私は握り寿司を食べる度に、思い出す光景があります。
小学生の時、父が不在の日曜日の昼、母が姉と私を近くのお寿司屋さんに連れて行きました。
お寿司屋さんに入ると「今日は子供にお寿司をつけ台から頂くお稽古をさせたいのですが」と言うと、「どうぞどうぞ」と言われ、私はドキドキして椅子に掛けました。
「お昼なので、並みの握りを一人前ずつお願いします」と母が頼み、出て来るお寿司をドキドキしながら食べている時でした。
一番奥でお昼からビールを呑んでいた女性がハスキーな声で「大将 うに」と言います。見ていると大好きなうにが出てきます。
私は目を輝かせて「お母さん、うにも頼んでいいんだよ!」と言うと「今日は昼だから、今後夜に来る時に」と言われました。
ご主人に「また夜来てね」と言われ、最後の一貫になった時、また「大将 うに」と女性の声。それを聞いたご主人は少し眉をピクッとさせ「はい」と答えたのを思い出します。
ご主人は「こんなにうにが好きな子供が我慢してるのに、帰ってから注文しなよ」と思っているように見えました。
それから子供時代に夜にお寿司屋さんに行く事もなく、いつの間にか、お寿司は回って来るものだと思っています。
大人になって、あの女性の事を思い出すと、あのハスキーボイスは酒やけの為だったのかと思ったりもします。そのせいか、お寿司を食べる度に「大将 うに」のハスキーボイスが蘇って来るのです。