重症低ナトリウム血症についての総説
Clin J Am Soc Nephrol 2018; 13: 641-649
血清 Na 120 mEq/L 以下の重症低ナトリウム血症の治療については、欧州と米国との間で四半世紀以上見解が一致していない。
現在、血清 Na 100 mEq/L の重症低ナトリウム血症患者の血清 Na を補正する場合、128 mEq/L まで 6日以上かけて補正することが多いだろう。これは1980年代に行われていた補正の 10倍以上の時間をかけている。しかし、この医学的根拠は確固たるものではない。
他の電解質異常と同様に低ナトリウム血症の治療についてはランダム化比較試験が行われておらず、現行のガイドラインは生理学、動物実験、観察研究、症例報告に基づいている。
動物実験の結果から、症候性低ナトリウム血症は急性(発症48時間未満)と慢性(発症48時間以上)で治療方針が異なると考えられる。
数時間の経過で血清 Na 120 mEq/L 以下に低下させると脳浮腫が起こる。脳ヘルニアに至った場合は死の危険がある。臨床的には、精神疾患や激しい運動時の多量の飲水、「エクスタシー」の使用、手術時に多量の低張液を輸液した場合に起こり得る。この場合には、高張液で急速に血清 Na を上昇させることで、脳浮腫を改善させ、脳ヘルニアを予防することが期待できる。
脳は浸透圧の変動に適応する仕組みを備えており、浸透圧が低下すると速やかに電解質を細胞外に排出し、有機浸透物質を 24-48時間かけて排出する。一方、有機浸透物質の再吸収は一週間程度の時間がかかるので、低浸透圧に適応した脳は急激な浸透圧の上昇には適応できない。
発症から24時間未満の重症低ナトリウム血症では急速な浸透圧上昇に耐えられるが、発症から3日以上経過している場合は浸透圧の変動により脱髄を来たし得る。
急速に浸透圧を上昇させた場合、12時間以内に浸透圧を下げれば脱髄を回避することができる。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29295830/