内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/03/28

2022-03-28 08:21:52 | 日記
米国感染症学会の発熱性好中球減少症についての診療ガイドライン
Clinical Infectious Disease 2011; 52: e56-e93

1. リスク評価についての推奨

ほとんどの専門家は 7日以上続き、好中球の絶対数が 100 /μL 未満である場合かつ/または低血圧、肺炎、新規の腹痛、神経症状などの所見をともなう場合は高リスクだと考える。このような患者はとりあえず入院させて経験的治療を始めると良い (A-II)。

7日未満で症状に乏しければ、経口で抗菌薬治療を始めても良い (A-II)。

きちんとリスク評価しようと思うなら、Multinational Association for Supportive Care in Cancer score (MASCC score) がおすすめ (B-I)。

2. 初期評価についての推奨

初期評価では血算、血液像、尿素窒素、血清クレアチニン、電解質、トランスアミナーゼとビリルビンは測定しよう。

血液培養は最低 2セットは提出しよう。中心静脈カテーテルがある場合は、1つは中心静脈カテーテルから、もうひとつは末梢から採取しよう (A-III)。

疑わしい感染巣があるなら、その部位の培養検体 (痰、尿、髄液など) も提出しよう (A-III)。

3. 経験的治療についての推奨

高リスクの患者には抗緑膿菌活性を持つ β-ラクタム系抗菌薬 (セフェピム、タゾバクタム/ピペラシリン、メロペネム、イミペネム/シラスタチン)を単独で投与しよう (A-I)。

低血圧や肺炎を合併している場合、あるいは耐性菌が予想される場合には他の抗菌薬 (アミノグリコシド、フルオロキノロン ± バンコマイシン) を併用しても良い (B-III)。

バンコマイシンやその他の好気性グラム陽性球菌に対して活性がある抗菌薬はカテーテル感染、皮膚・軟部組織感染症、肺炎が疑われる場合や循環動態が不安定な場合でもなければ併用しない方が良い (A-I)。

メチシリン耐性ブドウ球菌、バンコマイシン耐性腸球菌、ESBL 産生菌、カルバペネマーゼ産生肺炎桿菌などの耐性菌の関与が疑わしい場合、特に全身状態が不安定な場合は初期治療を個別に変更するのは仕方がない (B-III)。

4. 治療の修正についての推奨

予想外に発熱が続いても全身状態に変わりがないなら抗菌薬を変更する必要はほとんどない。培養結果を確認して抗菌薬を最適化すべし (A-I)。

初期治療でグラム陽性菌を狙ってバンコマイシンなどの抗菌薬を併用した場合、2日経ってもグラム陽性菌感染が明らかでなければ中止せよ (A-II)。

初期治療を開始しても循環動態が不安定な場合は、耐性グラム陰性菌、グラム陽性菌、嫌気性菌、真菌をカバーするようにより広域な抗菌薬 (±抗真菌薬)に変更すべし (A-III)。

高リスクの患者で広域抗菌薬治療を開始して 4-7日経過してもフォーカス不明の発熱が続く場合は経験的に抗真菌薬投与を検討すべし (A-II)。

5. 治療期間についての推奨

抗菌薬治療は少なくとも好中球数 500 /μL 超になるまでは続けよう (B-III)。

6. 抗真菌薬投与についての推奨

抗菌薬治療を開始して 4-7日経過しても発熱が続き、好中球減少の期間が 7日を超えることが予想される場合は、侵襲性真菌感染症の検索と経験的な抗真菌薬投与を検討しよう (A-I)。

7. G-CSF投与についての推奨

発熱性好中球減少症の患者に顆粒球コロニー形成刺激因子 (granulocyte colony stimulating factor: G-CSF) の使用は勧めない (B-II)。

8. 衛生管理についての推奨

手洗い励行 (A-II)。標準感染予防策励行 (A-III)

病室に生花やドライフラワーは持ち込ませないように (B-III)。

https://academic.oup.com/cid/article/52/4/e56/382256

2022/03/27

2022-03-27 21:12:56 | 日記
発熱性好中球減少症のガイドラインについての総説
J Oncol Pract 2019; 15: 25-26

米国臨床腫瘍学会 (American Society of Clinical Oncology: ASCO) と米国感染症学会 (Infectious Disease Society of America: IDSA) は 1997年に 発熱性好中球減少症 (febrile neutropenia: FN) の一般的な治療についての診療ガイドラインを発表し、2011年に改訂した。

このガイドラインでは入院加療を前提としていたが、リスク層別化により、一部の FN 患者は安全に外来で治療できるようになった。そこで、2017年に ASCO と IDSA は外来における FN の治療についての診療ガイドラインを発表した。

一方、高用量の細胞毒性化学療法や造血幹細胞移植など FN のリスクが高い場合には予防的に抗菌薬投与が行われている。2018年には ASCO と IDSA は抗菌薬予防投与についての診療ガイドラインも発表している。

FN のリスクの層別化ツールとしては、Talcott's rule や Multinational Association Supportive Care in Cancer score、Clinical Index of Stable Febrile Neutropenia などがある。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6333383/#!po=3.12500

2022/03/25

2022-03-25 22:17:36 | 日記
重症でない市中肺炎に対する 3日間のβ-ラクタム抗菌薬投与は 8日間投与に劣らない: プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験
Lancet 2021; 397: 1195-1203

外来および入院において下気道感染は最も頻度が高い抗菌薬が処方される感染症である。市中肺炎は 65歳以上で多く、高齢化とともに過去 10年間で世界的に増加している。

米国の成人市中肺炎についての診療ガイドラインでは、抗菌薬治療は 5日間以上継続し、臨床的に状態が安定していることを確認してから抗菌薬投与を終了することを勧めている (推奨の根拠は JAMA Intern Med 2016; 176: 1257)。一方、欧州のガイドラインでは 8日間の抗菌薬投与を勧めている。つまり、市中肺炎の最適な抗菌薬投与期間は定まっておらず、ほとんどの臨床医は市中肺炎に対して 7-10日間抗菌薬を投与している。

1940年代から 1970年代にかけて行われたいくつかの観察研究、および 2006年に行われた非重症の市中肺炎を対象にした二重盲検ランダム化比較試験 (BMJ 2006; 332: 1355) の結果からは、5日未満の抗菌薬投与でも十分そうである。しかし、推奨の根拠とするにはデータが不十分である。

抗菌薬投与期間が短縮できれば、抗菌薬使用を減らせるので耐性菌出現を防げるかもしれないし、抗菌薬に関連する有害事象や費用を減らせるかもしれない。

そこで、著者らは重症でない市中肺炎の患者を対象に β-ラクタム系抗菌薬を 3日間投与した場合と 8日間投与した場合で臨床経過を比較した。

対象は 18歳以上の一般病棟で治療している市中肺炎の入院患者で、β-ラクタム系抗菌薬投与 (アモキシシリンクラブラン酸内服やセフトリアキソン静脈注射など) を行い、72時間後の評価で臨床的に安定しているものとした。肺膿瘍、多量の胸水、重度の慢性呼吸器疾患、免疫不全患者、医療ケア関連肺炎、誤嚥性肺炎疑い、肺炎以外の細菌感染症、レジオネラなどの細胞内寄生菌感染症は除外した。

被験者は 1:1 の割合でプラセボまたは抗菌薬投与群に割り付けられた。抗菌薬投与群では、アモキシシリンクラブラン酸 125 mg 1日3回 5日間投与を行った。

主要評価項目は抗菌薬投与開始から 15日後の治癒率 (解熱、呼吸器症状の改善、追加の抗菌薬治療を行っていないことによって定義) とした。

プラセボ投与群は 157名、抗菌薬投与群は 153名で、年齢の中央値は 73.0歳、女性は 41%だった。15日後の治癒率はプラセボ群で 77%、抗菌薬群で 68%だった (群間差 9.42%, 95%信頼区間 -0.38~20.42%)。

消化器症状はプラセボ群の 11%、抗菌薬投与群の 19%で認めた。30日後の時点で、プラセボ群の 3名(黄色ブドウ球菌菌血症、心原性ショック、心不全) 、抗菌薬群の 2名 (肺炎の再燃、肺水腫疑い) が死亡した。

経過が良好であれば 3日間の抗菌薬治療で十分そうだが、黄色ブドウ球菌の菌血症で 1人亡くなっているのが気になる。また、プラセボ群も抗菌薬群も 15日後の治癒率が 7-8割と低いのが気になる。さらに、肺炎の診断が正しいとは限らないので、抗菌薬投与を 3日間にすることをルーチンにするのは抵抗がある。現時点では米国感染症学会が推奨するように最低 5日間抗菌薬投与するのが無難かなと思う。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33773631/

2022/03/23

2022-03-23 23:06:08 | 日記
変形性股関節症および変形性膝関節症の診断と治療についての総説
JAMA 2021; 325: 568-578

変形性関節症は最も多い関節炎で、世界で 2億4000万人が罹患している。ほとんど全ての関節に起こり得るが、特に手関節、股関節、膝関節、足関節に出現することが多い。

変形性関節症では、軟骨、骨、滑膜、靭帯、筋肉、関節周囲の脂肪の変化のために関節の機能障害、疼痛、硬直、可動制限が起こり、活動性を低下させる。

危険因子は高齢、女性、肥満、遺伝、外傷歴である。変形性関節症の患者は併存疾患を持つことが多く、座位で過ごすことが多い。また変形性関節症の患者では活動性が低下することにより、同年齢の人と比べて最大 20%死亡率が高い。

いくつかの身体所見は変形性関節症の診断に有用である。たとえば、変形性膝関節症では膝の骨増大、変形性股関節症では股関節内旋時の疼痛を認める。画像検査では骨棘と関節間隙の狭小化を認める。

変形性関節症の治療の根幹は、適切な運動と体重管理、そして患者教育である。必要に応じて非ステロイド抗炎症薬の局所投与または内服で疼痛管理する。

関節内ステロイド注射は短期間の疼痛緩和に効果がある。また、デュロキセチン (商品名: サインバルタ) も効果が示されている。麻薬性鎮痛薬の使用は避ける。

いくつかの治験薬 (カテプシン K 阻害薬、Wnt 阻害薬、anabolic growth factors) については変形性関節症の進行を止める効果がありそうである。また神経成長因子阻害薬などの治験薬は変形性関節症の疼痛を抑える効果がありそうである。

症状および関節の変形が進行した患者では、人工関節置換術が検討される。

1. 疫学

45歳以上の成人の 30%は画像上、膝関節に変形性膝関節症の所見がある。このうち症状があるのはおよそ半数である。一方、症状と画像所見から変形性股関節症であると診断される人は 10%である。

症候性の変形性膝関節症に罹患するリスクは肥満 (BMI 30 kg/m2 超) の人の方が肥満でない人より高く、生涯リスクはそれぞれ 19.7% と 10.9%である。前十字靭帯断裂や足関節骨折などの外傷歴は変形性膝関節症の 12%で認める。大規模なコホート研究では、症候性の変形性膝関節症の有病率は女性で 11.4%、男性で 6.8%だったと報告されており、女性の方が有病率が高い。また変形性関節症がある場合、女性の方が男性よりも関節の変形の程度が強く、症状も重い。

変形性股関節症についても加齢と女性であることはリスクである。さらに、股関節形成不全などの解剖学的異常もリスクとなる。

人種による有病率の差が認められている。黒人と白人で変形性股関節症の有病率は同程度だが、変形性膝関節症の有病率は黒人の方が高い。

変形性関節症患者の 31%は 5つ以上の併存症を抱えている。また、変形性股関節症および変形性膝関節症の患者では同年齢の健常者と比較して最大で 20%死亡率が高い。これは変形性関節症患者では運動量が低下するためだと考えられている。

2. 病態生理

変形性関節症では、関節裂隙の狭小化、軟骨および半月板の菲薄化、軟骨下骨の硬化や骨棘形成を含む骨変化が特徴である (リンク参照)。変形性関節症における軟骨、半月板、滑膜、軟骨下骨やその他の構造の変化は MRI で評価できる (リンク参照)。

O脚 (bow-legged) では膝の内側に荷重がかかり、X脚 (knocked-knee) では膝の外側に荷重がかかる。これらは変形性膝関節症発症のリスクであり、進行のリスクである。MRI では、骨に過度の荷重がかかった時に生じる骨髄の病変を観察できる (リンク参照)。組織学的には微小な骨折、壊死、線維化、そして異常な脂肪細胞を認める。これらの所見は過度の荷重による組織破壊とリモデリングを示唆するものだと考えられる。

変形性関節症では、一般に滑膜炎を認める。関節リウマチの滑膜炎は T 細胞主体なのに対し、変形性関節炎の滑膜炎はマクロファージが主体である。これは変形性関節症では慢性創傷により自然免疫が活性化するためではないかと考えられている。変形性関節症の滑膜炎は関節リウマチと比較すると局所的である。変形性膝関節症では、一般に膝蓋上包 (リンク参照) に滑膜炎を認める。関節リウマチで起こる関節破壊の主な原因は滑膜炎であるのに対し、変形性関節症では一部の症例を除けば病態の進行にはあまり関わっていないようである。

変形性関節症では、さまざまな炎症性サイトカインや成長因子が認められる。変形性関節炎の滑液では、IL-6、MCP-1、VEGF、IP-10 や MIG の濃度が上昇している。炎症性サイトカインはマトリクスメタロプロテアーゼ (matrix metalloproteinase: MMP) などの細胞外マトリクス分解酵素を活性化することにより関節の進行性の破壊とリモデリングを引き起こす。TGF-β や BMP-2 など一部の成長因子は骨棘形成や軟骨下骨の硬化を促進する。炎症性サイトカインは変形性関節症の治療標的になり得るが、どの炎症性サイトカインが関節破壊の主な原因なのかが分からない。

3. 臨床症状

変形性関節症患者は関節の痛みとこわばりを自覚する。関節のこわばりは起床時や長く座位で過ごしていた後に立ち上がった後に感じることが多く、30分以内に改善する。関節痛は初期には関節を動かした時に自覚するが、時間が経つと特に誘因がなくても痛みを感じることがある。症状は悪化し続けると考えられていたこともあったが、変形性関節症の自然経過を検討した観察研究では、6年間の観察期間でほとんどの患者は症状はあまり変わらないと報告していた。

4. 診断

膝関節や股関節の痛みを生じる疾患として、変形性関節症と鑑別すべきものは、炎症性関節炎 (関節リウマチ、乾癬性関節炎)、化膿性関節炎、結晶性関節炎 (痛風、偽痛風) 、軟部組織の障害 (滑液包炎、腱炎、半月板断裂) がある。自己免疫性疾患のこわばりはふつう 1時間以上続く。化膿性関節炎と結晶性関節炎は急性発症する。膝蓋骨の後方に疼痛がある場合は膝蓋大腿関節症 (patellophemoral OA) かもしれない (リンク参照)。膝蓋大腿関節は膝を屈曲した時に荷重がかかるので、膝蓋大腿関節症では階段の昇降時や車や浴槽に出入りする時に痛みを感じることが多い。

変形性膝関節症では、滲出液は認めないか、あっても少ない。関節に熱感は認めない。滲出液を認める場合は、膝の裏側の滑液包に貯留し、ベーカー嚢胞 (Baker's cyst リンク参照) として膝窩の体表から触知できる。自己免疫性、感染性、結晶性の関節炎の場合、熱感があり、滲出液を容易に触知できる。

鵞足炎 (Pes ancerine bursitis リンク参照) や転子滑液包炎 (trochanteric bursitis リンク参照) などの軟部組織の炎症は関節外にあり、関節内の滲出液は生じない。これらは局所の圧痛を認める。

結晶性関節炎では滑液の白血球数が 2000 /mL を超える点が、変形性関節症と明確に異なる。

骨増大 (bony enlargement) は変形性膝関節症に対して感度は低いが、特異度は高い (感度 55%、特異度 95%) 。一方、関節音 (crepitus) は感度は高いが、特異度は低い (感度 89%、特異度 58%)。

X線写真で骨棘 (osteophyte) を認めることは感度も特異度も高い所見である (感度 91%、特異度 83%)。骨棘と膝痛の組み合わせは感度も特異度も優れ (感度 83%、特異度 93%) 、陽性尤度比は 11.9 である。

変形性股関節症の身体所見としては、股関節の内旋 (internal rotation) 15°未満は感度 66%、特異度 72%、内転 (adduction) の制限は感度 80%、特異度 81%である (股関節の内旋と内転についてはリンク参照)。股関節内旋時の疼痛は感度は高いが、特異度は低い (感度 82%、特異度 39%)。

X線写真での骨棘は感度、特異度ともに高い (感度 89%、特異度 90%)。股関節痛と骨棘の組み合わせも感度、特異度ともに高い (感度 89%、特異度 90%)。

以上より、病歴と身体所見から変形性関節症の暫定的な診断をつけることができる。X線写真で関節裂隙の狭小化と骨棘を認めれば (これらは特異度が高い所見なので) 診断が確からしくなる。ただし、関節の画像的変化を認める前から、変形性関節症の症状があることはあり得るので、X線写真が正常だからといって変形性関節症ではないとは言えない。

膝の X線写真を撮影する時は大腿頸骨関節の狭小化が見やすいように、立位で撮影するべきである。

股関節の X線写真を撮影する時は AP像 (前→後、 anteroposterior view) と側面像の二方向で撮影する。荷重をかける必要はない。股関節の X写真の読影については、検者間信頼性 (inter-rator reliability) 、検者内信頼性 (intra-rator reliability) ともに高い。

変形性膝関節症および変形性股関節症の評価や管理のために MRI が必要になることはほとんどない。MRI は膝では軟骨および半月板の変化、股関節では関節唇 (labrum) を観察できるし、骨や滑膜のより詳細な病態を把握することができる軟骨下脆弱性骨折 (subchondral insufficiency fracture) や腫瘍、感染症が疑われる場合は鑑別に MRI は有用である。

超音波は骨棘や滲出液の検出は優れる。骨棘の検出については MRI よりも優れるが、関節裂隙の狭小化の検出については劣る。超音波は MRI よりも費用がかからず、手軽なので、変形性関節症の診断と経過観察のために欧州ではよく使用されている。最近で米国の多くの施設でも超音波を使用するようになってきている。

5. 治療

数多ある変形性関節症の診療ガイドラインは、患者教育、減量 (肥満の場合)、運動 (筋力増強、有酸素運動かつまたは、ヨガや太極拳などの軽度の身体運動) をセットで行うことを強く勧めている。

下肢の筋力を増強すると、疼痛と運動機能が改善することが示されている (標準平均差: 膝 0.52、股関節 0.34)。ウォーキングプログラムの効果を検討したランダム化比較試験では、10段階評価の疼痛スコアが対照群では -0.1 であったのに対し、ウォーキングを行った群では -1.38 と有意に低下した (P = 0.003)。

運動プログラムを開始するにあたっては、理学療法士に下肢の筋力のどこが弱くて、関節の可動域はどの程度制限されているかを評価してもらうと良い。

食事療法と運動療法を組み合わせた場合、運動療法単独よりも体重が減少し、疼痛が緩和され、運動機能が改善し、炎症反応が低下する。

変形性膝関節症に対する lateral wedge insole (リンク参照) の効果は臨床試験では示せなかった。最近、靴底の外側に装着する装具が膝痛を改善させたと報告されたが、ルーチンで勧めるには追試で結果の確認をする必要がある。

非ステロイド抗炎症薬 (non-steroid anti-inflammatory drugs: NSAIDs) は変形性関節症に対する薬物治療の第一選択である。NSAIDs は多くの臨床試験でプラセボと比較して有意に疼痛を緩和させた。疼痛と機能についてのスコアの標準化平均差は 0.33 であり、効果は中等度と評価されている。経口NSAIDs よりも外用 NSAIDs の方が胃消化管障害を起こしにくいが、変形性股関節の場合、関節が体表から深部に存在するので外用薬は使いづらい。

NSAIDs は消化管潰瘍、消化管出血、腎血流低下の副作用がある。抗凝固薬を服用している患者で NSAIDs 服用を希望する場合は消化管出血を増やさないセレコキシブなどの COX-2 阻害薬を使用するべきである。ディスペプシアの症状がある患者では プロトンポンプインヒビターを併用するか、COX-2 阻害薬を使用するべきである。出血性胃潰瘍の既往がある場合はふつう NSAIDs は処方されない。消化管出血のリスクには、高齢、併存疾患、抗凝固薬またはステロイドとの併用がある。心血管疾患や腎疾患の既往がある場合、腎障害のリスクが高くなる。

アセトアミノフェンは変形性膝関節症および変形性股関節症の疼痛管理については NSAIDs に劣る (標準化平均差: 膝 0.05、股関節 0.23)。NSAIDs が使用できない場合の代替薬として使用するのは妥当だが、肝疾患がある場合やアルコール多飲者には使用するべきではない。

NSAIDs 服用の効果がないあるいは服用できない場合はステロイド関節内注射を行っても良い。ステロイド関節内注射を行うと数週間は疼痛が緩和される。しかし、注射から 3ヶ月経過した時点での評価ではステロイド注射の効果はプラセボと変わりない。また、1年後の時点の評価では運動療法に劣る。片側の膝関節のみの場合なら注射は容易だが、股関節の場合は透視下または超音波ガイド下で注射する。

ヒアルロン酸関節内注射は NSAIDs の効果を認めない場合の治療選択肢のひとつであるが、ガイドラインによって推奨の程度は異なる。ヒアルロン酸関節内注射の効果は NSAIDs と同程度の効果がある(標準化平均差: 0.37) とされているが、最も質が高い臨床試験では NSAIDs よりも効果が 劣るとされた。

変形性関節症の疼痛は部分的には中枢神経系を介していると考えられている。そこで、中枢神経系に作用する薬剤の効果も検討されている。セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 (serotonin-norepinephrine reuptake inhibitor: SNRI) であるデュロキセチン (商品名: サインバルタ) はプラセボ対照ランダム化比較試験で変形性膝関節症に対して有意な疼痛緩和効果を示した (標準化平均差: 0.39)。ガバペンチンも変形性膝関節症の疼痛に有効かもしれないが、エビデンスは不足している。

麻薬性鎮痛薬は変形性関節症の患者の 2割以上で使されているが、変形性膝関節症および変形性股関節症 に対する効果は小さく (標準化平均差: 0.20 未満) 、便秘、転倒、傾眠、呼吸抑制、依存形成のリスクがある。そのため、変形性関節症のガイドラインでは強オピオイドは使用しないように勧めている。一方、トラマドールはセロトニンとノルアドレナリンの再取り込み阻害の作用もある合成オピオイド受容体作動薬であり、条件付きで推奨されている。

現在までのところ、変形性膝関節症において IL-1 あるいは TNF-α の阻害薬はプラセボと比較して症状改善や進行抑制の効果を示せていない。現在、初期の臨床試験を行っている治験薬としては、Wnt 阻害薬、FGF-18 およびカテプシン K の関節内注射がある。

疼痛が持続し、運動機能を失い、画像的に関節構造の破壊が進んだ患者では、全人工関節置換術 (total knee replacement: TKR, total hip replacement) が検討される。90日後の死亡率は 1%未満で、重度の合併症の頻度は 5%未満である。THR を行った患者の 90%、TKR を受けた患者の 80%では手術後の回復期にはほとんど疼痛がなくなったと報告している。TKR と厳格な運動療法とを比較したランダム化比較試験では、TKR を行った患者では、 KOOR 疼痛スコア (0-100 で数値化) が 35 ポイント改善したのに対し、運動療法を行った患者では 17 ポイント改善し、17ポイントの差がついた (95%信頼区間 10.4-23.8) 。

TKR の 10% 強、THR の 20% 以下では、20年以内に再手術が必要になる。再手術が必要となるリスクが高いのは、若い患者、活動性が高い患者、合併症がある患者、手術件数が少ない施設で手術を受けた患者、整形外科医の数が少ない施設で手術を受けた患者である。70歳台で手術を受けた場合は再手術が必要になる前に亡くなることが多い。

膝関節の一部が変形している場合は、TKR の他に人工膝単顆置換術 (unicondylar knee replacement) や骨切り術 (osteotomy) が治療選択肢になる。関節鏡下デブリドマンは変形性関節症の治療としては不適切である。変形性関節症の患者や症候性の半月板断裂の患者では関節鏡下半月板部分切除術 (arthroscopic partial meniscectomy) は有用ではない。

6. 予後

変形性関節症の症状は悪くなり続ける場合もあるし、良くなったり悪くなったりをくり返す場合もある。関節の変形についても個人差がある。米国では症候性の変形性膝関節症の患者の半数以上が生涯に全人工膝関節置換術を受けるようである。画像所見や臨床所見の進行に影響する因子としては、加齢、活動性低下、軟骨の障害の程度、軟骨の障害の早さ、膝関節の変形の程度、疼痛の強さがある。

lateral wedged insole
https://www.semanticscholar.org/paper/The-Effect-of-Lateral-Wedge-Insole-on-Mediolateral-Zangi-Jalali/c8728414b949619a931d6f54910b4b4461a0fe8d

膝蓋大腿関節症
https://www.tokushukai.or.jp/treatment/orthopedics/shitsugai-kansetsusyo.php

膝窩嚢胞 (Baker's cyst)
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/bakers-cyst/symptoms-causes/syc-20369950

鵞足炎
https://orthoinfo.aaos.org/en/diseases--conditions/pes-anserine-knee-tendon-bursitis

転子滑液包炎
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/4964-trochanteric-bursitis

股関節の内旋と内転
https://www.medicmedia-kango.com/2019/01/16935/


変形性膝関節症の X線写真: 関節裂隙の狭小化と骨棘形成を認める。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8225295/figure/F1/?report=objectonly

変形性膝関節症の MRI 画像: 軟骨および半月板の菲薄化と膝蓋骨後方の滲出液が確認できる。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8225295/figure/F2/?report=objectonly

変形性膝関節症の骨髄病変
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/jor.23844

膝蓋上包 (superpatellar pouch)
https://www.kneeguru.co.uk/KNEEnotes/knee-dictionary/suprapatellar-pouch

元論文
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8225295/

2022/03/21

2022-03-21 23:11:48 | 日記
JAMA の変形性股関節症の身体所見についての動画教材

60歳以上の人が 3ヶ月以上前から鼠径部の痛みを自覚している。疼痛は座位から立ち上がったとき、あるいは階段の昇降時に増悪する。…というのが典型的な病歴。

X線写真で関節裂隙の狭小化や骨棘形成を認めても 5人中 4人は無症候なので、身体所見を評価することはとても大事。

疼痛の部位が骨盤の前方か、側方か、後方かで鑑別すべき疾患が異なる。変形性股関節症では前方に疼痛を自覚する。

変形性股関節症では、痛む股関節をかばうように歩くので歩き方がぎこちない。病側の股関節の外転が弱くなるために反対側が下がってしまい、骨盤が床に対して傾くことがある (Trendelenburg sign)。

腰に手を当ててゆっくりとスクワットをさせると、患側の踵が床から離れる。このとき、骨盤の後方に疼痛が誘発される。これをスクワット試験と言い、骨盤後方に疼痛が誘発される場合の陽性尤度比は 6.1 と高い。

また、股関節を他動的に外転または内転させた場合に鼠径部に疼痛が誘発される場合も陽性尤度比は 5.7 と高い。

https://youtu.be/tXQudrRMR5w