脳関門を通過するのは困難であり、必ずしもニューロンを著しく攻撃するとは限らないということが分かっています。
Serrano, G. E. et al. Preprint at medRxiv https://doi.org/10.1101/2021.02.15.21251511 (2021).
いろいろなメカニズムが考えられますが、コロナワクチン接種後に同様な中枢神経の神経障害を起こしていることから、「自己抗体」が悪さをしている可能性が高いと思われます。
感染やワクチンによって作られるタンパクに応答した免疫系が、自分の組織を攻撃する「自己抗体」を意図せずに作ってしまう場合がある。それがこの15年で分かってきたと、ドイツ神経変性疾患センター(ベルリン)の神経免疫学者Harald Prussは言う。例えば視神経脊髄炎は、自己抗体が視神経や中枢神経系を傷害し、患者に視力喪失や四肢の虚弱といった症状を引き起こす長期的な疾患である。Prussは、自己抗体が血液脳関門を通過して記憶障害や精神疾患などの神経障害に寄与している可能性を示した論文を集め、総説として2021年5月に発表しています。
Pruss, H. Nature Rev. Immunol. https://doi.org/10.1038/s41577-021-00543-w (2021).