風と光の北ドイツ通信/Wind und Licht Norddeutsch Info

再生可能エネルギーで持続可能で安全な未来を志向し、カラフルで、多様性豊かな多文化社会を創ろう!

「ドラゴンAfD(ドイツのための選択肢)退治するメァツ」

2025-02-26 04:40:00 | 日記
Wahlsieg für die Union, ein großer Rechtsruck und eine neu erwachte Linke - so kommentieren internationale Medien die Entwicklungen zur Bundestagswahl.
キリスト教民主・社会同盟勝利(Union=同盟)、拡大一方の極右化と新たに目覚めた左翼党‐と、連邦総選挙に対する海外メディアがコメント
https://www.tagesspiegel.de/.../so-kommentiert-das...
P.S."風と光の北ドイツ通信/Wind und Licht Norddeutsch Info"(https://blog.goo.ne.jp/nichidokuinfoでもシェア
ドイツ総選挙で明らかになったのは社民党首相オラフ・ショルツの難民対策に対する無為無策とウクライナ軍事支援に対する有権者の懲罰投票だったということだろう。その結果、難民排除の極右AfD大躍進とウクライナ事情抜きで反戦の左翼党の復活につながったと言える。どちらの理由も短絡的だが、有権者の気持ちはそういうことだ。
深層ではハンブルク市長からUnionとのメアケル首相下での大連立で副首相を務めた経歴が全く生かされず、世界の危機的状況下でショルツには必要な指導力が欠けていることが露呈した事実がある。
私自身これほど言葉少なく、喫緊の課題について説明責任を果たそうとしない首相にそれが本人の戦略なのか能力不足なのか判断できなかったのだが、最後にこの方にはまったく政治的実行力がないのだと解り、少なからずショックだった。思いついたのは“ピーターの法則(『〈創造的〉無能のすすめ―(ローレンス・J・ピーター/レイモンド・ハル 田中融二訳)』ダイヤモンド社、 Peter-Prinzip “Die Hierarchie der Unfähigen” Rowohlt Verlag)“という言葉で、その意味は市長や副首相までは無難にこなしたが、国の頂点での責務では能力の限界に突き当たり、なす術がなく言葉を失ったのだ、と言うこと。彼には安部元首相やトランプのように口から出まかせのデタラメで人をケムにまくにはあまりにも上品で、その為の下司な度胸もなかった。オルタナイティヴ・ファクトのフェク時代、ポピュリズムに対応するにはそれ相応の言語が必要で、お上品にお高くとまっていたのでは対応できない。それをEstablishment(体制既得権者層)といい、今回の総選挙では罰せられるべくして罰せられた、という他ない。
Unionのフリードリヒ・メァツ党首が次期首相に就くが、喜んでばかりもいられない。投票率84%で得票率が28.5%と連立を必要とし、その相手は数からして社民党しかない。メアケル首相時代の連立再来だが、立場はメアケル元首相より弱く、国の内外の状況も比較にならない緊迫した危機的現実が待っている。そんな時に「得票総数で増えた」などと政治家の典型のような子供だましの言い訳などしている時ではなかろう。
第一に取り組むべきは難民問題の解決。AfDを躍進させた問題だが、ショルツは茫然自失するばかりで、最後までその実態を把握していなかったのではと思われる。我々のように電車やバスで移動すれば、その現実が解るのだが、公用車で移動するだけでは無理でしょう。車内の80,90%が外国系、私なども頻繁にアラブ系や東欧系の男が大声で罵っていたり(これが普通の口調だと聞いた)、女性も傍若無人の態度で携帯にむかって、異国の言葉で怒鳴っているのを目、或いは耳にし、「場を弁えろ」と言いたくなり、越権行為と自覚しながら、腹の痛みを抑えて、実際そう注意したことも一度ならずあった。しかし、一般の善良なドイツ市民にそんなことを言うのは絶対タブー、即外国人差別と非難される。
その解決は欧州共同体との連携でしかできないが、同じことはもっと大きな課題であるドイツ経済の立て直しにも言えよう。この危機下で“債務ブレーキ”という経済成長期の2009年に導入した政策に固執し、主要先進国で唯一ゼロ成長。責任は連立政権で財務金融大臣だったドイツ自民党首リントナーの借金ゼロ原理主義にあり、その為今回の総選挙で5%条項にかかり議席ゼロと罰せられたのだが、堪らないのは連立相手の社民党と緑の党でそのとばっちりで得票を大きく失った。
日本の国民総生産230%の借金を考えるまでもなく、国内の借金でインフラなどに投入する借金が、ギリシャ危機の当時のような外国の借金でその返済に首が回らなくなったのとは違う、という事情も考慮すべきだろう。誤解を避ける為に言っておくが、平時にアホ(ソ)タレ(ロ)の遊興費に国の借金を当て、平気というのとは違う世界経済の危機に借金でニューディール政策をとれ、と言っているのだ。
特にドイツ自動車界は中国市場一辺倒で習のE-自動車政策の落とし穴にはまり、ハイブリッドや火力発電で走る電気自動車よりは燃費の少ないガソリン車の方が環境車だという事実を無視したツケを今払わされ、危機的状況に陥った。家庭用電気さえ十分にないアジアやアフリカの国々を考えるまでもなく、少なくともここ十年はトヨタのように全方面政策をとるべきだろうが、ハイブリッド技術をトヨタにお願いするには沽券にかかわると、おそらくは電気自動車にこだわり続け、墓穴を大きく深くするばかりのような気がして、心配だ。ドイツ自動車界には謙虚な理性を期待したい。
当時米大統領ビル・クリントンが言った"It's the economy, stupid"は今こそ思い出されるべき原則だろう。ドイツもまずは”債務ブレーキ”を外し、ニューディール政策を早急に実施すべきだが、その端緒は現在次期国会が召集するまで政務を執る現政権と、これまで反対一辺倒だったUnionがここに来て自政権で資金不足は火を見るより明らかなので、今のうちに基本法から“債務ブレーキ”を外そうとの動きが出て来ている。
次期連立政権では極右AfDと左翼党が議席の30%近くを占め、少数派条項という基本法変更に歯止めをかける条項で、反対する恐れがあるので、次期首相のメァツUnion党首は掌を返すようにブレーキ解除を言い出した。勿論党内や連立相手の中にもそれは無理などというのがいるが、一応体裁を整えているだけ、ブレーキ解除は時間の問題だと思われる。
責任ある政治家なら時代が変わり、状況が変化すれば己の政治的態度を変えるべきだという、現実主義の勇気を持つべきだと思われるが、一昔前なら私もそんなことは言わなかったで笑!


東(ひがし)洋(ひろし)FB詩集「輝く闇に反逆せよ」Ⅱ

2025-02-23 21:59:22 | 日記
怒りなのか焦燥なのか、私は攻撃的な感性の導くまま、街を彷徨い、手当たり次第敵意に満ちた眼差しで、鬱憤を晴らし、哀しい孤独の中にいた気がする。青春の代償と言うのは残酷なものだ。その記録をまた10篇ここに曝します。請う、ご笑覧を。
(FB詩人の会‐https://www.facebook.com/groups/2766349846834927‐に投稿し、読み返して補足が必要ではと思いみっともないことを承知でここに弁明させていただきます:何故これほどアグレッシブでダーティな言葉が迸り出るのか。それは異国の日常でぬくぬくとなし崩しに順化されていく己に対する怒りなのだろうが、またそれが私を私に引き戻してくれる抵抗の動力源だったと思われる。この時期私には抒情を拒否するほか、日増しに昂じるやわな精神を鍛える道が見えなかった。その意味で、どん底のもがきと、聞けば嫌悪をもよおしかねない耳障りな暴言もお許し願いたい)

“はっ、日本人”

薄汚ねぇ!
手前らそれでも人間か
悪意が腐る
憎悪が膿む
日本人
はっ!
誠実で愛想が良くて
いつも微笑を絶やさない
絶やせば嫌われ
愛想が悪けりゃ相手にされず
不真面目だと嘲われる
臆病者の具体性が
媚びを売る

ホンダ、ソニー、キャノン
フジヤマ、ゲイシャ、ウタマロ
ゼン、ノウ、カラテ

それで?
マヌケ!
なんのために?
お国の為なんて笑わすんじゃネェ

自分のために?
ハッ!
手前が誰だかも識らないくせに

“大人しいだけで・・・”

見ろよ!
まったく大人しいものさ
手前で満足してんだ

“あの人は大人しいが信用できる”

時折裏切られる
期待の誕み出した幻の噂

“大人しいだけで・・・”

腐肉の美臭が漂う
濡れた大陰辱をめくると
インポテンツの種馬が
出てきた

名誉を望むにゃ
才能に自信がない
色事なら負けないと
思ってみたいが
知ってる女は“嫁さん”一人

もともと大人しくなんかないのだが
無頼を生きるにゃ
誠意が足りない

“豚だよ、お前達は!”

豚!
糞のこびりついた
腐臭に酔いしれて弛緩しきった顔
みっともない
小便を撥ね飛ばして
水ぶくれの腹を
恥じることなく
豚だよ、お前は!

四畳半でも二匹がオマンコ
ハ、ハ、ハ、ハ、ハッ

豚!
話し合いに協調を
からかってみてもお前達には解るまい
なにしろ
手前のクソを喰って
主人に飼い草の感謝をしているお前達だ

ヒーヒー鳴きながら
いつもケツを叩かれ
たまにはジョギングもしないと
中の中が平均的意識
生活満足度が小踊りしながら
肥りすぎを気にしている

知らないんじゃない
解っていてやらない
豚だよ、お前達は!

“しみったれてんだよ!”

しみったれた格好して
サツ束の後ろに内弁慶が隠れている
結構景気がいいんだってネ
詐欺のことじゃネェ!
“満州じゃ
数えきれないチャンコロの首を切り落とした“
日本刀!
屋内競技場で忘年会
入場無料
ただし日本人だけ!
しみったれた格好して
それでメルツェデスじゃ
嘲う気にもなれねぇや
なにしろ
最近の日本商品は中身で勝負
そう
お下劣に罵られても
ピンとこない程
しみったれてんだよ
手前達は

“時を刻む無謀”

時が過ぎ去っていことについて
石に訴えることはやめた
あざやかな新緑の灰の
あまりにも見え透いた
悪意こそ
時を止める鍵だと
焦りにも似た
不安定な確信を
石に刻んだとて
私の
この救いのない満足感を
崩すことはできまい

私は強く
  逞しく
  なによりも狡猾で
永劫に凱旋し続ける
心優しい帝王である

無謀なことは
宙宇の中心を探すほど
心楽しい
逆説ではない
だから
なによりも美しく
無駄なことを
たとえば私は
恐れない

“革命戦士の資格を喪う”

さて
一廻りした
見るべきものは見た
聞くべきことは聞いた
地球の大きなことも知った
宇宙の
深く遠いことも解った
それでも
女に近づく恐ろしさに戦く私は
革命戦士の資格がない
寂しさを
居直りにたたみ込んで
“始末”するほど
この世の中に
未(魅)練があるわけでもない
同じようなことを
いつか書いたと思う
心が再び
落ち着きを喪って狼狽え始めた
さて
一廻りした
しかし
それが螺旋階段でなかったことが
唯一私の見込み異いだったと
私は弁明し
革命戦士の資格を喪う

“幽気のない私”

あわただしい黙想から目覚め
窓を開けた途端に
海に出た
砂浜で田植えに余念のない
都市のエンジニアを嘲えるほど
私が
幽気を持っているとも思えない
エイトビートのリズムに乗って
崩れかけた波をたて直す
あれは潮騒
時は海だったと詩人が言っていると
ボブ・ディランが歌っていたが
海が規則的に
大きくよろめくことに
私は
我慢ができない

“私は無”

午前三時と言う
文字盤の滑稽な風景が
私を
軽率な善良さから切断した
まことに
始業時のベル程
私を複雑に
魅了したものはない
国家と犬の関係について
気まぐれに
嘆いてみたのも
そんな時だったような気がする
潮騒が 
   面を伏せて
        黙想する
私は

“なし崩しの転向”

パスポートに封じ込められた自由が
今日
抜き差しならない生理的欲求に従って
ただれ落ちる朝陽に照らされ
金属質の皮肉の芽を
この上なく
淫らに押し出す
今日
重質の小鳥達のさえずりも
国境にさえぎられて
恥じ入るように
もと来た道を返る
帰国して
讃歌する“君が代”に
なし崩しの
転向を歌い込んで
今日
パスポートを焼き捨てる

“メッセージのない伝言板”

贈り忘れた
贈り物が
ええい!
目ざわりだ
偽りの悪意程
包装を手こずらせるものはないと
やっと
今頃になって彫り込む
メッセージの無い
伝言板
僕は
君を憎んだことは無い
だから
誕生日祝いに
駆けつけて
一言
愛は爆発しなかったと
つたえなければ

東(ひがし)洋(ひろし)FB詩集「輝く闇に反逆せよ」I

2025-02-16 03:10:30 | 日記
また、書き溜めた彷徨う青春の拾遺を曝け出す。ドイツでももう一年半が経つと、それもまた日常の日常が戻り、異国の街に溶け込んでいく中で私は最後に燃える反逆の炎を辛うじて見つけた。その灯りを手に捧げ、迷わされた輝く闇を暴く作業に取り掛かった。あまりにも安易な日常が私を不安にさせ、憎悪せよ、牙を剥け、馴致されることを断固として拒否せよ、と絶望の叫びをあげていた。それが救いだったのだ。

“ワンダ・マイヤー”

ネブラスカの小さな村に誕まれ、
銀色のポニーに乗り
白い雲と二匹の蟻を従え
負けない楽園に発った
優しかった幼稚園
ママの手を振り切って飛び出した小学校
初めてのボーイフレンドを招待した夜
影のように寂しいそうな両親に
“ママ、パパ!人生は楽しむものよ
苦しむものじゃないわ“
十歳の少女が哲学する
銀色のポニー“リンカーン”に乗り
小蟻のムッシュと見上げた自由の女神
白い雲が鮮やかすぎる青空を行進する
“OK、ムッシュ、リンカーン
ここでお別れよ、私はもう十五歳!“
いつも熱かったハイスクール
恋人と呼ぶには早すぎるかも知れない
それでも初めての夜泣きはしなかった
“人生なんてそんなものよ”
十八歳の娘が宙に舞う
“さあ、急がななきゃ、今まで早すぎた
ことが、これからは遅すぎる“
‘ワンダー!“と呼びかけた男に
一人の女にされた
珍しいことじゃないし、驚くことでもない
“だって、彼はとってもうまく口笛が吹けたんだもの”
悲しむよりは
楽しむことを考えよう
“人生なんてそんなものよ”

”ハンス・マグヌス・エンチェンスベルガーの捧ぐ詩“

いつでもいいから
思い出した時に
反逆と狼について
短い物語を作ってみてほしい
狼は
きっと一人でメタセコイヤの森よりは
中央アジアの草原を駆けているだろう
地平線に燃え移りそうな
赤金の夕陽に向かって
どこでもいいから
例えば
東京でもニューヨークでも
パリだってさしつかえないのだけれど
敵意に充ちた目を
赤さびた夕陽の前で
曇らせている少年がいたら
話しかけて欲しんだ
”君の反逆を安売りしないよう
狼と連帯したまえ“

“恐怖し、絵具をとれ”

越えなければならない
肩を怒らせ
眉間に力を込めて
試してみなければならない
裏が出るか
表が出るか
他人に根無し草と言われようと
恋人にカイショ無しと言われようと
未来に絵を描くことをやめて
真新しい絵具をとって
一筆一筆
塗り込めてゆくんだ
絵は完成されたものではない
完成するもの
未来は
夢見るものではなく
建設するもの
使い古しの絵具だっていいんだ
一秒一秒
自分の手で
自分の意思を塗り込めるんだ
絵は観賞するものではなく
描くもの
敗北の恐怖に慄く
自然を虚わる必要はない
恐怖し
そして
絵具をとるんだ

“明日が匂う”

花が咲く
ここかしこに
美しい花が咲く
昨日気づかなかった
娘の胸もとに
黄色い花が咲く
繊細に輝く花弁に
力強い意思を映し
黄色い花が
娘の胸もとに咲く
公園の
広場で
サッカーに興じる少年達
の中に
ただ一人の少女
金髪のポニーテイルを
紅いハチ巻きでなだめ
思い切り蹴ったボールが
春を越えて
夏に飛び込み
快活に
転げまわる公園の広場
昨日は思い切り走った
今日は思い切り蹴った
花が咲く
息づく土に手を触れ
指先についた小さな塊まりに
舌を触れ
花びらに顔を近づけ
世界を感じ
明日を匂う

“止まらない回転木馬”

うるさいと思うことが良くある
とりわけ煙
そして思い出
単純明快な美しさを犯す
それは
透明度の敵だ
台所のゴミ箱の臭いだって
愛することが出来るのに
彼らがそれを許さない
それが僕だから
それを知っているから
僕は絶望しない
見えないものより
見える物が恐い
知らないことより
知っていることが
僕を曖昧にする
だから
煙と思い出が
僕を希望させる
それが
僕にはうるさいことなのだ
絶望はできない
希望は信じられない
そして
僕はいつまでも
回転木馬に乗って
泣きながら
降りようとは思わないのだ

“尼崎”

初めて化学消毒した水を口にした日
むかつく亜硫酸ガスと交換した
故郷を吐き出した
校庭の端に蹲り
世界も
愛も知らなかった少年は
目に泪を浮かべ
瀕死の太陽を映した
兄さん!
故郷の山河を背負って
早朝のバス停に佇み
まさか
永遠にガラス張りの都市に
亡命を希望するなんて
弟よ!
都市の夜について
一通
手紙を書いてくれ
都市は今 酷寒
夜はありません
街灯が真昼のように
ああ 兄さん!
あなたはもう泥沼のような世界も
売僧の爽快な偽善も
知っているはず
都市の夜は
真昼のように明るく
ただ寂しいだけです
時折思い出したように街に出かけて
ニンゲンを恐怖する
立体交差する群衆の中で
ある時
飛び出しナイフを構えて
共同行為を哀願する
なにしろ
未熟者で
それに久し振りにの恐喝なので
娼婦一人
道連れにできなかった
尼崎は今日も少年を拒否して
スモッグの中にうっすらと沈んでいます

“反逆とはとっぽい”

血は?
真っ赤な反逆の血は?
おお 君!
反逆とは今どきとっぽい
血はない!
血は泣きながら漂泊された
君が書斎で
快心のラブレターを書きあげたとき
私は
愛を捨てたのだ

“正方形の竜巻”

公園にはいかないことにした
ガイコツどもの狂宴に招かれて
飽き飽きする程呆けてみたが
やっぱり
千年の巨樹に囲まれて
手淫する少年の方が
破れた心に
縫込むにしくはない
ややもすると
公園の野外音楽会が
あまりにも捩れているので
心!などと
つい口走ったりする
風伝えに
風を聞く
公園は
正方形の竜巻を駆り
揺れ続けている

“黙殺刑”

噂が立つ
あの人は気が狂っている
近づくと火傷をするような
熱い情!
人を憎む困難さを
おまえに説明したところで
私の決意に
漣が立つわけでもない
黙殺刑
刑場に響く
音を喪った地鳴りこそ
抑圧された
私の呻吟だと
円く
端正にたたずむ
色街のやりて婆に耳打ちする
“僕は声です”
聞こえますか僕が・・・
千キロを超えてなお白いハンカチを振る
あなたの車窓が
今こそ
今こそ
垂直に切り落ちた断崖の底へ
今こそ
あざやかに黒く
消えてゆかぬものかと
私は叫ぶ
私の内へ
黙殺刑!
それは
おまえが生涯をかけて償う
私からの判決だ

“発条仕掛けの微笑製造器”

微笑みが飛び込んできて
いきなり
僕の傍に膝を投げ出した
ああ なんと
無防備に
世界がこんなに病んでいるというのに
君の素朴は
世界を救えないことを
まるで知り尽くしているように
君の微笑みが清んでいる
“できるだけのことをやるの”
清冽な湧き水に
疲れた反逆の足を浸し
戯れに君の胸に触れたら
おお なんと
君の胸は大きく開き
発条仕掛けの
微笑製造器が
僕を嘲笑いながら
轟音をひびかせている
思わず駆け出した僕が
ついに嬉びのあまり
小さな石に躓き
腕で支えることなく
顔面を大地に叩きつけたこと
思いもよらぬことでは
今はない

“押し込められた時”

時を押し込めて
後手にドアを閉める
薄い溜息をもらす
四面、天井、床
全て文字盤で被いつくし
二百六十度の傲慢が
心地よく
打刻する
ふてくされ あぐらをかいて
押し込められた時が
世界史のパラドックスを
今さらながら嘲っている
お前!
お前を置いてきぼりにして
私が今
時の無い世界を
デジタル時計の伴を許し
新しい文明開化の波高く
深く
遠く
優しく旅行く
目指すはもちろん
世紀末に気のふれた
物持ち僕の
博覧会だ




東(ひがし)洋(ひろし)FB詩集「腐乱する都市」IV

2025-01-27 03:44:42 | 日記
“腐乱する都市”では纏められない日常が開けてきた。一人で暗く斜に構え、世を恨んでいたのは、日々の生活にとけ込めない己の不甲斐なさに対する絶望でもあった。ただ、外国と言えども日々生き延びれば、新しい世界は開けてくるものだ。私はドイツに来て一年が過ぎ、友も何人か説明のつかない偶然が私に恵んでくれた。したことは、誠意をもって真摯に生きること。だからといって、いつも暗く独りであったばかりではないことを友は示していくれている。もう、ハンブルクも「腐乱する都市」ではなくなった。新しい章に進みたい。青春の残像を残す“雑詩“はまだ相当書きなぐったものがある。次はどんな章となるのか。期待なさらず今暫くご猶予願います。
これまでのFB詩集「腐乱する都市」は全て纏めて私のブログ(https://blog.goo.ne.jp/admin/entry)に掲載するので、よろしければご笑覧願います。

“影が歩く”

基本的には独りである
どこかに忘れてきたのは
祖国だったか
夢だったか
影が歩く
意味を喪えば記号でしかない
しかし
知人は愛想を崩さず
千のクサビを私に打ち込んで
宙に舞う風車
黒と白
朝露のように鮮やかな格子模様の空
の下
影が歩く
誕まれてきてよかった
海の底で生産する
あれは
私の母であったのか
黒く燃え上がる落日に
明日を祈れとは
おかあさん
実に適切な忠告ではありませんか
戯れに
独りであるということは
目が知っています
黄金にくらむ
私の時空が
基本的に独りであることによって
問われているのは
そろそろ自明のことと言わなければ・・・

東(ひがし)洋(ひろし) FB詩集「腐乱する都市」II

2025-01-27 03:39:48 | 日記
暫く雑用に追われ、書き綴っていた青春の記録をご笑覧いただく作業を怠っていた。これは私の紛いのない孤独なハンブルクでの闘いの足跡を辿り、希望と絶望の間を振り子にぶら下って不様に行ったり来たりしていた二十五を超えて間もない頃の記録です。よろしければ、今暫くお付き合い願います。

“コーネリア”

意地悪な夜陰にからまれ
“欲望という名の電車”に
いきなり饐えた風が吹き込む
コーネリア
孤独である
断固として不安である
欄干のない橋の上で
未来永劫に倒れ続ける帝王学
韻律を落として
最も単純な方程式の中を彷徨う
“邂逅”とは難しいものですと
どうして
正面図の中に君の肖像画を架け
小さなロウソクに灯を点せないのか
コーネリア
時として
昨日誕生を祝ったばかりの猫までが
金色の目を光らせ
氷結した影の暴力の中で
哂う
木霊する階級興亡の冥府
必ずややって来る腐臭軍団
それから
一切の正当(統)性を黙殺し
肥満した言葉の脂身を剥ぎ
雪崩れてゆけたら
コーネリア!
黄金に輝く四頭立ての馬車、
死臭を放って駆け抜ける車の爆音
君を密告くしたい
コーネリア
捜索願の出て久しい
主人殺しの女中を讃え
紅金の巨樹に囲まれる
コーネリア
君を追憶する
耳そばだてて走る売僧の操るタクシーの中
秘かに耽る桜泥棒の夢
とても耐えきれない
正統(当)であるということ
無頼であるということ
そしてなによりも
二十世紀後半の風景の中に遊ぶ
一匹の孤蝶であるということ
ああ
コーネリア
むしろ
魂の構造改革に向け
コルト45の撃鉄を打てと
君は言うが
影る
陰る時の翻る
五月のあおぞらに
次元を歪めて忽然と
消えてゆけたら
コーネリア!

取り返しのつかない遅刻
君を呪殺したい
コーネリア

見捨てられた屍体の呻きを
もう一度夢のカリフォーニアで掘り出し
鳴動する地の底へ逆措定する
コーネリア
悲しかった
諦念が木霊する
それでもなお快活に
静止した朝夕の挨拶を
情念のカオスに引き込むあの
姿勢の美学に酔いしれることが出来るなら
千年の昔、その第一夜に
血糊を群衆の前で讃えたという
シシリアを旅し
君に手紙だって出せるだろうに
コーネリア
しかし
今は酷寒の時代だ
誰も言い訳さえすることなく
千人を殺して泣くことのない時代だ
さあ
歌を
唄え!
唄いながらまた殺戮し
その死を超えて
鳴動する地の底へ
厚い血の手紙をたずさえて
墜ちてゆくんだ
コーネリア!

”再び首都へ!“

再び首都へ
燃え上がる思慕の情
こめかみの痙攣にためて
一気に
空翔ける
首都へ 再び
いつも
不死身の理論武装に触発され
一切の抒情を拒否して
僕達は端正であった
あふれる思慕の情は
予定通りの結末に一刻
目を見開きはしたが
この愛しい重みを下ろすつもりはない
時よりも早く駆け抜けた
僕達であれば
いま
一刻の休息をも拒否して
駆けつづけていること
言うまでもない
おおよ!
首都は深い失望の底で
肥え桶かついだ僕達の入場を懸命に待っているではないか
浄化された精悍な
風呂桶の中の教条主義者よ
非難の声に火をかけて
スクラムハーフの鋭敏と
鉛をつめたフロントを楯に
血塗られた弁明の記者会見を
放屁一発 完璧のコンビネーション
中央突破して
首都へ 再び!

“今日も家でゴロゴロしているよ”

辞書をめくり
景気の悪い鼻風に悩まされ
いきなり
”慶祝”という字を見つけた
まずは祝え!
ブラボー!エエゾ!
ニイチャン、イッテコマセ!
万歳をしなかった
日本系米国人を
複雑な感情と呼ぶ
それとも
米国系日本人?
頭痛が伴わないだけ
毒気も薄められて
自動販売機の牛乳みたいだよ!
真っ白でさ
久し振りに見た鮮やかさ
真っ白な娘は
去年の夏
前ぶれもなく米国へ帰っちゃった
気がふれたように
追憶も一緒に
突然
昨日受け取った手紙に
返事は書かない
本当は
手頃なところで手を打つべきだけど
しゃくだから
百日咳かしらと
疑ってみたりして
今日も医者には行かず
家でごろごろしているよ

“歴史過程 Ⅱ”

まったくひどい話さ
この期に及んでアレルギーなんて
楽しみにしていた
“ブレヒトの夜“も諦めなきゃ
君との約束は守るけど
事態の経過については
責任はもてない
“そんな!”
なんて言ってくれても
ちっとも悲しくなんかない
本当は歌いだしたような気分さ
ウキウキ酩酊するグッピーのようなもので
どこといって
たいした深刻さはないさ
ちょっとトンボ返りをして
一直線にそのまま駆け抜け
喘ぎながら笑い出すのも
一つの悲しみの形じゃないだろうか
山を見て
樹々のそよがない風景を想像できる僕達だから
南スペインで途方に暮れるのもわかるけど
僕は
母国をうらまないことにした
乾くのも濡れるのも
丸い洗濯桶の中で
木もれ日に包まれて沐浴することも
いつとはなしに
斑点におおわれ
まだらな熱に操られて
楽しくはないと思うようなもので
大したことじゃないんだ

“午前三時、夜鳴き鳥が”

夜鳴き鳥の
なんてあけっぴろげなお喋り
快活に
ここには闇のないことを見抜いているように
形のない世界から
フラッシュを叩く
きょうは
どういう訳かひきちぎるような
音をまき散らし
午前三時
一秒だって狂わないギリシャ正教の鐘を聞きながら
欺瞞を満載した車の交通が激しい
だからからかうように
口を大きく開けて
全ての力を舌の一点にこめ
おもいっきり
いたずらっぽく叩く
その後で
誰もいなまわりを見回し
恥じ入るように快心の微笑みを
浮かべて夜鳴き鳥が
午前三時
過ぎたところで
前ぶれもなく
おしあげるように近づき
一気に鐘の余韻を奪って
走り去った車に
真っ赤な舌を出して
快活な夜鳴き鳥が
憔悴した
午前三時を訪れた

”惨劇の交差点“

信号機の誤算が
霞む
惨劇の交差点
星辰
白昼に舞う赤児の亡霊を
鎮めよ
地蔵盆にはゆかたがけで
北区花町の憂鬱
“あれは”なんて口走ると
すぐ故郷を想い出す脆弱さ!
なんて薄汚いんだろう!
まるでマンションみたいじゃないか!
街角から“あの”タバコ屋が消えても
一般的なことに変わりはないだろ!
饒舌な路面電車だった
愉快な車屋さん!
夜ごと夜ごとの
天体観測にも飽きた
次は
公式通りに白昼の通り魔
二尺三寸の抜身に
積年の怠惰をこめ
北区花町八丁目の角
地蔵尊の前で
懸命に弁明する
信号機は地上五メートルで
危険を通告したまま
車はとだえ
人通りはなく
白昼に星降る
今日も死者

”詩的に蘇生する首都“

午後一時
最も反詩的な刻にも
拡散した犯罪の追跡は止めない
警視庁
その直截性において
唯一教条主義者の存在を許す
爆破せよ!
抽象化された不条理が
漂う自立の独立宣言を黙殺する
春の影が揺れる
黄色い矢車 ふくじゅそう
わきあがる歓喜 東のすずめ
堕ちてゆくかげろう 西の恋人
春の陽が日時計を盗んだ
まるで散歩をとりあげたヒトラーのように
裏切りが行進する体系化されたスターリン
人間をやきいもみたいにしたのはカリー中尉
彼は殺したとは言わなかった“駆除した”のだ
巣鴨の十三階段
凶悪な秩序の正当性を
爆破せよ!
鹿鳴館の敷石を砕き
東宮御所の壁板をはぎ
経団連会館のカーテンを引きちぎり
霞が関ビルを
バリケード封鎖せよ!
午後一時
空を舞う武装ヘリコプタ―
戦車
戦闘準備完了!
いつものように
首都は今
詩的に蘇生する

“タイムカードは焼き捨てた”

揺れる食料品店の陳列棚
いつも
台所で悲哀する冷蔵庫
不可視のハッピーエンドを
夢見る他ない
ベッドはいつも不安だった
一刻の
正餐を祈る
つつましい夫婦の絆が
諦念だった日の悲惨
なんと
めめしい生産活動だったことだろう
それでも都市はいつも夜を運び
じつに多様に朝は明けた
太陽に追われ
恫(恐)喝する星に犠牲(生贄)を捧げて
かろうじて
延命する労働日とは何か
祝祭日こそ
充たされることのない老年時代だと
トランジスタラジオ製造工場の
休憩時間は伝えている
一秒だって越えられない
文字盤上の抑圧された秒針
たかが一秒が
決定する
飢餓と飽満の
失喪
タイム・カードは
今日焼き捨てた

”星辰にしんと立つ“

こんなに豊かな太陽に恵まれていながら
僕達が不幸だなんて
そんなこと
本当は言っちゃいけないんだ
猜疑するよりは
信頼することが
どんなに難しいか知っているからと言って
人に会って
挨拶しないなんて
本当は決意しちゃいけないんだ
饒舌に沈黙し
星降りに星傘さして
しんと
星雪の白原に起ち
素朴であること
無垢であること
純真であることに
恥じない単純明快さを
獲得せよ!
君!
と呼びかける押し付けがましさを
超えて
てらいなく道行く
魂の有様を
木立や街の家並みの中で
獲得せよ!
こんなに豊かな太陽に恵まれていながら
僕達は今日まで気づかなかったなんて
そんなこと
無念だなんて言わずに
星辰の雪原にしんと起たなければ

東 洋FB詩集「腐乱する都市」III

2025-01-27 03:39:48 | 日記
“ドイツ連邦共和国”

ドイツ連邦共和国
自由主義圏におけるもっとも政治的に安定した国
新聞記者が、アナウンサーが
ちょっとしたいい気分と
ちょっとした醜い誇りをもって
ドイツ連邦共和国国民に
忘れないで!
と注意を促す
とりわけ新しくも珍しくもないが
歴史的である
ラテン・ヨーロッパの共産主義者は
狡猾で取引上手だから
アジア、アフリカ、ラテン・アメリカは
後進国だから
いつも国を騒がす
レンガ色の風景と歩行者天国の平和は
一家族一匹のダックスフンドと伴に
イタリア人を見ては笑い
ウディ・アミンを読んではほくそ笑み
中国人を見ては顔をしかめ
フランツ・ヨゼフ・シュトラウスに
感涙の泪を流す
過ぎし日の過酷こそ我らの誇り
この豊かさは
美しいドイツランドと
賢明なゲルマン民族の
個有の創造物である
たしかに
アジア、アフリカ、ラテン・アメリカの
貧しさは
ラテン・ヨーロッパの底抜けの陽気さは
ドイツ連邦共和国の責任ではない

“歴史性を貫徹する流儀”

法則に全ては従う
時も空も驚きさえ
解読困難な花の美しさも
そして
流儀は百代の過客にして
時折
駅の待合室にまで
プラットホームの広告板にまで
あの歴史性を貫徹する

“聞き飽きた宣戦布告”

駆ける
青春の喜びとは
なんと
不鮮明な!
悲惨であればまだしも
十中八、九
歓喜とは
清らかな自涜の祝祭を
司どる
彩る栄誉の無戮性は
さて
何も観ないことにした
聞き飽きた宣戦布告
口を開いては
ああ、またか!

“思いつめては、ああ花のヨーロッパ!”

少年Kの窃盗は
母の恋狂いが原因だった
よくあるやつで
母の愛があまりにも人間的であった悲惨
と軽々しく解説を加えて
劇場を飛び出して行った
不良少年
馬上の青春がナナハンに変わっても
断固として貫徹する
不埒な贋造紙幣の価値法則
思いつめては
カムチャッカに非合法上陸
思いつめては
ああ、花のヨーロッパ!
書き忘れた言い訳を
出あいがしらに口走り
うろたえる牛歳誕まれの秦始皇帝
まさか
きみではないだろう?
君恋し、父の家出は
君恋し、笹の昼寝は
それは真夏白昼に起こらなければならなかった
それは突然、暴動よりも正当性をもって
巨樹の間、紅金の星に照らされ
視界千キロのユーラシアを越えて
千騎の少年兵を従え
誕れ堕ちたマリアを凌辱するため
思いつめては
カムチャッカに上陸し
思いつめては
ああ、花のヨーロッパ!

“思いがけないことではない”

思いがけないことで
我を忘れたのではない
いつも思っていたことに
驚かされただけだ
              家を売り
              家具を競売し
              見廻り品をトランクに詰めて
ハイウェイを高速道路を走らなければ
              明日がない
              父は死んだ      
              おまえは新しい父を見つけるだろう
事実に惑わされてはいけない
              恐ろしいのは  
              失意の隠蔽
              悲しいのは
              隠蔽の事実
明日からは私が仕事に出る
              起こったことより
              起こることに身構えよう
これからもまた思いつづけて
              父の死に驚かされても
思いがけないことではないと
              胸を張って
              悲しむために

“神風特別攻撃隊の悲劇”

早朝五時、膀胱の充満に耐えきれず
出勤拒否の決意を急ぐ
厠に立ち
夜露が乾く朝陽の中
日本の精神を劇化する
スーパーマーケットの大廉売
ヤマトダマシイが五千万円とは
コドモダマシも度がすぎる
腐敗した無償の行為の復権を
セスナ機の翼に乗せて
今日
立川基地第一滑走路を飛びたつ
ガソリンを満載したタンクが
唯一の科白
この一週間心ゆくまで濡れた
この一週間心ゆくまで慄えた
日本武尊の女好きには
まだ納得できないが
ヒロヒトの無邪気さは高雅である
歴史的正当性をもって闘った敵
亜米利加!
その走狗に成り下がった売国奴は
ヒロヒト?
コダマ?
東宮御所に向かって一礼し
端正にうろたえながら
いきなり
全身を戦慄が走り
脳裏をあの女が走り
滑走路をセスナが走った

“借金”

彼の寂しさは
後ろ姿の雨ではない
彼の優しさは
旅発ちの朝のそれではない
そんな男が
今日私のドアの前に立っていた
心から歓迎したのは
僕の責任かも知れない
心から退屈したのは
僕の非礼かも知れない
彼は
慄える
未来と伴に
ハチミツが一番好きだと言った
彼に
それが君の現実ではないと言った
僕は
なにかを同時に喪った
未練に後ろ髪引かれる彼では
ないが
一人の人間を抹殺しなければならなかった
惨劇の会話はそれでも続く
テーブルの前に座るのが好きだが
台所を駆け回るのはいやだと言った
彼に
それが君の現実だと言った
僕は
何かを同時に感じた
彼の消えた部屋
間断なく雨滴の叩く窓から
最後の別れを彼に告げた

”アウトゥロ・ウイを観に行って“

切符の売り子にはまいった
あんなに親切に
丁重にやられたのでは
いやまいった
あんまり早く行きすぎたので
一番後ろの
一番端の
席を二割高で売ってくれるなんて
おかげで
あまりの嬉しさに
心臓ドキドキ
精神が高揚して
芝居の筋など追ってられるか
ハイル、ヒトラー!
ユダヤ人を叩き出せ!
なんて美しいんだろうドイツランド!
切符の売り子の愛国心に応え
今夜の観客はドイツ人だけ
ああ
僕が劇場に行ったのは
きっと僕の責任なんだ
僕がゲルマン民族でないのは
きっと僕の罪なんだ
せめて背広を着て
ネクタイを首に巻いて行けば
ブレヒトは喜んでくれただろう
売子はきっと
最もブレヒトを理解していたに違いない
今日の出来事は
とにかくドイツ的であった
なによりも

“ミヨちゃんらしき子が手招きする”

電信柱の陰に
下駄をはいたミヨちゃんらしき子が
膝までしかない着物着て
僕を呼ぶ
行っちゃいけない
行けばそこは地獄
歯のない口をしばたき
瞳のない目をむきだして
微笑しながら
ミヨちゃんらしき子が手招きする
行っちゃおうか
地獄だって
しれきった明日を待つよりはましだろう
だけど
どうしてミヨちゃんらしき子が
僕を呼ぶのか
もう少し時間をかけて検討しなきゃ
別に世に未練があるわけじゃない
あの娘とも寝たいし
時計の値上がりしたことにだって
腹が立たないわけじゃない
そんな風に考えると
ミヨちゃんらしき子はいつの間にか
電信柱の陰になってしまう
僕は
ああ助かった
と思いながら
やっぱり地獄なんて
僕とは関係ないなあと
つくづく
午後の自分を憶って
顔を赤らめる
だからといって
これからは地獄なんて絶対に口に出さない
と決意表明なんかしないけど

”オディプスコンプレックス“

長さ一メートルの及ぶ父の顔
唇をめくり
歯を合わせて
二ッと笑う
目覚めた俺の秩序に
正座する
長さ一メートルの及ぶ父の顔
眼を開けるな!
殺意が走る
<殺される!>
長さ一メートルに及ぶ父の顔を
俺は瞼を閉じたまま
石のように見る
天井に足裏で吸いついた母が
オカキの袋を胸に抱き
ユラユラ揺れる
悪意と饒舌の間を
往きつ戻りつ
動くな!
石化せよ!
<殺される!>
長さ一メートルの及ぶ父の顔に
眼をつり上げ
痙攣する眉間
天井を踏み抜くように
恫喝する母
殺される!
いわれの無いことではない
躰を鋼鉄のように張り
夜の弁明に
石のように唱和する
いわれの無いことではない

“出勤拒否を決意する”

早朝
端正に出勤の途を急ぐ
一番電車
目的の無い祈りにも似て
恍惚の迷いだったか
街路の下で
亡と白む西の空に
小鳥たちの囀りを聞く
またとない機会だ
立ち止まり
空を仰ぎ
深く息を吸って踵を返す
呼びかける神も
呼び止める母も
俺には無縁だった
強いて言っているのではない
海底の砂丘にも似て
誰に識られることも望まず
俺は人々の間に居た
働くということ
それだけで一つの価値を産む
その神聖なさりげなさが
俺の目を被っていたとて
後悔することはない
明日の出勤拒否を決意するため
今日最後の別れを告げてくると
俺はいつも出掛けた
そして明日も出勤拒否を決意するため
最後の別れを告げに出かけるだろう
それでも
無念を隠し切れないのは
働き続ける者の
権利の今なお生き続けていることを証している

“前科九十九犯の少年”

飛び交う小鳥たちの囀りに
理由のない憎悪をむき出して
たとえば
独り(の)少年が泪の森を彷徨う
朝陽が
木枝の間を透って
白い光線(矢)を射す頃
仰げない少年の目に
泪が涸れる
いつも思わせ振りに開ける朝
巨樹に囲まれて
雪シダのように世界が歩いてくれるなら
少年の想い出箱に
抜け落ちた憎悪の牙を
しまい込む必要もないだろうに
恐喝
押し込み強盗
そして銀行襲撃
世界の法則が
海底砂漠のように孤独であってくれたら
少年が
泪の森にさ迷い込むこともなかっただろう
知っているか
少年の前科が九十九犯であることを
知っているか
裁判長が添い寝刑を言い渡したことを
知っているか
いつも愛と黄金に裏切り続けられたことを
少年の憎悪の牙が
いま泪の森を刺し抜き
世界の由来について
考え始めたことを

”愛のカラクリ箱“

君の瞳が
木洩れ陽みたいだから
僕は思わずつまづき
世界を漂白してしまった
緑の髪が
枯葉色の風に流れて
秋が
寂しそうに頃が落ちる頃
素足の君は
白い樹立の間を
スキップを踏んで
転々と跳び弾ねているんだもの
僕は
思わず嬉しくなって
泪の泉に飛び込んでしまった
そんな二人の前に
ただ一本の道が
まっすぐ脇目も振らず伸びていてくれるなら
石にだって
感謝するのだけれど
そんなことを
波頭に乗せて
遠い南の島に運んでくれるなら
時だって
信じるのだけれど
それが
愛のカラクリ箱の囮だと
つまらなさそうに
言わなければならない
二人が愛し合うには
世界はまだ若すぎるのだ

東(ひがし)洋(ひろし)FB詩集「腐乱する都市」I

2025-01-27 03:21:53 | 日記
東(ひがし)洋(ひろし)FB詩集「腐乱する都市」
また北ドイツで書き溜めた詩紛いのモノをここに笑覧に曝します。もとより、嘲りと軽侮、冷笑は覚悟の上。確かに心が疼くが、そこにある以上、隠すことなど思いも及ばない。お騒がせすることを平にご容赦願い、一刻お付き合い願います。

“死を剥奪する”

閉じ込められた鉄箱の中で
さらに小さく蹲り
頭をかかえ口唇を慄わせて
懸命に弁明(自己弁護)する
おまえ!
おまえは狡猾である
    矮小である
そしてなによりも臆病である
一つの星さえ見詰め続けることのできない
底の浅いおまえの決意が
世界を不幸にしているのだ
そしてなによりも人間を否定している
閉じ込められた鉄箱の中で
さらに小さく体を折り
ふとんを被って眠り込み
ついに目を開けようとしない
おまえ!
おまえは卑怯である
    怠惰である
そしてなによりも臆病である
一人の少女さえ見詰め続けることのできない
底の浅いおまえの“愛”が
同志を裏切り
姉兄を売り
そしてなによりも母から優しい微笑みを奪った
おまえ、
おまえに宣告する!
いかなる神も
おまえを救いはしない
おまえを責めはしない
そしてお前から死を剥奪する!

“腐乱してゆく二十世紀後半”

霧と雨と民家の屋根を押しつぶすように
空を覆う鉛色の雲
それは何でもない
それは絵ではない
それは僕の精神を映しもしなければ
腐乱してゆく二十世紀後半の時代を象徴ってもいない
ただ
それは北ドイツで太陽を隠蔽し
全てを
単純明快に説明しているだけだ

最新型のアルファ・ロメオにパリを着た娘達
黄金のティー・テラス
それは何でもない
それは絵ではない
それは僕の懶惰を挑発することもなければ
輝く“我らの時代”を祝福してもいない
ただ
それは北ドイツで人間の感性を改造し
全てを
縦横無尽に嘲笑しているだけだ

“栄養失調の精神”

時は初夏
透きとおるように浄化された大気の中
さりげなく昇る朝陽
ゆっくり全てを確かめ
今日もまた新しい生命の誕生に向け
まっすぐ
なんと大胆な祝福の仕方だろう
この一条の光
爆裂音が大地を震する
砲撃は四方八方
ところかまわず灼熱の尾火を引く火球
手足を引き裂かれ
それでも死にきれず呻く
万人の生活者
それでも
時は晩秋に移り
大きく躍り上って飛びだす
大火球が
宙宇を一瞬のうちに
飛び超え
朝もやの立ち込めた高原の湖畔に
一日の
実り豊かな到来を告げる
人々は
栄養のみごとに失調した精神を抱え
会員制の大舞踏会の宿酔に
忘れてきた大肥満の恋を追憶する
その時
初雪が舞わなければ
大それた
北極探検を試みることもなかっただろうに
ペストを恐れて
北の端という出発点に発ち
少しは
今世紀最大の悲惨について
七五調で
歌うこともできただろうに

“今日もとにかく退屈だった”

いつまでたっても見えてこない
なにを見たいのか
いつまでたっても浮かんでこない
今日もとにかく退屈だった
明日もきっと今日だろう
平和が裏返しにされて恨まれている
人の肉を喰って生き延びて
それで、この平和か
一日、一日
女のことばかり考えて
あいつに手を出しゃ骨が折れる
こいつに口出しゃ金がいる
部屋の隅に蹲り
今日もとにかく退屈だった

そんな平和を
消化しきれず
胸やけにぶ厚い焦燥をそえて
重い胃酸の
心もとない弁明を聞いている
なるほど
今日も世界は開かなかった
ヴェールはいつも薄いのに
影を見ることもできなかった
真摯であるということ
誠実であるということ
なんと
衰弱した朝夕の挨拶であることか

見えても見ず
見えないものを見て
今日も一日
恐怖を喰らって
快活に
僕達は不安だった

“悪意の時刻表”

いきなり
一人の女を憎悪する
理由がないのが気に入った
久し振りに味わう
閉ざされた自愛の前で戦慄する
この快感
必ずしも正確ではない
悪意の時刻表だけが
弛緩しきった柵の中の泉に
石を投げ込む
着水点を中心に
真赤な同心円を描いて繰り返す
女を憎悪するということ
夢に嫉妬するということ
風が匍匐前進するということ
それら全てが小さなガラス箱の中の
出来事だと識っても
やっぱり恐怖するか

“時の屍の上で”

私が何かを喪ったのは確かだ
透きとおるようなプラスティックの壁に
囲まれた部屋で
私が何かを喪いつつあることは
“喪った”ということより確かだ
それが
時の屍の上に
かろうじて咲く
生の姿であると
時は私をおびきだし
私を閉じ込め
私を透きとおった壁の中に置き去り
喪失の中の
生を今も繰り返している

”記号Aについての物語“

置き忘れられた記号A 
その観念性が妙に冷たい
と言って泣く君
記号Aの影が消えた朝
君は一つの悲惨を生んだ
疾駆する伝令
今は都市
追う記号がよくある街角を折れる
いきなりよくある通りに出て
勝ち誇ったように喘ぐ記号A
嘲う悲惨
都市は今
有史以来の平安の底で乾く
君が泣く
記号Aの身上話は
喪った影
自身の影を焼き払った都市であれば
君の泪が
悲惨よりも影を慕ったとて
二十億年の仮説は
今もなお
都市の上に燦然と輝く
記号Aの観念性は
全て存在するものの具体性より
二十億年の仮説の下に消え去った
その影のように
悲惨ではない
だから
君は泣きながら悲惨を産んだか
地球よ

記号Aの留置は
君にとって
致命的だった

“威風堂々風に乗って”

おお
君の行為に素朴な無頼さはあっても
悪意のないことは
誰よりも風が知っている
だから
風に乗って無邪気に
真空の都市を駆け抜け
恋人たちのいる風景に
彩色する
<拒絶すれば俺は君を本当に愛してしまう>
優しく恫喝する
二十世紀後半の君は
いきなり予定通りの世紀末に突入して
心おきなくうろたえるか
いや
文部省国民痴呆化局義務教育課に推薦され
勇気を千倍にして
鼻をかもう
ああ
この惚れ惚れするような
しれきった明日は誰のもの?
だからといって
嘆くな君
風は吹く
論理的必然をもって吹く風に
大地が呼応し
なによりも恋の積乱雲は
あんなにも力強く
真夏の白い海の彼方で
微笑んでいるではないか
夢よりは君
風に乗ろう
風に乗って
恋の港に
威風堂々
明日を訪ねて
今日入港するんだ


東(ひがし)洋(ひろし)FB詩集「北ドイツ通信」

2024-06-19 03:48:45 | 日記

きょうからまた詩の旅を続けます。よろしければご同行願います。

西ドイツに来て6カ月、リューネブルクのゲーテ・インスティテュートでドイツ語を学び、私はハンブルクに移動、外アルスター湖畔の大邸宅の4階12㎡ほどの屋根裏部屋に住むことになった。ベッドは日中壁際に発条で立て、夜になるとそれを引き下ろして寝る、そんなものがあるとは知らなかった私には初めてのものだった。窓際に勉強机、ベッドの向いに小さな本棚、その横に簡易箪笥があった。入口の左に洗面台があり、料理は出来ず湯沸かしだけが付いている。
道路から鬱蒼とした大木の並んだ庭を進むと豪華なバルコニーがある四階建ての玄関に至る。その表とは異なり裏は直ぐ向こうのアパートと隔てる壁の間に私の部屋の窓を被うような細い木が二、三本並んでいるだけだったが、早朝4時頃には明るくなる北欧の早い朝の訪れを枝の間から小鳥のさえずりが告げてくれる。
玄関前に大理石の階段が5,6段あり、大きなドアを押して建物に入るともう一度大理石の階段が4,5段続き、その上の玄関ホールには歴代の奥さんの肖像画だろうか、5枚ほど壁に架かっていた。家主さんは初老の女性一人で、二階の左翼に住んでおり、それ以外は4階までそれぞれ両側に2,3部屋のアパートとなっており、各階には一人部屋もいくつかあった。昔はハンザ都市の富豪が一家族で住んでいたようだが、今は落ちぶれ間借りで生活を立てているのだろう。私の部屋の下の3階に我々一人部屋の住人用の共同浴室があったが、シャワ-を使うと使用料を1、2マルク取られた。この家には夏学期だけお世話になり、冬学期からはハーゲンベック動物園の近くの学生寮に移った。
ハンブルクでは外アルスター湖畔にある瀟洒な建物のジャーナリスト養成アカデミーとハンブルク大学現代ドイツ文学科から入学許可をもらっており、最初の週は入学手続きに追われる。ジャーナリスト養成アカデミーは6カ月のジャーナリストの卵を実践と憲法ゼミなどで鍛えるところだが、私は日本から来た元新聞記者の恐らくは初めての日本人ということで例外的に入学許可をもらったようだ。最初の日には所長の部屋に呼ばれ、歓迎されたので驚いた。
ハンブルク大学はいわばすべり止めのような気持で入学許可を取っていた。当初はアカデミーで6カ月学んだ後、半年ヨーロッパを回って日本に帰る予定で、大学に通う気はなかった。しかし、アカデミーに2,3週間通う内に私のドイツ語能力ではまったく意味をなさないことを悟り、退学させてもらった。まずはドイツ語を学び直す心算で大学に通うことにしたのだ。当初は一年在学しドイツ語をマスターして日本に帰る予定に変更したのだが、一年たってもドイツ語能力はあまりにも拙いレベルでしかなく、これでは日本に帰れないと、本格的にドイツ文学を学びながら人生の一エピソードに終わらない語学力をつけることにした。
ただ、滞在が長引くと手ぶらで日本には帰れないことを自覚、紙だけでもと卒業証書を取ることにした。貯金は底を突き、学費は学期中はやらないこと、日本の会社ではしないことを原則に二年から休みごとにあらゆる種類のアルバイトで稼いだ。当時のドイツの大学はいきなり博士論文を書くことができ、私の学友の何人かも教員にならない者はそうしたが、私にはあまりにも恐れ多く思われ、まずは修士論文を書くことにし、5年ちょっとで卒業した。ただ、その予感が最初からなかったわけではなく、大学に入ると毎日のように修士論文のテーマにしたハンス・マグヌス・エンツェンスベルガーの詩を青のボールペンでそれこそ綴りの一字一字を確認しながら写し、その横に赤で今読むと赤面するような和訳をつけていた。こうして最初の詩集三冊をすべて写し訳した。恥ずかしながらそのコピーを一枚ご笑覧願います。

“明日なんてくれてやらぁ”

寂しさのハンブルクに雨はいらない
いつもの街角にたたずむ
“あの娘はもう死にました”
関係の溶解する二つ目の窓の中
赤はどうしていいつも悲しさがつきまとうのか
お前のカーテンに木霊する
ヒーローのいない街
世界の表でウジムシ供が騒ぐ
明日なんてくれやらぁ
俺には欺され続けた昨日がある
曲芸師に横取りされた路上の机
あれは確かに世界だった
あしたからはまた旅に出よう
きょうまでは監獄だったが
出られなったら夢
出迎えが来たらバスで帰ろう
しなやかに伸びる雨足
楽しかった切手集めも
そのために一人の人間が堕ちた
遠くでこだまするあれは汽笛か
もう地球はあきた
宇宙はガキの頃から見ている
知らないのは死界だけだっていったら
少々気取りすぎだろうか

“カフェの夢見る老人たち”

陽を浴びて街に向かう
旅人はマントをとらない
<これが僕にはぴったりなんだ>
街角のカフェで人々に優しい視線を送る
老人たちの夢はまだつきない
そこの若いの
休んで一杯コーヒーでも飲まないかい

“モニカの夢”

モニカが男に欺されたって
僕はちっとも驚かない
いつも捨てばちの彼女が
本気になっただけだ
<地球は膿んでいるから私は好き>
ハイデの小さな村に
モニカの想い出はもう無い
たった一年で
すべてを忘れた彼女に枯葉色のコートが似合う
<宇宙は現実だから恐くはないわ>
全てを受け入れて
モニカの夢は消えた
今はただ
僕にサヨナラを言うだけ
<明日が出口なら私は行かない>
いつも忘れない朝の挨拶だったが
いつも忘れる投票日
温い形而上学に
モニカの夢は沈んでいった
<彼は昨日出て行ったわ>

“停滞した精神”

黄昏の街は嫌いだ
また寝つかれない夜を
一人で過ごさなければならない
なにもなくても
街をさ迷っている方がいい

一人の女に出会って
一条の視愛を送る
≪君は受け取れ≫
二人ならなにもかもうまくやれる

哄笑と騒音の街
緑だけが息づく
全てが虚しく
ただ通りにあふれている

停滞した精神に
腹立ちまぎれの愛を
投擲した
波たつ水面も
空をうつして今は初夏

「北ドイツ通信」番外一編
下は多分ドイツから帰国した当時広告のビラに書きなぐったもので、ノートに挟んだのが見つかった一編です。ご笑覧願います。

“腐り爛れた二十世紀後半に叫ぶ“

あがった朝陽に
憧憬の讃嘆を贈呈するほど
資本主義生産様式はナイーヴじゃないんだ
誰だ・・・
もう顔をしかめているのは
それほどお前たちの言葉が腐っているというのを
俺は
親切に教えてやろうというのに
軽薄、噓、卑屈
それこそが僕達の現実であるとき
鋭利な感性の持ち主は
ひなげしの花や
朝陽の中で銀色に輝く水々しい玉を
優しく
美しく
織っているそうだ

突然
滑り落ちた地獄の底で
泥に
まみれて
見上げた空に
腐ってただれた二十世紀後半の
希望のことごとくに
いちゃもんをつけて
俺は
大胆
不敵
卑怯
千万
億年の彼方にこだまする
二十世紀後半の魂の呻吟を

“椅子の上で禅を組み世界と対峙する”

目を閉じて
あずき色のここは盲界
脂ぎった人間どもに汚穢された地球を離れて
ここはもう俺の世界だ

大学図書館の椅子の上
禅を組む
投げ出されたカフカが
「父への手紙」の中で呻く

≪僕に宇宙はなかった≫

エンツェンスベルガーの罵るドイツに
俺もまた反吐をかける

≪お前らの親切は薄汚い意図だらけだ≫

視線をはずして
ここはもう俺の宇宙だ

下宿の部屋
椅子の上に膝を組む
いつの日か襲ってきた胃痛が
今も波状攻撃をやめない
なだめずに
俺は世界と対峙する

“揺れる大樹に世界が呼応する”

揺れる
うねり、もだえ、よじらせて揺れる
風が
揺れる大樹に
世界が呼応する

時計を止めて
世界を切断し
印象の中に焼き付けようとする意図は
見事に
見事に風が阻止した

風が揺れる
窓の外へ全てを誘い出し
コンクリートの
掃き浄められた谷間

人が歩く
車が街角を徐行する
うねる大樹は
風の陶酔に
もう千年も揺れ続けて
今もなお溺れる

“僕の停滞と視覚を喪ったカメラマン”

切り裂かれた
生活の断面に時が欠落していた
時代は確かに移った
僕だけを残して

僕の停滞はドイツで始まったのではない
ドイツで始まったものは何一つない
この着ぶくれて
ビール腹に悪臭の膿をためた国

そんなところで始まるものは
際限のない憎悪と
墜ちてゆく自立の精神の
嗚咽ぐらいだ

正方形の丸窓の中
視覚を喪ったカメラマンは
過去の作品集をめくりながら
はるか前方にピントを合わせる
時を呪って
ついに視覚を喪う時を
阻止することのできなかったカメラマン
過去は回帰し
喪われた時を求めてさ迷う
今さら
視力に頼ったところで
≪君がいけるのはそこまでだ≫
君には
もう視覚がないのだから
視る資格が!

“しかし、生きる”

一日の初め
早朝に小鳥たちの囀りを聴く
一日の終わり
黄昏に小鳥たちは別れの挨拶を忘れない
君達は自由に礼儀正しい
腐臭の激しい人間どもが
贅沢の限りをつくして
香水に身をひたしても
君達のたった一つの音色にも
及ばない
人間は化膿し
ただれた精神に花嫁衣装をつけて
劇化された自己不信を隠蔽し
贅沢に限りをつくす

ののしりつづけて
ののしりつかれたら
ののしるのはやめよう

泣きつづけて
泣きつかれたら
泣くのはやめよう

走りつづけて
走りつれたら
走るのはやめよう

しかし、生きる

“見えすいた手だ”

風が吹く
五月の風
何も無い風が
何もない僕を吹き抜ける

さらし抜かれた布のように
忙として立つ僕を
五月の風が
しなやかに吹き抜ける

切断し、破砕して
もぎとった言葉を
積み重ねて
アポロンの丘に建つ
地の底の恐怖を
宙に解き放つ

≪見えすいた手だ≫

頭上はるかに響く
拡声器の演説は
ただ
≪見えすいた手だ≫
と繰り返す

“少年達はジャックナイフを手放さない”

机の上に
刃をむき出して
横たわるジャックナイフ
ジャックナイフという言葉を
選んだ意図は
そのエキゾチックな不埒さにある
言葉の響きを
四方をとりまく日常性に向って
発射する
ジャックナイフ

不埒に
世界に挑んで
少年達は今もジャックナイフを手放さない

固有の日常を
ジャックナイフで守る少年達は
自らも牙をむき
世界に向う
血迷って右往左往し
ネクタイを締め忘れないのが
≪俺たちの敵だ!≫

“小さな悪意”

それはあまりにも小さなことだった
子供のように無邪気な悪意が
世界に満ちて
ついに宇宙が降りてきた
僕達は今暗く寒い
快活な笑顔を思い出したのではない
優しかった散歩が懐かしくなったのでもない
僕達はただ歩きつづけ
それがあまりにも小さな悪意だったので
気づかなかっただけだ

人を信じるという事に
僕達は軽率だった
それはあまりにも簡単だったので
酷寒の宇宙を見ることができなかった
後悔しているのではない
絶望などすでに忘れて久しい
僕達は今ただ暗く寒いだけだ
思考能力の限界点が
ついに宇宙に達し得ず
僕達は宇宙に沈んでいく


“だから明日からは・・・ね”

安らぎが降りてくるから
今日も人々は哀しかった
路面電車と渡し船が
サーカス団の支配人ように罵られ
石つぶてを背に消えてゆく

凍てつく荒原の上
十五度の仰角を保って停滞する太陽
赤茶色の泥絵具を
ぶちまけた様に
薄汚く空を汚す

後ろめたい気持ちが拭えないから
今日も人々は快活だった
音を超えた飛行機も
アトムで潜む潜水艦も
ついに地上に停滞する時が来た

凍てつく荒原の端
ほのかにゆらめく野火
突然鮮やかに燃え上がり
世界を焦がし
地球を溶解し
宇宙はついに今はもう闇

≪だから明日からは・・・ね≫

“今朝届いた本”

一冊の本が届いた
待ち焦がれついに諦めていた本が
今朝届いた
まだ印刷の匂いが新鮮に漂う
そんな感じの真新しい本だ

本の中に詰め込まれた呻吟が
僕の感性に共鳴し木霊する
≪私たちはいったい何処へ・・・≫
誰もが識らないことを
時代の最先端に己を置いて
私は世界に教示する
それが詩人の運命だとある詩人がいった

恐ろしい思い上がりが心地よい
不埒な真摯さに
身を寄せて
活字の中に己を託す哀れさが
実に清々しい読後感を想起させる

そう思って開いた
今朝届いた本の中にも夢はなかった
ヨーヨーのように
一点に固着し行きつ戻りつ
いつか伸びてしまいもう動かまい
一気に駆け上がり
頂上寸前で力つき
滑り落ちてきた君は誰だ

“君が友だった日って・・・?”

だからやめろと言ったんだ
背後で囁く悪意の申し子に
今は
ただすり切れた魂を売り渡す
地上に
へばりついて膿を流す
腐敗していゆく
巨象より不様に
千年の昔から
魂の舞踏会に招待されなかった
悪意はない
哄笑と饒舌と
饐えた女陰の色じかけ

≪様々なことって
何も無いことなんだって≫

毒牙を隠してすり寄る少年に
快心の往復ビンタを喰らわす

≪何も無いとは
いつも同じだと言うことだ≫

猜疑を忘れて
見事に
見事に足をすくわれた
君!
君が友だった日があったのか?

“六月十三日、僕の誕生日”

だから遠くで木霊する
なつかしい裏切りの哄笑が
林立するコンクリートの林の中で
強姦された雌犬の呻吟を
明らかに
嘲っている
罵られて
嘲っている裏切り者に
爽やかな六月の風が吹くのを
嫉妬なしには見られない
可哀そうな奴

六月十三日に裏切られた者は
六月十三日に
輝く溜息の深さを祝え!
裏切り続けられた者が
ベトナムの戦場で
ついにガムの戦士を放逐した
噛みくだかれた
人骨のカスを犬に投げ与え
遠くで木霊する
聞き飽きた愛の溜息に
もう一度
裏切りの季節よめぐれ

”蘇生を願望する滑稽さ“

蘇生を願望する滑稽さ“
そして
いつものように窓は閉じられ
世界を切断し
囀る木々たちに別れを告げて
内部に蹲る
千年を賭けて移動する氷河の
呻きも
宇宙に届くことはあるまい
クレタの浜辺で焼けただれた躯を
オリンポスの丘で蘇生させようとする意図は
明らかに
明らかに滑稽だ
すでに窓は閉じられたというのに…
女の奥底に秘む陰に向けて発射された
一条の未練がましいもう一つの生命の使者が
陰くされた草毛にからめとられて
開かれた窓に到達し得なかった
よくあることさ
人間はすでに万年を生きた
そして
いまなお幼年時代に遊ぶ
バッカスの落とし子よ
夢よりも速い宇宙船を
時よりも確かに
閉じられた星々の子宮に向って
今は
発射する時がきた 

“水晶の門衛たち”

乾いた肺を癒すために
石炭質の溜息を奥深くもらす
ともすれば
誰かに語りかけたくなる五月だった
未経験の儚い沈黙は
軽やかに宙に舞って
肩を通り抜けた金色の風に
若葉のように色めく
すでに
風の革命に向けて
態勢は整えていたはずなのに
カフカのように内に固執して
胃の痙攣を際に追いあげ
そして
対峙した水晶の門衛たちは
きらめく槍を
心臓の上に止めて不動だ
動くな!
一瞬石化した大動脈が
軽やかに宙に舞って
肩を通り抜けた金色の風に
若葉のように再び躍る
動くな!
再び怒号する水晶の門衛たちは
すでに心臓射止めた槍を
弾き返して飛び散る
赤く燃えたぎる私の血を浴び
溶解した

私が咲いていた草の道の君に
濡れそぼって
語りかけたのは
そんな勇気の後だった

“諦めるということは難しい”

壮大な小鳥達の宴は
午前三時の夜明けを待って
今は
深い闇の底で停止する
何もないということの
言葉の奥に秘む
恐ろしい諦念の触手に抗して
それでも
何とか身をたて直す
諦めるということは難しい

“安らかな裏切り”

ひきちぎられた神々のテントの中に
座して一点に固着する
さすがに
北の国にももう初夏の風が吹く
忘れて久しい
日々の労働のあけっぴろげの快活さは
背広の袖だけに気をつかいすぎて
ついに
着ることの出来なかった一群の人間供の
溶け込むようなアジテーションを前にして
とにかく再びさえずり始めた

安らかな裏切りだったが
それでも
時よりも遠く響くことは出来なかった
六月の北国に
嫁入り前の星々が冴える
さすがに
風は音楽よりも軽やかに吹く
だからといって
午前五時の朝靄の中で
手配師達のおいちょ賭博に
目を輝かした日々を
あれは
抽象化された欺瞞だったとは
言わせない

“スーパーマルクとのペテン師に母国を想う”

スーパーマルクとの
一ペニヒのペテン師
躍る買い物客の自己満足につけ込み
値段表になぐり書き
-本日のお勧め品、四十九ペニヒ
あなたの夢がこのトマトの中に-

一つの断章を日常生活に確認し

再び耐えられない一般性の中で
無力に頭を抱えて己を嘲う

なんときめ細かに裁断された分離だろう
二万キロを一気に疾駆し
辿り着いたここは黄泉の原
一列に並んだ千の死刑囚と対峙し
わかれたばかりの
いわゆる“母国”を追憶する
本当に
“母国”のことを想う
もう夏だから
全ての白昼の表通りで溶解する

“母国”は僕を捨て
僕は“母国”を憎悪する

“愛する彼女に!”
このころ私はアメリカの少女に恋をしていた。大学でドイツ語能力試験を受ける当日彼女が話しかけて来た。何をすると訊くので学食に行くというと、ついて来てもいいかと問われ、なんとオープンなと最初に驚かされた。次に、学食で自分は食べないとレジを先に通り、外で待っている彼女が、私が支払いを終え出てくると、ナイフとフォークをもう取ってくれていた。その優しさは私には未経験で、異国の文化は二人の間で揺れ続け、一学期間、私はアメリカの女性に次々と驚かされるのだったが、学期が終わると彼女は私を残してアメリカに帰って行った。

≪君はもうマッキンレーに登りましたか≫
林立するコンクリートの森の中
一際高く聳えるあのガラスの山
マッキンレー
 路上に横たわるつばめの死骸
 腐乱することなく脱水する
 振り返らない市役所の職員は
 どこへ急ぐ?

酷寒のアラスカ
零下五十度の大気に浄化され
鋭く遠く壮大に聳える
北の孤独マッキンレー

 悪夢にうなされ少女が目覚める
 匂う闇
 誰かが秘かに凝視めている
 ここはどこ?
≪君はもうマッキンレーに登りましたか≫
その泪がはるかなユーコンの流れとなって
七つの海を越え
ついに
プラトーに達する
マッキンレー

 資本主義的生産様式が
 みずみずしい風と五月の若葉の中で
 人間の猜疑を放逐するのは
 いつ?

すべてを凝視めてすべてを許し
カナリアの囀りに耳を傾け
優しいネブラスカの父を想う
冬の高貴なマッキンレー

 這い寄る黒死病、呻くコンピュータ
 人間の最も崇高な作品 百年戦争
 ネロの復活を待つニューヨーク
 まだ他に?

≪君はもうマッキンレーに登りましたか≫
輝くオーロラの下
千年の雪を抱いて
まっすぐ北極星に向かって起つ
マッキンレー

 風景を喪った教室
 化学薬品に毒された哲学を教える教授
 自殺を夢見る少女は正当である
 だろ、そうじゃないか?

夕陽を浴びて
魂の呻吟を千マイルの彼方に反射し
独りで何も恐れず
ただ中天を凝視める
マッキンレー

 ブエナンヴェンチュラ・ドゥルーティについて:
 スペイン市民戦争と反革命
 自由が要求した形容詞‐絶対!
 ファシズムが要求した名詞‐奴の死!
 君は何を要求する?

≪君はもうマッキンレーに登りましたか≫
その頂で神々が集い
氷河の移動速度について
大地に助言を求める
マッキンレー

 さ迷う歴史の法則の中で
 サクラソウを摘む少女に
 過去も未来も放棄して
 凍てつく氷原をさ迷う
 君はピエロ?

風が吹く
雪が叫ぶ
雨が哄笑する
全てひっくるめて
合唱するフォークソング“八月のマゾヒスト、フォスター”
独りで
不安も恐怖もなく
時を忘れ、家族を忘れ、母国を忘れ
飛行船“ミッキーマウスの真理”号に乗って

原子爆弾が走る
私生児が反乱する
七十五億人が怒号する
全てひっくるめて
奏でるシンフォニー“二十一世紀の風”

君と
不安も恐怖も腹一杯につめ
時を止めて家族を呪い祖国に恋する
アメリカ


≪君はもうマッキンレーで人間を見ましたか≫
まだ・・・です

全ては愛
君の太平洋

ドイツに来てほぼ10カ月、日本語が細っていく一方、ドイツ語はまだ日常の表現にも足らない表現力しかない。それは精神の現状であり、自分が消えて行く過程でもあるが、その向こうには新しい私が地平線に微かな朝陽のように浮かんできていることを予感させてくれる。だから、絶望より希望の中の曖昧模糊とした日々だったが、不安に苛まされる日々でもあった。

“祖先の霊に訴える”

落着かない祖先の霊よ
今、地上に素敵な恋人たちの解釈論が
充ちているのを
あなたは識っているか
一つでも多くの信頼を分析しようと
千鳥足でうろつく
饐えた預言者の説教を
弾き返す
あなたの力が欲しい!

:高揚した自尊の構造が
粘液質の現代に摑まってしまった

それでもたゆたう祖先の霊よ
もう、地上に否定する者は
いないのを
あなたは識っているか
関係が入り組む
諦念のインターチェンジで
とりわけ男女関係が
あなたの通過を待っている

:燃えあがる魂で肉体を焼くには
少々狂気が足らない

くつろぐ祖先の霊よ
だから、地上に明日が来るのを
期待するものなどいないのを
あなたは識っていいるか
連続する今日の向こうに
だからこそ
具体的な名詞が
あしたをイマージネイションするため
あなたの復活を
机の上で期待している

“昨日、今日、明日も午後は・・・“

頭が痒い
皮膜が炎症を起こして
思考の継続を遮断する
だから
白い机に向かって
白い壁、白い床、白い天井
の部屋の中
白い椅子に座り
白いままのノートに
≪明日も午後は散歩≫
と書く

髪が汚れた
午後はずっと街角に立っていたので
行き交う人々に睨まれた
でも
僕の恋人、僕の父、僕の友
僕の従姉妹、僕の敵
僕の味方
は一人として
行き交う人々の中にいなかった
白いノートの次の行は
≪今日も午後は沈黙≫

頭が響く
野外コンサートの常連客と
何故か一緒に大合唱
そして
青空に清き透る
ロック、ブルース、ジャズ
クラッシックもオペラも
たさおがれてゆく・・・ああ秩序
音階のないノートに
≪昨日の午後は合唱≫
と書いた

明日からは
頭を洗って髪を切り
ヒゲをそって
思考する
僕の夢、僕の希望、僕の未来
僕の世界、僕の宇宙
僕の計算
に合う数式は宇宙膨張説
のベクトル上にあるはずだ
ノートの最後の行は
≪->恐怖(不安)―>≫

”歩く“

歩く
一直線に歩く(まっすぐ)
ふらふら歩く(よろめき)
人を追い越して
まっすぐ歩く
独りで
柔らかい羽毛のように
よろめきながら
軽やかな乙女の息いを切って
わきめも振らず
歩く

歩く
平原を一直線に歩く
一マイルの彼方におちた
頭の影をめざして
今は
なだらかな丘を下る
独りで
小川の畔の民家にたちより
少年と少女
その両親とともに
二階のテラスでお茶を飲む
夕陽が落ちた

≪僕は西から来た
東に帰る≫

“君の訪問”

ラジオのニュースを聞きながら
不意に訪れた友を迎える冷や汗
君がとても大切な人だから
万全の態勢で迎えたかった僕
は不必要に汗をかく
昨日まで一カ月間
誰も訪れなかった僕の部屋
明日から一カ月間
誰も訪れないだろう僕の部屋

ラジオが開いた扉の向こうに
世界が閃いた
人間は今日も悲しい
不意に訪れた友を迎える喜びに
慄える口元が不様に
僕は君を待っていた
一カ月来君を待っていた僕は
また一カ月後に
忘れなければ・・・

ラジオでモーツアルトを聞きながら
帰って行った友のことを憶う
乱れた寝具の寝台の上
僕が世界を感じるのは
一カ月に一度
不意に訪れる君の
優しい襲撃の時だけだ

だから
乱れた寝具の寝台に横になり
不様だった歓迎ぶりに
再び君の不意の訪れを期待する
一カ月後
もし忘れなければ・・・

“壊滅的な会話”

美しい音楽の中に
迷い込んだ
戦慄が挑発するように
空々しい思念の底で
低迷する明日の構造に
一撃を加えた
ああ
と唸って蹲る不様な私が
処女を求めて漂泊していたなんて!
嘲笑うように
きしむヴァイオリン
夢という奴には
ほとほと飽きていた私であれば
美しい音楽の中で
不覚の泪を見せることもあるまい
いや
きしむヴァイオリンが
むせぶ夢の魅練を包んでいる
昼間の夏
乾く表通りをまっすぐ
暴力的に前進する戦慄に乗って
私も
また
湖畔のテラスで
壊滅的な会話を妻と交わす
≪いつも耳をそばだてる貴方に我慢ができない≫
≪去年の夏は確か辞表を出したんだったけ≫
≪離婚届は歩くことより邪魔臭いわ≫
≪だから
もう一杯コーヒーをくれないか≫

“漂泊する世界の出来事”

午前二時のニュースを聴く
漂泊する世界の出来事も
無難に仕上げられた原稿用紙の中に
押し込められ
恐らくは筋書き通りのドラマのように
アナウンサーと向き合っているに違いない
昨日
今日
明日
漂泊する世界の出来事は
特派されたペン先で
標本箱に固定されて
生々しい血もまた
見事に
漂泊されているに違いない
 午前二時のニュースの後
 ガラス製の静寂を叩き割るように
ドラムスが
乾きわめく
ひきつるように唸るリード・ギター
タカ・タカ・タカ・タカ
ビーンビビビビビ
ドッ、ドッ、ドッ、ドドドワァーン
ベースが低空でステップする
おお
漂泊する世界の出来事が
エイト・ビートに乗ってやってくるならば
午前二時のニュースも
少しは僕をウキウキさせるだろうに!

“肉体の論理を探せ”

透きとおるように溶解した
高炉の銑鉄にも似て
夏は
人気のない昼下がりの街角で
太古の静寂を
もう一度
世界の壊滅的な信頼関係に
対峙する
必要なのは
立ちつづける己の力
見つめて目をそらさない己の勤勉か
いや
何よりも必要なのは
諦念の構造に肉薄する
系統的な祖先の霊の
分類を
未来に向けて
真夏の昼下がりに
日射病で倒れることなく
記録しつづける
肉体の論理の発見だ
沈黙し
無言で祈祷し
沈黙し
無言で読経し
人気のない昼下がりの街角で
太古の静寂を
夏の
全てを抽象化する陽光の中で
もう一度
絵画的に突き破る
肉体の論理を
創造しなければ・・・

“静止した魂”

一匹の虫を
中指で圧し潰し
真白の紙の上に線を引く
黄緑の線
灯に吸い寄せられた
夏虫
動かない感性
静止したままの魂
時は止まり
大地は空をささえて無表情
私だけが
夏虫のように不様な姿をさらし
夏の陽光を浴びて
路上で干乾びて行く
ここは異国、ここは私のいない国
そこに今の私はある

夏学期が終わった。何を得、何を失ったのだろう。新しい友に出会い、故郷が遠ざかる。それは文化と文化が混じり合い、吸収し、排除して新しい私が形作られ、結晶していく過程のようだが、何とも脆弱で、人前に曝されるのが辛い。しかし、逃亡は解決ではない。不安の中に敢えて入っていき、そこで欠乏感に耐え、少しづつ見えてくる自分を信頼する、ということ以外、未来への道はないように感じて、孤独と闘っていた日々だった。当面の課題は下宿を出て学生寮に入ることだったが、幸運か偶然か直ぐハーゲンベック動物園の近くの寮に一部屋当てがわれ、トランク一つ持って無事引っ越した。これを機に「北ドイツ通信」は終了したい。

“今日から少年になるのだ”

早朝五時
霧の立ち込める湖畔に立つ
昨日を呪い
今日から一歩も動かないことを決意する
事務机に向かって
一切の挨拶を放棄して
周囲に轟く大いびきを
赤児の息を止める
祈祷師の呪文のように
果てしなく響かせる
- なら
  今日からお前はお払い箱だ
- 結構
  今日から俺は西へ旅立つ

早朝五時
重くたちこめる鉛色の大気を突き破り
千年の森を彷徨する
昨日の決意は明日忘れる
家族会議で
一切の血脈を切断し
ぽっかり口を開けた
真昼のように輝く大地の底へ
飛び降りる
- もう
  お前は人間ではない
- 結構
  俺は人間を超え
  裏切りを忘れて
  猜疑を放棄し
  ああ
  少年になるのだ

“創世記”

熱を喪った太陽
蒼白の光線を正面十五度の
仰角において
射す
独り
摘出された机は
右四十五度の仰角において
中空に漂う
影が凍てる
キラリ!あっ
前ぶれもなく左四十五度の地平線上
に銀色の球体出現
瞬間
低迷する太陽に向かって
素晴らしい速度で飛び発った
銀色の尾火を引き
まっすぐ太陽に接近
するにつれて光度を増す太陽
ああ!
雄々しい銀球が
衝突
貫通
黄金
おお、太陽は燃え上がり
銀は
クリスタルグラスより鮮やかに黄金転化
輝く糸を引き
次の射的へ
まっすぐ
わきめもふらず
教条主義者の明解さで
漂う机へ
黄金球体は
激突
墜落
燃え上がる真紅の地平線
地獄のエンマを追放し
黄泉の原を焼き払え!
右九十度の地平線上に
都市建設の時
のろしはあがった

“孤立する“

プロローグ

仕組まれた朝焼けの空に
それでも
隠しきれない弁明の意図が
消えてはまた顔を出す
見えすいた朝焼けだから
一度だって
人民の敵を照らしはしない

I

陰険に満ちた朝焼けの空
ルーレットのように
多様な犯罪の同心円を描いて
今日
不可侵条約は
生者と死者に
決定的な調印を要求した
廻れ
地球よ
からくりの朝焼けの空を
ルーレットのように

II

たち込める不健康な刻を
鉄の規律で突破する
おお
我らの援軍は夜露の
今の耳そばだてる牧場で
ラジオ体操を始めたではないか
おいちにい
さあんしい
おいちにい
さああんしい

III

かすかに慄える西の空
あきらかにおびえる中空の星
はるかに遠のいた東の恋人

IV

通りで孤立する
呻く不安の原子核を
遠心分離器にかけ
いま
あなたにつき出す私の意図を
あなたは嘲おうというのか
なら
廻る地球はコペルニクスを棄てることもあるまい
眠る天皇が身を焦がすこともあるまい
躍る私が泪をみせることもあるまい

“敵前逃亡の伝令”

詔勅を強奪された伝令が
荒原を駆け抜け
都市についた
喘ぎながら
白い息を吐く
今朝
今年初めての氷が
張りつめた
無関係にたたずむ
剥離するビルディングの間
都市は晩秋か
指弾の前で
懸命に弁明する伝令よ
都市は
お前の敵前逃亡を
いかなる理由によっても(根拠においても)
承認する訳にはいかぬ
都市の
掟は酷寒
都市の
判決は投石死
冬は
伝令よ
お前にとって冬は
もう
大胆な冒険の規律を教えはしない
伝令よ
お前はよく逃亡しよく弁明した
更に良く抗争せよ
そして都市と冬を捨て
ゆけるならゆけ
お前にたずさえるものは
私には
もうない

FB 詩集 「西方の国へ II」

2023-12-30 00:45:26 | 日記
“勤続一年六カ月”

今日のこの悲哀を
真っ直ぐに受け止めて
オレは進もうと思う

<アンタのイウコトはヨクワカル>
だからといって
オレが譲歩するなんて思わないでくれ

疲れていても
立止まれない時だってある
だからオレは独りで先に行く

<アンタのキモチはヨクワカル>
だからといって
オレが弁護するなんて思わないでくれ

とにかく
他人の言うことには素直に耳を傾け
オレは率直に無視する

それが勤続一年六カ月の
オレの決算書だ

“決起し、進撃せよきみ”

なんと度し難い誤解のはざまで
世界は倒壊寸前だ
一気に吹き抜け
私達のことごとくを殺し去る
あの真夏のクーデターは
いまや爛熟の期にある

決起せよきみ
進撃せよきみ

おおよ
人々の希望はことごとく輝き
この無情の楽天地獄に
維新の態勢は整った

決起せよきみ
進撃せよきみ

まこと
はかり識れぬ無数の組織は
それの一切が
見事に立体交差して
ついに巡り逢うことなく

無限の闇へと走り去る

君に問う
人間とは
日本人とは
兵庫県民とは
尼崎市民とは
北大物町第七町会会員とは
株式会社スポーツニッポン新聞社員とは
株式会社スポーツニッポン新聞記者とは

・・・

君とは

すべてを確認し
決起せよきみ
進撃せよきみ

“テメエらカッテにヤルがいい”

とてもじゃないが忘れちまって
いまじゃ思いだすことも出来ねぇ

青二才どもを見ていると
確かにオレにも憶はある

テメエらカッテにヤルがいい
ホネはオレがヒロッテヤル

いつの間にやら通り過ぎ
いつの間にやら忘れちまった

白い館のお嬢さん
今年の夏はどうでした

アンタもスッカリオオきくナッテ
テにはナニやらヒカるもの

青二才どもの切ない想い
嗚咽はしたくない、もったいない

“しんどいからねぇ・・・”

まず無言の呪いから始め
呪文は徐々に音量を昂め
カガリ火は勢いをさらに強め
ついに
念力は敵の脳波を掴え
最後の一槌がワラ人形の頭を釘ざした
ダウン

御堂筋に黄色い銀杏
が舞い散るころ
日雇い労務のオバサンたちに
地獄の季節が訪れる

あそこはクルマが多いさかえ
オチバもおおてシゴトがきついさかえ
それではあいつはナカンシマへ
かわったんやってえ

しんどいからねぇー ヘッヘッヘッヘッ・・・

ものぐらいゆうたらええのに
だまってドッカへすーっうや

しんどいからねぇー ヘッヘッヘッヘッ・・・

ふと目を覚ますと
オバサンたちの査問会議が聴こえてきた
どうして非難しているのか解らないけど
どうやらオバサン達より幸せらしい

ムスメもムスメや
ハハのひにライターやってぇー
なんぼなんでもライターやなんて
オヤもオヤなら
ムスメもムスメや

“僕は確かに無念だ”

秋半ば
闇夜の空に星一つ
ついに流れ堕ちた闇夜へ

三千王国の如来は
マルクス主義の方程式によって
キリスト教的隣人愛と伴に紙屑箱へ

あのひとはできる
たっしゃなひとだ

今年五十五歳になって
会社に定年制度があって
数々の業績はあげたのだけれど

こうしんにみちをゆずり
わたしはいんたいしたい

父と子の夜ごとの晩酌には
グチばかりが溜息をつき
子はもううんざりしている

もくひょうがなかったんやな
いつもぶつぶつひとりごとゆうて
しごといがいにたのしみなかったからな

父は脳軟化症に罹り
他人は呆気たと言う

阿修羅は
闇夜の果てとばかりは限らない

何しろ白昼堂々
堕胎に世界は血で真っ赤

君を愛したその揚句
これじゃ夢もへったくれもあるものか

無頼の徒へ自己放射
丁半博打に未来を頼む

明日になれば夜は白み
僕にもきっと世界は展ける

それでも諸君
僕は確かに無念だ

未来に恐怖する
僕は確かに無念だ

“室戸岬”

とにかくの青春
泉にこぼれ落ちた花びら一枚
清冽な流れを辿りどこへゆく

光り輝く室戸岬で
僕が新年を祝ったのは
遠い昔の話ではない

空には幾層にも色が流れ
複雑に荘厳であった

大海原のかなたに
僕が夢想したのは
世界の平和でも愛でもない

単純明快に
世界を照らして赤く燃える太陽を
僕はじっと待った

小さな赤い甲羅をのせてカニが走り
桃色サンゴが美しかったが
新しい年の訪れを
単純明快に告げるには役不足だ

僕が夜明け前の空に想いを馳せ
心のままに夢想していた時

ついに昇る太陽

光は満ち
小鳥たちは一せいにさえずりはじめ
その前で
僕にはもはや青春だけが頼りだった

“秋です、僕は・・・”

秋です
心も空も秋です
秋にはいつも思い出します
なにしろ
六十年代後期階級闘争は
決定的な敗北を秋に喫したので
そして
僕はいつも愛など所詮
醜い人間どもが飾りたて不足に
思いついた作り話だと
秋には思っていました
だから
秋にはリアリティーがあり
それだけに虚構も簡単に
棟上げ可能な季節です
木の葉が色づくのは
これではっきりしたでしょう

たつことをけついして
ついにたたず
ひあいをきょひして
ついになみだす
ぼくは
たおれてなみだすることに
いまは
なれっこになった

東 洋FB詩集「西方の国へ」

“サキイカにビール”

真夜中の晩餐は
サキイカにビールで結構楽しい

なにしろ独りで
時おり咳する声がコホーッと響く

ビールがうまいのは
サキイカがうまいからでその逆も正しい

明日は休みだから
心おきなく一週間の労疲を慰める

諸君!僕が革命を忘れたなどと
“コマイ、コマイ”などと言うな

サキイカだってビールだって
ときおり聞こえるコホーッと咳する声だって

僕には
日常を受け入れる程日常的ではないのだから

ホットイテホシイ
と僕はよく言ったものだ
ウルサイ
と僕はよく言ったものだ
ジャマダカラドイテクレ
と僕はよく言ったものだ
アホか
と僕はよく自分に言ったものだ

”ペテンは非生産“

あせりすぎたら転んでしまい
おさまりすぎたら起てなくなる

中庸が大切だと人は言うけど
ぼくにそんな芸当はできない

だから僕は
午前中残酷なら午後は優しい

もし僕が罪を犯したら
人はこぞって二重人格者と罵るだろう

ペテンは<移動>であり
けっして<生産>ではない

その隔離の狭間に
ぼくの突破口は隠されている

XXX

ヤスメ!
キョーツケ!
懐かしい
キリツ!
レイ!
も懐かしい
アンポフンサイ!
トーソーショ-リ!
僕は恥しい

”亀裂の階段から闇へ“

亀裂の階段を
一歩一歩上りつめ
亀裂の闇に落下する
広大な
無の平原に向かって
駆けだすとはなんと!

どうせ腐る身
恥だけは
かいて私は流す汗と
空天に宣言した

夜半の灯りに誘われて
忍び込んだ窓辺に茫然
女は
一糸まとわず骨と化していた

旋律が乱れた
タクトを振って怒号する
旋律が乱れたと
一斉に合唱する

ああ
私は
自ら回帰する軌道を
もはや
遠く離れて独りである

“お母さん、街は冷たく乾いています”

しまい忘れた扇風機が
回り忘れた羽根を天井に向けて
暑かった夏の日を思い出して

僕はなにをして
いつのまに秋を迎えたのだろう
XXX
闇雲に星はいらネェと叫んで
飛び出してきたドッジボールに
飢餓の頃はよく当たったものさ

僕が故郷を背にしたのも
山の迷路にゃ端があり
しょせんテッペンに登れば終わりだ
と思った時だった

お母さん 僕は街へ行きます
お母さん 街には夢があり温かい
お母さん 僕はきっと錦を飾って戻ってきます

せめてもの慰めは
街で疾駆する二月の風
木を枯らさずに
夏に膨張したビルディングに
ヒビを入れる

お母さん 街の寒さは
お母さん 村の寒さではありません
お母さん 街は冷たく乾いているのです

“僕の村の文明開化”

上昇気流に欺されて
天上に停止した紙風船
行き処を喪い
永続の停止に涙するのか

動力耕運機が
僕の故郷に運び込まれたのは
そんな紙風船が消え
空がすっかりカラッポになった時だった

人手が足りなくて
重くて不便だけど
牛たちのいない午後は寂しいので

そんな時
富山の薬売りが
今日からは紙風船をやめましたと
挨拶廻りにゴム風船をくばって歩いた

その時
僕の故郷で文明開化が始まった

農薬漬けなどといえばぶっそうだけれど
ナスビは大きく
稲の収穫は飛躍的に拡大した

田んぼからはドジョウが消えて
ドングリとの挨拶も
今では昔話の囲炉裏端でまどろんでいる

村の女は
男供に別れの挨拶をして
独り
寝床の冷たさをかみしめ
世が豊かであることを
うらんでいる

“消えた遊び”

詐欺にあった詐欺師のように
太陽が月の彼方に隠れた

<カクレンボウ>の鬼が隠れて
少年時の遊びは消えた

消灯の時間が来たのか
一斉に光から闇へ

“覚悟せないかんな”

覚悟せないかんなと思いながら
妙に寂しかった

唐突に舞い込んだ報せに
僕はジタバタしても仕方がない
と頑張って

何度も覚悟せないかんなと思いながら
妙に寂しかった

快活に振舞うのも不自然だし
悲観にくれて涙するには臨場感に乏しい

だから僕は
不安定に座りごこちの悪いタクシーを
病院に急がせた

父は死なない!しかし交通事故だから・・・

やっぱり覚悟せないかんなと思いながら
妙に寂しかった

東 洋FB詩集 「西方の国へ」

1974年も除夜の鐘の響きの中で去っていった。私は翌年九月にドイツに向かうことになる。留学ではない。「もう一つのボウメイ」と呼び、日本の現状から身を守るためだった。居心地のいい真綿で包まれたようなかで、日々その快適さの泥沼に引きずり込まれ、同僚と場末の酒場で泥酔しながら、身動きできず、息が詰まるような気がしていた。精神がなよなよになり、私は自分を失い始めてると気づいた。そこからの逃亡だが、私はそれを<亡命>と自覚したのだった。

大いなる<誤謬>

冷たい世の中を
温めるのが僕達だと
昔はよく<主張>した

ドシャ降りの雨に濡れて
僕達の<集会>はいつまでも続いた

<恋心>の存在を確認し
それを超えて僕達は自由だった

<時>がいつまでも
新鮮であることを僕達は疑わなかった

コンクリートの床にも
僕達の<疲労>は
明日に持ち越されることはなかった

<後退>を恐れず
大胆に
僕達は一歩づつ退いた

<敗北>の実相を
有視界に捉えて
僕達に不安は無縁であった

大いなる<誤謬>
ついに
僕達が倒れたというのは
実に大いなる誤謬だと
僕達はいつか
またふたたび<主張>して
出発するのだ

<痩せ犬の背に乗って>

痩せた犬が
寒さに震えている
木枯しの季節は
いつも
瘦せ犬の
脱毛の酷しい
栄養失調と伴に
僕達の運動を止めた

十一月革命が
大地の凍てつく季節だったことは
一つの奇蹟である
二月革命が
雪の降る日に組織されたことは
一つの事実である

だから
痩せ犬の背に乗って
酷寒の吹雪に向かうことは
実の壮大な
それだけに無限の
喜劇である

また
暗闇の転落将軍どもが
明日はままよと
僕達の号令をかけはじめた

落ちても堕ちなくても
同じだから
僕達は将軍の号令に従わない

“ぼくですか・・・”

ぼくですか
時には星を見て宇宙を想い
電車の窓から街の灯を見て故郷の家を憶います

ぼくですか
新聞を読んで世界の悲しみを知り
やっぱりお母さんには悪いなと思いながら旅に出ます

ぼくですか
美しい女は恐いのだけれど
愛は信じなければと想います

ぼくですか
一番弱いところで闘いたいと
石に祈って菜食主義者になりました

“ポストに入れ忘れたラブレター”

しょせん
ポストに入れ忘れたラブレターさ
愛には
いつも気まぐれな勇気がつきまとっていて
僕には白々さが残るだけ
だから
ポストに入れ忘れたラブレターは
いつまでも破らずに手許に残しておく
それだけが
実は僕自身の時計だから

“僕の包帯”

包帯が取れたら
肉塊が見事に凝固した
ケロイドがさらけ出て
ほんとうにビックリした

実は包帯が僕の皮膚だと
思い込んでいたのだけれど

包帯がとれてしまったら
皮膚とは自然に異質の
見慣れぬ僕が出てきた

隠されたケロイドは
信じるなよと
僕はまた僕に包帯を巻く

絶対に異質の包帯が
また僕に勇気を与えて
僕は本当に不安だ

包帯は真っ白だから
赤黒いケロイドよりも
社会的に自然だそうだ

実は包帯は絶対に
僕自身ではないから

赤黒いケロイドの
僕自身より
社会的に安定している
それは僕の地位のように

“自虐の論理”

夜もすがら
遊び呆けた自虐の論理は
眠気まなこで寝起きが悪い

ダマサレタと口走り
いつも還らない使いに出る

登場だけがあって退場がない

いやいつも退場していて登場しない後姿

走馬灯のように
急いで現れ急いで消える

永遠に回り続ける走馬灯
夜もすがら
回り続けて過去も未来も照らし出す

ないのは現実
ないのは自分である自虐の論理

昨日のワインは
今日のウイスキーボトル
明日は薬品アルコールに口づけて

手をバタバタと
ノドが渇いて寝つかれない夜が
それでも白けてくるのだからしかたがない

“十二月の風”

そしてついに起ち上がったか
怒りを込めた十二月の風
冷たくはない木枯らしと
僕は身構えた

哀しみの序曲が街に流れ
仏教徒にジングルベルが親しむ
陸続として民衆を
どこへ連れ去るか十二月の風

安宿の商売女に
一夜を売れと強要する
僕の明るい悪意は
ハラリと
最後の木の葉を木枝から奪った

今日も電車は満員だった
明日も活発な日本の経済活動

僕が誇れないのは
負けることを知らない
敗残者だからだ

夜空の星は
闇夜に音もなくチカチカと輝く
吹き抜ける十二月の風が
星を吹き落としても
僕は拾いはしないだろう

“僕の生活改善運動”

石油ストーブの炎を小さくして
僕は生活改善運動に参加した

寒かった一昨年よりは
暖かかった昨年の思い出が怖い

肥った家ネズミは動作が鈍り
今では粗食に耐えられない食通だ

気に入らなければ手も付けない
手に入らなければ僕の前を堂々と横切る

この横柄な態度に苛立って
僕は生活改善運動から身を引きたくなった

家ネズミに恫喝は効かない
欲しいものは欲しいのだから

僕には恫喝が効果的だ
孤立を恐れ耐乏生活にもすぐ慣れるから

“尻軽な幸福天使”

時おり訪ねてくる
明日からの幸福天使
夜明けの空は西
たそがれの空は東
僕らはいつも背中合わせに
一杯傾ける仲だった

前ぶれもなく
突然去っていくのが世のならい

だから今日は
せめて太陽の下で精一杯
遊ぼう

木枯しだって
さりげなく、つつましやかに
僕を嗤っている

スキップを踏んで
冬枯れの野分に
軽やかに立ち向かおう

思いつきの
尻軽な幸福天使
夜明けの空は東
たそがれの空は西
その向こうに立ち去って
僕の背中を押してくれ


“そうだよと僕のテープが軽やかに廻る”

全的信頼が
あどけないのは
僕のキリコを見れば鮮らかだ
<あなたってそんなんだったの!>
そうだよと僕のテープが軽やかに廻る
 アーキのユーヒーに
 照るやまモミジ

キリコを裏切ったって僕は僕だ
だから
振り返らない僕よりも
追いすがるキリコに確かな希望を見るのだが
<人でなし、あなたは人でなしよ!>
そうだよと僕のテープは軽やかに廻る
 ユーヤケコヤケーの赤トンボ
 追われてミーターはいつの日か

僕は不退転に停止する
<あなたはもう私を凝視つめないのね>
そうだよと僕のテープは軽やかに廻る
 オーテテつないで
 小径をゆけば・・・

唖然として立ちつくしても
振り返らない僕であれば
キリコが最後の平手打ちを食らわして
身を翻したのも当然だ

<君の手は本当にいつも温かい
僕にはそれが耐えられない>

“喜劇”

あいつの
あつい目が
こいつの
ごつい胸を撃った喜劇

“ケンカ別れについて二、三の考察” 

ケンカ別れについて二、三の考察
まずは痴話ゲンカ
<あなたのあの人を見る目、普通じゃないワョ>
<だからどうだってんだスベタ!>
つづいて友達同士
<必ず期日までに返すって
あれ程約束したじゃないか>
<それがどうしてもだめなんだ
君ならそのことが解ってくれると思って借りたのに>

“ないしょ話について二、三の考察”

ないしょ話は
こ・ないしょ
見えるところで
隠れて話そ

うわさ話は
ど・ないしょ
聞いても聞かなくても同じだよ

わかれ話は
あ・ないしょ
パパさんママさん
いつもの話

“それやこれやで時間が・・・”

それやこれやで僕に時間がなかったこと
解っていただけますね
いつも<態勢>だけは整えていたのです
不慮の突発事故だって
僕はうろたえずに受け止めたでしょう
ただ
それやこれやで僕に時間がなかったこと
解っていただけませんか

等閑視してはならないと
いつも<感性>を鋭ぎすませていました

ユーラシア大陸の野分だって
僕は確かに耳にしたのですから
でも
それやこれやで僕に時間がなかったこと
解ってください

実際
時間さえあれば
宇宙の無限拡大説を
一度じっくり考えてみたいものです

壮大な無か
無の壮大さか

確かに
思考対象としてはとっておきの魅力が
夜空の星には存在します
数式の配列盤だって
なだめる自信があったのです
残念なのは
それやこれやで僕に時間がなかったことです

“本当になんてことだ”

脱線転覆して
ついに
一人の人間を辱しめて
僕達は恥じない
本当に残酷なことだ

辱しめながら
快いロジックの遊びに
うつつをぬかし
ついに
一つの精神を破壊して
僕達は恥じない
本当に怖ろしいことだ

破壊して
新しく蘇生しようとする
一つの生命を堕胎して
僕達は恥じない
本当になんてことだ

“新年の挨拶”

たいていの挨拶は
本当の挨拶がじゃまくさいので
お決まりの文句がある
なかでも
新年の挨拶ほど
挨拶らしい挨拶はない

FB 詩集 「西方の国へ I」

2023-12-30 00:14:34 | 日記
東 洋FB詩集 「西方の国へ」

この一年後に私は25という数字に唆されて、シベリアを越えて西の国に向かった。仕事が楽しくなった。日常生活の喜怒哀楽も解った。そして、10年先が見え始めた。どちらの“認識”にも根拠はない。ただ若い感性だけがその正当性を主張していた。それでいいのだ。動くということはいつでも見る前に跳ぶことだ。頼りはそれまでに鍛えた自分だけ。後は小心であれ、細心の注意を払い次の一歩を出せ。命綱のない綱渡り、一歩間違えば千尋の谷に堕ちる。そう覚悟して私は一年後の旅立ちの準備を始めた。


“少年たちは西方の国を目指す”

きっと噓なのでしょう
明日なんてないのは
ぼくが弱いだけなのです
約束してくれない明日には
きっと悪意などないのでしょう
ぼくが臆病なだけなのです

振り返らない少年たちは
断固とした足取りで
遠い西方の国に
ぼくを置き去りにして去ってゆきます

快活で放恣な少女たちは
何をも恐れることなく
もはや野辺の花神に別れを告げ
ぼくの傍を笑いながら過ぎてゆきます

目指さない
歩かない
決起することもやめよ

峠はすでに黄昏の夏
早すぎた生の日々が
ぼくだけを置き去りにして
ヒグラシと伴に去ってゆきます

“闇に逆激する”


確かに底なしの闇はあって
瞬時も僕から去りはしない
べたべたとへばり付く闇
だが
恐れることだけはすまいと決意して
僕は闇に逆激する

中でも人の猜疑は
闇より執拗に
愛よりも不確かに存在して
ならば尻を捲くって
信じまい、拒否しようと思う

色づき始めた忘却の木の葉が
何も知らずに散りゆくように
人が死ぬことはできない
それだけが残された誠意
僕は識り、識ろうとしたのだから

復讐を誓って復讐されている
お笑い草は承知で
闇の亀裂に閉じ込められて
僕はそれでも必ず革命を組織する

“長居が過ぎたエアーコンディション”

弛緩しきった明日の労働には
もはや未練はないのだ
行きつけの飯屋で
タマゴドンブリは食べ飽きた

あなたの臭いだけが
いまは僕をせきたてる

きっと長居が過ぎたのでしょう
なにしろエアーコンディションが快適で
ぼくは立ち去り難かった

夜空の星を三つ、五つと数えながら
露の匂いに夏草を想ったのは
もう遠い過去なのでしょうか

怖くはないのに
何を恐れているのだ
楽しくはないのに
何を笑っているのだ

<月給取り>には<月給取り>の
論理がある
悲哀がある

だが、確実にあるのは
日々に突き出てくる腹と
脂ぎった顔と
<お金>への執着
自由であるということは
そういうことなのだ

そう
そして他は一切
ゆるされないのだ

“街の迷路小路”

恐怖してはならない
昼下がりの群衆に孤独を視てはならない
ただ
自己の感性と
未経験な時の希望を想え

饒舌を厭うのは止めよう
語り続けるのだ
孤黙して守りうるものはない
快活に
そしておどけろ

代償の約束されぬ行為に
約束されぬ代償の結末を見定めよ

街の迷路小路に
通勤時の冒険を求めることこそ
真に自由の問題だ

出発についてはそこから始まるとしか言えない

何よりも赤裸さまに
黄昏の空を想起せよ

還らぬ旅行きなど
本当はどこにもない

恐怖してはならない

何ものをも恐れてはならない

“君は駆る”

恐ろしく饒舌に
身を窶して君は駆る

二人の女の前で
君は鮮やかに身を翻した

見逃さなかった女達より
一瞬早く君の眼は女を射った

ちぢみあがった女が四角になった
君は女に優しく親切だというのに

それでも来ないというのであれば
女はバカだと君はいう

時には昼食時の少年のように
恙ない騒擾に身を任せ

君は駆る
なによりもよく君は駆る

“吠えよ”

詩われなかった青春にも
確かに夏の日の残像は鮮やかで

それだけに口惜しさは
いつものようにつのるばかり

叫ぶというよりは吠えてこそ
生の燃焼は完結する

ウソだ嘘だと吠え続け
それでもやはり信じたかった

やがて訪れる時の流れは
きっと僕を連れ去る一迅の風

疲れもしないのに諦めて
いまはもういくところがない

闘いを放棄する前に倒れていたら
どんなに良かったかと僕は思う

“コオロギが啼きます”‐ソネット風に1

コオロギが啼くのです
ぼくはいつまでも啼きたければ啼けと思います

うるさくはないけれど
裏の小庭で頻りにルッルッルッルッ・・・

合唱もあります
デロデロデロデロキルキルキルキル

ああ風が吹きました
優しく僕の肌を包むように通り抜けます

煙草の煙が目に沁みて
ぼくは今日の労働を思い出します

ああ風が吹くのです
コオロギが啼くのです

うるさくはないけれど
僕は世の中のことを思います

“出遭いがしらの幸せ”‐ソネット風に2

出遭いがしらに
僕たち二人は<幸せです>と挨拶を交わすのだ

初めての語らいの時には
<さようなら>を言っておこう

君の瞳が信じられるように
<明日もまた>とは言わない

しなやかに雲が流れて
<悲しくはない>と二人は笑いあった

君の手を取り
<荒れている>と僕は寂しく想う

それでも君は快活に
<あなただって>と僕たちは共存する

出偶いがしらに
僕たち二人は<幸せです>と挨拶を交わした

”思いがけない和解”‐ソネット風に3

思いがけない和解には
多くの忍耐がある

人に教えようとは思わないが
人に識って欲しいことがある

夏草の香りに心をときめかし
僕は寂しく耐えていたのだ

そして
色づき始めた木の葉と伴に和解はやって来た

心を躍らせようとは思わないのに
心はかってに踊りだす

人を信じることは断じて正当だと
僕は宣言する

誰にも負けないで
誰にも勝とうとせず生きよう

“不退転に前進せよ”‐ソネット風に4

一つの予期した敗北が
ついに訪れることはなかった

秋だけが
暗闇を音もなく降りてくる雨とともに訪れる

今年の夏は本当に暑かった
僕はついに一通の暑中見舞いも書けなかった

あまりにも長かった暗闇の予感が
僕を無為のツルで捉えて離さなかったのだ

それでもいまも
あの安息のセプテンバーではない

休むまい進め
不退転に前進せよ、前進せよ

闘争者であることを
生活の九月の中に銘記せよ

“ガラスの破片”‐ソネット風に5

再び私はノミを研ぐ
鋭く硬化した刃先に魂をこめ

そして私はカミソリを手にした
しなやかに伸びた細い身をすばやくあなたの喉元に当てる

重々しいオノは
もはや森の中のメルヘンではない

執拗なノコギリは
あなたの頬に幾条もの血線をひく

殺しはしないのだ
ノミもカミソリもノコギリも

ただ執拗に
あなたから血を奪う

ガラスの破片だけは
わたしのためにとっておく

“此の頃昔は・・・” ‐ソネット風に6

此の頃とってもよく眠れます
僕には見る夢などないのですが

此の頃とっても良く話します
僕には楽しい希望などないのですが

此の頃とってもよく笑います
僕には話す人などいないのですが

此の頃とってもよく食べます
僕には鍛えなければならない肉体などないのですが

昔はよく涙を流しました
君には愛が足りないと言って

昔はよく怒りました
歓ぶことを拒否する現状の悲惨を視よと

今日もよく働きました
明日はテニスでもして、その後映画を観ようと思っています

“アレキサンダーよ、僕は二十四歳になった”‐ソネット風に7

のめり込んでゆく日常の回路に
不音の無機質世界を確かめた

もう走らない急ぐのはやめだ
確かな足音を聞きながら僕は歩こうと思う

アレキサンダーの世界制覇は三十歳だ
僕は二十四歳になった

それでも青年の憂鬱をかなぐり捨てて
朝陽を迎えたいとはまだ思わない

思わずにどこまで生きられるのか
とにかくアレキサンダーは三十歳で世界制覇

僕は二十四歳だ
孤独で寂しくそれでも誠実に行きたい

小っぽけでケチくさく確かに不安な二十四歳
アレキサンダーは三十二歳で死んだ

“つまらない盛り場の喧噪”‐ソネット風に8

ついに時は訪れなかった
僕の日常は既に老化したのか

決意を胸に待った
その時はついに訪れなかったのだ

僕は狡猾にやり過ごし
安堵と焦燥のホダ火を手にした

燃えない
ただ執拗に僕は燻り続ける

今日会社で在ったことは
明日も会社に在る

それを生存の保障と言うのなら
生きることはたやすいがつまらない

つまらないと思うことを恥じ
今夜の盛り場の喧騒もつまらないと思う

”確固として歩め“‐ソネット風に9

歩き続けるほかあるまい
あの千日断食を敢行する自己暗殺僧のように

死ぬまでは浄化されない
精神の不浄を黙嘆していては何も始まらない

茫然とする他ない遥かな道程を
俯瞰したまま峠で立ちつくしてはおれぬ

底なしの暗闇を谷底に見たとて
恐れていては一歩も進めない

深夜の石油コンビナートに
華麗なイルミネーションを呪え

飾り立てた百貨店のショーウインドーに
私の<豊かさ>を対峙せよ

確固として歩め
すべてを振り払って確固として歩め

”僕の労働現場“‐ソネット風に10

ウマクやろうとしてウマクいかず
ウマクやろうとしないのにウマクいく

愛そうとして愛されず
愛さないのに愛される

走ろうとして走れず
走ろうとしなければ勝手に走り出す

思い出そうとしても思い出せず
思い出したくないのに思い出す

いいことだと思うのに悪いと言われ
悪いことだと思うのにほめられる

生きようとすれば哀しくなり
どうせ死ぬのだと思えば心が軽くなる

嬉しくないのに笑顔をつくり
悲しい時に涙も流せない僕の労働現場

“いつか<ナニ>かをやろうと思う”‐ソネット風に11

金切り声をあげて女は
何がそんなに口惜しいのか・・・

本意でない微笑を迫られ
君はうめく

安酒のいやしい臭いをまき散らし
女にからむ男ども

それはすべて君達の責任である
君達の怠惰と羞恥を識れ

それでも君はうめく
女は金切り声を上げる

安酒は卑しく臭い
口惜しさは晴れまい

私もまた
いつか<ナニ>かをやろうと思う

“手を差し伸べてはならない”‐ソネット風に12

男二人
互いに信じながら手を取らず歩く

君の結末は僕が見定める
だから僕の今を許せ

冬の正義にも似た
それは酷しい関係であった

手を差し伸べてはならない
それが男二人の関係であった

男二人
互いに視つめながら微笑まない

君は独りでゆけ
僕は僕だけで十分だ

負けても哀しくはない
勝ちたくはないのだから

“午前三時、僕の夕暮れ時”‐ソネット風に13

パンツ一枚の裸になり
ペンを持って机に向かう

頭を垂れて
耳鳴りとコオロギの啼き声を聞く

午前三時
僕の夕暮れ時だ

牛乳屋の車が
エンジンをふかし走り去る

僕もそろそろ疲れて来て
眠くはないが明日の為に寝ようと思う

時の猶予を持たない労働者
誇りを捨て逆撃を忘れたアホウ鳥

もうどうにでもなれと
そう思えない今頃の自分を哀しく思う

“迷路電鉄地獄行き”‐ソネット風に14

健康であることの悪無限に
僕は現代の喜劇を観た

よせばよい饒舌が
いつも<一言>多かったと悔やませている

白鯨たちの逢瀬には
いつも<気まぐれ>がつきまとっていた

滞りがちの性交も
だから<疲れ>だけではないのだ

烈しく疾駆する苦悩嵐に
<連行>されることを希望する僕

午前四時発
迷路電鉄地獄行きに飛び乗って

ああもうこれですっかり終わったと
僕は酷しく恐怖する

“私は闘いを忘れた闘犬”‐ソネット風に 終わり

作為に満ちて
私の日常は苛烈である

他者に道を譲って
私は闘わず延命する

かつて存在した冬の過酷が
私を激しく討ち返す

よろめきながら
右に左に

それでも私は闘わない
頑固な闘犬のようなものだ

ねじれた悪霊が
私の中にキリキリと舞い込む

私は無防備に
だから統べては私の責任ではない

“鴨川よ、二人は独りである”

京阪三条行き特急が
鴨川の秋の川面に
一しきり騒々しい影を流す

小さな公園の老人のベンチに
私は子供達の嬌声を聴く

冬枯れの今日の鴨川は
頻りに老人に話しかけ
私は平和で独りだ

私と老人

二人は
独りである

“僕は快活に元気である”

よもや
欺してなどいないだろう
僕の饒舌が
冬の過酷に
期待の夢を写し出したとしたら
それは誤解である

君は君
僕は僕

僕は快活に元気である
花のように笑い
砂漠の真昼を
疾駆するように
君の現状を吹き抜けた

戸惑うなとは言わないが
独りであることに
恐怖してはならない

君は君
僕は僕

全ての社会的諸関係に
独りであることを
認知せよ、君!

”単純明快に跳べ!”

優しい微笑みには
撃ち忘れた弁明が秘み
口惜しさは晴れまい

思い半端に
破壊され
何を欲するのか

発条仕掛けの
巻き忘れた
玩具よ

跳べ
公式論者と罵られて
単純明快に跳べ

事態を複雑にして
笑い転げているのは
現状の死刑執行人どもぞ

“現状の狂喜を映す淀川よ”

何よりも現状の狂気を映し
秋の夜を流れる淀川

赤く青く
ネオンは灰色の夜中に

僕が疲れていることは
淀川大橋で確認した

昼下がりの淀川に絶望し
真夜中の淀川に星の堕落を観る

仰げない僕よりも
しかし淀川は絶望しているのか

魚たちよ躍り出でて
この現状を呪い砕け
淀川よ秘めた怒りを
何もしない僕にこめて流せ


“そして僕はいつも・・・”

そしてどうでもいいことは
僕がいつも笑っていることだ

そしておもしろいことは
僕がいつも嘲っていることだ

そしてかなしいことは
僕がいつも笑っているということだ

そしておそろしいことは
僕がいつも嘲っていることだ

そしていまいましいことは
僕がいつも笑っているということだ

そしてこのましいことは
僕がいつも嘲っていることだ

そして楽しいことは
そんなものは僕にはないということだ

“秋よ、僕を襲え!”

よそゆきの言葉に身をやつし
会社に通う僕を
かつての秋が
ことしは襲う

どうしても認めなかった敗惨も
偽りの自己弁明も
君の前では隠し切れない

そうなのだ
かつて確かに秋は存在した

夏の昼下がり
弛緩しきった精神の憂鬱も
秋の訪れとともに
酷しく緊張した

忘れられないことを識って
君を無視しようとした僕を
それでも君は優しくつつむ

何故君は微笑し
君はさりげない

僕だけが
君の敵とみなさなければならない
僕の無念を
秋よ
君は識らずに僕を襲え!

東(ひがし)洋(ひろし)FB詩集「西方の国へ」
25歳で渡独するまでに一年を切った。勤めながら毎日のように深夜思い付きを書きなぐっていた。理由は解らない。多分そんなものはなかったのだろう。未熟だが修正せずに青春の残像をそのままここに再録する。ご笑覧いただければ幸いです。

“孤立して真の幸福を”

ときには誤解もあって
いつも幸福ばかりではない

暗闇を主催する
現状の権力志向者供

奴等には輝く朝陽を
雲海の彼方から照射せよ

鋭ぎすまされた大気は
決して奴等を許すまい

不遇であることは
確かな希望の必要条件だ

現状に狂喜する
奴らのバカ騒ぎにだけは加わるまい

孤立して恵まれないことの
真の幸福をあなたに識って欲しい

“愛か・・・、しょせん”

愛か・・・
しょせん燃え尽きるものよ

愛か・・・
しょせん私的所有物よ

愛か・・・
しょせん涙など嘘よ

愛か・・・
しょせん嘲笑って葬るものよ

愛か・・・
しょせんキリストの専売品よ

愛か・・・
しょせん結婚詐欺の目玉商品よ

愛か・・・
しょせん黄昏の老いぼれどもの思い出話よ

“そしてGNPは世界第二位に”

そしてGNP は世界第二位となり
なによりも人々は狂喜した

腐乱してゆく現実地獄を
君は予感しえなかったというのか

あの悠久の干乾びた大地
インド大陸に
君達の夢想はついに及ばなかった

そしてGNPは
自由世界第二位となり
ないよりも人々は狂喜した

線香花火よりはるかに華々しく
君の没落は決定しているというの

なぜか
深海の奥深く
あの永続の化石魚シーラーカンスには
注視することを忘れていた

そしてGNPは
自由世界第二位となり
なによりも人々は狂喜した

落ちる
腐食する
決して蘇生などあり得ない

“腐乱を決意した僕を目指す”

うしろめたさを置き去りにして
秋は僕の心像を吹き抜ける

あの快適な忘却
不愉快な肉体の健康

腐乱していくことを決意して
僕は日常に回帰した

なのに
まろやかなこの安息は・・・

主体の欠落した無自覚な労働者と
僕は決して自覚などしない

君達には君達の道行きがある
僕は僕を目指す

そう言い切れない処に
僕の確かな生はある

<行進>

やがて人々の行進は滞まり
ワイワイガヤガヤ
うるさいことだ
やがて人々の行進は始まり
ワイワイガヤガヤ
うるさいことだ
僕もやがて行進に加わり
ワイワイガヤガヤ
うるさいことだ

XXX 

酒と煙草と
それにやっぱり赤いバラ
誰でもそんな時が
一度は訪れることを望んでいる

自堕落な一生には恐れても
時には女に声をかけたい

昔は良かった
吉原女郎屋
今もなかなか
トルコでアワオドリ

不倫の恋に慄きながら
それでも窓に忍び寄り
小さな石を投げ込んだ

シェークスピアはハムレット
ロマンスならチャタレイ婦人
庶民も負けじと隣の年増後家

金貸しついでに
義理も貸し
金を返せと
娘を妾

昔も今もをかわらずに
僕らはいつも
女が欲しい



FB詩集 「迷路地獄」 II

2023-07-13 19:33:49 | 日記

「迷路地獄」に堕ちて、知性と感性の導くままに明日を求め、新たな創造の世界に赴いた。そこに展開する風景は私が描き出すニヒルでシニックな無限の宙空であったり、ひらひら極彩色の蝶が舞う街の公園の昼下がりの歓喜、或いは暴力的な絶叫のようなものだったりした。どの詩紛いのものにもコメントを付けたのはそれが<マガイモノ>だと認めるほかないからだが、世に出て間もない二十ちょっとの日々不安と絶望を抱え、辛うじて自己を失わずに、生にしがみついているみっともない若造、とお許しいただき、願わくば今しばらくの間お付き合いいただければ幸いです。
注:今後はコメント抜きで羅列させていただきます。あまりにもひどい<マガイモノ>には大兄、高女のコメントを頂ければ幸いです。

“私は快活に元気だった”

私が街を歩く
それは昼下がりの陽光を浴びて
私には背中に目はないが
私は街を歩く
何故か陽気に
即興の詩を唄いながら
天上にはきっと星が君臨しているのだけれど
何故か観えない、視えない
昨日も快活に
私は元気だった
一昨日も快活に
私は元気だった
お規則りの背広を被て
私には裸足なんて耐えられないのだ
鏡の中の自分は
迷路地獄
迷い堕ちて地獄の入り口に立つ
やたら咳の止まらない午後
駆るということについては
誰でも
一抹の不安と
代償の約束されぬ行先の魅力を感じる
それにしても君は
時を穫るか
それとも未来か
"詩(うた)を聞け”
旅立ちの瞬間に
私達を観てはならぬ
宇宙飛行士たちの眼差しは
なにか数字が飛び散っていて
不安だ
それよりも詩を聞け
人間には
コンピュータの配列盤よりも
正確な生命の保存盤があって
安心だ
研ぎすまされた数字の感性も
ときには
歴史的誤謬があって
人々は悲惨である
“裏切りの季節”
それにしても早かった
花は散り
太陽が輝き
落葉
灰色の清浄な大気は
革命を組織するにはうってつけだったが・・・
みすぼらしく歩け
なによりもオリオンの星であり
瀕死の革命戦士であることが
壊れかけた操り人形
への
最後の打撃となるのだ
選ばれたユダは
永遠の反逆児を
決定づけられて
自らの友を得た
裏切りにも表があって
それを人々は観ないだけだ

“悪意の申し子たち”

黄昏の光の中で
蘇生する悪意の申し子たち
血塗られた晩餐の食器か
銀色に鮮やかな戦場には
今もタンクが轟音を響かせて
渡る橋も架ける橋もない
ない曠野を轟音だけが駆る
無為の反逆
それとも破壊への進撃・・・

“目覚めの無気力よ反逆せよ、”

それでも逝くというのであれば
逝き給え
魂の舞踏会はまだ続いているというのに
あなたは選択した
晴れた朝の目醒めの無気力を
それは時計的な問題ではない
おおよ!
曖昧な微笑の回帰
なれあいの雪合戦
世の中における誉の問題
それは幼児の語呂合わせよりも稚拙で
現実的なのだ
春の野に散る花いちもんめ
それがあなたの美学なのだ
魂の舞踏会から抜け出して
真空の祭壇に跪く
あなたは私の私生児で
私とあなたの近親相姦の結末
漂泊の博物館に
アルコール漬けにして飾られている
ア、ハ、ハ、ハ、ハ、・・・
無頼の徒への自己放射
懺悔の代わりに売僧を友に
瀟洒な四海を渡る
底のない泥船、永遠のランニング
迷夢も観ずに
なんと!
逆撃も忘れて太鼓腹に寄生木とは

“それにしても、だが、やはり、なかんずく”

論理の風車が回っている
駆け出しの反逆児
間延びした論争には黴が生えて
革命家達は居眠り中
遠くに聞こえる悪霊の合唱も
いつかただの風鳴に
醒めた激怒も和解を申告
いつもの居眠りが運動会
それにしても
だが
やはり
なかんずく
そうなのだから
けっして
なかった
遠い遥かな永久に悠久の
疎遠------------
不可思議

“諦視する歴史の風車”

偽りの譲歩に
過去の恋路を逆上り
いまは
現状への降旗を肩に
それでも
労働階級と好誼したい
ならば
悪意達の会議を嘲い
自己犠牲に恍惚を忘れよ
希望の獄死も
冥府へ疾駆する二月の風
瀬踏みせぬ間に
堕ち往く冗漫の淵
言語ゼネストは
絶えて訪れることのない
労働階級との予定調和
歴史始まって以来の椿事は
悪者が悪意を忘れて
憎悪の最後通牒を
捨てたことだ
XXXX
無感の中で
僕が耐えて抵触するのは
一滴の鮮血
ついに堕ちていく
苛烈極まりない
訣別の言語飛礫
それでもぼくは
蹲り動かない
何しろ諸君
僕が生きるということは
諦視する歴史の風車
また
僕をめがけて突進することも
だから正当だ
素敵な生活は
誰でも憧れていて
没個性が強すぎる
諦念ではなく
だから僕は一滴の鮮血を
生の根源で底流したい

“ぼく自身への決別と回帰”

一つの結末を内包して
ぼくの日常が輪舞する
誰も援助の手はさしのべない
孤立してただ労働
抜きがたい自己撞着と
労働階級への愛が
ぼくの日常を定位する
ぼくが人々に同情を措定した
瞬間から
ぼく自身への決別と
ぼく自身への回帰が始まった
耐えて優位であることより
自己の劣位を選んだことは
しかし
なんだったのか
いまも
ぼくと人々の交通は
悪意を忘れて
素敵である
好意も忘れて
素敵である

“未来憎悪”

明日への跳躍も
ダッシュが足りなく
途中落下
街路樹の木の葉は
だから
ぼくの余念のない未来憎悪
おびただしい塵埃を産出して
心愉しい
なにゆえ未来憎悪か
結末の予断は
たいてい幸福な誤謬を孕んでいて
それが厭しい
それでも
やはり僕には駅の売店の娘さんがいて
いつも不愛想だ
そして電車には
おばさんやおっさんが
いつもくたびれて座っていて
ぼくの眼差しは
あきることがない
それだけに
ぼくが颯爽としていることも
不愉快な肉体の健康を持続することも
いまは日常的であり
駆っているのだ

“遊戯を癒しむ者達よ“

遊戯を癒しむ者達よ
ぼくは君達と無縁であることを誇る
労働者を語り騙り
革命を夢想することが正当か
むしろ
労働者と相克し
互いに悪罵を投擲しながら
それでも愛を忘れないことを
ぼくは選ぶ
黒く爛れた夕陽の中で
首をうなだれて歩むことも
肉体の疲労以外に
根拠のないことを理解せよ
一つの言語認知者よりも
一滴の涙を許せるものを
ぼくは信じたい
労働階級を自覚することは
自己の哀しみを認識することより
優位であるとはいわせない
なにより
ぼくたちの出発点は
不確かな言語空間ではなくて
自己の日常的な感性にあったことを
ふたたび振り返れ
想念の伽藍は
カルシウム不足の感性よりも
脆くて
ぼくには不安だ

“希望の告別式”

すんでの所で間違いを犯すところだった
よくあることだ
詮索なんてよしてくれ
僕は独りで歩ける

油に汚れた顔も
収奪が激しくて
艶がない
冗漫だけで生きている人々が
ぼくはなによりも好きなんだ

まずは自己確認
そして、状況への跳躍
だけど
それだけで事足りるとは
ぼくは思わない

なによりも喧騒の坩堝で
魂をこめた対峙の方が
ぼくには愛を確かめやすい
それだけに
危険はいつもついて廻る

朝夕の挨拶が
歴史の主役に抜擢された刻
ぼくの希望は
やっと告別式を迎えるのだ

“悪霊の季節”

独りの生者が
黄昏の堤を歩く
長く乾いた影には
爽やかな一迅の風

疲労した体躯に
明日への信頼が充ちていて
何故か寂しい、哀しい

それは希望することによって
自己の位相に無縁を装い
虚偽の世界を容認しているからか

わたしたちは酷苦に恐怖してはならなぬ
微笑も自己忘失も
一刻の安寧よりは
永久の屈辱を約束していて
断固として拒否しなければならない

硬化した内面世界に
ゆらっと放射波が波立つ刻
すでに喪われた青い残像は
その残像さえ留めえない

私は昔旅人であった
その存在の正当性を疑う前に
私は生活者の列に投降した

それは冬の敗北というより
悪霊の季節の勝利にも似て
私の識らない間の
出来事だった

“朝夕の挨拶と決別の憎悪”

すでに忘れていた時代にも
確かな存在はあって
それが今在るぼくを
呪縛している

頸動脈からの鮮血が
轟音響くナイルの瀑布よりも
酷しく
ぼくを叩く

明日だけが生存の根拠となってしまった世に
ぼくたちの幸せを望むことは
やはり無駄だった

なによりも
朝夕の挨拶に
訣別の憎悪をこめよ
醜悪な美を
自己の中に認識せよ

ぼくたちの愛は
微笑や言語造形にはなく
瞬時のドジに鋭敏で
烈しく悪罵することから始まる

君の優しさは
ラッシュ時の電車で席を譲ったことか
素朴な感性に
全的信頼を託すことに
異論はない

だが
やはり僕は非和解的な
時代と相剋に
現実の認識軸を措定する

“醒めた空天に希望する”

全て決別から源まって
殺戮の角遂に到達する
あの永遠の化石魚シーラカンスも
不確かな世界は認知している

深く潜行し
なによりも海底の泥砂に潜ることは
断じて正当である
窮して攻撃的である鯨よりも
確実に延命する

一つの宙宇か
宙宇の一つか
確かに無限は存在していて
わたしたちに
その認識者たることを要求する

北極星の真下
醒めた空天に希望する
わたしたちの情事は
種族の保存盤を内包していて
星は見通しだ

一つの結末を迎えることは
感動の奮えの
見定めるところ
やはりに未認知の世界への
恐れである

期待よりも
絶望することに慣れた世界で
わたしたちが
生きて闘うとは何か
 
“希望の告別式”
 
すんでの所で間違いを犯すところだった
よくあることだ
詮索なんてよしてくれ
僕は独りで歩ける
油に汚れた顔も
収奪が激しくて
艶がない
冗漫だけで生きている人々が
ぼくはなによりも好きなんだ
まずは自己確認
そして、状況への跳躍
だけど
それだけで事足りるとは
ぼくは思わない
なによりも喧騒の坩堝で
魂をこめた対峙の方が
ぼくには愛を確かめやすい
それだけに
危険はいつもついて廻る
朝夕の挨拶が
歴史の主役に抜擢された刻
ぼくの希望は
やっと告別式を迎えるのだ

“悪霊の季節”
 
生死彷徨う独りの生者が
黄昏の堤を歩く
長く乾いた真っ赤な影には
爽やかな一迅の風
疲労しきった体躯に
明日への信頼が充ちていて
何故か寂しい、哀しい
それは希望することによって
自己の位相に無縁を装い
虚偽の世界を容認しているからか
わたしたちは酷苦に恐怖してはならなぬ
微笑も自己忘失も
一刻の安寧よりは
永久の屈辱を約束していて
断固として拒否しなければならない
硬化した君の内面世界に
ゆらっと放射波が波立つ刻
すでに喪われた青い残像は
その面影さえ留めえない
私は昔旅人であった
その存在の正当性を疑う前に
私は生活者の列に投降した
それは冬の敗北というより
悪霊の季節の勝利にも似て
私の識らない間の
出来事だった
 
“朝夕の挨拶と決別の憎悪”
 
すでに忘れていた時代にも
確かに実存した時はあって
それが今在るぼくを
呪縛している
頸動脈からの鮮血が
轟音響くナイルの瀑布よりも
酷しく
ぼくを叩く
明日だけが生存の根拠となってしまった世に
ぼくたちの幸せを望むことは
やはり無駄だった
なによりも
朝夕の挨拶に
訣別の憎悪をこめよ
醜悪な美を
自己の中に認識せよ
ぼくたちの愛は
微笑や言語造形にはなく
瞬時のドジに鋭敏で
烈しく悪罵することから始まる
君の優しさは
ラッシュ時の電車で席を譲ったことか
その素朴な感性に
全的信頼を託すことに
異論はない
だが
やはり僕は非和解的な
時代との相剋に
現実の認識軸を措定する
 
“醒めた空天に希望する”
 
全て決別から源まって
殺戮の角遂に到達する
あの永遠の化石魚シーラカンスも
不確かな世界は認知している
深く潜行し
なによりも海底の泥砂に潜ることは
断じて正当である
窮して攻撃的である鯨よりも
確実に延命する
一つの宙宇か
宙宇の一つか
確かに無限は存在していて
わたしたちに
その認識者たることを要求する
北極星の真下
醒めた空天に希望する
わたしたちの情事は
種族の保存盤を内包していて
星は見通しだ
一つの結末を迎えることは
感動の奮えの
見定めるところ
やはりに未だ認知しえない世界への
恐れである
期待よりも
絶望することに慣れた世界で
わたしたちが
生きて闘うとは何か

2023年5月27日
断捨離中に見つかった叙事詩二編
本来ならFB詩集「1981年 帰国」(https://blog.goo.ne.jp/nichidokuinfo/e/002113f24dc9b92b8f1e122bf6a4aa2e)に収録すべきものだが、ここにインテルメッツォとしてご笑覧いただきたい。

“エイルヴィラ”

エルヴィラは
みどりの瞳あるいは口唇の上の腐乱
ともかく
魔法の煙のように危うい肉体だ
初めての出会いが
千回目の邂逅である奇跡の巡り合わせ
その時
ぼくは
率直な逆説を遡って
古代からの使者ですといった
ペルセポリスの丘に
デジタル製の風が吹いていたからではない
知らないと思うが
確率計算では救われない
明日が
今日の姿だということを伝えたかったのだ

<告訴なんてしないことよ。精神分析より
は星占いの方が伝統があるのだから。定義
された私の向うは大宇宙だってこと、古代
の使者ならおわかりでしょ。信用できるの
はあなたと私の温もりだけ。じゃ、今夜十
時に、私の意志はマットの下にあるわ>

長すぎた会話を切断して
エイルヴィラが宙に舞い上がった
恐ろしく不安定な足場だった
突拍子のない安全感覚
真空パックの愛を
約束して
ぼくは切れた糸を手に巻き
頭と胴と全身を巻き込んで
薄汚れた夢と
弁明だらけの醜悪極まりない
思い出を巻き込んで

あっちによろよろ
こっちにおろおろ
ぴょんぴょん飛び跳ねながら
やっと
ハンブルク中央駅に辿り着いた

エルヴィラ
真摯であること
己の出自を確認すること
が全人類の頭上で輝かしく氷結した今
駅のスタンドで
ぼくが熱いフランクフルターを頬張りながら
心!
などと叫んだことを嘲わないでくれ

<そのことについても私はうんざりするほ
ど考えたわ。まさかママやパパのようにな
れなんて私だって言わない。だけど無駄な
のよ。あなたの考えていることは。歴史な
んでしょ。朝の熱いコーヒーにだって勝て
やしない>

だからと
エルヴィラは僕にしなやかな腕をのばして
ベッドの上で微笑んだ
来なさい!
私たち
今日はアンドロメダに届くまで解けあうのよ
それとも
クレタの砂浜で燃え上がろうか
否、否、否、否!
と叫んだぼくに
ああ古くさい
そんななたがこよなく愛しい私は
億年の時空を右往左往しているみたい
といって
立ち上がり
暖炉の前のロッキング・チェアに腰かけた
一糸まとわず
薔薇色の肌が
暖炉に火に黄金転化した時
ぼくは眩む目を
断固として立て直し
エルヴィラ
涸れた愛液を涌出させるには
やっぱり
物ごいに出て二十一世紀に延命をはかる
あの
朝露の中の市民たちと
瘡蓋だらけの雇用契約について
一大討論会を開催しなければ
ぼくには不可能だといった

<不可能と可能の間には意志だけが流れて
いるのよ。存在にそれほど固執するあなた
が東の国から流れて来たなんて。きっと寒
すぎるのよ。この国があなたには。さあ、
暖炉にあたってその氷結した意思を愛液に
溶解するのよ>

ぼくがたまらず
彼女の部屋を飛び出したことを
後で解ったことだが
彼女は嘲わなかった
その前にぼくが
壁にかかった仏陀の微笑をゆさぶる
大号泣をしたことが
彼女の発条仕掛けのハートを
一瞬
柔らかく温かい随意筋に変えたそうだ

<それほど暴力と残虐、貧困と悲惨、偽善
と陰謀が悲しいのなら、あなたには三千年
前の菩提樹の下の中庸に出家することだっ
てできるはずでしょ。それをなぜロシアの
十月にこだわるのか。あんな硬化した北の
出来事は一度溶鉱炉に放り込むべきだわ>

ぼくが今なお無様な亡命の茶番劇を
演じていることが
彼女には不憫でならないといった
明日
エルベ河の渡しに乗って
アルテス・ランドにピクニックしよう
梨花が薄緑色に咲き乱れて
陽光に誘い出された
紅金の孤蝶が
ヒラヒラあなたの砂漠に舞うのを見れば
あなただって
吉野というところに咲くという千年の桜
を思い出せるでしょう
一度写真で見たことがあるの
あれが
あなたの国を安らかに美しく
不変に守護する永遠の統治者のはずよ
といったエルヴィラに
罪がないのは言うまでもない
だが
とぼくはそのことならもっと精確なことが言え
ると
仕切り直し、大きく四股を踏んで
立ち上がった

ちらほら
桜満開
全山桜一色
全山揺れて
桜色に舞い上がり
ななめに
桜色に一文字
桜色にどうと雪崩れて
桜色のごうごう渦巻き
桜色にひらひら漂う
桜吹雪

さくら 
 さくら
    やよいのそらは
    みわたすかぎり
 さくら
さくら

核弾道の編隊飛行
パック・ツァーのチャーター飛行
空の指令室の夜間飛行
激増一途の少年飛行
政治警察の密着尾行

これも今は昔
桜は梅だった
東風に匂う
都の華麗は
梅だった
感性の誤謬
ではない
歴史の誤算
ここに
エルヴィラ
君の信じない人間の変遷があったのだ
だから

“帰国の挨拶“

君が風呂屋の暖簾をはらった時
ぼくは十年ぶりの祖国に気づいた
怪訝にぼくを見つめる君は
なんて瘦せ方だ
まるで革命精神そっくりじゃないかと
さっそく
忘れなかった友情の証しをたてようとした
君が早朝自転車にまたがり
朝露をついて
祖国の経済成長に貢献していることを
健気だろ
と諧謔に包まれた微笑をそえていった時
ぼくは
始めて君に帰国の挨拶をした

湯気のたちこめる洗い場で
漂泊の垢をおとしてやると
君は
ぼくの心身症に固まった背中を
こんな風景しか世界にはないのか
いたわるようにこすってくれた
十億光年の彼方だって
俺は自転車で行けるんだ
それをどうして・・・
絶句して
飛び上がるように
熱い情けをかけ垢を流してくれた

よく飲むんだ
毎日
そうすれば俺はいつだって
タクマラカン砂漠のあたりを
七色に
自転車を押して家路を辿っているんだ
じゃいつか後ろの乗せて
そこに連れて行ってくれと見上げる
間もなく
瞬時に千キロ遠ざかった君は
ぼくを見つめ
油くさい中卒と一緒に旅して
面白いわけないだろ
冗談言うなと
暗い影で顔を覆った
それは
ぼくが世界の路地裏で会った
どの人々にも共通の
抑圧された影だった
もう一度繰り返す
それは抑圧された、誰も観ない影だ

湯船の縁に腰掛けて
世界の女について
少し話してくれと
君はぼくのタオルを持ち上げ
ペニスを指差した
女は男の玩具ではない
とぼくが正論をはくと
ハ、ハ、ハ、
と哄笑して
悪かった
俺は日本の女に愛されたことがないのだといった
という君が
俺の日本国籍をはぎとって
父と母の国をさらけだす
国家について
俺はもううんざりしている
とぼくが言うと
そうじゃない、人種なのだ
ときみは叫んで
湯船に荒々しく飛び込んだ

ぼくが黄色い猿とののしられ
ニースの
高級住宅街で少年達に
石を投げつけられたことを話しても
この国の原住民は
そんな風には考えないと
君は湯船の底に沈んだ

次の日
ぼくは近くの花屋に
カーネーションを一輪買いに行った
出て来た
娘が四角になって
挨拶を忘れた
彼女の胸が縮みこみ
体がパタンと二つに折れそうになった
その時
初夏の風が君の胸にふれなかったら
君は床に倒れて息絶えたに違いない

いつ戻ったの
手紙もくれないで・・・
私もう結婚したのよ
子供も一人、幼稚園に行っているの
おかえりなさい

ぼくは
もちろんそんな挨拶は期待していなかった
結婚して家を出
子育てに大変だろう
想像すればそんなことしか浮かばなかった
まさか
今も両親の店を手伝っているなんて

あいかわらずのようだね
カーネーションを一輪くれないか

ぼくは
黙って見つめている君に
自分で選んだ一本を
さしだした
突然ふるえだした君は
ぼくの手を取り
奥の部屋に引っぱって行った
お母さんが
ぼくをにらんでピシャリと顔を閉じた
ぼくは久し振りの母の日に
カーネーションを思い出したのだ

夫の暴力に耐えられない
離婚を考えている
と君が言った時
ぼくは
少しも驚かなかった
まじめで勤勉
子ぼんのうの彼が
どうして突然あんなことをするのか
それは
ぼくが知り合った多くの女性に共通の
抑圧された呻吟だった
もう繰り返さない

君が出してくれたお茶は熱かった
玄米茶がね
西洋人には一番人気があるんだよ
普通の日本茶は苦すぎるんだった
そう
と言って君はやっと微笑んだ
すると突然
バロックの香りが部屋一杯に充満した

ぼくがハイデルベルクで知り合った
片目のマリアンヌのことを話すと
私にはとてもと君は言った
三十歳のマリアンヌは三度離婚し
最後の夫に目を潰され
ますますマリアンヌになった
今は娘のレナーテと二人で暮らし
ぼくが時々彼女たちと
ベットの中でガリバー旅行記を読み
羽毛のように戯れた
マリアンヌもレナーテも不幸ではなかった
ぼくはそのことをよく知っている
彼女たちは時々悲しかっただけだ
君は
そうかも知れない
だけど私は結局離婚はしないだろう
子供の為に
と言って席を立った

ぼくは十年ぶりの祖国で
平和をかみしめている
花屋と風呂屋の平和
恐ろしい帰国以来
ぼくの心を
突き刺しこね回す鉄の平和を
ぼくという皆と同じ存在が
不安に傷つき
毎日無傷で玄関を出る
この幸運!
ぼくには子供がない
この幸運!
就労を禁止された子供達は
塾に雇われ十二時間労働
その報酬は出来高払いの未来の安定
落ちこぼれた
息子はバットで父を殴打し
登校拒否の
娘は街角に立って春を売る

ぼくの故郷は人口が半減した
皆、街でいい暮らしをしているそうだ
こちらの畑で麦踏みをし
向こうで干した大根を取り入れていた
大声の会話は
テレビの前の沈黙と
流れ作業のあわただしさに変わった
皆、いい暮らしをしているそうだ

春です
平和は陽光の下で
春祭りがたけなわです
子供達はもういません
ぼくがたたいた太鼓も
村の男衆が力自慢を誇示したダンジリも
倉庫で
平和をかみしめています
村の学校も鉄筋二階建てに変わり
今では複々式授業
来年は入学児童無しということで
村に新しい一ページが加わります
畑は杉ばえに変わり
残った人たちは
土木作業に汗を流し勤しんでいます

ぼくも都会に棲みつき
部屋の窓際には
鉢植えの杉、松、檜
緑だけは手離せないと
友に悪趣味だと嘲われた
そんなことでは
日々の戦場で勝ち残れない

ネルーダが叫んだ平和
マヤコフスキーが死んだ自由
スペイン市民戦争のドゥルーティは
愛の為に平和を拒否して
絶対の自由を求めたと
エンツェンスベルガーが詩いながら
銃を取ってヘミングエーと突撃した
理由は簡単だった
ネクタイを拒否したセーター
背広にはTシャツと皮ジャンの感性を
フランコの平和が禁止したからだ
生きるだけなら彼は死ななくてよかったのだ

ぼくは毎朝
工場の片隅で社歌を合唱し
愛社精神を暗唱し
同僚の失策を監視して
たまには仕方がないさ
と勤務評定にX印を書き込んでいる
会社のユニフォームは言うまでもなくグレー

どうすればぼくは
カシミールで会ったあの老人の
カラフルな達観と
静かで優しい冗舌
豊かな貧困を理解できるのだろうか

ぼくは観ることができる
十年ぶりの祖国で
君の中にも熱い血が流れ
見えすいた幸福が裏切っている
平和を煙のように
掴みそこねているのを
集積回路に閉じ込められた自由を

平和を風呂屋の友情に
自由を
早朝を自転車に乗って
平和を抑圧された妻達の呻吟に
自由を
花の香りに包まれて
平和を
マリアンネとレナーテに
自由を
Tシャツと革ジャンに
平和を
村祭りの喧騒の中で
自由を
流れ作業と朝礼に
平和を
戦闘機のパイロットに(望むだろうか)
自由を
閲兵式の直立不動に(許されるだろうか)
平和をぼくの祖国に
自由を
ぼくと両親と兄弟と全ての人々に
最後に
愛を
自由と平和を愛するすべての人々に
望むべくもない
世界の亀裂が
目の前に大きく口を開く

だが
ぼくは絶望も失望も希望もせず
紛うことなく存在するのだ

“孤独を透視する”

街の中で独り生きるとは
容易な孤独へのカタストロフィー
人々の歩調が
私を拒否して
流れ
流れ
流れる

口五月蝿い
主婦達の気まぐれに遭遇せず
私はものの見事に
独りである

一つの曖昧な微笑みなら
私は断固として決別を選ぶ

勤め人稼業には
不毛な精神の弛緩と
安直な日常への迎合が約束されていて
それで
わたしはやっと世の人々と同一地平に
立つことができた

だが
日常を共有することに油断してはならぬ
わたしたちの記憶に
挙国一致の断章はなくとも
歴史の事実が
無価となることはない

わたしたちが起ちてある現在の
危険の位相を
穏やかな日の洩れる日常に
透視せよ

”売僧の自己保存“

ステンドグラスは
中世の重圧を継承し
今も輝きを失わない
信仰よりも売僧の自己保存の砦に
いまはただ憎悪せよ

実行されぬ口約束
自己の不確かさに気がねして
何も語れぬ大司教

発端よりも結末に拘泥して
一歩も抜け出せぬ現生の組織構造
人と人との交通にも
もはや言語はお払い箱

捨てられた無数の太陽も
再び宇宙に現生雲を組織し
結末の端緒を切り拓く

だが
わたしたちは人間である
彩り始めた木の葉よりも
確実に私は人間を宣告する
わたしたちの生は確実の存在する

生きて生きるよりも
生きて死ぬことを望む人々には
私の憶いは解らない

独りで疾駆する風の中に
わたしたちが舞い散ることは
私の自由の問題だ

“生存の為のテーゼ”

瞬時を透視する
わたしたちの大義は
その一点において解消される

時の猶予が
共同幻想を結果するのは
わたしたちの時代を視れば鮮らかだ

生存の保障に
一刻の安堵を脈絡してはならぬ
生き延びるということは
あくまで偶然でしかない

死さえも
殊更構えて主張するのは
冬の朝陽ほど
鮮烈ではない

肉体を捕縛し
執拗に保着する
わたしたちの生存のテーゼは
言語表現を許さない

一日の糧を得る為に
人のなす一切は
正当である

“狡猾な免罪符”

譲歩の弁明は
自己の醜悪さを照写して
人々の印象に
忘れ得ぬ断章を標す

ぼくが敗北を認めないのは
自己の弁明の根拠が
ぼくの過去に存在しないからに他ならない

誰でも
今ある自己が最も美しいと思わないように
ぼくの過去にも美しい刻はあり
未来に希望する

だが
現実の自己を超えて
ぼくの存在が肯定されない以上
やはり
ぼくは今を生きなければならない

ぼくが<労働階級>に
誰よりも醜く
拘泥するのは
ぼくの狡猾な免罪符かも知れない

“自己滅却のマスターベーション”

乾いた風がぼくを吹き抜けて
駆ける
ぼくは何年こうして歩いて来たのだろう
この鮮明な心象が
捨てられなくなった

ぼくが今欲しいものは何もない
生きることも死ぬことも
醜くふくれていく腹に
羞恥することもなく
自慰のザ-メンが
固くこびり付いた寝具の中で
今日もまた
自己滅却のマスターベーションが繰り返される

日常生活というものに
あれ程の憎悪を投擲しながら
今は“生活者”という口実を手に
果てしない譲歩を選択した

富というものについて
いつかした拒否の宣言が
裏返しの目的意識として布告されたとき
ぼくの喜劇が始まった

日常的な譲歩と妥協が
確実にぼくを捕縛し腐食している

だが
その確実な時の経過の前で
ぼくだけが無防備に停滞する

同情のおそろしさは
発端のきまぐれと同様
結末の自由にあり
社会的制裁を受けるかわりに
歓迎されるところにある
と屈折した屈辱とともに
確認した

“現実地獄”

果てしない旅に出て
もう帰れない
ぼくの故郷は雪深い山懐で
ぼくを峻拒する

故郷を捨てたのではないが
振り返らなかったぼくへの
それが訣別の決算書だ

ぼくは暖炉に親しみ
美食を友にした
荒々しい手も
今はつややかに柔らかい

故郷がぼくを捨てたことは正当である
言語世界に営巣し
カマ首もたげてのぞき見る
一匹の臆病な醜物

故郷の山河に
今ぼくは向かうことができない
言語世界の生活が長すぎたぼくには
もう本当の故郷を見る目はない

音楽的饒舌にも飽きて
ようやく気づいた現実地獄
在るでもなく無いでもない
ぼくはすでに
モノを見る目もないのだろうか

“わたしは悪意の申し子”

端座して進まない
わたしは一つの決意を胸に
重い錨を降ろした

進むまい
希望することもやめよ
混迷の昼食時に
ぼくは何も受けつけない

消化不良の胃酸地獄で
苦々しい日常を措定する

透明度の薄い笑いの中に
ぼくは快活な日々を
夢想していた

なれない手つきで

大腿部の骨折を縫合しながら
もう歩けないことを祝福する

生産的であることの
悪無限を認識せよ

わたしは非生産的であることの
犯罪者を選択する

消費せよ
破壊せよ
全ての秩序に終末の鐘を

すべての関係を剥離し
すべての愛を埋葬する
わたしは悪意の申し子だ

“どうでもいいことなんだ”

あどけなさを内包した時代錯誤を
誰にも言い訳はしたくない
独り陥落していく自己を
冷ややかに見ていた

なによりも未経験であった
捨てきれない夢が多すぎた
善意は悪意に転化し
愛は嫉妬に姿を変える

それが日常の生産物である
生産者のわたしは
反革命である前にピエロだ

すべてを呪う
すべてを嫌悪する
すべてを完黙視する

なんてことはないのだ
どうでもいいことなのだ

ニヒリストって言葉は知ってるよ
居直りって言葉にも親しんだよ

そんなことはどうでもいいことなんだ
世の全ての人間供は阿保だ

ノーベル賞受賞者も
どこかの書記長も
ついでに会社の代表取締役も
みんな殺してもどうってことはないよ

そんなことじゃ世の中崩れないし
ぼくたちだって生き続けるさ

“未来地獄”

剥離されたお前の理念が
日常の過酷を討ち返す
街角で拾った捨身の情念も
すでに乾いてしまった

希望してはならぬ
明日など信じるな
わたしたちの未来地獄は
何故か鮮やかに輝いているじゃないか

繰り返される朝夕の挨拶は
何処でも一瞬の平和を喚起し
わたしたちの憎悪の対象ではない

予定調和の根底を覆す
現状の狂喜を視よ
わたしたちには終末への確信がなさすぎる

すでに決意した未完の死は
宙宇の無限を無化した

ないのだ
わたしの前にはなにも

振り返る視座は
もはや私の座標軸にはない

一点に固着して
悪臭の中を駆る

それは深々と一点を疾駆する
奥へ
下へ
いや上へ

“パリの五月に共鳴する”

直接行動に集結して
カルチェ・ラタンのバリケードを死守する
ぼくたちは正当だった
不確かな理念も発展途上
なによりも五月の息吹だった

五月に革命するということは
パリの反乱に共鳴し
六月の確かな生存を手にして
一切を現実視するということでしかない

疑うことよりも
過酷を恐れぬ誤謬を選び
再び蘇生することを希う

幸福であった
パリの路上に木霊する歓喜
ぼくたちは乾いたコンクリートの床に
確かに存在したのだ

明日の恐怖は
寝つかれない夜とともに
解放の光を鮮明にした

駆れ
駆り
駆る

暴力はすべてを破壊する
なにものをも無視する
そしてあとは暴力の領分ではないのだ

だが
ぼくたちは生き延び
生き続けるだろう

死ぬにはあまりにも素敵すぎる
まだ僕はこの世に拘泥する

あとがき:ここで「迷路地獄」の終点としたい。二十三歳最後の記録、このあと一年後に私は横浜からナホトカ行きの船に乗り「西へ」と向かうことになる。

FB詩集 「迷路地獄」 I

2023-07-13 19:20:26 | 日記
東 洋FB詩集 「迷路地獄」

1.
労働に恐怖するとは日常の居心地のいい生温い空気になれ、その中に綴じ込められて、檻の中の虎のように行ったり来たりして一生を終える。それを保証するのが定期的に入ってくるお給金と呼ばれる労働の対価、それを自立と呼ぶが、実は隷属、その現実に恐怖するといことだった。檻の外に見える風景は夜な夜な彷徨う場末の酒場や、たまの休みに青春の跡を追い、失われていく情熱を持て余して、幻想の世界に逃げ込む真夜中の机の上に広がっていた。それを日々の道標として私は暫く迷路地獄を彷徨うことになる。

“酔いどれ船を探して“

波間に漂う精神に
船乗りたちの志の虚しさが
明日もまた入る港の空しさと
相交みえながら
地上的な愛など存在せぬと
一次方程式のように断言した

それでも船乗り達は
港々の色白の少女に
忘れてはならぬ誓いをたて
快活に酔いしれていた
未経験な異国の港で
彼らはあくまでも大胆に
少女に言い寄り
そして
お互いに融合した

殺伐とした港町の酒場で
酔いどれ船を探し
ランボーはどこに行ったと
尋ね歩く
船乗りは私だ

2.
日常の中に沈んでいく私は溺死寸前であることをかろうじて感得、魂の命綱にすがって形振り構わず延命した。それでいいのだ。生き延びさえすれば・・・。

”伝えなければならないことがある”

死に往く人あり
遠くに旅立ちて還らず
自殺、殺人、老衰、病死、交通事故、労災
君死にたもうことなかれ、戦死を
我ら残りし者
生きて彼らを嘲え
感傷など誰も救いはしないのだと
<生存は大洋の只中に在ってもつかまねばならぬ>
はなしてはならぬのだ
魂の命綱を
むしろ
生き延びて滑稽であることを
誇れ
生き延びて醜怪であることを
誇れ
生き延びて破廉恥であることを
誇れ
<なんと言っても労働階級だ>
早朝六時に起きて自転車で町工場に向かう
彼らを独りにするぐらいなら
我ら
無様に未練がましく居直って
翔び、駆らん
なんといっても
伝えなければ
<生は全て君たちのものなんだ!>

3.
日本の若者がまだ沖縄の置かれた状況を憂慮する時代があった。アジテーションに近い激しい言葉でアギトポップと呼ばれる流れがあったが、私もその流れに押し流されていた。烏滸がましい限りではあるが若者の切実な思いの表現に他ならず、それを誠意という言葉で許してもらえるかもしれない。今は沖縄も若者には、せいぜいリゾート地として海水浴やダイビングを楽しむために訪れる島なのだろう。しかし、まだ米軍基地が日本全国の70%、沖縄本島の15%を占め、辺野古の海岸は埋め立てられジュゴンは生息地を失った。薩摩藩が行った琉球王国の属国化が第一回琉球処分、そして第二次大戦で米軍占領を認めた第二回琉球処分、辺野古への嘉手納基地移転は第三回目の琉球処分だ。基地廃止が緊迫する極東の地政学的現状を鑑みたら非現実的と言うなら、嘉手納は日本の本土に移転させるのが筋だっただろう。だが、もう手遅れ、台湾への攻撃を強化する中国の動きはそれをここしばらく不可能にした。沖縄はまた処分されたが、日本の若者にはもう関心がない。若者の意識から政治的関心を消し去った自民党半永久政権の隠れた成果と言える。

”沖縄よ、怯むことはない”

沖縄よ再び起ちて向かえ
未来永劫に
我らが闘いを組織し
労働階級が歓喜する世に向かえ

祖国は今病み膿んでいる
汚くただれた祖国は
沖縄の清透な空に
再び目を向けることは不可能だ

沖縄よ、再び起ちて独りで向かえ

4.
1972年の日本赤軍によるテルアビブ空港銃撃事件はパレスチナ解放人民戦線を支持していた者たちにとって、大きな転機となった。同じ年の2月にはあさま山荘事件で連合赤軍が機動隊と銃撃戦を演じ、武装闘争で手柄を競う日本赤軍が焦って決行した様相が強い。要するに人間を無視した自分たちの独善に基づく行為で、新左翼運動を根底から破壊したと言えるが、私は怒りに体が震えたのを今でも覚えている。そんな時、自分にも思うところはあると書きなぐったのが、この詩紛いのモノ。イスラエルの国家を否定するのではなく、パレスチナ人にも自治権がある、と単純に考えたところから出たものだ。今もその考えに変わりなく、イスラエルとパレスチナがそれぞれ独立を認め合う二国独立解決策が唯一のパレスチナ問題解決の道だと思う。私は1967年に六日戦争が勃発した折、高校生の正義感から小さなイスラエルを寄って集った攻撃するアラブ連合が許せないと真剣に義勇兵志願を考えた。実際は小さなイスラエルが近代兵器、特に空軍に物言わせアラブ連合に壊滅的な打撃を与えたのだが、その時から中近東の複雑な地政学的現実を知ることになった。

“パレスチナの平和とは?”

渇いた大地
ひび割れた空に
闘いは組織された
パレスチナに平和はない

枯れた草木
酷しく荒む風
闘いの中に立つ
パレスチナに自由はない

三名の自称革命戦士は
二十六名の無名の人々の
命によって
反革命に堕ちた
お前たちはその結末を引き受けるべきだ

風が再び
さわやかに頬を撫で
空が再び
鮮やかな星の輝きに満ち
大地が再び
平和と自由の草木を
取り戻すのは
パレスチナよ、いつだ

5.
こういう実験紛いのこともしていたようです。字句をすべて点で区切ると通常とは異なるリズムが出る。マヤコフスキーは詩は最初のリズムから生まれる、と言った。マラルメによれば最初の一言は天からの授けもの。私には無自覚な生産過程だったが、無意識にリズムを追うということはしていたようだ。点を抜いたものを下に補足しておいたが、よろしければ比較してみて下さい。

“連帯を求めよ”

空、翔る、鳥に、向かって、詩え
私達の、起ちて、在る、現在、を
恥じろ、呪え
生きる、こと、への執着
そんなに、醜悪か
むしろ、
死へ、の、逃避行、を
笑え、泣け

よみがえった、労働階級は、
昨夜、の、悪夢か、幻影か、
は、は、は、は、・・・・・
私達、に、生の、希望、は
無縁、か
ならば、
闘へ、有機的、結合、に、向け
連帯を求めなければならぬ

<補足>
空翔る鳥に向かって、詩え
私達の起ちて在る現在を
恥じろ、呪え
生きることへの執着が
そんなに醜悪か
むしろ
死への逃避行を
笑え、泣け

よみがえった労働階級は
昨夜の悪夢か、幻影か
は、は、は、は、・・・・・
私達に生の希望は
無縁か
ならば
闘へ、有機的結合に向け
連帯を求めなければならぬ

6.
自分を失い掛けている焦りは弁明を求め、理念への捨てがたい執着に引き摺られ、またぞろ迷路地獄に堕ちたようだ。
 
“弁明”
 
就中、それが宇宙船であったとしても
私に血の脈動を伝えるには
遅すぎた
私の血は北極星の真下で
今は流れようとせず、凍てつき氷結している
 
ただ、私は南の島には瀬惰と弛緩しかないなどと
差別的な言動は決してしないように
今は容易周到に警戒的だ
椰子の木の陰で微睡む真昼の怠惰を
葉巻を燻らし踏ん反り返る
誰かに譲るほどお人よしではないのだ
 
<再び>という言葉が
自己の無為と勇気の欠如を
夜明けのヴィーナスよりも端的に
鮮らかにしているように
失われた山河よ
IMAWA私に土と誇りがない
 
それにしても労働階級だが
二次方程式では解き得なくなった
二十世紀後半の世で
決定的に迷路地獄を恐れている
 
なにわともあれ<生きよう>
それでいいのだ
弁明を恐れることはない
気恥ずかしくとも
<ぼく>は女々しく言い訳する
それこそが断固として人間的であり
確実な生の証なのだと
 
ブレヒト風に弁証法的教訓:
<サトウキビ畑>の住人は
本当は<カライ>ものが好きに
なる素質を持っているのかも知れない

7.
毎日生きることからその意味がボロボロ零れ落ちると、何もかもがお笑い草に見えてくる。虚無への一歩手前に至ったのだが、その深淵に堕ちるのを辛うじて遮っているものは、何なのか。その意味を問うこと自体が、生きるということなのだろう。
 
”お笑い草の日々“
 
力強く傲慢に軋轢音を軋ませながら走り
去る夜汽車、放射する光を通して見る
車窓の人々は不安か。何本も横に走る直線は不退
転に前進する。だがしかし、私の目は憎悪の視
弾を飛ばすだけ、深く沈潜していく魂は決して
走ることも飛ぶこともできないのだ。今は街灯
の下でただ弱い光を反射するだけの鉄路は君か

朝が夜に転嫁された私の労働は
私を労働階級に誘う代わりに
魂の沈潜を結果したとは
お笑い草だ
女の股に私の股を近づけ
どうも、君は燃えないねなどは
お笑い草だ
 
夕餉の支度に忙しい未婚の母は
この子の将来は私さ
と快活に笑う
それだけで救われる私の魂も
終に笑い飛ばしてくれ

長病いはきっと蘇甦する自己
長期に渡る健康は
きっと腐食する自己
豊かに優しい心は
きっと欺瞞の自己
 
でも
きっとその逆も正しいなどと
誰にも言わせない

8.
知性と感性の導くままに明日を求め、新たな創造の世界に赴きたい。そこに展開する風景は私が描き出す無限の宙空であったり、ひらひら極彩色の蝶が舞う街の公園の昼下がりだったりするのだろう。願わくば今しばらくの間お付き合いいただければ幸いです。

“私は快活に元気だった”

私が街を歩く
それは昼下がりの陽光を浴びて
私には背中に目はないが
私は街を歩く

何故か陽気に
即興の詩を唄いながら
天上にはきっと星が君臨しているのだけれど
何故か観えない、視えない

昨日も快活に
私は元気だった
一昨日も快活に
私は元気だった

お規則りの背広を被て
私には裸足なんて耐えられないのだ
鏡の中の自分は
迷路地獄

迷い堕ちて地獄の入り口に立つ
やたら咳の止まらない午後
駆るということについては
誰でも
一抹の不安と
代償の約束されぬ魅力を感じる

それにしても君は
時を穫るか
それとも未来か


FB詩集「初期詩篇 出発」 東 洋

2023-03-09 03:34:40 | 日記
1.
‐ここに私の詩の出発点があった。

 魂の断捨離を始め、6年ぶりにドイツから帰国して書き溜めていたものを見つけ、FB詩集「1981年 帰国」(https://blog.goo.ne.jp/nichidokuinfo)に纏めると、次は大きく遡り1968年に始まった私の詩作の原点を発見しました。そのままでご笑覧願いたかったのですが、さすがに人目に堪えるものではなく、それを原石として、鑢を掛け、少しワックスなども塗って、店先のショーウィンドーにFB詩集「初期詩篇 出発」東(ひがし) 洋(ひろし)としてこれから定期的に並べてみます。通りすがりにちらっと眼を向けていただければ幸いです。‐

 “1968年5月のパリ”
カルメン・マキは海から来た
低く冷やりとする歌声で
母はいないと歌いながら
なら僕は?
僕は母なる子宮の奥
四国の山深く静かに夢を貪っていた
原始に眠る鎮守の森から
やって来た

場違いは覚悟の上
自由を求め、自由こそ僕の恋人と
寂しさに堪え
熱く、遠く
叫びながら

自己満足と言う狡猾な落とし穴の
その下の深淵に
キャンパスの日々は広がっていた
汚染された湖は腐臭の激しいエメラルド色で
それこそが
川をどす黒く変え、
視界を遮る冬の町は息ができない
不健康な社会の偽りの日常だった

科学という欺瞞に嵌められた僕は
辛うじて自己否定に救われ
病んだ湖の上
揺蕩う浮袋に
紫色の唇を添えて
一人寂しく
身を保っている
だが
生き延びても帰る故郷は最早ない

風景がオレンジ色に気怠く染まって
墜ちて逝く夕陽に嫌悪する
現代は甘ったるい夕暮れ時だ
反乱せよ!
僕たちは傷つき打ちのめされても
未来を創造するんだ
と大きく叫ぶ

やけに明るい光線が
目障りなバーミリオン色で
道先案内
耐えがたい痛みに
視線を焼かれ
夕闇迫る街角を曲がると
いきなり出くわした
場末のみすぼらしい路地が
街灯の下で
丸く賑やかに照らし出されていた

袋小路の入り口に
何故か築かれた
人影絶えたバリケードの上に登り
凍てつく暗雲の透き間から
光が漏れる蒼穹に向かって
自由は僕たちの絶対の武器だ
と叫ぶ

1968年五月のパリ
僕らは
大学と言う飼育箱の中から
自由を求めて
旅に出た
さらば科学を売った教授諸君!
君たちは権力に魂を抜かれた
瘡蓋だらけの番犬でしかなかった
清々しく自由あふれる五月のパリで
若者たちの夢は
緑に輝くそよ風に乗って
君たちを
色彩豊かに粉砕するであろう!


2.
‐下の詩を書いた時、私はまだハンス・マグヌス・エンツェンスベルガーの存在さえ知らなかった。ましてや西洋の詩人など精々ボードレールの「悪の華」やランボーの「地獄の季節」の題名からその無頼に魅かれただけだった。しかし、宿命のような偶然とはあるもので、エンツェンスベルガーの処女詩集は「狼の弁護」、そこに後ろに私訳で掲載する詩が収録されていたのだったが、私の修士論文の対象の一つだった。‐

“ベルトの皮”

オオカミがオレの背後に回ったのを感じる
襲撃の瞬間
奴はオレの運命を舌の感覚に溶け込ます
むしろ反撃か
しかし、オレに武器はない
恐怖からの脱走をこそ勝ち取れ!
オレの魂が卑猥で陰湿な口実を流し込む
畜生!オオカミの野郎
オレの性質(たち)をお見通しだぜ
奴の牙が
オレの瞳に悪魔のシルエットを映し出した
喜ぶのは早い
お前の狡猾さはこちらもお見通しだ
そんじょそこらの兄さんとはオレは違うぜ!

奴のニヤリと笑う目は
恍惚としている
酔っちゃいけねぇ
殺戮は冷めきった感情でやり遂げるんだ
オレとて生きもの
延命こそ生まれ付いた本能と知れ
無抵抗で殺られると思ったら
見当違いも甚だしい
そうだ!と
腰に巻いたベルトの皮を引き抜き
オレの絶望を眠らせた
覚めよ!
そして
ベルトを鞭うならせ
オオカミに対峙せよ
誰にも頼るな
力はお前の中にしかないと
心得よ
それこそが生き永らえる力なのだ!

・・・・・・・・・・

ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガー処女詩集「狼の弁護」から

“小羊に対する狼の弁護”

ハゲタカに忘れな草でも食らっておけ、と言うのか?
お前らは何をジャッカルにしろと言うのだ?
脱皮しろって、オオカミから?それとも
自ら牙を抜けと言うのか?
何がお前たちには気に食わないのだ
ソ連の政治将校や教皇の
何をお前たちは呆けたように
偽りばかりのスクリーンに見ているのだ

将軍のズボンに
血痕を縫い付けたのはどいつだ?
誰が高利貸しの前で
去勢された雄鶏をばらすのだ?
ブリキの十字架を偉そうに
ぐうぐうなる臍の前にぶら下げているのはどいつだ?
誰がチップを受け取り、
銀貨を口止料と懐に入れた?
盗まれるマヌケは多いが盗人の数はしれている:
奴らに喝采するのはどいつだ?誰が
奴らに勲章を授けるのだ?ウソを渇望し
首を伸ばして待っているのはどいつだ?

自分で鏡を見ろ!だらしない
おどおどして、真理の難しさ
学びを嫌い、考えることは
狼どもに任せっきり
お前たちの鼻木は高価な飾り物
バカバカしくて騙す気にもならない、安っぽすぎて、
慰めもない、どんな脅しも
お前たちには甘すぎるのだ
お前たち小羊ども、お前たちと比べたら
姉妹たちはまだカラス:
お前たちは次々と目を眩まされる
兄弟愛はオオカミどもの
掟なのだ:
奴らは群れが行動原則

褒められるべきは強盗達:お前らは
強姦に招かれて
怠惰な服従のベッドに
身を投げ出すのだ、めそめそと
お前たちはまだ弁解がましくウソをつく、気が触れ
分裂する、お前たちが
世界を変えることなどあり得ない

3.
‐今年度(2023年)教科書は1200カ所訂正させるそうです。そんなことに費やするエネルギーと金があるなら、子供に発言力をつける訓練をしろ、と言いたいですね。詳しくは下注記をご参照願います。
ちょっとこじ付けですが、この件に合わせ、東 洋FB詩集「初期詩篇 出発」の第三作を下に掲載します。検閲など知らない、好き放題に考えて育った二十歳の時のものです。その傲岸さはいただけないかも知れませんが、若気の至りとご容赦を。期待したいのは、内包する破壊力(があると信じたい)で、恐らく読む人は恐れおののき、手に取っても火傷をすまいとすぐ放り出すのでは?ちょっと自惚れが強いかも知れませんね。でも、この程度のものを手に取れないのでは、何とも肝っ玉の小さい視野の狭まれた哀しい存在ではありませんか?もっと自由におおらかに生きませんか。一度手に取って、こんなものと思ったら壁に投げつけていただいて結構です。‐



”上下左右の果てしない団交“

僕達にとってそれは何もなかったことと同じだった
奴等は必死になって僕達を告発した
しかし、次元の異なる空間は時間を無にした
奴等は生きていた
汗臭く、口角に泡をため、つばきを飛ばした
僕達は何も答えず、ただ沈黙していた
時々仲間の欠伸が奇妙に僕達を刺激した
奴等はその度に大声で怒鳴りわめいた
高い窓から一条の光の白線が斜めに横切って
向いの壁に突き刺さっていた
一段高いところで奴等は蝶ネクタイを締め
苛々しながら歩き回っていた
僕達は一列に黒く鉄のように冷たい木椅子に座っていた
椅子は五段の扇状に天井に向け据えられていた
座ってバランスを取るのは容易で
垂直に座っていることに
誰も気付いていなかった
誰かが、知らぬが仏、とくっくと笑った
皆同じ服装だった
黒一色のシャツとズボンがよく似合うと言い合っていた
ズボンはこれも黒の紐で結ばれていた
何かも黒だった
檀上の奴等は黒いピラミッドの壁に向かって怒鳴っていた
その中でランランと輝く百三十一個の目と二十四個の
鈍い卑猥にチラつく目が向かい合って
糸の端と端を結ぶように複雑に交差していた
僕達の仲間には片目が一人いたのだ
奴等は喋り疲れて今では全員が
一列に真っ赤な蝶ネクタイを並べ
クッションのよく効いた椅子に深く重く沈んでいる
僕達の黒い乾ききった沈黙と奴等の赤い饒舌が
長く鈍く支配した
時間は空間の中に溶け込んでその存在価値を喪失した
突然頂上に座った片目の女が
鍔の眼帯に手を当て静かに喋り始めた
「提案します
皆さん非常にお疲れのようですので
次の機会を持ちましょう
明日を忘れる革命はそれまで取り敢えずお預け
ということで冷凍しておけばよいと思います」
全員賛成、明日を冷蔵庫に閉じ込め
昨日を引き摺り続ける
その行き着く先は
裏切りの明るく陽気な地獄?
それとも、親切の押し売りに微睡む無味無臭の天国?

注記‐教科書検定とは要するに検閲のこと
お上が国民の言語を管理しようという魂胆だろうが、無益この上ない。現代の国語に小説が入っていれば生徒の国語能力が落ちるという科学的根拠はあるのか。我々は契約書や法律など社会に出てから初めて出会ったが、それで困ったことはない。
小説を読み、十分に表現力をつける。あらゆる思考能力の基礎は読書量で培われる、とどこかの言語哲学者が言っていた。ドイツの学校に日本のような国家が検閲で通した教科書はない。大体のガイダンスはあるが、それぞれの教師が同僚と相談しながら、小説中心にディスカッションで思考能力、分析力、表現能力をつける。生徒はそれぞれが思い思いの自分の理解したことを投げ出し合い、物の見方の多様性、真理の相対性を学ぶのだ。その結果が創造力につながる。人前で自分の考えを述べることにも臆さない。
日本の子供たちは必ず正解があり、それも一つだと教え込まれているから、自分の考えは間違っているかも知れない、とほとんど発言しない。その間違っているかも知れない発言の貴重さにも気づけないし、間違っているならディスカッションで訂正すればいい、という気持ちの自由な愉快さも知らない。そうして、想像力の貧しい、活力もなく覇気もない大人になり、使いやすい会社人として利用され、褒められ、結婚もせずに一生を終えることになるのだ。日本の国民はこんな哀しい人間を生み出しているのが検閲制度だということにいつ気づくのだろう。

4.
‐こんなのもありあました。これまで、と言ってもたった三作の駄作ばかりでしたが、政治色が強いのは時代の想念を写していたと、ご寛容の程を。これも若い日の不安、不信、孤独との戦いだったのでしょう。‐

“壁が・・・、灯を絶やすまい”

なんだか胸騒ぎがする
三十分間の沈黙が緊張感を急激に押し上げたようだ
・・・まだ・・・ない
しかし、必ずあるはずだ
私には衣づれの音が
あのいやらしい脅迫するような音が
耳を撫でたのが解る
すべては会話の中にあるのだ
猥雑な言葉が暗闇の中にねっとりと流れてくる
私と奴等を仕切る薄い日常性の壁では
それを遮るのは無理なのだ
奴らの世界が私の世界に
暗黒のナパーム弾を投げ込もうとしている
暗闇が奴等の唯一の武器なのだ
・・・灯を絶やすまい

5.
‐これも二十歳の記録。時の想念の言葉が無批判にほとばしり出ていて、今から見ると面映ゆくなる。ただ、この活力は殆どが受け売りの言葉によるものとしても、歴史に対する楽観的信頼があったような気がします。今の空気を読んでその場の雰囲気でうまく立ち回ることを良しとする若者たちには爆発する言葉で未来に向けもう少し破天荒になっては、と言いたいですね。‐

“それでも歴史は時を刻む”

あるいはこれが政治というものか
一点突破全面展開はオレたちの論理ではなかった
当局の執拗な弾圧はオレ達を追い詰めていた
固く結ばれた革命の糸
・・・一点突破全面展開
当局は権力の暴力装置をオレ達に向けた
照準は既にオレ達の心臓をとらえていたのだ
当局の苛立ちは失策を隠ぺいする単なる正当化でしかない
“集会を開いている皆さんに伝えます。構内での他大学の
学生を交えた集会は禁止されております。他大学の皆さんは直ぐに構外に退去してホシイ。退去しない場合は
不退去罪で検挙されます“
最後通告・・・何が最後なのか
オレ達にとって時間とは空間を持たないものなのだ
またしても・・・今度は退去セヨときた
一刻も猶予しない
冷酷無情のオレ達に対するレッテルが
己の鏡に映ったことに気付かないのが面白い
権力の番犬は薄汚れた足で駆け込んできた
素晴らしいスピード
連帯の糸は決して切れないゴムひもであることも知らないで
奴等はオレ達を蹴散らしたことに満足した
あまりにも非論理的な自己満足
ほくそ笑んだ番犬の横顔に
無色透明の革命的オシッコが
無知とは奴等にとって幸福の同義語らしい
茶番劇的勝利で奴等は生活の糧を得るらしい
それにしても何たる非論理的勝利
時計は五時を指さねばならない。そして六時を、・・・七時を
奴等はそんなんことに何の注意も払わないだろう
そしてそれこそが奴等の革命的勝利であり
当面、俺たちの革命的敗北となるのだ
それでも時は歴史を刻んでいる


6.
‐下はまだ自然が正常だった1970年のもので、若者は病的孤立と悲哀を装い、自己陶酔できたが、現代の若者たちはラスト・ジェネンーレーションのように未来への不安と焦燥に慄のかされ、強力粘着剤で道路や滑走路に手を貼り付け、地球の温暖化に抗議しています。我が家の小庭にはもう(二月下旬)クロッカスや雪割草が花開き目を楽しませてくれますが、素直に喜べません。‐

“恋するマルカ“

マルカがやって来た
歌声に乗って、緑色の長い髪を風に包み
君は僕の世界でただ一人共存を許した女(ひと)だ
君の苦悩に波打つ深い緑髪は
僕の心に安らぎを与える
そう
君は苦悩などしない女だ
だから僕はせめて君の緑髪に鏡を想定した
僕にとってマルカ
君は木洩れ陽のようにちらちらと
目を眩ます光の束だった
一つの鮮明な残像は
一つの影で分断されている
«きっとマルカは僕を知らないだろう»
深い街の谷間でふと見つけた小さな泉はマルカ
君なのだ
行きずりの彷徨い人が美しい色白の少女を見初めたとて
世界は変わりはしないだろう
«マルカは時々微笑んで僕を凝視めた»
マルカ
君を知ったことで僕がどれほど苦しんだか
解るだろうか
それは
長く果てしない旅に再び出発しなければならない
街角の出会いだった
荊の道は怖くない
しかし、君が僕の世界から逃げ出さないため
荊の道は避けなければならない
そうなんだ、マルカ
僕と君は共存してるんだ
それから三か月後に僕は知った
マルカの中で秋が甦ることは期待できない
キミはいつも新しいものを求めているから
キミの中に蘇生する秋は季節外れのヒガンバナ
ボクがキミと共存しているのは世界の曖昧でしかない
‐そう誰かに殺戮のバラードをリクエストしよう‐
紅葉が紅く染まるのはお前の為ではないんだと
哀しいね、マルカ
若いということは・・・

7.
‐この詩(紛いのモノ)も、私の拭えない過去なのだろう。二十歳の感傷には常に理由のない怒りが内包されている。怒りと焦燥、孤独に耐えることが若いということでもあると信じていた時期があった。群れを求め、人の顔色を窺い、空気を読んで個を潰していくのが世渡りの上手な人間のすることだというのは今も昔も変わらない通念だろう。だからこそ、若い時には“開き直る”勇気がいるのではないか。民主主義というのは平和のルールの則って激しく衝突することだ。既成の価値体系は手を拱き、能書きを垂れるだけでは崩すことは出来ない。二十歳のやり場のない理不尽な怒りを思い出し、自戒を込めて。‐

“そんな故郷などイラネエヨ”

快く耳をなでるのは鈴虫の鳴き声か
大地の緑だけが自然を彩るのではない
シンフォニーを奏でるのは
その中で生まれ生きるものすべてのもの
その真っただ中にいる僕は
もっとも美しく彩られ、自然とともにある
それにしても鈴虫
耳をすまそう
そう、研ぎ澄まされた感覚が必要だ
リンッ、リンッ、リンッ・・・つんのめるように
あるいは流れるようにかも知れない
一定の間隔をおいて休息する
僕にも休息が必要だ

故郷の山の中では家全体が自然の中にあった
青大将は天井で真昼の夢を貪り
鼠は物置で食生活の改善に忙しい
そして鈴虫
記憶の断章、忘れてしまったものを思い起こすと粉飾になる
リーッ、リーッ、リーッ・・・これだけは変わらないだろう
一定の間隔をおいて
しかし、僕には休息など必要でなかったのだ
あの故郷に帰りたいか
君は

秋のフィーリングは忘れられた裏の小庭から
夜のはざまに星の焼夷弾が咲きこぼれている
七〇年の秋には・・・
そうだ鈴虫
リッ、リッ、リッ・・・もう僕にはこれだけしか書けない
のだろうか
感傷に溺れ、偽りの涙を流す
お前の孤独は嘘だ
一定の間隔などくそくらえ
オラー、オメエ、ヒラキナオッテヨ、ケツマクルンダ
そんな故郷などイラネエヨ
行き場を失った怒りを背負って
僕は今日
旅に出るんだ

8.
‐二十歳というのは空の袋を下げて手あたり次第見つけた言葉を放り込み、内容など無視してそれを組み合わせ、日々の生活を満たしている真に無責任な存在と言われても仕方がない。しかし、社会はそんな存在を若者の特権という用語で容認し、あまつさえ社会を変革し発展させるための不可欠の存在として認めていた時代があった。それはまた若気の至りとして自己の失敗を諧謔を込めて反省する自己保存の道を開いたが、昨今のマニュアルにそって冒険も葛藤もない出来合いの人生を送ることを若者の理想とするようなイデオロギーとは真逆の姿勢であった。うまく立ち回ることが賢い人間の世渡り術と称賛する社会からは何の刺激も発展も生まれない。日本の若者は大人しく物分かりがよくなり、その代償に活気が失せ、覇気が影をひそめて、世のオッサン、オバサンが後ろ向きで社会を仕切っているのを甘受している哀しい存在になってしまった。下の詩はまだ二十歳の若造が精一杯背伸びをしながら書き落としたものである。そこには落書きと言われても、本望よ、とうそぶく強かさがあった(気がする、自分のことなんで・・・補足)。‐

“秋になってオペラ風に唄いながらブレヒトに捧げる冗談”

赤い柿が店頭でこちらを向いて笑っている
だけどおいらにゃ金がない
‐ねえ、おにいさん、食べてみない。甘いわよう‐
赤い柿が呼び掛ける
だけどおいらにゃ金がない
‐ねえ、おにいさんったら、うまく熟れてるでしょう‐
その時店頭にオヤジが出て来た
強欲そうな赤鼻だんごに汗の玉をのせて
‐この野郎、まだ売れねえで無駄口たたいてやんな‐
赤い柿は黙ってしまう。口元には嘲笑ぶら下げて
‐ねえ、そこのおにいさん、お金なんていらないからさ‐
赤い柿が喋りだす
‐だって、おめえ、それじゃおいらの男が立たねぇ‐
赤い柿は笑い出す
‐それじゃ、おにいさん、あたいを食べたら、あの糞野郎
に種をぶつけておくれ‐
そこでおいらは柿のたっての願いを叶えてやった
オヤジは柿の実をまなこに受けて、泡を吹きながら
死んじゃった
教訓
-おやじ、心臓病んでたんだってよ
-己を知ることが生き延びる唯一の方法である
-金はワザワイの元、というのは嘘だ

9.
‐若いということは空虚な自分を日々に飛び込んでくる言葉で満たそうとしてる絶望的な闘いの場なのだろう。ただ、言葉は一旦発せられると発話者自身を規定し始め、好む好まないを問わず、その責任を背負うことを強いる。その言葉に導かれ未来の自分を築いているのだが、恐ろしいことだ。反省すべきはまず自分の発した言葉についてだろう。下の詩もそんな足搔きが窺がわれ、若いということの残酷さが私には辛いですね。‐

”独り“

街の中に君の姿を見つけた時
僕は思わず物陰に身を隠した
見られてはならない
この敗惨の姿を
しかし、鷹とも見紛うほど君の眼力は素晴らしかった
«あなた、何してらっしゃるの?»
僕の恥辱が君の精神の豊穣を約束するか
しかし、僕は君に応えようなどとは思っていなかったのだ
君の優しい眼差しは僕にとって苦痛だ
«君の緑髪が僕の奈落を想起させる
手は差し伸べないで欲しい»
梧桐の葉が枯葉色に染まったまま
生きることに執着している時
僕は惰眠を貪っていた
そして、それは正しかったのだ
政治は生きることを教えはしなかった
しかし、生きるためには何が必要か教えた
それは占領された聖地の奪還ではなく
その解放だ
そう、生きることは解放されなければならない
«あなたのおっしゃることはよく解りません»
そう、三千王国の如来を待つ人にはわからない
僕らの建設は
不浄の精神の破壊を伴わなければならない
歴史の逆説を黙認することの怠惰を戒めなければ
僕らにとって
一切の加担はあり得ない
«君には総体的な美が欠けている
それを僕は許すことができない»

10.
これもまた若い時のアイデンティティを探す絶望的な闘いの一コマですね。なぜ、突然こんな異国趣味の名前が出てきたのか。恐らく日本人としての限界を超えるために、異国風の名前に縋ったのでしょう。当時は学生運動がピークの時で、我々も読書会や勉強会で必死になって時代の想念をつかもうと足搔いていました。マルクスやレーニンの著書もその中にあり、イェーニというのはマルクスの長女イェニーを書き間違えたものと思う。イェニーはマルクスが最も才能があり、美しい娘と自慢していたので記憶に残っていたのでしょう。名前はどうでもよかったのですが、読書会で読んだ伝記の印象から彼女の名前が浮かんできたものと思います。
それとは別に、ここにはまだそれこそ何もない自分を埋めていく概念、人の姿、風景、イメージが危うい言葉で書き留められているが、それはいつの日か自分の一部になる、という恐ろしさが内包されていることには気付いていない。不安定に流動しつつ流れながら、知らず知らずに徐々に固められていく自分があったのですが、それも先日書いた若者の特権の一つでしょう。

“イェーニ”

灰色の嵐が冬の街を疾駆しいるとき
僕のイェーニは暖炉の前で肘掛椅子に座っていた
彼女が糸球を床に転がして
僕の手袋を編んでいるのは
僕が彼女に捧げた愛の代償ではない
«イェーニ、お前が僕の手袋を編むことを
                僕は人前で自慢しているんだ
                だってそれはお前の僕に対する自然だからだ»
彼女の屈託の無い笑顔は僕の冬を吹き飛ばし
限りなく美しい春の園へと誘い込む
«あなたって、なぜそんなに私をみつめるの
      私の全てがあなたのものであることを
      一度だって私は疑ったことがない»
そうではないよ
僕はイェーニの中に僕の愛が蘇生するのを
見つめていただけなんんだ
昨日の愛がイェーニの中でどれだけ
あたらしいものを誕み出したか
僕は知りたいんだ
それは僕の君に対する責任なんだ

11.
‐これも前作と同じような感情から生まれたものでしょう。‐

“ニーナ”

酷寒の街の中
独り彷徨っている僕のニーナ
渇いた風が君を凍てつくすようにしっくしている
激しい戦いの一段落が
僕の中に永遠の安らぎを
夜這いをする青年のように巧みに侵入させようと
激しく渦を巻きながら虎視眈々と狙っている
«ニーナ
待ってくれ
行かないでくれ
君を今喪うと僕は生きていけない»
葉の落ちた冬枯れの木枝の間を
暖かい春を呼ぶ
冷たい小鳥たちが
はるばると露西亜からやって来て
間断なく飛び交っている
«ニーナ
僕の春を!
君の温かい春をくれ!»

12.
‐二十歳を過ぎて私は日米安保条約、ヴェトナム反戦から公害にテーマの焦点を合わせ、仲間と水俣病、瀬戸内水質汚染、四日市喘息などに取り組み、京都で月刊地域闘争の創刊にもかかわった。そんな時の記録の一つが下の詩です。
今なお地球の温暖化で二酸化炭素排出が問題視されているが、日本は1972年に環境保護運動に押され当時世界で最も厳しい公害防止基準を規定した自然環境保全法を策定、大都市からスモッグが消え、メタンガスのぷくぷく浮かぶ真っ黒な川に魚が帰ってきた。‐
ただ、そこからクリーンなエネルギー源というメルヘンのシナリオで原子力発電にシフト、我々は伊方原発建設に反対したが、自民党政権の原発神話に惑わされ2011年フクイチ過酷事故を生むまでに54基も原子力村の建設を許してしまった。今また、核廃棄物の最終処理場もないまま、自民党はウクライナ戦争によるエネルギー危機を口実にトイレのないマンションの原発再稼働を推し進めている。
日本の国民はいったいいつになったら、この利権にたかる自民党後援会のど田舎(汚い言葉は承知、実態を明確化するには避けられないのでお許しを)のオッサン、オバサンが仕切る政治に終止符を打つのでしょう?!

“公害“

咳をすることも
痰を吐くことさえも
許されず
人々は灰色の異郷で
得体の知れぬ悪霊に
喉笛を掻っ切られて
それでも
真紅の人間の血を流すこともなく
どす黒い液体を
薄汚く垂らしながら
生きることも死ぬこともできず
ただ足を引き摺っている
死ね!
冷たく光る金属質の目は
その人々に叫んでいる
死ねぇー!

13.
‐この詩でもって私のFB詩集「初期詩篇 出発」は終結です。つまらないラクガキに我慢強くお付き合いいただきありがとうございました。‐

” 私を捨て去ろうとする<SEISHUN>“

烈しく燃焼する生
私を捨て去ろうとする<SEISHUN>
・・・勇気が欲しい・・・のだろう・・・か・・・
私は!
美しいものへの憧憬
つまりそれは階級的に美しいもの
傷ついたプロレタリア戦士に
私は美を送ることを惜しみはしない

銃後での<戦闘>
そんなものを認めない<私>でありたい
それでも・・・
勇気がないのか私には!
躍るように弾き飛ばされて
私から去って行く<SEISHUN>
優しくある自己に誰が異議あろう

二十二歳であることに恥辱を感じなければならない

FB詩集 「1981年 帰国」

2023-02-12 03:07:16 | 日記
前文に変えて

ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガーからの手紙訳:

Trans Atrantik, Sternwartstraße 1
8 München 80
Dem 4. Dezember 1981

拝啓 宮崎様、
インドを彷徨った後、願わくば無事日本にご帰国のことと思います。あなたの卒論に私はとても驚嘆しています。ご承知のように文学研究がもたらす仕事はほとんどすべて退屈なものばかりです。大学で本当に文学に興味を持ち、あまつさえそれが読める人は大変珍しいものです。
あなたの方法は大変印象深いもので、その理由はまず第一に読むと言う(そしてそれは書くと言うことにも該当)経験の認識に本当に光を当てるものだからです。このような試みを私は未だどこでも見たことがありません。研究の結果が私にはとても気に入りました。と言うのは私がいつも推量し、期待していたこと、即ち様々な人が一つの同じテキストを基に様々なことを行い、個々の能力と欲求によって第三のものを生産することが出来ると言うことで、それは、唯一“正しい作品の解釈”などあり得ないことを意味すると言うことだと思われます。それが重要なのは文学の自由のため、そしてそれを必要とする人の自由のためだからです。
もちろん我々二人とも、そこから何が結果するのか、知りません。貴殿は文学教授にでもなるのでしょうか。これからどんな予定なのか、お聞きできるのを楽しみにしています。
今日は一先ず感謝を込め、あなたの未来にとって幸多いことをお祈りいたします。敬具
ハンス・マグナス・エンツエンスベルガー(サイン)


“中流意識”

そうだ!
と叫んで幼児は笑顔を嚙み切った
右傾化、保守化、事勿れ主義
イタリア製のバッグに
ヤンキー気質のコピーを詰めて
日本庭園を
気取って歩く、千鳥足
にはお気づきでは
ござぁませんでござぁせんようでござぁすわよ

こうだ!
て断言などしない君たちって
とっても気持ちがよくって
どっちだっていいみたい

優しんだってネ
よく気がついて、他人の嫌がることなど
ズボンが裂けても口にしないって?
ブランド品なら別だけどさ
“ガクラン“でツッパッテる君たちって
猿芝居のサルみたいで
とってもカッコいいよ
十人十一色
服飾デザイナーの腕のみせどころだ
ダウン・ウエアってのそれ?

人工芝の張られた
君の中流意識とやらは
どこのメーカー品?

なによりも勤勉で
親切が集団登校している
日本の土手に
早朝
朝陽に映える銀の雫はまだ戻ってこない


”傘を差して生命を育む地球よ”

だから
今日も一日中時間を食って寝ていた
週末がセリにかけられ
核弾道に乗って未来より飛んでくる

安すぎるよ
たかが十数か国の豊満国の為に
何億年もの生存権を手放すなんて

地球よ
お前は青く、みずみずしい
宇宙に唯だ一つ
傘をさして生命を育む
私は見たことがないが
水もしたたる美しさだそうな

そんなお前を
一握りの怪物ペニスが
腐ったルーブル(ドル:1981年現在)を射精し凌辱している
させている僕たちを
お前は
許してはならない

ラジオからは楽しそうな会話が
髪の長さについて
女と男の間を行ったり来たりしながら
続いて聞こえる
だから
今日も一日中時を食って寝ていた

週末確かに近づく終末の衣づれの音に
耳に蓋して
今日も
一日が終わる


„そんなに急いで何処行くの?“

そんなに急いで何処行くの?
時間を追い越し
広野を囲繞して
人は愛を放棄した

筑波に木霊した遠い日の相聞歌が
プラスティックの金庫に閉じ込められ
蒼白に呻く
感性の剝製が
いにしえ“モノ”に心を震わせた
“物”に
他者を見るような眼で見られる

“人間の皮を被った狼に”
にはまだ温もりがあった
この“物”には
魂の感性も宿らない

そんなに急いで何処行くの?
長針が短針を追い掛け
時間が分を弾圧し
秒の出番はせいぜい競技場ぐらい

一瞬風鈴を撫でたそよ風に
秋の到来を読み取った日々は
教室の古典の時間に
押し込められて
窒息寸前だ

毎日六時起床
夜八時を回らないうちは工場を出ない
分を弁えない家を建て
子供達を有名大学に入れて
何故の為にと
自問する前に
風呂に入って満足する
“オーイ、ズボン下!”
“ハーイ”


“ハードロックを聴け!”

疾走するロックのリズムを視線で追って
真赤な世界に突入した
抑え込まれた夢と希望が
一瞬
大音響を発して炸裂した
ド、ド、ド、ド、ド、グヮアーン!

旋盤に挟まれて
鑢を掛けられた私たちの心は
今一度
突然 掘りたての
四角張った荒々しい硬質の原石
に変貌する
ドドッドドッドドッドードッ!

事務机の上にけち臭い広野を描いて
昼下がりの夢を
駆け巡らせるだけのお前は
ただの机上のプレーヤー

先輩の助言を鵜呑みに
また
課長に背を向けアカンベェして
ジョイント吸いにトイレに立つ
“出世しなきゃ、どうせ一生
ここでシケコムんなら“

荒野の四つ辻
大きな樫の樹の下
緑の髪をなびかせながら
東に向かう少女に出遭って
下を向くお前は
一度ロックを聴く必要がある
ハードなやつを
グヮーン、グヮーン、グヮーン!


“山門のタイムカード”

忘れたのだろうか?
喪ってしまったのかも知れない
じゃ、もともとそんなものはなかったのだ
幻想、危険だよそんなもの
夢なんて見るもので信じるものじゃない

夢を食って生きている漠は
結局夢を毀しているに過ぎない
きりがないよ
次々と新しい夢を捻り出して
最後にネタ切れ
草臥れ損、無駄なことはよして
現実
を見なさい

早朝六時半起床
七時十五分発の電車に飛び乗れば
夢が乖離する
朝陽が
郊外の冬枯れの畑を照らして
労働がいかに無駄なことであるかを
教えている

ここにももうすぐ分譲地が
ここにももうすぐ三十年ローンが
ここにももうすぐ家庭の確執が
そして
もうどこにも
朝靄をついて托鉢に出る雲水はいない

タイムカードが
山門の入り口に取り付けられて以来
仏が証券取引所の掲示板に
日毎
新値をつけて売りに出される
今が買い得分譲地
今が売り時お前の思い出


“高貴な方々に寄与する”

事情と言うものがあるんだって
事実とは違うんだよ
事実を裁く際の
最良の弁護を務めるのです
もちろん
弁護士にはそれぞれ
専門分野がありますよね
事情が得意の分野は
言うまでもなく汚職でしょ

“公衆の面前で事実を語ることが出来ない
事情はお解りでしょ・・・“
私達は日本の発展にとって
必要不可欠の人なんです

豪華な私邸を建てる為に
妖艶な美女を囲うために
ウソをついてもいいんです
偽証罪などという下等な罪は
いらぬ事実を穿り出しては
公衆の面前で広言している
下等な奴らに適用すればいいのです

“国家の安全を脅かしていることは明らかであり
情状酌量の余地はない”とは
誰のことなのでしょう?

いらぬ詮索をする前に
今年も寒椿が美しい
池の鯉は冬動きが鈍くなる
春には
彼岸桜が薄いピンク色の花をつけ
日本の発展に
寄与する高貴な方々の
心をなごませるのだ
そうです


“アワ食う前に警戒せよ、君”

昨日未明
ホテル・ニュージャパンの九階999号室より失火
火は瞬く間に燃え広がり
九条が燃え堕ちた

思惑、確執、楽観、達観
夢と絶望を一瞬のうちに灰と化して
愛と憎悪を永遠の調和に消華した
合掌
犠牲者のご冥福を心よりお祈りし
翌日の東京証券所の盛況ぶりを
思う
このダウ平均9000円突破の陰で
いったい
何人の人々が闇から闇に消えて行ったのか

労災は
会社ぐるみの慰安旅行で見た
朝陽に映える
富士の陰で
日毎
永遠に凍結した
すそ野の原始林奥深く埋葬される

だから
スカッとサワヤカッコッカッコォオォーラ!

君は昨日コーヒーばかりだった
だから今日は
スカッとサワヤカッツ、コッカ、コラーッ!

誰かがあなたは砂糖漬けのあわだと言っていた
人間の生もまたあわだと
むかし、川の流れのうたかたにたとえて
鴨長明が詠んだ

だから
労災もホテルの惨事も飛行機事故だってあわと同じさ
そんな事件でアワ食ってウロタエる奴は
警戒が足りない
そんなことだと
そら、その先に待っている大波にのみこまれるぜ
だから警戒を怠るな
九条がジ(ン)ミン球場で窮状に陥いっているんだ


“究極のオディプス“

外国なんかはどうですか?
日本の島に行くときは
ギリシャ経由、島国同士で
バカンス?

いや、やはり
仕事と遊びが半々かな
幸せですね
趣味と仕事が一致したりして
そうだね
幸せを自覚すればもっとよくなりますよ

それではここで
セックス・ピストルズのヒット・ナンバーから
“I Wanna Be Me”あるいは“Anarchy In The UK”
とは十字路であったユニオンジャックのリクエスト
同じ島国だからネ
忘れられちゃこまる

深夜放送が
机代わりの段ボール箱の上で
見えすいた
母国の国際化を
謳歌している

帰国して職を持たず
隙間風と同居しながら
独り
悪意と憎悪を蓄電している俺は
いつか
“私の最も楽しかった日々”などと
青臭いことを言わぬよう
心がけねばならぬ
孤独こそ俺の力と
自覚せよ

外国帰りの
ベストドレッサーが
どうしても大きすぎるパイプに火を点け
吸い口に垂れ流れた涎を呑み込んで
誰にも気づかれぬよう
腹の中に唾を吐く

欺瞞と媚びで世を渡る
言の葉の詐欺師たち
奴らに“身震い”され、震え上がられてこそ
私の任務は完遂されるのだ

そう、私は冷血漢
偽悪の牙を研いで
ふやけた父国の偽善に
何とかして下さいと
シニカルな止めの一噛みを加え
父親殺し
奈落の底に突き堕として
金を神に祭り上げた祖国を
冷笑する

私は
究極のオディプス
つらいすね、無性に
おかあさん
だから
涙あふれる冷血を武器に
闘う他ないんです


“聞いたふうな口を利くんじゃねぇ”

尤もらしいことを言って
お前の安っぽい悪意など
電波に乗って
口座の預金額を増やすぐらいが関の山だ

死んで
汚名を残しても
やっぱり
今夜抱く女の肌の方が
お前には大事なのだ

尤もらしいことを言って
日本の文化的発展に貢献したいんだと
俳句の切り売りで
日本の文化的発展が実現するなら
俺は
“屁理屈こいて寝とくわいと怒髪立つ”
川柳にもならず

お前らが占拠している
日本の文化とやらに
パーシング20を撃ち込み
下品で猥雑
ワビも入れず
サビついた日本の精神を
世界博覧会に出品して
私は
日本人ではないと言おう

歓ぶのは早い
ニヤけた顔などするんじゃない
愛国者を騙って気取った
テメエの懐をふくらましているだけの
テメエらには
この程度のメッセージが
お似合い
お誂え向きなんだよ


“禁じられた世界への招待状”

様々な青が
幾何学的な模様を
すばらしい速度で描き出しながら
音が疾走する
悪魔の使者にも似た
クールな低音が
私の飛翔を先導する

高く遠く
私は
あふれる色彩の
幾何学的な音の世界を
覚悟を決めて
疾駆する

ボブ・マーリーの世界は
赤、ダイダイ、黄色が大小様々な条となって
縦横に飛び交う
色と音の宮殿だった
その中心に
ボブは
俺たちはクラウン
“Get Up, Stand Up“
歌え
踊れ
と僕の躊躇を見透かしたように
アジる

それは
呪文にも似た
禁じられた世界への
招待状だった
私は躊躇を噛み切って
その招待に応じた


“子供よ 反乱せよ”

確かに
家庭というやつには
いつも手違いというものがつきもので
尊属殺人、近親相姦
愛の出番など
一瞬の場違いにすぎない

だから
人々は妻問を放棄し
男尊を実現して
生産に余念がない
せめてモノでもつくらなきゃ
女陰を封じて
男根に時間制を導入した
意味がない

子供よ
お前が母の内なる宮殿で
宇宙の平和をむさぼっている時
父は
硬質の感性に
さらに非鉄合金の甲冑を
幾重にもまとって
お前の
覚醒を待っているのだ

“そんなことで世の中に出て
勝ち残れるか“
世の中とおなかが
接するところ
そこに
父は今なお君臨し
その孤独に
ひそかな涙を落とす

反乱せよ
子供よ
そして母を解放し
父を再び
宇宙に連れ戻せ


“ちょっと遊んでみようよ”

ちょっと遊んでみようよ
社会的存在として
穴ぐらの中にロウソクを立て
かき集めた渇いたコケのベッドに
横臥して
世界の終末とまだ見ぬ三千王国を
夢見るだけが
カッコいいってもんじゃない

鉢巻き巻いた団体交渉が
オレンジ色の決意を
君の胸に縫い込んで
人影のない
午後の影に凍てついた
キリコのロボット工場を
合唱しながら
青く、硬く、深く
通り過ぎてゆく

昨日ブランコに乗って
喜と怒、哀と楽を行ったり来たりしたことは
やっぱり幼かった
見えてなった
この完璧に閉じ込められた
漂白された感性が

だから
ちょっと遊んでみようよ
思いっきりディレタッントに
力の限りスノッブ的に
命の限りシニカルに
お前の
その安っぽいニヒリズムとやらで
ねぇ


”黄金のダイナマイト“

危険なやつを
なによりも激しく
きわどい
お前のヤニ下がった安全感覚
自己保存の定期便を
あざやかに
爆破して
透きとおるような黄金の華を
咲かせる
そんな
生産的なダイナマイト

昨日訪ねた友が
今日自殺して
二歳に満たないに童女と
生命保険の計算に余念のない
美顔が自慢の
妻を残した

お前が通夜の晩
独りになった友の妻を
心より
嬲り悦ばしながら(実に強姦して)迎えた朝陽は
黄色く膿んで
世相を鮮やかに照らし出していた

行くんだ
あのどす黒く汚染された
豊かさの向こうに
庭付き一戸建ての建売住宅を越え
とにかく忙しさが自慢の事務所を渡り
黄金のダイナマイトを抱えて
地獄の門をくぐった
友のもとへ

寝間着姿で迎えた友は
お前の善意のの悪行をリストアップし
これじゃ地獄には受け入れられないと
不合格
助けて下さいと哀願する
お前の背のダイナマイトの導火線に
煙草の火で点火
線香花火の火花を美しいと思う

一服して
ふーと白煙を吹きかけ
友は
世の残酷さを知り
もう一度出直して来いと
失意のお前を
炸裂するダイナマイトを背負って
元の地上に追い返すんだ


“君に言いたいことがある”

どうしても
君に会って言いたいことがあるので
ユーラシアを超えてやって来た

途中
喧騒と塵埃
組織されたカオスと
沸騰する人種の坩堝
ガンジスの対岸から
延々と南に続くデカンに立ち寄り
北に振り向いて
永遠に純白の衣をまとった
まことに浄化された
神々の山を仰ぐ

途中
紆余曲折
最後の
曖昧模糊

それでも大きく翔んで
辿り着いた所が出発点
大阪国際空港で
空港騒音訴訟のことも忘れ
どうしても
君に会って言いたいことがるので

税関をほどほどの微笑で切り抜け
どことなく
小さく、狭く、せせこましい
清潔好きの君に会って
ぼくは
とにかく
言わなければならないことがある


“遅すぎた先進国”

そら
玄関を出て右に曲がると
乾ききった太平洋が見えるだろ
あの向こうに
明日の壊滅的な出会いを準備している
遅すぎた先進国があるんだ
遊牧する伝統に
コンクリートのクサビを打ち込んで
緑したたる
早朝の大草原を鉄格子で囲んだ
預言者が
プログラマーとして
一世一代の大活躍を
夢見る国

だから屋根に上って
天上を
まっすぐ、遠く、深くみつめていると
紫銀色の泪がこぼれて
泪がこぼれて
泪が
つきる

そうしたら
また玄関を出て左に曲がる
出会いがしらの
大砂漠に
百種百色
しゃくやくの花を咲かせようと
銀座四丁目の角に立って
遠く
タイムススキェアー、赤の広場
ピカデリー・サーカス、天安門広場
トレビの泉で水くむ君に
ぼくは叫ぶ
何度でも


”国のない祖国“

帰って来て
独りであることの快適さに感謝する前に
僕は
重質の鈍痛を肩に縫い込んで
我が祖国日本を
斜めに視る

貧しい豊かさが
どれもこれもヤンキー仕立ての
非歴史的
ファッションに包まれた
大脳皮質を三枚におろし
唐揚げにして
子供を
スーパーマーケットの大バーゲンに出品する
30年後の引っ越し目指し
30年ローンを
せっせと払っている

国を売るとはこういうことなのかと
売国奴と罵られながら
人の消えた
真昼の公園
地獄に堕ちる滑り台に上って
独り
憤怒の咳を嚙みつぶす

焦るな
神経質な冬枯れの
調教された公園の木よ
私は
お前達と共に
国のない祖国
愛を質入れした恋人達
着地できない永遠に飛翔する燕の
絵画的な
破壊作業に着手しよう


“思い込みが足りない”

故郷とは
あってないものだ

どこかに行きたい
そんなことを書かなければならない
この貧しさを
自覚せよ

僕は一体何をするのだろう
側頭部を締め付ける
鈍い頭痛
方針もあってないようなもの
日本の革命について夢見る時もあるが
正直言って
誰のためにと問われたら
答える術もない
せいぜい
自分の為に
ふざけんじゃねぇ、と君は言うか

それがどんなに憶病な理由であるかは
理論化の過程で
職業革命家と日和見の格子模様が
なによりも
確かに物語っている
訥弁ではないが
句読点を打ち忘れることがしばしばで
実に
欺瞞に思える

それでも
この考えをゴミ箱に捨て
明日から
托鉢に出ることも出来ない
決意が足りないのだ
思い込みが
僕は


“言葉を頂上に運ぶ”

およそ
及びもつかないことに
縄張りの元締めを
親から解き放ってやることがある
彼の元締めとしての幻想は
自由の裏返しにされた
救い難い根強さに似て
人を
心より感心させ
僕に出直しを迫る

なるほど
これはそういう意味で
それはああではないのだ
言葉のとてつもない大要塞を建て
余所者は誰も入城させず
日夜
その補強に余念のない

彼の仕事を
シジュホスと呼んでも
彼が
言葉を頂上に運ぶ仕事を
やめることはない

K大学B学部D語D文学科

近づくな
他者は
皮肉と犬儒が
仁王立ちして山門の両翼を固め
お前の言葉に
風穴あける

「支配的な言葉は常に支配者の言葉である」(マルクス)
もっとも誤字脱字は話にならんが
重箱の隅をほじくり
頂上で言葉を磨く作業は続ける
そこに世界の運命が懸かっているとでも言いたいように



„億年の万象を考える“

ひどい話だが
あなたの悪意は
駆けだした世紀末の勢いに
ひとたまりもなく
弾き飛ばされ
全身打撲
全治の見通しはまったくたたない

少しは
ロワールの河辺に遊ぶひなげしや
花咲く恋人たちのあやとりについて
書けと
あなたは言うが
僕は
その手に乗る程の
余裕がない

いつかまたその気になる時が来たら
諧謔に
消え入りそうな微笑を添えて
体を斜めに返す

いつか来た道
進も(帰ろ)うか
いつか行く道
戻ろうか

たかが
百年の恋に翻弄され
千年の休息を要する
億年の万象のことを
僕は
どうしても独りで考えてみる


“ペンを持って探検に出る”

机がわりの段ボール箱が
書生気質の貧しさを
一杯になった灰皿の中で
教示する

固いな
もう少し大福もちを食べなきゃ
緑の風に
春を感じ、胸いっぱいに花を咲かせた
街角の少女に
ウィンクされることもない

俺はっ!
と力んで
体の芯に鉄棒を嵌めても
寂しさは
やっぱり寒いだろ

南下して
南風を受け
軟派する
ぼくの心は
難破した

そんなことを
段ボール箱の机一杯に広げ
腕を組んで
しばし
黙視する

その風景が
昼なお暗い日常性の密林であることを
心の中に刻印して
僕は
ペンを持って探検に出発するのだ


ドイツ緑の党、おめでとう40歳!/ Herzliche Glückwünsche zum Geburtstag! Grüne in Deutschland wird 40 Jahre alt.

2020-01-12 02:16:00 | 日記
40 Jahre Grüne Deutschland, wie hast du dich vereinigt
ドイツ緑の党40歳、君はどうして統一を実現したの?
Die Wiedervereinigung war nicht nur für die Nation ein Glücksfall, sondern auch für die Partei der Grünen. Ein Kommentar 
再統一は国にとっての幸運だけではなく、緑の党にとっても僥倖だった。
https://www.tagesspiegel.de/politik/40-jahre-gruene-deutschland-wie-hast-du-dich-vereinigt/25420808.html
Stephan-Andreas Casdorff 

I.1980年1月10日、ドイツ緑の党結党
緑の党が結党されたとき、私はハンブルク大学でドイツ文学を学んでいた。日本で68年に入学72年卒業の私は文字通り激動の時代を大学で過ごし、ベトナム戦争反対デモから始まり日米安全保障条約に反対するデモ、水俣水銀中毒支援運動から瀬戸内海水質調査など環境保護運動と毎日のように動き回っていたが、ドイツに来るとその延長のように反戦デモや反原発デモが私を誘ってくれ、何の違和感もなくその運動に加わった。ハンブルクの近くのブロックドルフに原発建設の計画が出るとそれを止めるためにドイツ人の仲間と一緒に冬の畑を越え建設現場に向かったが、数十機の機動隊ヘリコプターが次々と舞い降り、蹴散らされた。
そんな時、この反原発運動や、草の根民主主主義、毛沢東主義者を含む新左翼、ヒッピー自然主義、キリスト教系平和運動などのグループが集まり、1980年緑の党を結成した。私はこの生き生きとして活発なオルタナティーヴ運動が既成政党のようになり市民運動が潰されると悲観、失望した。
II.結党三年で国会進出、5年目ヘッセン州連立政権参加
ところが、私の予感とは逆に次々と地方議会で議席を獲得、結党して三年の1983年国会に進出するという、快挙を成し遂げた。その後、1985年にはヘッセン州で社民党と連立政権を組み、後の外務大臣ヨシュカ・フィッシャーが環境大臣に任命され、ジーパンとスポーツシューズを履いて就任の誓いを立てた。1990年ドイツ再統一後の統一選挙で西ドイツの緑の党は5パーセント条項にひっかり一度国会の議席を失ったが、東ドイツの市民運動グループ"Bündnis 90"に加わっていた東の緑の党が議席を獲得、何とか首の皮をつなげた。
III.1998年社民党と連邦政府連立政権、2016年、オーストリアで緑の党出身大統領誕生
90年代になると、西ドイツでも再び環境保護運動が活発になり、次々と州単位で連立政権を組み、ついには1998年の連邦国会選挙後社民党と連立で連邦政府に参加、元タクシードライバーのヨシュカ・フィッシャーが外務大臣に就任、今ではバーデン・ビュレンデンベルク州というベンツの本社がある有力州で首相を出している。
ここにきて地球温暖化による気候変動が顕著となり、Friday for Futureの運動が後押し、次期国会選挙では第一党に躍り出ることも予想されている。そうなると、もちろんドイツの首相は緑の党が務めることになる。
お隣のオーストリアではすでに2016年から緑の党のアレキサンダ-・ファン・デァ・ベレンが大統領となり、先の総選挙ではオーストリア国民党の33歳首相セバスティアン・クルツと緑の党が連立政権を組んでいる。
IV.日本の現状を憂う
翻って日本の現状を思うと憂いのみがある。気候変動による自然災害がフィリピンに次ぎ世界第2位の日本では先のFriday for Future のデモに東京で600人、全国でも2000人と、他人事のような反応。因みにわが町のお隣ハンブルクでは5万人ちょっとが参加したが、ヨーロッパに来るまでもなく、南の海のすぐ向こうオーストラリアでは既に山火事で九州と四国をあ合わせたほどの地域が焼け野原となり5億匹を超える動物が焼死している。ところが、わが環境大臣はグレタ・トゥンベルクの活動をセクシーと呼び、大人を敵にするな、全企業が悪いわけではない、日本の火力発電に理解を求める、などとチンプンカンプンの話ばかりしている。そんな折も折「桜を見る会」とかでヤクザや芸人と写真を撮って喜んでいる首相は税金を自分の金とでも思っているのか、環境保護やデジタル化による未来社会への準備より東京オリンピックに予算の倍以上1兆円をはるかに超える散財。それでもなにも言わない国民は自民党と心中するつもりなのでしょうか?
V.日本人にもある環境意識
上の私の学生時代の経験からお分かりかと思うが、日本人はそうなんだとは思わない。70年代初頭には日本の町を流れる川は真っ黒で、夏にはメタンガスがポコポコ浮き上がり、悪臭を放って横を通ると鼻が潰れると言われ、大都市では大気汚染のため光化学スモッグが発生、生徒が次々と倒れ、四日市や尼崎など重化学工業都市では大気汚染のためぜんそく患者が急増、国民もマスコミの報道を待つまでもなく、目の前、鼻の先でその惨状を体験、環境保護の声を上げた。そして1972年世界で最も厳しい公害対策基本法ができ、徐々に澄んだ大気、魚の泳ぐ川を取り戻した。今、緊急に日本の国民に思い出してほしいのはそんな歴史だ。自民党が一人勝ちのように思われているが、全有権者の20数パーセントで国会の議席の3分の2近くを取っている事実を思い起こし、まずは全員選挙に行って、利権にたかる後援会のオッサン・オバサンが周りを固める政治的才能ゼロの漢字もまともに読めない自民党世襲政治家の支配を崩しましょう。