ブーゲンビリアのきちきち日記

神奈川の米軍基地のある街から毎日更新。猫と花と沖縄が好き。基地と原発はいらない。

バグダッドの治安が改善された?

2008年02月18日 22時38分22秒 | 井上澄夫さんから
(転載歓迎)

反戦の視点・その58

    バグダッドの治安が改善された?

                 井上澄夫(市民の意見30の会・東京)


 ブッシュ米大統領は最近、自分が決断した3万人の米軍増派によって首都バグダッ
ドの治安状況が大いに改善したと誇らしげに語っている。さて、それはどういう意味
だろうか。

 彼が稀代のウソつきであることは、イラク開戦時にかかげた二つの大義、サダム・
フセインのイラクが膨大な大量破壊兵器を保有していることと、アルカイーダを支援
していることとがいずれも完全なデッチ上げだったことが明らかになったことで証明
され、それは世界周知のことである。しかし彼はデマゴーグであることを認めず、独
裁者フセインを除去したことで米国と世界は安全になった、と論点をすり替えて開き
直った。

 そういう人物の言う「バグダッドの治安改善」をどう受け止めるか。イラク情勢に
詳しい私の友人は笑いながらのべた。「そりゃそうでしょうよ。住民を追い出してし
まったのだから」。

 米軍の増派による首都の制圧は、バクダッドに巣食うイスラム過激派やアルカイー
ダ系のテロリストを掃討することを目的とするとされ、その作戦は各地区でしらみつ
ぶしに行なわれた。圧倒的な軍事力を前にした場合、ゲリラはさっさと逃げ出す。そ
れはゲリラ戦の常識である。したがってしらみつぶしに行なわれる掃討作戦の主たる
効果は住民生活の破壊にほかならない。住処(すみか)を荒らされ生活を破壊された
人びとは居住地域を離れ、難民になるしかない。ヨルダンやレバノンに逃れるか、国
内難民になるか。それ以外に道はない。

 バグダッドに残っている難民のレポートを要約する。
 〈難民の住む地域にいる人びとは、動きのとれない老人、寡婦、戦争で負傷した元
兵士、無数の戦災孤児などであるが、電気も清潔な水も、医療施設もゴミ処理のサー
ビスもなく、寒い冬に備えて毛布を入手することも困難なまま、家族がたった一間や
屋根を壊された家屋に住むしかない。バスルームやシャワーもない。赤新月社や赤十
字などの救援組織は皆無で食料を買う金も乏しい。バグダッドの周辺部でテント生活
を強いられている人びとも少なくない……。〉(末尾注1参照)

 ブッシュが言う「首都の治安状況の改善」とは、首都駐留米軍が他の地域の同軍に
比べていくらか「安全」になったということにすぎず、住民の生活は安全になるどこ
ろか破壊されたのだ。しかし首都駐留米軍が「安全」であり続けるためには首都に駐
留し続けるしかないし、自軍の削減はできない。米軍は2003年3月にバグダッド
空爆を開始したが、その際、石油省だけは無傷で残した。それが示すように、米国政
府が自らのカイライ・マリキ政権を軍事力で支えるのは、石油利権を確保しイラクに
空軍の拠点を置くためだが(末尾注2参照)、米軍によるイラク国軍の養成は遅々と
して進まない。一方、マリキ政権はなかなか石油法を制定できない。北部のクルド、
中部のイスラム教スン二(スンナ)派、南部のイスラム教シーア派の間で利害の調整
ができないと伝えられるが、イラクの地下に眠る石油は本来イラク国民のものである
にもかかわらず、石油法の制定は米国政府と癒着した米石油資本に半永久的な利益を
保障するものでしかないという問題が根底にある。

 これも常識のたぐいだが、軍隊が一番危険にさらされるのは撤退のときである。か
つてムサンナ州サマーワに駐留していた陸上自衛隊の部隊は、イラク国軍が見送りに
駆けつける4時間前に夜陰にまぎれて撤退した。逃走、逃亡と言っていい。ブッシュ
は米大統領選を意識して、増派した米軍を夏には帰還させるつもりのようだが、それ
が可能かどうかは予断を許さない。イラク現地米軍司令官はすべて情勢次第とすでに
予防線を張っているが、撤退はそれ自体が難事なのだ。

 ベトナム侵略戦争で米軍は増派に増派を重ね50万人もの兵士を送り込んだが、結
局、ベトナムから追い出された。無惨な敗退だった。イラク戦争がどういう形で終わ
るかはまったく予断を許さないが、米軍はイラクに10数ヵ所、空軍の拠点を置こう
と目論んでいる。中央アジアから追い出されかかっているから、中東のど真ん中に複
数の空軍拠点を置く計画を手放すはずはない。カイライ政権にとりあえず法的な体裁
を整えさせ、石油収奪のシステムを確立しないことには、戦争を終わらせることはで
きない。

 撤退がどんどん遅らされる理由として、最後にイランの台頭を加えねばなるまい。
イスラエルが200(あるいは100~300)発の核を保有していることは公然の
秘密であり、それに対抗するためにイランが核開発を急いでいることは明らかであ
る。ブッシュ政権のイラクの「民主化」を手始めに中東全域を「民主化」するという
ドミノ構想が完全に破綻しただけでなく、米国の出先であるイスラエルの防衛も危う
くなってきた。米軍をイラクに駐留させ、ペルシャ湾に空母など米艦隊を張りつける
理由がまた増えたのだ。

 米国防総省が2月4日に発表した09会計年度の対テロ戦費を除く通常の国防予算
案は08年度実績比7・5%増の5154億ドル(約54兆6300億円)で、これ
が議会で承認された場合、インフレ調整後で第2次世界大戦以降、最高水準になる。
しかしこれはイラン、アフガンなどでの対テロ戦費を除いた予算案で、同戦費につい
ては数カ月分として700億ドルが計上された(2月5日付『毎日新聞』)。
 また同日、ブッシュ大統領が議会に提出した任期最後となる09会計年度予算教書
は、08年度の財政赤字が4100億ドル(約43兆4600億円)に達し、過去最
大だった04年度(4130億ドル)に匹敵する規模になるという見通しを明らかに
した。09年度の財政赤字は4070億ドル(約43兆1400億円)を見込んでい
る(同)。終わらない戦争が景気を後退させ、税収の落ち込みが赤字を膨らませたの
である。同予算教書は医療保険などの財政支出や教育などへの支出を低く抑えてい
る。戦争経済のツケは増大する貧困層に回される。

 軍事予算を突出させて国家財政を破綻させ、米国社会を荒廃させながら、ブッシュ
は任期の最後まで「ブッシュの戦争」を続けるつもりである。


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※注1 高遠菜穂子さんのブログ「イラク・ホープ・ダイアリー」
(http://iraqhope.exblog.jp/8048411/)にイラクから送られてきた報告の日本語訳
が掲載されている。

※注2 ブッシュ政権は米軍の海外拠点について、わざとまぎらわしいレトリックを
用いている。2月13日付AFPは、大統領府のダナ・ペリノ報道官が「海外のいか
なる米軍基地も恒久的なものと考えていない」と表明したと報じた。一見期待を抱か
せる発言であるが、大統領選でイラクからの撤退が争点の一つになっているため、撤
退含みの展望に触れて民主党を牽制したにすぎない。
 ただし海外に恒久的な基地を維持しないという考えは、ラムズフェルド米国防長官
の時代、米国防総省によってすでに表明されていた(2004年8月、在外米軍再編
計画を発表)。在韓米軍(3万7000人)については04年10月、3分の1の1
万2500人を08年9月までに削減することで米韓が合意、在欧米軍(11万60
00人)については05年4月、陸軍部隊のうち3万8000人を今後5~10年で
削減する計画が公表された。その文脈でとらえれば、ペリノ報道官の表明は、とりた
てて新しいものではない。 
 要するに、在外基地の将兵を帰還させ米本土防衛を強化するとともに、ハイテク化
や前方展開戦力の再配置によって米軍が有事に即応して世界のどこにでも出動できる
態勢を作りたいのである。そのような有事即応の機動展開のために米軍が必要とする
のは、恒常的な基地ではなく、中継地点としての空間である。必要なのは「ベースで
はなくスペース」なのだ。
 アフリカを含め世界のどの地域で起きる紛争にも即時対応できる態勢であれば、膨
大な経費を要する基地を維持する必要はない。有事に空軍を展開するため中継地点が
あれば十分ということなのだ。周辺事態法では同事態に際して米軍が来援するとき
は、民間の港湾・空港なども使用できることになっている。イラクに置く予定の空軍
の拠点も、あえて「基地」とは呼ばれないかもしれない。
 


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