【声明】
市民無視で「独法化」に踏み出したことに抗議し、名張市立病院のあり方は、市民の理解と合意で決めるよう求めます
2024年3月26日 名張市立病院を守りよくする会
名張市議会は3月26日、北川裕之市長が提出していた、市の直営をやめて名張市立病院を経営する「地方独立行政法人」の内容を定めた「定款」と、「評価委員会」の設置条例について賛成多数で議決・可決を強行しました。これを受けて市長は県に対し法人設立の認可申請に踏み出す姿勢です。市民の理解も合意もないまま地方独立行政法人化に踏み出したことに対して厳しく抗議するものです。市民のいのちと地域医療を守る公的責任を投げ捨てる地方独立行政法人化の企てを直ちに中止し、市立病院をどうしていくかについては、市民的議論を十分に尽くして、市民合意で決めるよう強く求めます。
市民の理解も合意もない
名張市立病院は、市民の悲願でつくられた「市民の宝」です。誕生から27年間、市民のいのちと地域医療を守ってきました。その経営形態を変える重大な変更について、市民にきちんと説明し、市民的議論を十分に行い、市民の合意を得てから決めるべきです。
ところが北川市長は、「市民に丁寧に説明する」といっていたのに、一方的に独立行政法人化を表明してから、1回90分、わずか5回の住民説明会を開いただけで、説明会が終わるやいなや、新法人の定款を市議会に提出して議決を得ました。住民説明会では反対や疑問の意見が多数寄せられたにもかかわらず、それを一顧だにしないとは、あまりにも市民を無視した態度だといわなければなりません。
説明会では市民から「独法化を知らない住民も多い。市民合意が得られたのか」と聞かれても市長は「議会の同意を得る」としか答えず、市民の理解と合意を得ることに背を向けました。しかし、市長も市議も先の選挙で独立行政法人化を公約した者は1人もいまません。市民に十分に説明し、理解と合意を得ることは市長・市議会として最低限の責務であり、それをないがしろにすることは許されません。
必要性もサービス改善の保障もない
住民説明会では市民にとって独法化する説得力ある理由や必要性は示されませんでした。市長は、独法化してどんな病院をめざすのかという将来像は何も語らず、医師の採用数や給与を自主的に決められるから「医師の確保がやりやすい」などと語っただけでした。独法化などしなくても全国の多くの公立病院で医師確保を実現していることに照らしても、まったく道理も説得力もありません。
しかも、市民から「紹介状なしの外来受診」「産婦人科の開設」「訪問診療・訪問リハビリの実施」などの要望が出されましたが、市側は「ゼロ回答」に終始しました。医療サービスが向上しないのであれば、独法化する必要性はどこにあるのでしょうか。
にもかかわらず独立行政法人化を急ぐのは、市長が「赤字が続いているので独法化しないといけない」と述べたように、独法化することによって収益・効率優先の経営を行い、市財政からの繰り入れを減らすことにあることは明らかです。救急や小児医療など不採算のサービス切り捨てや、差額ベッド料など患者の負担増、職員の賃金カット・非正規雇用の拡大などが行われる危険性が高くなります。
しかし、そもそも市からの繰り入れは市民のいのちと健康を守るために必要なものであり、国からも認められたものです。市の一般会計約300億円に照らせば大きな負担とは言えません。しかも半分程度は国からの地方交付税などで措置されており、建設時の債務も29年度からなくなります。市の財政負担を理由に独法化する必要はまったくありません。
さらなる地域医療後退の危険
住民説明会で市長は、救急医療や24時間対応の小児医療は「維持する」と述べましたが、定款には明記せず中期目標に盛り込むだけで、確かな保障にはなりません。さらに、上野総合市民病院などとの統廃合についても「医療行政の問題」と述べ否定しませんでした。三重県内で医療機関の統廃合などを後押し、伊賀名張地域の医療機関の再編・統合を主張してきた竹田寛氏が名張市立病院独法化の顧問に就いたこととあわせて、伊賀名張地域で医療機関の統廃合が再び動き出すことが危ぐされます。独法化に踏み出せば、さらなる地域医療の後退につながる危険性が浮かび上がっています。
市民の声が届く市立病院であるために不可欠の市議会の関与も大きく遠ざけられます。予算・決算審議はなくなり、中期目標の審議や事業報告にとどまります。新たにつくる「評価委員会」は市長の任命であり、選挙で選ばれた市議会に代わるものではありません。市議会のチェック機能が大きく後退することは市民にとって容認できません。
新法人では理事長が大きな権限を持つにもかかわらず、地方独立行政法人法で定められ、多くの地方独立行政法人が定める「理事長の解任規定」が定款にはなく、各地で問題になっている理事長のワンマン・不正経営を防ぐことができるのか疑念は尽きません。
市議会でも、こんなに重大な問題があるにあるにもかかわらず取り上げた議員がわずかしかいなかったことは極めて遺憾です。独法化の賛否にかかわらず、市民の声を真摯に受け止めて慎重で十分な議論を行い、市民の理解と判断に資する姿勢こそ求められます。
市直営病院として拡充こそ
「経営改善」をいうのであれば、市民のニーズに応えて医療サービスを改善・実施することによって患者も増えて、経営の改善にもつながります。地域の開業医・病院との連携もいっそう充実させることができます。そのためにも市の直営で、市民の声が真っすぐに届く市立病院として堅持して経営していくことこそ必要です。
医療崩壊に直面したコロナ禍や能登半島地震による災害をみても、自治体直営の公立病院があることの重要性と、公立病院が果たすべき役割はいっそう大きくなっています。
多くの市民は、市民の声が届く市直営の市立病院として、医療サービスをよくしていくことを望んでいます。これに反する独立行政法人化を突き進めば、市民との矛盾は避けられません。来年10月とされる独立行政法人発足までの間にも独法化の問題点はさらに明らかになり、市民との矛盾がいっそう深まることは必至です。
私たちは、安心・安全の地域医療を求める市民のみなさんと力をあわせて、拙速な独立行政法人化を許さず、市立病院のあり方は市民の理解と合意を得て決めるよう求めていきます。市民のいのちと地域医療を守るために、公的責任を堅持し、市直営の市立病院として守りよくしていくために全力をあげるものです。
以 上