32話 「過去」
1時間くらいが長く感じたセイナたちだった。
セイナは守里剣やベラーナを傷つけたことを感じながら、前を向かずにはいられないことも分かっていた。
守里は自室から出てくると、ベラーナ機の方に向かって行ってしまった。
麻生やリリアン、カンナやララが緊張しながらキッチンに集まっていた。
1時間前からその姿は変わらず、セイナはコックピットから出てきた。
守里とベラーナが真剣な表情で歩いてくるが、怒っているようではなかった。
何か吹っ切れたような、このままではラチがあかないことも分かっていたようだった。
麻生とリリアンが話出そうとすると、セイナが手でそれを遮る。
守里とベラーナもキッチンにくると、麻生とリリアンとセイナは座っている。
カンナとララ、トキノは立ったままシンクに寄りかかっていた。
「私…ていうか私たちはね。以前アベルト・ゼスタローネにマーズの鉱石のことで追われていたの。でも本当に知らなかったから、シロハタ・カンパニーに行ってみたことがあるの。その時に開けてしまった扉があったのね」
そこまでセイナが話すとリリアンが続けて言った。
「未完成だった人工知能がそこにはあった。それは破棄されそうになっていたわ。でも私たちは知らなかったのよ…『破棄』じゃなくて『完成されそうだった』ことをね」
真剣に聞いていた中で、守里もベラーナも顔色を変えなかった。
話はまだこれからだと感じ取っていたようだった。
カンナがコーヒーをみんなに渡すと、受け取るものの誰も飲まなかった。
リリアンは続けて話そうとすると、セイナがそれを止めて話出した。
「それは『TKI1』と呼ばれていて人間みたいだったから…このままじゃいけない!なんとか助けないと!って思って…」
ベラーナがコーヒーを飲もうとしていた時にセイナが続けた。
不思議と守里には気付いていた。
「それってさ…」
まで守里が言いかけると、セイナが舌を出して言った。
「そうなの。うん。盗んじゃった!」
ベラーナがコーヒーを吹き出しそうにすると、守里は真剣に言った。
「それがトキノさんってわけ?」
セイナは頷いて真面目な顔で続けた。
「そんな名前はダメって思ってトキノさんにしたの。でも反対に捕まったの。私だけじゃない…みんながね。裁判になったんだけど…」
カンナが痺れを凝らしたように続けた。
「セイナは…まあ…私たちは確かに盗んだわ!でもね、誰も殺していない!なのに、シロハタ・カンパニー襲撃事件とか言って私たちがたくさんの人を殺したようになったのよ!…まあ…そのあとに映像がおかしいことが立証されたけど、未だに追ってくるやつがいて、私たちは逃げて暮らしているわ!」
リリアンが諌めるように手で合図をして、話出した。
「…確かに無罪よ。でもね、未だに信じ込んでいる人もいるのよ。しかも立証された時、アベルトの義父がいたのね。でも観衆の前で殺してしまった…」
守里もベラーナも誰もが真剣に聞いていた。
カンナとララは、思い出して怒りに煮えたぎっていた。
カンナが言った。
「その観衆の前でアベルトは射殺されたはずなのよ!病院も襲撃していたし!なのに…!」
「不思議と生きていて、まだマーズの鉱石を追っているってわけじゃ。他にも何かトキノが知っているとも思っているようじゃ」
麻生が言うと守里は答える。
「病院銃撃ってそもそも…」
まで話し出すと、リリアンが両手をあり得ないと言うように広げて告げた。
「実際はね。シロハタ・カンパニーの人間に対しての襲撃で、トキノのことを知っている人を殺したのよ。それこそ無差別に…関係ない人まで…」
リリアンは悔しそうに続けて話す。
「多分…なんらかの圧力でアベルトは守られているわ。でも守っている人も今生きているのか分からないけど…」
沈黙していたベラーナが話出した。
「それってさ、早くマーズの鉱石探して、その他の『何か』手の探さないとマズいってことじゃん。トキノさんを守りながら、連中より先にさ」
手を上げながら話すとみんなが頷くので守里はセイナに言った。
「…あのさ、トキノさんを守りたくて黙ってたの?」
セイナが頷きながら言った。
「うん。ごめんね。それとタイミングがなかったこともあったの。立て続けてごちゃごちゃしてたから」
守里は思い返して最近様々なことがあったことを考え込みつつ、納得したがベラーナも同意見のようだった。
麻生はそれでも今まで通りかを確認すると、守里は、はにかみながら頭を撫でて答えた。
「ベラーナと同じですよ。時間がないってことも、最近のことで話せなかったことも分かりますから。トキノさんも渡さないし!」
本当の意味で一致団結した瞬間だったかもしれない。
トキノは涙を浮かべて笑っていた。