風と光の北ドイツ通信/Wind und Licht Norddeutsch Info

再生可能エネルギーで持続可能で安全な未来を志向し、カラフルで、多様性豊かな多文化社会を創ろう!

東(ひがし)洋(ひろし) FB詩集「腐乱する都市」II

2025-01-27 03:39:48 | 日記
暫く雑用に追われ、書き綴っていた青春の記録をご笑覧いただく作業を怠っていた。これは私の紛いのない孤独なハンブルクでの闘いの足跡を辿り、希望と絶望の間を振り子にぶら下って不様に行ったり来たりしていた二十五を超えて間もない頃の記録です。よろしければ、今暫くお付き合い願います。

“コーネリア”

意地悪な夜陰にからまれ
“欲望という名の電車”に
いきなり饐えた風が吹き込む
コーネリア
孤独である
断固として不安である
欄干のない橋の上で
未来永劫に倒れ続ける帝王学
韻律を落として
最も単純な方程式の中を彷徨う
“邂逅”とは難しいものですと
どうして
正面図の中に君の肖像画を架け
小さなロウソクに灯を点せないのか
コーネリア
時として
昨日誕生を祝ったばかりの猫までが
金色の目を光らせ
氷結した影の暴力の中で
哂う
木霊する階級興亡の冥府
必ずややって来る腐臭軍団
それから
一切の正当(統)性を黙殺し
肥満した言葉の脂身を剥ぎ
雪崩れてゆけたら
コーネリア!
黄金に輝く四頭立ての馬車、
死臭を放って駆け抜ける車の爆音
君を密告くしたい
コーネリア
捜索願の出て久しい
主人殺しの女中を讃え
紅金の巨樹に囲まれる
コーネリア
君を追憶する
耳そばだてて走る売僧の操るタクシーの中
秘かに耽る桜泥棒の夢
とても耐えきれない
正統(当)であるということ
無頼であるということ
そしてなによりも
二十世紀後半の風景の中に遊ぶ
一匹の孤蝶であるということ
ああ
コーネリア
むしろ
魂の構造改革に向け
コルト45の撃鉄を打てと
君は言うが
影る
陰る時の翻る
五月のあおぞらに
次元を歪めて忽然と
消えてゆけたら
コーネリア!

取り返しのつかない遅刻
君を呪殺したい
コーネリア

見捨てられた屍体の呻きを
もう一度夢のカリフォーニアで掘り出し
鳴動する地の底へ逆措定する
コーネリア
悲しかった
諦念が木霊する
それでもなお快活に
静止した朝夕の挨拶を
情念のカオスに引き込むあの
姿勢の美学に酔いしれることが出来るなら
千年の昔、その第一夜に
血糊を群衆の前で讃えたという
シシリアを旅し
君に手紙だって出せるだろうに
コーネリア
しかし
今は酷寒の時代だ
誰も言い訳さえすることなく
千人を殺して泣くことのない時代だ
さあ
歌を
唄え!
唄いながらまた殺戮し
その死を超えて
鳴動する地の底へ
厚い血の手紙をたずさえて
墜ちてゆくんだ
コーネリア!

”再び首都へ!“

再び首都へ
燃え上がる思慕の情
こめかみの痙攣にためて
一気に
空翔ける
首都へ 再び
いつも
不死身の理論武装に触発され
一切の抒情を拒否して
僕達は端正であった
あふれる思慕の情は
予定通りの結末に一刻
目を見開きはしたが
この愛しい重みを下ろすつもりはない
時よりも早く駆け抜けた
僕達であれば
いま
一刻の休息をも拒否して
駆けつづけていること
言うまでもない
おおよ!
首都は深い失望の底で
肥え桶かついだ僕達の入場を懸命に待っているではないか
浄化された精悍な
風呂桶の中の教条主義者よ
非難の声に火をかけて
スクラムハーフの鋭敏と
鉛をつめたフロントを楯に
血塗られた弁明の記者会見を
放屁一発 完璧のコンビネーション
中央突破して
首都へ 再び!

“今日も家でゴロゴロしているよ”

辞書をめくり
景気の悪い鼻風に悩まされ
いきなり
”慶祝”という字を見つけた
まずは祝え!
ブラボー!エエゾ!
ニイチャン、イッテコマセ!
万歳をしなかった
日本系米国人を
複雑な感情と呼ぶ
それとも
米国系日本人?
頭痛が伴わないだけ
毒気も薄められて
自動販売機の牛乳みたいだよ!
真っ白でさ
久し振りに見た鮮やかさ
真っ白な娘は
去年の夏
前ぶれもなく米国へ帰っちゃった
気がふれたように
追憶も一緒に
突然
昨日受け取った手紙に
返事は書かない
本当は
手頃なところで手を打つべきだけど
しゃくだから
百日咳かしらと
疑ってみたりして
今日も医者には行かず
家でごろごろしているよ

“歴史過程 Ⅱ”

まったくひどい話さ
この期に及んでアレルギーなんて
楽しみにしていた
“ブレヒトの夜“も諦めなきゃ
君との約束は守るけど
事態の経過については
責任はもてない
“そんな!”
なんて言ってくれても
ちっとも悲しくなんかない
本当は歌いだしたような気分さ
ウキウキ酩酊するグッピーのようなもので
どこといって
たいした深刻さはないさ
ちょっとトンボ返りをして
一直線にそのまま駆け抜け
喘ぎながら笑い出すのも
一つの悲しみの形じゃないだろうか
山を見て
樹々のそよがない風景を想像できる僕達だから
南スペインで途方に暮れるのもわかるけど
僕は
母国をうらまないことにした
乾くのも濡れるのも
丸い洗濯桶の中で
木もれ日に包まれて沐浴することも
いつとはなしに
斑点におおわれ
まだらな熱に操られて
楽しくはないと思うようなもので
大したことじゃないんだ

“午前三時、夜鳴き鳥が”

夜鳴き鳥の
なんてあけっぴろげなお喋り
快活に
ここには闇のないことを見抜いているように
形のない世界から
フラッシュを叩く
きょうは
どういう訳かひきちぎるような
音をまき散らし
午前三時
一秒だって狂わないギリシャ正教の鐘を聞きながら
欺瞞を満載した車の交通が激しい
だからからかうように
口を大きく開けて
全ての力を舌の一点にこめ
おもいっきり
いたずらっぽく叩く
その後で
誰もいなまわりを見回し
恥じ入るように快心の微笑みを
浮かべて夜鳴き鳥が
午前三時
過ぎたところで
前ぶれもなく
おしあげるように近づき
一気に鐘の余韻を奪って
走り去った車に
真っ赤な舌を出して
快活な夜鳴き鳥が
憔悴した
午前三時を訪れた

”惨劇の交差点“

信号機の誤算が
霞む
惨劇の交差点
星辰
白昼に舞う赤児の亡霊を
鎮めよ
地蔵盆にはゆかたがけで
北区花町の憂鬱
“あれは”なんて口走ると
すぐ故郷を想い出す脆弱さ!
なんて薄汚いんだろう!
まるでマンションみたいじゃないか!
街角から“あの”タバコ屋が消えても
一般的なことに変わりはないだろ!
饒舌な路面電車だった
愉快な車屋さん!
夜ごと夜ごとの
天体観測にも飽きた
次は
公式通りに白昼の通り魔
二尺三寸の抜身に
積年の怠惰をこめ
北区花町八丁目の角
地蔵尊の前で
懸命に弁明する
信号機は地上五メートルで
危険を通告したまま
車はとだえ
人通りはなく
白昼に星降る
今日も死者

”詩的に蘇生する首都“

午後一時
最も反詩的な刻にも
拡散した犯罪の追跡は止めない
警視庁
その直截性において
唯一教条主義者の存在を許す
爆破せよ!
抽象化された不条理が
漂う自立の独立宣言を黙殺する
春の影が揺れる
黄色い矢車 ふくじゅそう
わきあがる歓喜 東のすずめ
堕ちてゆくかげろう 西の恋人
春の陽が日時計を盗んだ
まるで散歩をとりあげたヒトラーのように
裏切りが行進する体系化されたスターリン
人間をやきいもみたいにしたのはカリー中尉
彼は殺したとは言わなかった“駆除した”のだ
巣鴨の十三階段
凶悪な秩序の正当性を
爆破せよ!
鹿鳴館の敷石を砕き
東宮御所の壁板をはぎ
経団連会館のカーテンを引きちぎり
霞が関ビルを
バリケード封鎖せよ!
午後一時
空を舞う武装ヘリコプタ―
戦車
戦闘準備完了!
いつものように
首都は今
詩的に蘇生する

“タイムカードは焼き捨てた”

揺れる食料品店の陳列棚
いつも
台所で悲哀する冷蔵庫
不可視のハッピーエンドを
夢見る他ない
ベッドはいつも不安だった
一刻の
正餐を祈る
つつましい夫婦の絆が
諦念だった日の悲惨
なんと
めめしい生産活動だったことだろう
それでも都市はいつも夜を運び
じつに多様に朝は明けた
太陽に追われ
恫(恐)喝する星に犠牲(生贄)を捧げて
かろうじて
延命する労働日とは何か
祝祭日こそ
充たされることのない老年時代だと
トランジスタラジオ製造工場の
休憩時間は伝えている
一秒だって越えられない
文字盤上の抑圧された秒針
たかが一秒が
決定する
飢餓と飽満の
失喪
タイム・カードは
今日焼き捨てた

”星辰にしんと立つ“

こんなに豊かな太陽に恵まれていながら
僕達が不幸だなんて
そんなこと
本当は言っちゃいけないんだ
猜疑するよりは
信頼することが
どんなに難しいか知っているからと言って
人に会って
挨拶しないなんて
本当は決意しちゃいけないんだ
饒舌に沈黙し
星降りに星傘さして
しんと
星雪の白原に起ち
素朴であること
無垢であること
純真であることに
恥じない単純明快さを
獲得せよ!
君!
と呼びかける押し付けがましさを
超えて
てらいなく道行く
魂の有様を
木立や街の家並みの中で
獲得せよ!
こんなに豊かな太陽に恵まれていながら
僕達は今日まで気づかなかったなんて
そんなこと
無念だなんて言わずに
星辰の雪原にしんと起たなければ

最新の画像もっと見る

コメントを投稿