無月経の総説
Am Fam Physician 2019; 100: 39-48
外性器形態異常
原発性無月経の原因となる。ミュラー管無形成は5000人に1人の頻度で起こり、そのうち15%で無月経となる。
膣横隔膜や閉鎖性処女膜を認め、膣の長さが短縮する。周期的に骨盤痛を認める。
しばしば泌尿器や骨の異常をともなう。
原発性卵巣不全
原発性卵巣不全は100人に1人の頻度で起こる。卵胞が減少または認めない。40歳未満の女性で1ヶ月以上間隔を空けて FSH を測定し、いずれも閉経期の値であれば診断する。しばしばホットフラッシュなどの血管運動障害による症状や膣の乾燥を認める。
原発性卵巣不全の多くは特発性だが、腫瘍、感染、自己免疫、化学療法、放射線照射、染色体異常も原因となる。
原発性卵巣不全の1/3では染色体異常を認める。原発性卵巣不全を認めた場合は、Turner 症候群(やその類縁疾患)の検索を行う。また、脆弱 X 症候群の原因となる FMR1 の前突然変異の有無を確認するために遺伝子検査を提案されるべきである。甲状腺と副腎に対する自己抗体と1-2年に1回の頻度で甲状腺機能低下症の検索も検討する。
ホルモン補充療法はホットフラッシュなどの血管運動障害、骨量低下、心血管疾患のリスクを減らすかもしれない。ホルモン療法は自然に閉経する時期(50、51歳)まで続ける。
ホルモン補充療法のレジメンは、100 mcg/day エストラジオール皮下注射または 0.625 mg/day 抱合エストロゲン経口に 200 mg/day プロゲステロン経口 12日間/月。エストロゲンは経皮投与の方が経口投与よりも静脈血栓症を起こしにくいかもしれない。
ホルモン補充療法に加えて、骨塩密度維持のために 1200 mg/day カルシウムと 1000 IU/day ビタミンD の補充と閉経後女性のガイドラインに則った荷重負荷運動も勧められる。
ホルモン補充療法で妊孕性を獲得するのは1割程度に留まる。ホルモン補充療法は本人と家族に長期間の負担を強いる。原発性卵巣不全を診断するにあたっては十分な時間をかけて、患者や家族の心情に十分配慮する必要がある。
機能性下垂体性無月経
下垂体の機能障害による無月経と骨密度低下は低栄養、過度の運動、ストレスによって起こり得る。診断は他疾患の除外とホルモンの値に基づく。機能性下垂体性無月経では LH、FSH が正常~定値で、エストラジオールは低値である。
無月経が6ヶ月以上続く場合は骨密度の評価を行う。
機能性下垂体性無月経の治療は、行動変容、ストレスの軽減、栄養補充(ビタミンDなど)、体重増加である。栄養士や臨床心理士を含む多職種チームで治療に当たるのが良いかもしれない。
高プロラクチン血症
高プロラクチン血症は性腺刺激ホルモン産生細胞の機能を抑制する結果、無月経を来たし得る。高プロラクチン血症の原因としては、妊娠、薬剤性(向精神薬など)、下垂体腺腫などがある。
向精神薬中止によるリスクは、それによる利益より大きいかもしれないので慎重に判断する。被疑薬の中止後3日経過してもプロラクチンが正常化しない場合は下垂体 MRI を検討する。
下垂体腺腫の場合は、ドパミンアゴニストまたは下垂体手術で治療する。
プロラクチノーマ以外に視床下部-下垂体軸を障害する腫瘍、虚血、感染、炎症、外傷でも無月経の原因となり得る。
多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome: PCOS)
PCOS は多因子が関与する内分泌疾患で、卵巣機能異常と性ホルモンの異常、多嚢胞卵巣が特徴である。骨盤超音波は診断には必要ない。
若い女性の場合、無排卵や卵巣に多数の卵胞を認めることは必ずしも病的とは言えないので、PCOS の診断は難しい。性ホルモン高値と持続的な希発月経が診断の鍵になる。
PCOS は肥満とインスリン抵抗性と関連する。受診時には体重と血圧を確認する。3-5年毎に耐糖能異常とと脂質異常のスクリーニングを行う。食習慣の改善と運動習慣はすべての PCOS 患者に勧められる。減量によって月経周期が改善する可能性がある。
PCOS 治療の第一選択はホルモン避妊薬。月経障害、多毛、ざ瘡を改善させ、子宮体癌の予防効果が期待できる。レトロゾール(商品名:フェマーラ、アロマターゼ阻害薬)の方がクロミフェン(エストロゲン受容体拮抗薬)に比べて排卵、妊娠、出産の成功率が高い。
メトホルミンは月経障害を改善させ、糖尿病発症を予防する効果が期待できるが、ざそうと多毛には効果はない。
甲状腺疾患および副腎疾患。
甲状腺機能低下症も亢進症も月経不順の原因になり得る。
late-onset な先天性副腎過形成(21-ヒドロキシラーゼ欠損症など)は副腎アンドロゲン過剰による月経異常の原因として多い。17-ヒドロキシプロゲステロン高値を認めたら、ACTH 負荷試験を行う。
副腎または卵巣の性ホルモン分泌腫瘍は月経異常の原因としては極めて稀だが、急速に進行する男性化徴候を認める場合、性ホルモンが著明高値を認める場合には考慮する。
クッシング徴候を認める場合は、尿中遊離コルチゾール、深夜の唾液コルチゾール、デキサメタゾン抑制試験を行う。
https://www.aafp.org/afp/2019/0701/p39.html