▼1月26日付『愛媛』
社説 海賊対策に海自派遣 解決すべき問題点も多い
アフリカ・ソマリア沖の海賊対策で、政府は海上自衛隊の艦船を派遣することを決めた。浜田靖一防衛相が明日にも自衛隊に派遣準備を指示、早ければ3月中に現場海域で活動を始めることになる。
国際海事局(IMB)のまとめでは、昨年ソマリア沖のアデン湾で発生した海賊被害は92件。世界全体の三割を占める。日本の海運会社が運行する船が襲われたケースも3件あった。日本にとってこの海域の安全確保は死活問題。欧米各国や中国、インドが艦船を派遣するなか、日本も何もせずには済まされないだろう。
海賊に対しては、国籍にかかわらず処罰できるとした国連海洋法条約がある。国連安全保障理事会もソマリア領海での海賊制圧を認める決議を採択している。
本来なら海上航行の安全確保は海上保安庁の職務だが、遠いアフリカでロケット砲などで武装した海賊に立ち向かう装備はない。海自艦船の派遣はやむを得まい。
派遣の根拠は自衛隊法に基づく海上警備行動だ。しかし、もともと日本の領海を想定したもので、浜田防衛相が「応急措置」と認める通り、見切り発車は否めない。また、韓国とも海賊対策で協力し合うことで合意している。海自艦船は韓国艦船と同じ活動はできない。お互いの役割分担をきちんと詰めておくべきだろう。
ただ、自衛隊の海外派遣には異論もある。現場では集団的自衛権の行使とのかね合いも出てこよう。国会で徹底的に議論すべきだ。
『愛媛』も「海自艦船の派遣はやむを得まい」と主張するが、『朝日』や『毎日』との違いは「現場では集団的自衛権の行使とのかね合いも出てこよう。国会で徹底的に議論すべきだ。」とのべていることだ。麻生首相が諸国軍艦の群に自衛隊艦船が伍することで、事実上の集団的自衛権行使の先例を作ろうとしていることに気付いているようだ。
1月12日にソウルで行なわれた麻生太郎首相と李明博大統領の首脳会談で、両国はソマリア沖での海賊対策で協力する方針で合意した(1月26日付『東京』)。協力項目は(1)要請に基づき両国の船舶を相互に警護(2)航行する船舶情報の共有(3)日本が周辺国と協力しているマラッカ海峡の海賊対策に関して日本が情報提供─などが検討されているというが、この「協力」には集団的自衛権の行使にあたる要素が含まれているのではないかを大いに疑うべきである。両国で艦隊を編成することは想定していないというが、そうしなくても集団的自衛権は行使できる。
◆懸念あり慎重論
▼2008年12月29日付『山陽』
社説 海賊対策 貢献活動は幅広い視点で
麻生首相が海賊対策で海自活用に言及したのは10月中旬だった。当初は新法を制定しての派遣案だったが、衆参両院のねじれ国会で成立のめどが立たない。そこで、まずは海上警備行動による派遣となったようだ。
ソマリア沖や周辺海域では今年、海賊事件が急増、24日現在で109件と昨年1年間の倍以上に達している。各国が艦船を派遣しており、政府としては「ただ乗り」批判を恐れたようだ。加えて先日中国海軍も参加し、外務省を中心に「日本だけ乗り遅れるわけにはいかない」と焦りが出ているという。
しかし、首相の指示に対し、浜田防衛相は慎重な姿勢を示した。海上警備行動にはいろいろと制約があるからだ。
実際に派遣となればロケット砲や自動小銃で重武装した海賊との戦闘を想定しなければならない。だが、海上警備行動には警察官職務執行法が準用され、武器使用は原則として正当防衛か緊急避難に限られる。「ためらえば自分たちの命が危ない」「護衛艦の武器で応戦すれば過剰防衛にならないか」など、海自隊員には不安の声が強い。
ある自衛隊幹部は「国会で新法が通らないから取りあえず海上警備行動で、という発想自体に疑問が残る」と話している。こうした無理が出るのは海上警備行動がそもそも日本周辺海域での活動を前提とし、さらにいえば日本の法体系が基本的に今回のような事態を想定していないからだ。現行憲法に基づく戦後の歩みからしていうまでもないことで、だからこそ今回も最初に新法制定案が出てきた。
海上警備行動であっても、自衛隊の海外派遣のなし崩し的な拡大につながりかねない点ではこれまでと同じだ。海外での自衛隊の活用には、抑制的な姿勢が求められる。
自衛艦派遣以外にも日本ができる貢献策はある。国会の場で、幅広い視点に立った与野党の建設的議論が望まれる。
『山陽』の「海上警備行動であっても、自衛隊の海外派遣のなし崩し的な拡大につながりかねない点ではこれまでと同じだ。」という主張は重要である。麻生首相はこの点こそ隠したいのだ。オバマ政権は予想されたとおり、アフガニスタンで日本がもっと大きな役割を果たすべきだと迫っている。福田前首相は昨年のG8洞爺湖サミットの際、アフガン派兵を目玉にしたかったが、結局、全土が戦闘地域であるアフガンに陸自や空自を送り込むことは断念した。
しかしオバマ政権が諸種の復興支援ではなく、自衛隊が米軍やISAF(国際治安支援部隊、NATO〔北大西洋条約機構〕)の作戦に参加することを求めているのは明らかだ。麻生首相にはそれに応える心の準備があると見ておくべきだろう。
▼1月26日付『西日本』
海賊対策へ海自 危うさ残す見切り派遣だ
アフリカ東部ソマリア沖の海賊取り締まりに、自衛隊法82条の海上警備行動を発令して海上自衛隊艦船が派遣されることになった。政府方針を自民、公明の両与党も了承した。
現行法での派遣は、海賊対策への自衛艦派遣を定める新法制定までの「応急的な措置」というが、武力行使も想定される自衛隊の海外派遣である。十分な議論を踏まえた慎重な判断が必要だ。
国会の議論をほとんど経ないままの今回の派遣は「見切り発車」の感を否めない。このような自衛隊海外派遣が国会のチェックなしにまかり通るようでは、文民統制を危うくしかねない。実際の派遣までにはまだ時間がある。いまからでも国会で与野党の本格的な論議を求めたい。
とはいえ、ソマリア海域での海賊被害の深刻さ、国連安全保障理事会の制圧決議などを考えれば、日本が海賊対策に協力するのは当然だろう。同海域を年間2000隻前後の船舶が通航する日本が傍観しているわけにはいかない。その点では、政府が海賊対策を急ぐのは理解できる。
しかし、なぜいきなり自衛艦なのか。海上の安全と秩序を守るのは本来は警察機関である海上保安庁の任務である。海上警備行動は海保の巡視船では対処が難しいなど特別の事情がある場合に、自衛隊に発令される。しかし、海保ではなぜだめなのか、その検証が国会で十分に論議された形跡はない。「海保では無理だから海自を」では説得力を欠く。
政府は武装した海賊との銃撃戦も想定されるという説明をしている。人命損傷の危険があるからということだろう。そうであるなら、なおのこと慎重な判断が求められる。
例えば武器使用。警察官職務執行法を準用して正当防衛と緊急避難に限るとしているが、その判断をどういう基準で行うのか、海賊船が警告を無視するなど正当防衛や緊急避難では対処できない不測の事態にどう臨むのか。
具体的な基準は防衛省が作成するというが、文民統制の本旨からすれば、好ましいことではない。やはり国会の場で議論して詰めておくべきだ。
今回の派遣指示が、政府・与党が今国会に提出を予定している海賊対策法案に向けた自衛隊派遣の実績づくりだとすれば、そんな理由で派遣される海上自衛隊こそ不幸である。
『西日本』の「しかし、なぜいきなり自衛艦なのか。海上の安全と秩序を守るのは本来は警察機関である海上保安庁の任務である。海上警備行動は海保の巡視船では対処が難しいなど特別の事情がある場合に、自衛隊に発令される。しかし、海保ではなぜだめなのか、その検証が国会で十分に論議された形跡はない。『海保では無理だから海自を』では説得力を欠く。」という指摘はもっともである。海自に海賊対処の準備がないのに、「海保では無理だから海自を」と政府が強弁するのは、くりかえし指摘したように「初めに海自派遣ありき」だったからである。「とにかく一刻も早く海自艦隊を出せ」と麻生首相が焦っているからである。既成事実をまず造り上げれば、法律はあとからついてくるという、小泉元首相が2001年の〈9・11〉に対応してとった姿勢が、麻生首相に受け継がれているのだ。
▼1月27日付『北海道』
社説 ソマリア派遣 「積み残し」が多すぎる
アフリカ東部ソマリア周辺海域の海賊対策のため、海上自衛隊の護衛艦が3月中にも現地へ派遣されることになった。
ソマリア周辺での海賊被害は深刻だ。国連は共同対処を呼びかける決議を繰り返してきた。日本も手をこまぬいているわけにはいかないというのが政府・与党の言い分である。
だが、これまでの議論の進め方は拙速だ。そもそも警備行動は日本近海での活動を想定している。海自艦をアフリカ沖へ送り出すことは法の拡大解釈にならないか。
政府は、海上保安庁の巡視船では装備が不十分で対応できないと説明してきた。本当にそうか、しっかり検証する必要があるだろう。それがなおざりにされ、多くの課題が積み残されている。その一つは武器使用基準をめぐる問題だ。
海上警備行動では正当防衛と緊急避難に限って武器使用が認められている。具体的にどんな状況で発砲が可能か。与党は肝心な点を詰め切れず、基準作成を防衛省に委ねた。
海賊を拘束した後の措置も明確でない。派遣決定の前に政治の側がガイドラインを示すのが筋だ。その議論がないのでは、現場で判断を迫られる自衛官はたまらないだろう。
しかも、基準は相手に手の内を見せないため非公開にするという。文民統制の観点から疑問が残る。政府は、昨年十一月にインド海軍が海賊に乗っ取られたタイの船を撃沈し、人質が犠牲になった例も、正当防衛・緊急避難に該当するとの見解だ。海自が外国人を殺傷する可能性が現実味を帯びることになる。
その場合も治安活動であり海外での武力行使に当たらないというが、平和憲法の理念に沿うだろうか。
政府は海上警備行動を「つなぎ」とし、海自による海賊対策の新法を今国会で制定する方針だ。自衛隊の海外派遣を随時可能にする一般法制定の地ならしと言えるだろう。
『北海道』の「武器使用基準は相手に手の内を見せないため非公開にするという。文民統制の観点から疑問が残る。政府は、昨年十一月にインド海軍が海賊に乗っ取られたタイの船を撃沈し、人質が犠牲になった例も、正当防衛・緊急避難に該当するとの見解だ。海自が外国人を殺傷する可能性が現実味を帯びることになる。」という指摘は適切である。 武器使用基準が非公開なら、実際に戦闘が起きたケースについて、海自がどう事後報告しようと信憑性が疑われる。海上での交戦についてあれこれ正当性が言い立てられても、現場を見ているのは海自隊員と海上保安官だけである。他に誰も見ていないのだから、真相が闇に葬られる可能性は十二分にある。イージス艦・あたごが漁船を沈めたとき、海自の関係者がどう口裏を合わせようとしたか、私たちはよく知っている。しかもそもそもどうやって海賊と認定するのか、漁民や難民という可能性もあるのではないか。海賊らしい、海賊のようだということだけで外国人を殺傷することは犯罪である。
同紙の「政府は海上警備行動を『つなぎ』とし、海自による海賊対策の新法を今国会で制定する方針だ。自衛隊の海外派遣を随時可能にする一般法制定の地ならしと言えるだろう。」という指摘も重要だ。海賊対処法は海外派兵恒久法(一般法)を制定するためのワンステップにすぎない。すべてはアフガン本土派兵、そしてその次を見据えた動きである。
社説 海賊対策に海自派遣 解決すべき問題点も多い
アフリカ・ソマリア沖の海賊対策で、政府は海上自衛隊の艦船を派遣することを決めた。浜田靖一防衛相が明日にも自衛隊に派遣準備を指示、早ければ3月中に現場海域で活動を始めることになる。
国際海事局(IMB)のまとめでは、昨年ソマリア沖のアデン湾で発生した海賊被害は92件。世界全体の三割を占める。日本の海運会社が運行する船が襲われたケースも3件あった。日本にとってこの海域の安全確保は死活問題。欧米各国や中国、インドが艦船を派遣するなか、日本も何もせずには済まされないだろう。
海賊に対しては、国籍にかかわらず処罰できるとした国連海洋法条約がある。国連安全保障理事会もソマリア領海での海賊制圧を認める決議を採択している。
本来なら海上航行の安全確保は海上保安庁の職務だが、遠いアフリカでロケット砲などで武装した海賊に立ち向かう装備はない。海自艦船の派遣はやむを得まい。
派遣の根拠は自衛隊法に基づく海上警備行動だ。しかし、もともと日本の領海を想定したもので、浜田防衛相が「応急措置」と認める通り、見切り発車は否めない。また、韓国とも海賊対策で協力し合うことで合意している。海自艦船は韓国艦船と同じ活動はできない。お互いの役割分担をきちんと詰めておくべきだろう。
ただ、自衛隊の海外派遣には異論もある。現場では集団的自衛権の行使とのかね合いも出てこよう。国会で徹底的に議論すべきだ。
『愛媛』も「海自艦船の派遣はやむを得まい」と主張するが、『朝日』や『毎日』との違いは「現場では集団的自衛権の行使とのかね合いも出てこよう。国会で徹底的に議論すべきだ。」とのべていることだ。麻生首相が諸国軍艦の群に自衛隊艦船が伍することで、事実上の集団的自衛権行使の先例を作ろうとしていることに気付いているようだ。
1月12日にソウルで行なわれた麻生太郎首相と李明博大統領の首脳会談で、両国はソマリア沖での海賊対策で協力する方針で合意した(1月26日付『東京』)。協力項目は(1)要請に基づき両国の船舶を相互に警護(2)航行する船舶情報の共有(3)日本が周辺国と協力しているマラッカ海峡の海賊対策に関して日本が情報提供─などが検討されているというが、この「協力」には集団的自衛権の行使にあたる要素が含まれているのではないかを大いに疑うべきである。両国で艦隊を編成することは想定していないというが、そうしなくても集団的自衛権は行使できる。
◆懸念あり慎重論
▼2008年12月29日付『山陽』
社説 海賊対策 貢献活動は幅広い視点で
麻生首相が海賊対策で海自活用に言及したのは10月中旬だった。当初は新法を制定しての派遣案だったが、衆参両院のねじれ国会で成立のめどが立たない。そこで、まずは海上警備行動による派遣となったようだ。
ソマリア沖や周辺海域では今年、海賊事件が急増、24日現在で109件と昨年1年間の倍以上に達している。各国が艦船を派遣しており、政府としては「ただ乗り」批判を恐れたようだ。加えて先日中国海軍も参加し、外務省を中心に「日本だけ乗り遅れるわけにはいかない」と焦りが出ているという。
しかし、首相の指示に対し、浜田防衛相は慎重な姿勢を示した。海上警備行動にはいろいろと制約があるからだ。
実際に派遣となればロケット砲や自動小銃で重武装した海賊との戦闘を想定しなければならない。だが、海上警備行動には警察官職務執行法が準用され、武器使用は原則として正当防衛か緊急避難に限られる。「ためらえば自分たちの命が危ない」「護衛艦の武器で応戦すれば過剰防衛にならないか」など、海自隊員には不安の声が強い。
ある自衛隊幹部は「国会で新法が通らないから取りあえず海上警備行動で、という発想自体に疑問が残る」と話している。こうした無理が出るのは海上警備行動がそもそも日本周辺海域での活動を前提とし、さらにいえば日本の法体系が基本的に今回のような事態を想定していないからだ。現行憲法に基づく戦後の歩みからしていうまでもないことで、だからこそ今回も最初に新法制定案が出てきた。
海上警備行動であっても、自衛隊の海外派遣のなし崩し的な拡大につながりかねない点ではこれまでと同じだ。海外での自衛隊の活用には、抑制的な姿勢が求められる。
自衛艦派遣以外にも日本ができる貢献策はある。国会の場で、幅広い視点に立った与野党の建設的議論が望まれる。
『山陽』の「海上警備行動であっても、自衛隊の海外派遣のなし崩し的な拡大につながりかねない点ではこれまでと同じだ。」という主張は重要である。麻生首相はこの点こそ隠したいのだ。オバマ政権は予想されたとおり、アフガニスタンで日本がもっと大きな役割を果たすべきだと迫っている。福田前首相は昨年のG8洞爺湖サミットの際、アフガン派兵を目玉にしたかったが、結局、全土が戦闘地域であるアフガンに陸自や空自を送り込むことは断念した。
しかしオバマ政権が諸種の復興支援ではなく、自衛隊が米軍やISAF(国際治安支援部隊、NATO〔北大西洋条約機構〕)の作戦に参加することを求めているのは明らかだ。麻生首相にはそれに応える心の準備があると見ておくべきだろう。
▼1月26日付『西日本』
海賊対策へ海自 危うさ残す見切り派遣だ
アフリカ東部ソマリア沖の海賊取り締まりに、自衛隊法82条の海上警備行動を発令して海上自衛隊艦船が派遣されることになった。政府方針を自民、公明の両与党も了承した。
現行法での派遣は、海賊対策への自衛艦派遣を定める新法制定までの「応急的な措置」というが、武力行使も想定される自衛隊の海外派遣である。十分な議論を踏まえた慎重な判断が必要だ。
国会の議論をほとんど経ないままの今回の派遣は「見切り発車」の感を否めない。このような自衛隊海外派遣が国会のチェックなしにまかり通るようでは、文民統制を危うくしかねない。実際の派遣までにはまだ時間がある。いまからでも国会で与野党の本格的な論議を求めたい。
とはいえ、ソマリア海域での海賊被害の深刻さ、国連安全保障理事会の制圧決議などを考えれば、日本が海賊対策に協力するのは当然だろう。同海域を年間2000隻前後の船舶が通航する日本が傍観しているわけにはいかない。その点では、政府が海賊対策を急ぐのは理解できる。
しかし、なぜいきなり自衛艦なのか。海上の安全と秩序を守るのは本来は警察機関である海上保安庁の任務である。海上警備行動は海保の巡視船では対処が難しいなど特別の事情がある場合に、自衛隊に発令される。しかし、海保ではなぜだめなのか、その検証が国会で十分に論議された形跡はない。「海保では無理だから海自を」では説得力を欠く。
政府は武装した海賊との銃撃戦も想定されるという説明をしている。人命損傷の危険があるからということだろう。そうであるなら、なおのこと慎重な判断が求められる。
例えば武器使用。警察官職務執行法を準用して正当防衛と緊急避難に限るとしているが、その判断をどういう基準で行うのか、海賊船が警告を無視するなど正当防衛や緊急避難では対処できない不測の事態にどう臨むのか。
具体的な基準は防衛省が作成するというが、文民統制の本旨からすれば、好ましいことではない。やはり国会の場で議論して詰めておくべきだ。
今回の派遣指示が、政府・与党が今国会に提出を予定している海賊対策法案に向けた自衛隊派遣の実績づくりだとすれば、そんな理由で派遣される海上自衛隊こそ不幸である。
『西日本』の「しかし、なぜいきなり自衛艦なのか。海上の安全と秩序を守るのは本来は警察機関である海上保安庁の任務である。海上警備行動は海保の巡視船では対処が難しいなど特別の事情がある場合に、自衛隊に発令される。しかし、海保ではなぜだめなのか、その検証が国会で十分に論議された形跡はない。『海保では無理だから海自を』では説得力を欠く。」という指摘はもっともである。海自に海賊対処の準備がないのに、「海保では無理だから海自を」と政府が強弁するのは、くりかえし指摘したように「初めに海自派遣ありき」だったからである。「とにかく一刻も早く海自艦隊を出せ」と麻生首相が焦っているからである。既成事実をまず造り上げれば、法律はあとからついてくるという、小泉元首相が2001年の〈9・11〉に対応してとった姿勢が、麻生首相に受け継がれているのだ。
▼1月27日付『北海道』
社説 ソマリア派遣 「積み残し」が多すぎる
アフリカ東部ソマリア周辺海域の海賊対策のため、海上自衛隊の護衛艦が3月中にも現地へ派遣されることになった。
ソマリア周辺での海賊被害は深刻だ。国連は共同対処を呼びかける決議を繰り返してきた。日本も手をこまぬいているわけにはいかないというのが政府・与党の言い分である。
だが、これまでの議論の進め方は拙速だ。そもそも警備行動は日本近海での活動を想定している。海自艦をアフリカ沖へ送り出すことは法の拡大解釈にならないか。
政府は、海上保安庁の巡視船では装備が不十分で対応できないと説明してきた。本当にそうか、しっかり検証する必要があるだろう。それがなおざりにされ、多くの課題が積み残されている。その一つは武器使用基準をめぐる問題だ。
海上警備行動では正当防衛と緊急避難に限って武器使用が認められている。具体的にどんな状況で発砲が可能か。与党は肝心な点を詰め切れず、基準作成を防衛省に委ねた。
海賊を拘束した後の措置も明確でない。派遣決定の前に政治の側がガイドラインを示すのが筋だ。その議論がないのでは、現場で判断を迫られる自衛官はたまらないだろう。
しかも、基準は相手に手の内を見せないため非公開にするという。文民統制の観点から疑問が残る。政府は、昨年十一月にインド海軍が海賊に乗っ取られたタイの船を撃沈し、人質が犠牲になった例も、正当防衛・緊急避難に該当するとの見解だ。海自が外国人を殺傷する可能性が現実味を帯びることになる。
その場合も治安活動であり海外での武力行使に当たらないというが、平和憲法の理念に沿うだろうか。
政府は海上警備行動を「つなぎ」とし、海自による海賊対策の新法を今国会で制定する方針だ。自衛隊の海外派遣を随時可能にする一般法制定の地ならしと言えるだろう。
『北海道』の「武器使用基準は相手に手の内を見せないため非公開にするという。文民統制の観点から疑問が残る。政府は、昨年十一月にインド海軍が海賊に乗っ取られたタイの船を撃沈し、人質が犠牲になった例も、正当防衛・緊急避難に該当するとの見解だ。海自が外国人を殺傷する可能性が現実味を帯びることになる。」という指摘は適切である。 武器使用基準が非公開なら、実際に戦闘が起きたケースについて、海自がどう事後報告しようと信憑性が疑われる。海上での交戦についてあれこれ正当性が言い立てられても、現場を見ているのは海自隊員と海上保安官だけである。他に誰も見ていないのだから、真相が闇に葬られる可能性は十二分にある。イージス艦・あたごが漁船を沈めたとき、海自の関係者がどう口裏を合わせようとしたか、私たちはよく知っている。しかもそもそもどうやって海賊と認定するのか、漁民や難民という可能性もあるのではないか。海賊らしい、海賊のようだということだけで外国人を殺傷することは犯罪である。
同紙の「政府は海上警備行動を『つなぎ』とし、海自による海賊対策の新法を今国会で制定する方針だ。自衛隊の海外派遣を随時可能にする一般法制定の地ならしと言えるだろう。」という指摘も重要だ。海賊対処法は海外派兵恒久法(一般法)を制定するためのワンステップにすぎない。すべてはアフガン本土派兵、そしてその次を見据えた動きである。