会社をやめて、もう半年以上。
これまでは外なんてどうでもよかったのですが
最近、自分から散歩に出るくらい、
心境が変わってきました。もしかしたらようやく
会社づとめのときのダメージが抜けて、
精神力が回復してきたのかもしれません。
そうなると今度は、すごく退屈してきました。
やりたいこともやるべきこともいろいろ
残っているのですが、なんだか気分が重いです。
無性にどこかへ行きたい気分……
という話をすこし前に友達にしたのですが
本気だと思われていなかったらしく。
次に話してから、その四日後という
急な予定でドライブが決まりました。
考えてみれば、何週間も前から
予定が決まって思い悩むより、
これくらいの近さのほうが
いっそさっぱりします。
そこで、どこにいくかとなりましたが
わたしには例によってなにもありません。
そこで友達が出してきたのが、
榛名山でした。なんでももう、
紅葉のシーズンだからだそうです。
でも、わたしは紅葉の良さや見所というのが
よくわかりません。
たぶん受容体のようなものが
ないのだと思います。
たとえばタコやえびはゆでると真っ赤になります。
ポトスやゴムの木の葉が焼けると黄色です。
お風呂につかっていると指の先が
ふにゃふにゃになります。
わたしにとって紅葉は、
そういうものに属する現象です。
理屈でなくて、感覚で、
すでに何がいいのか感じ取れないのです。
この『わからない』という感覚は
他人同士愛し合うというのがわからない
という感覚とたぶん同じです。
わたしが見た目で驚くのは、
そして好きなのは、秋なら金色です。
すすきがふわふわのしっぽで一面を埋めて、
そこを風が吹き抜けると、
まるで海の中にいるようです。
波が寄るようなすごい音が
風といっしょに駆けていって、
うねりのような光が走り抜けるのです。
または、収穫を待つばかりのような稲が
一面頭をもたげて並んでいる景色に、
それをなでる風はなんともいえません。
……もしかすると、わたしの好きな景色は
風景だけに風がかかわらないと
おもしろくないのかもしれないと
今書きながらちょっと思いました。
そういえば、春で好きなのは、
風に舞い散るさくらです。
さくらが満開に咲いていても
たいしたことはありません。
でも風でさくらが吹雪のように
散り乱れるのは息を呑む美しさです。
夏はうだる暑さと、せみの声と風鈴の音。
冬は……嫌いなのでよくわかりません。
そんなこんななので、
わたしは紅葉うんぬんはどうでもいいのです。
わたしにとって『紅葉を見に行こう』
というのは、『おふろにいっしょにいって、
指という指がしわしわになるのを見よう』
と言われるのと同レベルです。
それよりも、その過程であるドライブが
わたしは好きです。
個人的に、街なかを出た車が、
走るうちに草木が生え出して、
道があやしくなって、
そばに山が出てきて田舎になっていくという、
その景色の移り変わりのほうにわくわくします。
畑と家の比率が街のほうと逆だとか、
高速道路を走っていて横に見える、
そういうところをただ走ってほしい、
そういうところで意味無く止まって
川べりを歩いてみたい、
そんなことを思います。
――と、なんだか前振りが
やけに長くなりましたが、
ドライブです、ドライブ。
前回のドライブは今までで
いちばん体調が悪かったです。
朝からものも食べられず、吐く寸前。
体温調節もうまくできずに
がたがた震えながらの出発でした。
次の日の予定というプレッシャーに負けて
寝られなかった結果です。
今回はあきらめて、最初から薬漬けです。
寝る前に酔い止めを飲んで、まず二時間。
起きてしまってからはメラトニンで二時間。
次に起きてなんとか寝なおせて二時間。
最低六時間寝れば、体の基本機能は
動くようになるので助かりました。
そして友達の車が到着して、荷物を積み込みます。
友達は荷物は小さな手提げ二個ですが
わたしは大きなバッグ一つと、中バッグ二つです。
着替え二回分と薬のバッグと、
ドライブ用品といつもの荷物です。
電車旅行と違って、どれだけ入れても
自分たちに直接ダメージにならないので車は好きです。
それに加えて、今回はいままでの経験をふまえて、
履く靴のほかにつっかけのサンダルも用意しました。
車の中で靴を履いていると疲れるし、
脱いでも足の置き場が無くて足もち無沙汰です。
でもサンダルがあれば。
蒸れないしきつくないし着脱自由だしと
いいことづくめです。
運転する友達とは対照的に
もうくつろぐ気はまんまんです。
……実際とてもくつろげました。
あとはふわふわのクッションも
用意しておいたのですが、
もっていくのを忘れました。残念です。
さて。
車は出発して、しばらく。
山の中という感じではない道を進みます。
いつものわたしの好きな方向だと、
談合坂パーキングだかでなんとなく
停車するのですが、今回はありませんでした。
そっちの方面ではないそうです。
前回、安中榛名の駅そばが楽しかったので
そっちから行くんだろうなと思っていたのですが
それも違いました。
榛名の駅や、おもしろかった神社を
わたしの脳内地図で左と言うならば、
今回行くのは右のほうだったのです。
ちょっと残念でした。
まず、友達のねらいは、山からでも見える、
巨大な観音像(?)だったそうです。
菩薩か観音かは忘れましたが、
とても大きな白い像です。
そこへ向かっているとき、
三叉路くらいで洞窟観音という文字を見つけました。
わたしの中のなるほどくんがつぶやきます。
「洞窟のことはよくわからないが……
なにかムネにキュンとくるものがある!」
そこでわたしは力いっぱい机をたたきつけて
叫びました。
「待った!」
せっかくなのでそっちも行ってみない? と
ゆさぶります。
そして行った洞窟観音。
入り口あたりがとても魅力的でした。
◆◆画像08-10-19_001◆◆
そのうえ、左手には
なにやら長い階段もあるのです。
階段ずきなわたしとしては、
施設と関係ないそちらもぜひ
確かめたいところです。
というところでまず入場料800円くらいを払って
中に入ってみました。
中は……ひんやりして、防空壕というか、
戦時中の地下施設の通路のような場所でした。
◆◆画像08-10-19_002◆◆
口を閉じると、耳が痛いほど静かです。
わたしとしては、もっと鍾乳洞か
鉱山のような洞窟を想像していたので
ちょっとがっかりです。
途中途中に穴があって、
観音様がたの像がたくさんありましたが、
たとえばそれがどういう観音かとか、
どうやって彫られているのかとかの
背景説明があったらもっと楽しめたのになあと
見ながら思っていました。
そうして見終わって、出口から階段へ。
普段なら嫌がる友達も、今回はなぜか
のぼりムードです。
◆◆画像08-10-19_003◆◆
上がどこまで続いているのかわからなかったので
わくわくと上ります。
だんだんと疲れてきても、まだのぼります。
最近運動なんてしていなかったので
かなりへとへとです。
途中では友達が、上っても何も無いんじゃ、と
不吉なことを口にしはじめます。
わたしの予想では、たぶん石柱かなにかが
立っていて、この洞窟観音の縁起のような
解説があるのだろうと思っていました。
――が。
正解は友達でした。
上ったところには山道しかなく、
階段はむしろその散策路から
洞窟へ降りるためのものだったのです。
◆◆画像08-10-19_004◆◆
がっかりして降りますが、
すでに今日の分の体力は
消耗してしまったような疲れ方です。
◆◆画像08-10-19_005◆◆
途中にあったはっぱを友達が写したもの。
いま思えば、紅葉を気にしていたんですねえ。
興味がなかったので気づきませんでした。
階段を下りた後は、洞窟観音に併設している、
日本庭園っぽいものを見に行きました。
でもすでに足はがたがたです。
変に汗もかいたし、いっそへたりこんで
しまいたい気分でいっぱいです。
ということでそこそこに見て、
車へ戻りました。
駐車場からでるときに、近隣の見取り図があり、
そこには橋がわざわざ描いてありました。
そうやって描くくらいです、きっと
すごいものなのでしょう。
◆◆画像08-10-19_006◆◆
そこで進路をそっちむきにしますが、
途中にいやな文字が見えます。
どうも、車では近づけないようなのです。
どこらへんなのかとすこし探しましたが
あきらめて、次にむかうことにします。
次。大きな像です。
白衣観音というらしいです。
と思ったら。
榛名山のロープウェーに行こうというので
うなづきます。
山、橋、洞窟、湖、ロープウェー。
そんな感じのものがわたしは好きです。
海は怖いので苦手です。
車が走り出すと、どんどんと違うところに
進んでいきます。てっきり近くにあると
思ったのに、もうずっと遠いところを
目指していたようです。
今回のドライブのはじめから、
その大きな観音像に行きたいと
友達は言っていたのに。
あそこでわたしがうなづかずに、
白衣観音に行こうと言っていればと、
申し訳なく思いました。
でも後にきいたところだと、
観音像も歩かなければならず、
あの状態では歩きたくなかったので
目的地を変えたのだとか。
けれど実は、後に調べたら、
案内図にあった橋は
ひびき橋といって、近年つくられた
120メートルくらいの長い橋だったそうです。
そして、観音像のそばにあったとか。
ちょっと無理をしても
行っておけばよかったと後悔です。
◆◆画像08-10-19_007◆◆
内容は続きます。
これまでは外なんてどうでもよかったのですが
最近、自分から散歩に出るくらい、
心境が変わってきました。もしかしたらようやく
会社づとめのときのダメージが抜けて、
精神力が回復してきたのかもしれません。
そうなると今度は、すごく退屈してきました。
やりたいこともやるべきこともいろいろ
残っているのですが、なんだか気分が重いです。
無性にどこかへ行きたい気分……
という話をすこし前に友達にしたのですが
本気だと思われていなかったらしく。
次に話してから、その四日後という
急な予定でドライブが決まりました。
考えてみれば、何週間も前から
予定が決まって思い悩むより、
これくらいの近さのほうが
いっそさっぱりします。
そこで、どこにいくかとなりましたが
わたしには例によってなにもありません。
そこで友達が出してきたのが、
榛名山でした。なんでももう、
紅葉のシーズンだからだそうです。
でも、わたしは紅葉の良さや見所というのが
よくわかりません。
たぶん受容体のようなものが
ないのだと思います。
たとえばタコやえびはゆでると真っ赤になります。
ポトスやゴムの木の葉が焼けると黄色です。
お風呂につかっていると指の先が
ふにゃふにゃになります。
わたしにとって紅葉は、
そういうものに属する現象です。
理屈でなくて、感覚で、
すでに何がいいのか感じ取れないのです。
この『わからない』という感覚は
他人同士愛し合うというのがわからない
という感覚とたぶん同じです。
わたしが見た目で驚くのは、
そして好きなのは、秋なら金色です。
すすきがふわふわのしっぽで一面を埋めて、
そこを風が吹き抜けると、
まるで海の中にいるようです。
波が寄るようなすごい音が
風といっしょに駆けていって、
うねりのような光が走り抜けるのです。
または、収穫を待つばかりのような稲が
一面頭をもたげて並んでいる景色に、
それをなでる風はなんともいえません。
……もしかすると、わたしの好きな景色は
風景だけに風がかかわらないと
おもしろくないのかもしれないと
今書きながらちょっと思いました。
そういえば、春で好きなのは、
風に舞い散るさくらです。
さくらが満開に咲いていても
たいしたことはありません。
でも風でさくらが吹雪のように
散り乱れるのは息を呑む美しさです。
夏はうだる暑さと、せみの声と風鈴の音。
冬は……嫌いなのでよくわかりません。
そんなこんななので、
わたしは紅葉うんぬんはどうでもいいのです。
わたしにとって『紅葉を見に行こう』
というのは、『おふろにいっしょにいって、
指という指がしわしわになるのを見よう』
と言われるのと同レベルです。
それよりも、その過程であるドライブが
わたしは好きです。
個人的に、街なかを出た車が、
走るうちに草木が生え出して、
道があやしくなって、
そばに山が出てきて田舎になっていくという、
その景色の移り変わりのほうにわくわくします。
畑と家の比率が街のほうと逆だとか、
高速道路を走っていて横に見える、
そういうところをただ走ってほしい、
そういうところで意味無く止まって
川べりを歩いてみたい、
そんなことを思います。
――と、なんだか前振りが
やけに長くなりましたが、
ドライブです、ドライブ。
前回のドライブは今までで
いちばん体調が悪かったです。
朝からものも食べられず、吐く寸前。
体温調節もうまくできずに
がたがた震えながらの出発でした。
次の日の予定というプレッシャーに負けて
寝られなかった結果です。
今回はあきらめて、最初から薬漬けです。
寝る前に酔い止めを飲んで、まず二時間。
起きてしまってからはメラトニンで二時間。
次に起きてなんとか寝なおせて二時間。
最低六時間寝れば、体の基本機能は
動くようになるので助かりました。
そして友達の車が到着して、荷物を積み込みます。
友達は荷物は小さな手提げ二個ですが
わたしは大きなバッグ一つと、中バッグ二つです。
着替え二回分と薬のバッグと、
ドライブ用品といつもの荷物です。
電車旅行と違って、どれだけ入れても
自分たちに直接ダメージにならないので車は好きです。
それに加えて、今回はいままでの経験をふまえて、
履く靴のほかにつっかけのサンダルも用意しました。
車の中で靴を履いていると疲れるし、
脱いでも足の置き場が無くて足もち無沙汰です。
でもサンダルがあれば。
蒸れないしきつくないし着脱自由だしと
いいことづくめです。
運転する友達とは対照的に
もうくつろぐ気はまんまんです。
……実際とてもくつろげました。
あとはふわふわのクッションも
用意しておいたのですが、
もっていくのを忘れました。残念です。
さて。
車は出発して、しばらく。
山の中という感じではない道を進みます。
いつものわたしの好きな方向だと、
談合坂パーキングだかでなんとなく
停車するのですが、今回はありませんでした。
そっちの方面ではないそうです。
前回、安中榛名の駅そばが楽しかったので
そっちから行くんだろうなと思っていたのですが
それも違いました。
榛名の駅や、おもしろかった神社を
わたしの脳内地図で左と言うならば、
今回行くのは右のほうだったのです。
ちょっと残念でした。
まず、友達のねらいは、山からでも見える、
巨大な観音像(?)だったそうです。
菩薩か観音かは忘れましたが、
とても大きな白い像です。
そこへ向かっているとき、
三叉路くらいで洞窟観音という文字を見つけました。
わたしの中のなるほどくんがつぶやきます。
「洞窟のことはよくわからないが……
なにかムネにキュンとくるものがある!」
そこでわたしは力いっぱい机をたたきつけて
叫びました。
「待った!」
せっかくなのでそっちも行ってみない? と
ゆさぶります。
そして行った洞窟観音。
入り口あたりがとても魅力的でした。
◆◆画像08-10-19_001◆◆
そのうえ、左手には
なにやら長い階段もあるのです。
階段ずきなわたしとしては、
施設と関係ないそちらもぜひ
確かめたいところです。
というところでまず入場料800円くらいを払って
中に入ってみました。
中は……ひんやりして、防空壕というか、
戦時中の地下施設の通路のような場所でした。
◆◆画像08-10-19_002◆◆
口を閉じると、耳が痛いほど静かです。
わたしとしては、もっと鍾乳洞か
鉱山のような洞窟を想像していたので
ちょっとがっかりです。
途中途中に穴があって、
観音様がたの像がたくさんありましたが、
たとえばそれがどういう観音かとか、
どうやって彫られているのかとかの
背景説明があったらもっと楽しめたのになあと
見ながら思っていました。
そうして見終わって、出口から階段へ。
普段なら嫌がる友達も、今回はなぜか
のぼりムードです。
◆◆画像08-10-19_003◆◆
上がどこまで続いているのかわからなかったので
わくわくと上ります。
だんだんと疲れてきても、まだのぼります。
最近運動なんてしていなかったので
かなりへとへとです。
途中では友達が、上っても何も無いんじゃ、と
不吉なことを口にしはじめます。
わたしの予想では、たぶん石柱かなにかが
立っていて、この洞窟観音の縁起のような
解説があるのだろうと思っていました。
――が。
正解は友達でした。
上ったところには山道しかなく、
階段はむしろその散策路から
洞窟へ降りるためのものだったのです。
◆◆画像08-10-19_004◆◆
がっかりして降りますが、
すでに今日の分の体力は
消耗してしまったような疲れ方です。
◆◆画像08-10-19_005◆◆
途中にあったはっぱを友達が写したもの。
いま思えば、紅葉を気にしていたんですねえ。
興味がなかったので気づきませんでした。
階段を下りた後は、洞窟観音に併設している、
日本庭園っぽいものを見に行きました。
でもすでに足はがたがたです。
変に汗もかいたし、いっそへたりこんで
しまいたい気分でいっぱいです。
ということでそこそこに見て、
車へ戻りました。
駐車場からでるときに、近隣の見取り図があり、
そこには橋がわざわざ描いてありました。
そうやって描くくらいです、きっと
すごいものなのでしょう。
◆◆画像08-10-19_006◆◆
そこで進路をそっちむきにしますが、
途中にいやな文字が見えます。
どうも、車では近づけないようなのです。
どこらへんなのかとすこし探しましたが
あきらめて、次にむかうことにします。
次。大きな像です。
白衣観音というらしいです。
と思ったら。
榛名山のロープウェーに行こうというので
うなづきます。
山、橋、洞窟、湖、ロープウェー。
そんな感じのものがわたしは好きです。
海は怖いので苦手です。
車が走り出すと、どんどんと違うところに
進んでいきます。てっきり近くにあると
思ったのに、もうずっと遠いところを
目指していたようです。
今回のドライブのはじめから、
その大きな観音像に行きたいと
友達は言っていたのに。
あそこでわたしがうなづかずに、
白衣観音に行こうと言っていればと、
申し訳なく思いました。
でも後にきいたところだと、
観音像も歩かなければならず、
あの状態では歩きたくなかったので
目的地を変えたのだとか。
けれど実は、後に調べたら、
案内図にあった橋は
ひびき橋といって、近年つくられた
120メートルくらいの長い橋だったそうです。
そして、観音像のそばにあったとか。
ちょっと無理をしても
行っておけばよかったと後悔です。
◆◆画像08-10-19_007◆◆
内容は続きます。