29話 「客人」
「ゲンナ号でとりあえず話そう」
麻生が言い出すが、守里やベラーナ、セイナは寒すぎるためそれぞれの機体が気になっていた。
「ここは一旦雪のないところ…があるか分からないけど、せめて少ないところに移動しませんか?」
守里の提案に、ララ、カンナ、トキノセイナ、また麻生もリリアンもセイナも納得してゲンナ号に乗り、守里とベラーナはお互いの機体に乗って移動した。
ララはドッキングから離れてゲンナ号に戻ることになっていた。
守里もベラーナも後に続く。
「おお、ここなら天気良いから雪も少なめな感じじゃないの?」
ベラーナの言葉で降りたが、辺りは閑散としていた。
「まあ…ね、ある意味…凄い田舎だけど違うかな…剣?」
どうしても寒がりなベラーナは、声を震わせながら守里に聞く。
温かいホットチョコをみんなに持ってきたララに、みんなが喜んでいた。
守里だけが落ち着かず、配ってくれたホットチョコを持ちながらセイナと麻生が作った自室に戻った。
狭い空間内ではあったがベラーナと守里は、仕切りを隔てて同じ部屋だった。
セイナが心配そうに部屋に行くと、大きな声が聞こえて守里だった。
ドアが開くとセイナは驚いたが、守里も驚きつつ言った。
「ロロナ!地図をスクリーンに!」
守里が叫ぶと同時くらいに、ロロナはスクリーンに辺りを示した。
「あ、そこそこ!思い出したんだ!東の方を示して」
とロロナに指示を出す守里。
何を思い出したかをリリアンと麻生が聞く。
「廃校があって、教会の牧師さんと爺さんの犬がよく懐いていた、って葬儀で親父が言ってたんです。その場所が駅より凄く離れてて、途中で道が大きく曲がっていて…その後S字のカーブがあって…」
ロロナが「発見!」と言った。
「そこまでしか覚えていないけど、行ってみれば分かるかもかな。ほんと何もないところだったから」
そこまで守里が言うと、麻生が何かに気付いたように話し出した。
「もしかすると…その場所に鍵穴のあるところがあるのかもしれん」
みんなが同時に麻生の関係で、アサノブ氏によって鍵が残されていたこと、でも鍵穴らしき場所がなかったことを思い出す。
「守里君の親父さんはシロハタ・カンパニーの関係者と言っていたよね?」
麻生が聞くと頷く守里。
「まあ…親父さんやお爺さんとどんな関係があるかは分からんが、マーズの鉱石がそこに今はある可能性もある」
麻生の話を真剣に聞いていた守里とみんなは、顔を見合わせてからトキノが言った。
「日本に近づいているアゼラ…ね…守里君の友達もどこかにいるのか…」
沈黙の後リリアンが話始めた。
「廃校があるって言ってたわね。それと大体の場所。別行動が良いかもしれないわね。セイナの作ったゲンナ号も武装しているし…ベラーナと守里君は友達探しとか…が良いんじゃない?」
ゴンゴンと鈍い音がしてロロナが「誰かいる〜」突然のことでみんなに緊張が走った。
「あんたらも仲間かいな?でっかいのが最近ウロウロしてて困るだよ」
と大きな声でおばちゃんらしき人が3人ほどで騒いでいる。
セイナがスクリーンに出すと、地元の人らしき人がいて驚いている。
ロロナを通してセイナが出られない旨を説明すると、今度は誰かが蹴ってきた。
ララが怒って「頭にきた!あたし出て行くわよ!」とドアを開けると、中のみんなが付近に集まって警戒した。
「あらやだ、動くんだねこれ、あんたら何しとるん?」とおばちゃんが驚いて言った。
そこへ出番とばかりベラーナが簡単に、この場所に行きたいけどと、守里の言っていた場所についてペラペラ聞いている。
みんなが呆気にとられているとカンナが、ため息混じりに言った。
「あいつ…おばちゃんい強いから…話術なら負けないわ」
その言葉通り、おばちゃんは陽気に話し出したベラーナに場所の説明をすると、息があっているようだった。
「気をつけて行かんとダメださよ」
おばちゃんの協力の元、ゲンナ号が動き出す。
守里とベラーナの機体はゲンナ号の外側にあった。
おばちゃんたちは驚きつつ笑っていると、守里が不思議そうになぜ得意か聞いた。
「実はさ、俺って『話術の達人』って言われていたんだよね!」
若干偉そうに話すと後ろからカンナが頭を叩く。
「なーに言ってんの!単純なだけじゃない!そんなことよりアゼラより先に着かないとなのかもね?」
守里は自室に戻り「勇気」と書いた缶バッチを手にとった。
守里は「マジで大事だよ」不思議と繋がっているかもしれない出来事に、「勇気」の缶バッチを握って心の中で言った。
鏡と安藤のことを考えつつ、黒い機体の存在は忘れられなかった。