第5話 「日記」
「隠してでも日記を書こう!こんなごちゃごちゃしているの覚えられない!」
自分に言い聞かせるように、1人だけの部屋で言う。
日記が習慣だったが辞めていた。
持っていた書いていない日記帳ならある。
家族は仕事で家にいるのはサラだけ。
仕事に慣れるまでは時間がかかりそう。
「えっと…うーんそもそも…」
日記に書き始めた。
”レーラ社のリノさんとのやり取りは…”
リノさんとのことをまずは書くことにした。
「あの子会社はダメよ。社長は名前だけ。実際は奥さんの名前だけね」
キャリアウーマンのリノはそれらしく、ブラックコーヒーを飲みながら話す。
約束の日にリノは忙しく、病院の日の午後に喫茶店で会うことになっていた。
事前に会社は辞めるように言われていた。
サラは言われた通り、会った次の日に辞めていた。
その日のうちに手続きが上手くいかず、翌日だった。
「レーラ社はね、メールを運ぶ係から、事務、営業、役員まで幅広いの」
サラは聞き入っていたが、リノは続ける。
「メール係もただそれだけじゃない、運転もすれば、お茶も出すこともあるわ」
サラは秘書について聞くと初めて笑顔を見せた。
「秘書はいるけど、お茶は基本出さないの。挨拶と資料を持ってきたり、他にもあるわ」
サラは大きな会社に自分が適しているか不安だった。
そんなに経験がない、中卒の18歳。
リノはその不安に気づくように言う。
「学歴社会じゃないのよ。やる気よ。中卒だからって文句言う奴は辞めさせるわ」
その言葉に驚いたが、俄然やる気が出てきた。
「あなたの目は私の昔に似ているわ。実力を開花させないと」
「経験は浅いですが、何だか凄く…」
サラが言いかけると、リノは言った。
「俄然やる気が出てきたのね。その心意気よ。もちろん始めから役員は無理だわ」
サラにも分かっていた。
「事務経験はありませんけど…パソコンは少し…」
「まず運転免許はあるのよね、運転から事務になったってケースもあるわ」
サラの言葉に続いてリノは話し続ける。
「ごめんなさいね。会議があるの。詳しくは本社に来て。そうね早速明日」
「はい!」
サラの答えに頷いてから、急いで清算して行った。
「本社かぁ…」
急に風が吹くと今まで景色が変わっていた。
アイザック…そう思った時、目の前に黒い存在がいる。
「…!」
サラがとっさに頭を隠すと、目の前に同世代くらいの女性がいた。
「サラに手を出さないで!」
黒い存在が消えると、不安そうに声をかけて来た。
「サラ…アイザックは知っているはずよね。私はセセリナ。あなたを守る…」
そこまで話すと流石にサラが言う。
「ちょっと!待って!セセリナさん?それでここはきっとノクスね?」
ただ頷くだけのセセリナ。
病院のことだけじゃなく、次から次に起こることを日記に書いていた。
サラはリノとの会話、突然黒い存在が現れたこと、セセリナと名乗る女性のことを。
日記はそれだけで2ページになり、1日にこれだけあればあとは何でも大丈夫な気がした。
次に起こることは何か分からないが、何でも来いと感じていた。
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