風と光の北ドイツ通信/Wind und Licht Norddeutsch Info

再生可能エネルギーで持続可能で安全な未来を志向し、カラフルで、多様性豊かな多文化社会を創ろう!

FB 詩集 「西方の国へ II」

2023-12-30 00:45:26 | 日記
“勤続一年六カ月”

今日のこの悲哀を
真っ直ぐに受け止めて
オレは進もうと思う

<アンタのイウコトはヨクワカル>
だからといって
オレが譲歩するなんて思わないでくれ

疲れていても
立止まれない時だってある
だからオレは独りで先に行く

<アンタのキモチはヨクワカル>
だからといって
オレが弁護するなんて思わないでくれ

とにかく
他人の言うことには素直に耳を傾け
オレは率直に無視する

それが勤続一年六カ月の
オレの決算書だ

“決起し、進撃せよきみ”

なんと度し難い誤解のはざまで
世界は倒壊寸前だ
一気に吹き抜け
私達のことごとくを殺し去る
あの真夏のクーデターは
いまや爛熟の期にある

決起せよきみ
進撃せよきみ

おおよ
人々の希望はことごとく輝き
この無情の楽天地獄に
維新の態勢は整った

決起せよきみ
進撃せよきみ

まこと
はかり識れぬ無数の組織は
それの一切が
見事に立体交差して
ついに巡り逢うことなく

無限の闇へと走り去る

君に問う
人間とは
日本人とは
兵庫県民とは
尼崎市民とは
北大物町第七町会会員とは
株式会社スポーツニッポン新聞社員とは
株式会社スポーツニッポン新聞記者とは

・・・

君とは

すべてを確認し
決起せよきみ
進撃せよきみ

“テメエらカッテにヤルがいい”

とてもじゃないが忘れちまって
いまじゃ思いだすことも出来ねぇ

青二才どもを見ていると
確かにオレにも憶はある

テメエらカッテにヤルがいい
ホネはオレがヒロッテヤル

いつの間にやら通り過ぎ
いつの間にやら忘れちまった

白い館のお嬢さん
今年の夏はどうでした

アンタもスッカリオオきくナッテ
テにはナニやらヒカるもの

青二才どもの切ない想い
嗚咽はしたくない、もったいない

“しんどいからねぇ・・・”

まず無言の呪いから始め
呪文は徐々に音量を昂め
カガリ火は勢いをさらに強め
ついに
念力は敵の脳波を掴え
最後の一槌がワラ人形の頭を釘ざした
ダウン

御堂筋に黄色い銀杏
が舞い散るころ
日雇い労務のオバサンたちに
地獄の季節が訪れる

あそこはクルマが多いさかえ
オチバもおおてシゴトがきついさかえ
それではあいつはナカンシマへ
かわったんやってえ

しんどいからねぇー ヘッヘッヘッヘッ・・・

ものぐらいゆうたらええのに
だまってドッカへすーっうや

しんどいからねぇー ヘッヘッヘッヘッ・・・

ふと目を覚ますと
オバサンたちの査問会議が聴こえてきた
どうして非難しているのか解らないけど
どうやらオバサン達より幸せらしい

ムスメもムスメや
ハハのひにライターやってぇー
なんぼなんでもライターやなんて
オヤもオヤなら
ムスメもムスメや

“僕は確かに無念だ”

秋半ば
闇夜の空に星一つ
ついに流れ堕ちた闇夜へ

三千王国の如来は
マルクス主義の方程式によって
キリスト教的隣人愛と伴に紙屑箱へ

あのひとはできる
たっしゃなひとだ

今年五十五歳になって
会社に定年制度があって
数々の業績はあげたのだけれど

こうしんにみちをゆずり
わたしはいんたいしたい

父と子の夜ごとの晩酌には
グチばかりが溜息をつき
子はもううんざりしている

もくひょうがなかったんやな
いつもぶつぶつひとりごとゆうて
しごといがいにたのしみなかったからな

父は脳軟化症に罹り
他人は呆気たと言う

阿修羅は
闇夜の果てとばかりは限らない

何しろ白昼堂々
堕胎に世界は血で真っ赤

君を愛したその揚句
これじゃ夢もへったくれもあるものか

無頼の徒へ自己放射
丁半博打に未来を頼む

明日になれば夜は白み
僕にもきっと世界は展ける

それでも諸君
僕は確かに無念だ

未来に恐怖する
僕は確かに無念だ

“室戸岬”

とにかくの青春
泉にこぼれ落ちた花びら一枚
清冽な流れを辿りどこへゆく

光り輝く室戸岬で
僕が新年を祝ったのは
遠い昔の話ではない

空には幾層にも色が流れ
複雑に荘厳であった

大海原のかなたに
僕が夢想したのは
世界の平和でも愛でもない

単純明快に
世界を照らして赤く燃える太陽を
僕はじっと待った

小さな赤い甲羅をのせてカニが走り
桃色サンゴが美しかったが
新しい年の訪れを
単純明快に告げるには役不足だ

僕が夜明け前の空に想いを馳せ
心のままに夢想していた時

ついに昇る太陽

光は満ち
小鳥たちは一せいにさえずりはじめ
その前で
僕にはもはや青春だけが頼りだった

“秋です、僕は・・・”

秋です
心も空も秋です
秋にはいつも思い出します
なにしろ
六十年代後期階級闘争は
決定的な敗北を秋に喫したので
そして
僕はいつも愛など所詮
醜い人間どもが飾りたて不足に
思いついた作り話だと
秋には思っていました
だから
秋にはリアリティーがあり
それだけに虚構も簡単に
棟上げ可能な季節です
木の葉が色づくのは
これではっきりしたでしょう

たつことをけついして
ついにたたず
ひあいをきょひして
ついになみだす
ぼくは
たおれてなみだすることに
いまは
なれっこになった

東 洋FB詩集「西方の国へ」

“サキイカにビール”

真夜中の晩餐は
サキイカにビールで結構楽しい

なにしろ独りで
時おり咳する声がコホーッと響く

ビールがうまいのは
サキイカがうまいからでその逆も正しい

明日は休みだから
心おきなく一週間の労疲を慰める

諸君!僕が革命を忘れたなどと
“コマイ、コマイ”などと言うな

サキイカだってビールだって
ときおり聞こえるコホーッと咳する声だって

僕には
日常を受け入れる程日常的ではないのだから

ホットイテホシイ
と僕はよく言ったものだ
ウルサイ
と僕はよく言ったものだ
ジャマダカラドイテクレ
と僕はよく言ったものだ
アホか
と僕はよく自分に言ったものだ

”ペテンは非生産“

あせりすぎたら転んでしまい
おさまりすぎたら起てなくなる

中庸が大切だと人は言うけど
ぼくにそんな芸当はできない

だから僕は
午前中残酷なら午後は優しい

もし僕が罪を犯したら
人はこぞって二重人格者と罵るだろう

ペテンは<移動>であり
けっして<生産>ではない

その隔離の狭間に
ぼくの突破口は隠されている

XXX

ヤスメ!
キョーツケ!
懐かしい
キリツ!
レイ!
も懐かしい
アンポフンサイ!
トーソーショ-リ!
僕は恥しい

”亀裂の階段から闇へ“

亀裂の階段を
一歩一歩上りつめ
亀裂の闇に落下する
広大な
無の平原に向かって
駆けだすとはなんと!

どうせ腐る身
恥だけは
かいて私は流す汗と
空天に宣言した

夜半の灯りに誘われて
忍び込んだ窓辺に茫然
女は
一糸まとわず骨と化していた

旋律が乱れた
タクトを振って怒号する
旋律が乱れたと
一斉に合唱する

ああ
私は
自ら回帰する軌道を
もはや
遠く離れて独りである

“お母さん、街は冷たく乾いています”

しまい忘れた扇風機が
回り忘れた羽根を天井に向けて
暑かった夏の日を思い出して

僕はなにをして
いつのまに秋を迎えたのだろう
XXX
闇雲に星はいらネェと叫んで
飛び出してきたドッジボールに
飢餓の頃はよく当たったものさ

僕が故郷を背にしたのも
山の迷路にゃ端があり
しょせんテッペンに登れば終わりだ
と思った時だった

お母さん 僕は街へ行きます
お母さん 街には夢があり温かい
お母さん 僕はきっと錦を飾って戻ってきます

せめてもの慰めは
街で疾駆する二月の風
木を枯らさずに
夏に膨張したビルディングに
ヒビを入れる

お母さん 街の寒さは
お母さん 村の寒さではありません
お母さん 街は冷たく乾いているのです

“僕の村の文明開化”

上昇気流に欺されて
天上に停止した紙風船
行き処を喪い
永続の停止に涙するのか

動力耕運機が
僕の故郷に運び込まれたのは
そんな紙風船が消え
空がすっかりカラッポになった時だった

人手が足りなくて
重くて不便だけど
牛たちのいない午後は寂しいので

そんな時
富山の薬売りが
今日からは紙風船をやめましたと
挨拶廻りにゴム風船をくばって歩いた

その時
僕の故郷で文明開化が始まった

農薬漬けなどといえばぶっそうだけれど
ナスビは大きく
稲の収穫は飛躍的に拡大した

田んぼからはドジョウが消えて
ドングリとの挨拶も
今では昔話の囲炉裏端でまどろんでいる

村の女は
男供に別れの挨拶をして
独り
寝床の冷たさをかみしめ
世が豊かであることを
うらんでいる

“消えた遊び”

詐欺にあった詐欺師のように
太陽が月の彼方に隠れた

<カクレンボウ>の鬼が隠れて
少年時の遊びは消えた

消灯の時間が来たのか
一斉に光から闇へ

“覚悟せないかんな”

覚悟せないかんなと思いながら
妙に寂しかった

唐突に舞い込んだ報せに
僕はジタバタしても仕方がない
と頑張って

何度も覚悟せないかんなと思いながら
妙に寂しかった

快活に振舞うのも不自然だし
悲観にくれて涙するには臨場感に乏しい

だから僕は
不安定に座りごこちの悪いタクシーを
病院に急がせた

父は死なない!しかし交通事故だから・・・

やっぱり覚悟せないかんなと思いながら
妙に寂しかった

東 洋FB詩集 「西方の国へ」

1974年も除夜の鐘の響きの中で去っていった。私は翌年九月にドイツに向かうことになる。留学ではない。「もう一つのボウメイ」と呼び、日本の現状から身を守るためだった。居心地のいい真綿で包まれたようなかで、日々その快適さの泥沼に引きずり込まれ、同僚と場末の酒場で泥酔しながら、身動きできず、息が詰まるような気がしていた。精神がなよなよになり、私は自分を失い始めてると気づいた。そこからの逃亡だが、私はそれを<亡命>と自覚したのだった。

大いなる<誤謬>

冷たい世の中を
温めるのが僕達だと
昔はよく<主張>した

ドシャ降りの雨に濡れて
僕達の<集会>はいつまでも続いた

<恋心>の存在を確認し
それを超えて僕達は自由だった

<時>がいつまでも
新鮮であることを僕達は疑わなかった

コンクリートの床にも
僕達の<疲労>は
明日に持ち越されることはなかった

<後退>を恐れず
大胆に
僕達は一歩づつ退いた

<敗北>の実相を
有視界に捉えて
僕達に不安は無縁であった

大いなる<誤謬>
ついに
僕達が倒れたというのは
実に大いなる誤謬だと
僕達はいつか
またふたたび<主張>して
出発するのだ

<痩せ犬の背に乗って>

痩せた犬が
寒さに震えている
木枯しの季節は
いつも
瘦せ犬の
脱毛の酷しい
栄養失調と伴に
僕達の運動を止めた

十一月革命が
大地の凍てつく季節だったことは
一つの奇蹟である
二月革命が
雪の降る日に組織されたことは
一つの事実である

だから
痩せ犬の背に乗って
酷寒の吹雪に向かうことは
実の壮大な
それだけに無限の
喜劇である

また
暗闇の転落将軍どもが
明日はままよと
僕達の号令をかけはじめた

落ちても堕ちなくても
同じだから
僕達は将軍の号令に従わない

“ぼくですか・・・”

ぼくですか
時には星を見て宇宙を想い
電車の窓から街の灯を見て故郷の家を憶います

ぼくですか
新聞を読んで世界の悲しみを知り
やっぱりお母さんには悪いなと思いながら旅に出ます

ぼくですか
美しい女は恐いのだけれど
愛は信じなければと想います

ぼくですか
一番弱いところで闘いたいと
石に祈って菜食主義者になりました

“ポストに入れ忘れたラブレター”

しょせん
ポストに入れ忘れたラブレターさ
愛には
いつも気まぐれな勇気がつきまとっていて
僕には白々さが残るだけ
だから
ポストに入れ忘れたラブレターは
いつまでも破らずに手許に残しておく
それだけが
実は僕自身の時計だから

“僕の包帯”

包帯が取れたら
肉塊が見事に凝固した
ケロイドがさらけ出て
ほんとうにビックリした

実は包帯が僕の皮膚だと
思い込んでいたのだけれど

包帯がとれてしまったら
皮膚とは自然に異質の
見慣れぬ僕が出てきた

隠されたケロイドは
信じるなよと
僕はまた僕に包帯を巻く

絶対に異質の包帯が
また僕に勇気を与えて
僕は本当に不安だ

包帯は真っ白だから
赤黒いケロイドよりも
社会的に自然だそうだ

実は包帯は絶対に
僕自身ではないから

赤黒いケロイドの
僕自身より
社会的に安定している
それは僕の地位のように

“自虐の論理”

夜もすがら
遊び呆けた自虐の論理は
眠気まなこで寝起きが悪い

ダマサレタと口走り
いつも還らない使いに出る

登場だけがあって退場がない

いやいつも退場していて登場しない後姿

走馬灯のように
急いで現れ急いで消える

永遠に回り続ける走馬灯
夜もすがら
回り続けて過去も未来も照らし出す

ないのは現実
ないのは自分である自虐の論理

昨日のワインは
今日のウイスキーボトル
明日は薬品アルコールに口づけて

手をバタバタと
ノドが渇いて寝つかれない夜が
それでも白けてくるのだからしかたがない

“十二月の風”

そしてついに起ち上がったか
怒りを込めた十二月の風
冷たくはない木枯らしと
僕は身構えた

哀しみの序曲が街に流れ
仏教徒にジングルベルが親しむ
陸続として民衆を
どこへ連れ去るか十二月の風

安宿の商売女に
一夜を売れと強要する
僕の明るい悪意は
ハラリと
最後の木の葉を木枝から奪った

今日も電車は満員だった
明日も活発な日本の経済活動

僕が誇れないのは
負けることを知らない
敗残者だからだ

夜空の星は
闇夜に音もなくチカチカと輝く
吹き抜ける十二月の風が
星を吹き落としても
僕は拾いはしないだろう

“僕の生活改善運動”

石油ストーブの炎を小さくして
僕は生活改善運動に参加した

寒かった一昨年よりは
暖かかった昨年の思い出が怖い

肥った家ネズミは動作が鈍り
今では粗食に耐えられない食通だ

気に入らなければ手も付けない
手に入らなければ僕の前を堂々と横切る

この横柄な態度に苛立って
僕は生活改善運動から身を引きたくなった

家ネズミに恫喝は効かない
欲しいものは欲しいのだから

僕には恫喝が効果的だ
孤立を恐れ耐乏生活にもすぐ慣れるから

“尻軽な幸福天使”

時おり訪ねてくる
明日からの幸福天使
夜明けの空は西
たそがれの空は東
僕らはいつも背中合わせに
一杯傾ける仲だった

前ぶれもなく
突然去っていくのが世のならい

だから今日は
せめて太陽の下で精一杯
遊ぼう

木枯しだって
さりげなく、つつましやかに
僕を嗤っている

スキップを踏んで
冬枯れの野分に
軽やかに立ち向かおう

思いつきの
尻軽な幸福天使
夜明けの空は東
たそがれの空は西
その向こうに立ち去って
僕の背中を押してくれ


“そうだよと僕のテープが軽やかに廻る”

全的信頼が
あどけないのは
僕のキリコを見れば鮮らかだ
<あなたってそんなんだったの!>
そうだよと僕のテープが軽やかに廻る
 アーキのユーヒーに
 照るやまモミジ

キリコを裏切ったって僕は僕だ
だから
振り返らない僕よりも
追いすがるキリコに確かな希望を見るのだが
<人でなし、あなたは人でなしよ!>
そうだよと僕のテープは軽やかに廻る
 ユーヤケコヤケーの赤トンボ
 追われてミーターはいつの日か

僕は不退転に停止する
<あなたはもう私を凝視つめないのね>
そうだよと僕のテープは軽やかに廻る
 オーテテつないで
 小径をゆけば・・・

唖然として立ちつくしても
振り返らない僕であれば
キリコが最後の平手打ちを食らわして
身を翻したのも当然だ

<君の手は本当にいつも温かい
僕にはそれが耐えられない>

“喜劇”

あいつの
あつい目が
こいつの
ごつい胸を撃った喜劇

“ケンカ別れについて二、三の考察” 

ケンカ別れについて二、三の考察
まずは痴話ゲンカ
<あなたのあの人を見る目、普通じゃないワョ>
<だからどうだってんだスベタ!>
つづいて友達同士
<必ず期日までに返すって
あれ程約束したじゃないか>
<それがどうしてもだめなんだ
君ならそのことが解ってくれると思って借りたのに>

“ないしょ話について二、三の考察”

ないしょ話は
こ・ないしょ
見えるところで
隠れて話そ

うわさ話は
ど・ないしょ
聞いても聞かなくても同じだよ

わかれ話は
あ・ないしょ
パパさんママさん
いつもの話

“それやこれやで時間が・・・”

それやこれやで僕に時間がなかったこと
解っていただけますね
いつも<態勢>だけは整えていたのです
不慮の突発事故だって
僕はうろたえずに受け止めたでしょう
ただ
それやこれやで僕に時間がなかったこと
解っていただけませんか

等閑視してはならないと
いつも<感性>を鋭ぎすませていました

ユーラシア大陸の野分だって
僕は確かに耳にしたのですから
でも
それやこれやで僕に時間がなかったこと
解ってください

実際
時間さえあれば
宇宙の無限拡大説を
一度じっくり考えてみたいものです

壮大な無か
無の壮大さか

確かに
思考対象としてはとっておきの魅力が
夜空の星には存在します
数式の配列盤だって
なだめる自信があったのです
残念なのは
それやこれやで僕に時間がなかったことです

“本当になんてことだ”

脱線転覆して
ついに
一人の人間を辱しめて
僕達は恥じない
本当に残酷なことだ

辱しめながら
快いロジックの遊びに
うつつをぬかし
ついに
一つの精神を破壊して
僕達は恥じない
本当に怖ろしいことだ

破壊して
新しく蘇生しようとする
一つの生命を堕胎して
僕達は恥じない
本当になんてことだ

“新年の挨拶”

たいていの挨拶は
本当の挨拶がじゃまくさいので
お決まりの文句がある
なかでも
新年の挨拶ほど
挨拶らしい挨拶はない

FB 詩集 「西方の国へ I」

2023-12-30 00:14:34 | 日記
東 洋FB詩集 「西方の国へ」

この一年後に私は25という数字に唆されて、シベリアを越えて西の国に向かった。仕事が楽しくなった。日常生活の喜怒哀楽も解った。そして、10年先が見え始めた。どちらの“認識”にも根拠はない。ただ若い感性だけがその正当性を主張していた。それでいいのだ。動くということはいつでも見る前に跳ぶことだ。頼りはそれまでに鍛えた自分だけ。後は小心であれ、細心の注意を払い次の一歩を出せ。命綱のない綱渡り、一歩間違えば千尋の谷に堕ちる。そう覚悟して私は一年後の旅立ちの準備を始めた。


“少年たちは西方の国を目指す”

きっと噓なのでしょう
明日なんてないのは
ぼくが弱いだけなのです
約束してくれない明日には
きっと悪意などないのでしょう
ぼくが臆病なだけなのです

振り返らない少年たちは
断固とした足取りで
遠い西方の国に
ぼくを置き去りにして去ってゆきます

快活で放恣な少女たちは
何をも恐れることなく
もはや野辺の花神に別れを告げ
ぼくの傍を笑いながら過ぎてゆきます

目指さない
歩かない
決起することもやめよ

峠はすでに黄昏の夏
早すぎた生の日々が
ぼくだけを置き去りにして
ヒグラシと伴に去ってゆきます

“闇に逆激する”


確かに底なしの闇はあって
瞬時も僕から去りはしない
べたべたとへばり付く闇
だが
恐れることだけはすまいと決意して
僕は闇に逆激する

中でも人の猜疑は
闇より執拗に
愛よりも不確かに存在して
ならば尻を捲くって
信じまい、拒否しようと思う

色づき始めた忘却の木の葉が
何も知らずに散りゆくように
人が死ぬことはできない
それだけが残された誠意
僕は識り、識ろうとしたのだから

復讐を誓って復讐されている
お笑い草は承知で
闇の亀裂に閉じ込められて
僕はそれでも必ず革命を組織する

“長居が過ぎたエアーコンディション”

弛緩しきった明日の労働には
もはや未練はないのだ
行きつけの飯屋で
タマゴドンブリは食べ飽きた

あなたの臭いだけが
いまは僕をせきたてる

きっと長居が過ぎたのでしょう
なにしろエアーコンディションが快適で
ぼくは立ち去り難かった

夜空の星を三つ、五つと数えながら
露の匂いに夏草を想ったのは
もう遠い過去なのでしょうか

怖くはないのに
何を恐れているのだ
楽しくはないのに
何を笑っているのだ

<月給取り>には<月給取り>の
論理がある
悲哀がある

だが、確実にあるのは
日々に突き出てくる腹と
脂ぎった顔と
<お金>への執着
自由であるということは
そういうことなのだ

そう
そして他は一切
ゆるされないのだ

“街の迷路小路”

恐怖してはならない
昼下がりの群衆に孤独を視てはならない
ただ
自己の感性と
未経験な時の希望を想え

饒舌を厭うのは止めよう
語り続けるのだ
孤黙して守りうるものはない
快活に
そしておどけろ

代償の約束されぬ行為に
約束されぬ代償の結末を見定めよ

街の迷路小路に
通勤時の冒険を求めることこそ
真に自由の問題だ

出発についてはそこから始まるとしか言えない

何よりも赤裸さまに
黄昏の空を想起せよ

還らぬ旅行きなど
本当はどこにもない

恐怖してはならない

何ものをも恐れてはならない

“君は駆る”

恐ろしく饒舌に
身を窶して君は駆る

二人の女の前で
君は鮮やかに身を翻した

見逃さなかった女達より
一瞬早く君の眼は女を射った

ちぢみあがった女が四角になった
君は女に優しく親切だというのに

それでも来ないというのであれば
女はバカだと君はいう

時には昼食時の少年のように
恙ない騒擾に身を任せ

君は駆る
なによりもよく君は駆る

“吠えよ”

詩われなかった青春にも
確かに夏の日の残像は鮮やかで

それだけに口惜しさは
いつものようにつのるばかり

叫ぶというよりは吠えてこそ
生の燃焼は完結する

ウソだ嘘だと吠え続け
それでもやはり信じたかった

やがて訪れる時の流れは
きっと僕を連れ去る一迅の風

疲れもしないのに諦めて
いまはもういくところがない

闘いを放棄する前に倒れていたら
どんなに良かったかと僕は思う

“コオロギが啼きます”‐ソネット風に1

コオロギが啼くのです
ぼくはいつまでも啼きたければ啼けと思います

うるさくはないけれど
裏の小庭で頻りにルッルッルッルッ・・・

合唱もあります
デロデロデロデロキルキルキルキル

ああ風が吹きました
優しく僕の肌を包むように通り抜けます

煙草の煙が目に沁みて
ぼくは今日の労働を思い出します

ああ風が吹くのです
コオロギが啼くのです

うるさくはないけれど
僕は世の中のことを思います

“出遭いがしらの幸せ”‐ソネット風に2

出遭いがしらに
僕たち二人は<幸せです>と挨拶を交わすのだ

初めての語らいの時には
<さようなら>を言っておこう

君の瞳が信じられるように
<明日もまた>とは言わない

しなやかに雲が流れて
<悲しくはない>と二人は笑いあった

君の手を取り
<荒れている>と僕は寂しく想う

それでも君は快活に
<あなただって>と僕たちは共存する

出偶いがしらに
僕たち二人は<幸せです>と挨拶を交わした

”思いがけない和解”‐ソネット風に3

思いがけない和解には
多くの忍耐がある

人に教えようとは思わないが
人に識って欲しいことがある

夏草の香りに心をときめかし
僕は寂しく耐えていたのだ

そして
色づき始めた木の葉と伴に和解はやって来た

心を躍らせようとは思わないのに
心はかってに踊りだす

人を信じることは断じて正当だと
僕は宣言する

誰にも負けないで
誰にも勝とうとせず生きよう

“不退転に前進せよ”‐ソネット風に4

一つの予期した敗北が
ついに訪れることはなかった

秋だけが
暗闇を音もなく降りてくる雨とともに訪れる

今年の夏は本当に暑かった
僕はついに一通の暑中見舞いも書けなかった

あまりにも長かった暗闇の予感が
僕を無為のツルで捉えて離さなかったのだ

それでもいまも
あの安息のセプテンバーではない

休むまい進め
不退転に前進せよ、前進せよ

闘争者であることを
生活の九月の中に銘記せよ

“ガラスの破片”‐ソネット風に5

再び私はノミを研ぐ
鋭く硬化した刃先に魂をこめ

そして私はカミソリを手にした
しなやかに伸びた細い身をすばやくあなたの喉元に当てる

重々しいオノは
もはや森の中のメルヘンではない

執拗なノコギリは
あなたの頬に幾条もの血線をひく

殺しはしないのだ
ノミもカミソリもノコギリも

ただ執拗に
あなたから血を奪う

ガラスの破片だけは
わたしのためにとっておく

“此の頃昔は・・・” ‐ソネット風に6

此の頃とってもよく眠れます
僕には見る夢などないのですが

此の頃とっても良く話します
僕には楽しい希望などないのですが

此の頃とってもよく笑います
僕には話す人などいないのですが

此の頃とってもよく食べます
僕には鍛えなければならない肉体などないのですが

昔はよく涙を流しました
君には愛が足りないと言って

昔はよく怒りました
歓ぶことを拒否する現状の悲惨を視よと

今日もよく働きました
明日はテニスでもして、その後映画を観ようと思っています

“アレキサンダーよ、僕は二十四歳になった”‐ソネット風に7

のめり込んでゆく日常の回路に
不音の無機質世界を確かめた

もう走らない急ぐのはやめだ
確かな足音を聞きながら僕は歩こうと思う

アレキサンダーの世界制覇は三十歳だ
僕は二十四歳になった

それでも青年の憂鬱をかなぐり捨てて
朝陽を迎えたいとはまだ思わない

思わずにどこまで生きられるのか
とにかくアレキサンダーは三十歳で世界制覇

僕は二十四歳だ
孤独で寂しくそれでも誠実に行きたい

小っぽけでケチくさく確かに不安な二十四歳
アレキサンダーは三十二歳で死んだ

“つまらない盛り場の喧噪”‐ソネット風に8

ついに時は訪れなかった
僕の日常は既に老化したのか

決意を胸に待った
その時はついに訪れなかったのだ

僕は狡猾にやり過ごし
安堵と焦燥のホダ火を手にした

燃えない
ただ執拗に僕は燻り続ける

今日会社で在ったことは
明日も会社に在る

それを生存の保障と言うのなら
生きることはたやすいがつまらない

つまらないと思うことを恥じ
今夜の盛り場の喧騒もつまらないと思う

”確固として歩め“‐ソネット風に9

歩き続けるほかあるまい
あの千日断食を敢行する自己暗殺僧のように

死ぬまでは浄化されない
精神の不浄を黙嘆していては何も始まらない

茫然とする他ない遥かな道程を
俯瞰したまま峠で立ちつくしてはおれぬ

底なしの暗闇を谷底に見たとて
恐れていては一歩も進めない

深夜の石油コンビナートに
華麗なイルミネーションを呪え

飾り立てた百貨店のショーウインドーに
私の<豊かさ>を対峙せよ

確固として歩め
すべてを振り払って確固として歩め

”僕の労働現場“‐ソネット風に10

ウマクやろうとしてウマクいかず
ウマクやろうとしないのにウマクいく

愛そうとして愛されず
愛さないのに愛される

走ろうとして走れず
走ろうとしなければ勝手に走り出す

思い出そうとしても思い出せず
思い出したくないのに思い出す

いいことだと思うのに悪いと言われ
悪いことだと思うのにほめられる

生きようとすれば哀しくなり
どうせ死ぬのだと思えば心が軽くなる

嬉しくないのに笑顔をつくり
悲しい時に涙も流せない僕の労働現場

“いつか<ナニ>かをやろうと思う”‐ソネット風に11

金切り声をあげて女は
何がそんなに口惜しいのか・・・

本意でない微笑を迫られ
君はうめく

安酒のいやしい臭いをまき散らし
女にからむ男ども

それはすべて君達の責任である
君達の怠惰と羞恥を識れ

それでも君はうめく
女は金切り声を上げる

安酒は卑しく臭い
口惜しさは晴れまい

私もまた
いつか<ナニ>かをやろうと思う

“手を差し伸べてはならない”‐ソネット風に12

男二人
互いに信じながら手を取らず歩く

君の結末は僕が見定める
だから僕の今を許せ

冬の正義にも似た
それは酷しい関係であった

手を差し伸べてはならない
それが男二人の関係であった

男二人
互いに視つめながら微笑まない

君は独りでゆけ
僕は僕だけで十分だ

負けても哀しくはない
勝ちたくはないのだから

“午前三時、僕の夕暮れ時”‐ソネット風に13

パンツ一枚の裸になり
ペンを持って机に向かう

頭を垂れて
耳鳴りとコオロギの啼き声を聞く

午前三時
僕の夕暮れ時だ

牛乳屋の車が
エンジンをふかし走り去る

僕もそろそろ疲れて来て
眠くはないが明日の為に寝ようと思う

時の猶予を持たない労働者
誇りを捨て逆撃を忘れたアホウ鳥

もうどうにでもなれと
そう思えない今頃の自分を哀しく思う

“迷路電鉄地獄行き”‐ソネット風に14

健康であることの悪無限に
僕は現代の喜劇を観た

よせばよい饒舌が
いつも<一言>多かったと悔やませている

白鯨たちの逢瀬には
いつも<気まぐれ>がつきまとっていた

滞りがちの性交も
だから<疲れ>だけではないのだ

烈しく疾駆する苦悩嵐に
<連行>されることを希望する僕

午前四時発
迷路電鉄地獄行きに飛び乗って

ああもうこれですっかり終わったと
僕は酷しく恐怖する

“私は闘いを忘れた闘犬”‐ソネット風に 終わり

作為に満ちて
私の日常は苛烈である

他者に道を譲って
私は闘わず延命する

かつて存在した冬の過酷が
私を激しく討ち返す

よろめきながら
右に左に

それでも私は闘わない
頑固な闘犬のようなものだ

ねじれた悪霊が
私の中にキリキリと舞い込む

私は無防備に
だから統べては私の責任ではない

“鴨川よ、二人は独りである”

京阪三条行き特急が
鴨川の秋の川面に
一しきり騒々しい影を流す

小さな公園の老人のベンチに
私は子供達の嬌声を聴く

冬枯れの今日の鴨川は
頻りに老人に話しかけ
私は平和で独りだ

私と老人

二人は
独りである

“僕は快活に元気である”

よもや
欺してなどいないだろう
僕の饒舌が
冬の過酷に
期待の夢を写し出したとしたら
それは誤解である

君は君
僕は僕

僕は快活に元気である
花のように笑い
砂漠の真昼を
疾駆するように
君の現状を吹き抜けた

戸惑うなとは言わないが
独りであることに
恐怖してはならない

君は君
僕は僕

全ての社会的諸関係に
独りであることを
認知せよ、君!

”単純明快に跳べ!”

優しい微笑みには
撃ち忘れた弁明が秘み
口惜しさは晴れまい

思い半端に
破壊され
何を欲するのか

発条仕掛けの
巻き忘れた
玩具よ

跳べ
公式論者と罵られて
単純明快に跳べ

事態を複雑にして
笑い転げているのは
現状の死刑執行人どもぞ

“現状の狂喜を映す淀川よ”

何よりも現状の狂気を映し
秋の夜を流れる淀川

赤く青く
ネオンは灰色の夜中に

僕が疲れていることは
淀川大橋で確認した

昼下がりの淀川に絶望し
真夜中の淀川に星の堕落を観る

仰げない僕よりも
しかし淀川は絶望しているのか

魚たちよ躍り出でて
この現状を呪い砕け
淀川よ秘めた怒りを
何もしない僕にこめて流せ


“そして僕はいつも・・・”

そしてどうでもいいことは
僕がいつも笑っていることだ

そしておもしろいことは
僕がいつも嘲っていることだ

そしてかなしいことは
僕がいつも笑っているということだ

そしておそろしいことは
僕がいつも嘲っていることだ

そしていまいましいことは
僕がいつも笑っているということだ

そしてこのましいことは
僕がいつも嘲っていることだ

そして楽しいことは
そんなものは僕にはないということだ

“秋よ、僕を襲え!”

よそゆきの言葉に身をやつし
会社に通う僕を
かつての秋が
ことしは襲う

どうしても認めなかった敗惨も
偽りの自己弁明も
君の前では隠し切れない

そうなのだ
かつて確かに秋は存在した

夏の昼下がり
弛緩しきった精神の憂鬱も
秋の訪れとともに
酷しく緊張した

忘れられないことを識って
君を無視しようとした僕を
それでも君は優しくつつむ

何故君は微笑し
君はさりげない

僕だけが
君の敵とみなさなければならない
僕の無念を
秋よ
君は識らずに僕を襲え!

東(ひがし)洋(ひろし)FB詩集「西方の国へ」
25歳で渡独するまでに一年を切った。勤めながら毎日のように深夜思い付きを書きなぐっていた。理由は解らない。多分そんなものはなかったのだろう。未熟だが修正せずに青春の残像をそのままここに再録する。ご笑覧いただければ幸いです。

“孤立して真の幸福を”

ときには誤解もあって
いつも幸福ばかりではない

暗闇を主催する
現状の権力志向者供

奴等には輝く朝陽を
雲海の彼方から照射せよ

鋭ぎすまされた大気は
決して奴等を許すまい

不遇であることは
確かな希望の必要条件だ

現状に狂喜する
奴らのバカ騒ぎにだけは加わるまい

孤立して恵まれないことの
真の幸福をあなたに識って欲しい

“愛か・・・、しょせん”

愛か・・・
しょせん燃え尽きるものよ

愛か・・・
しょせん私的所有物よ

愛か・・・
しょせん涙など嘘よ

愛か・・・
しょせん嘲笑って葬るものよ

愛か・・・
しょせんキリストの専売品よ

愛か・・・
しょせん結婚詐欺の目玉商品よ

愛か・・・
しょせん黄昏の老いぼれどもの思い出話よ

“そしてGNPは世界第二位に”

そしてGNP は世界第二位となり
なによりも人々は狂喜した

腐乱してゆく現実地獄を
君は予感しえなかったというのか

あの悠久の干乾びた大地
インド大陸に
君達の夢想はついに及ばなかった

そしてGNPは
自由世界第二位となり
ないよりも人々は狂喜した

線香花火よりはるかに華々しく
君の没落は決定しているというの

なぜか
深海の奥深く
あの永続の化石魚シーラーカンスには
注視することを忘れていた

そしてGNPは
自由世界第二位となり
なによりも人々は狂喜した

落ちる
腐食する
決して蘇生などあり得ない

“腐乱を決意した僕を目指す”

うしろめたさを置き去りにして
秋は僕の心像を吹き抜ける

あの快適な忘却
不愉快な肉体の健康

腐乱していくことを決意して
僕は日常に回帰した

なのに
まろやかなこの安息は・・・

主体の欠落した無自覚な労働者と
僕は決して自覚などしない

君達には君達の道行きがある
僕は僕を目指す

そう言い切れない処に
僕の確かな生はある

<行進>

やがて人々の行進は滞まり
ワイワイガヤガヤ
うるさいことだ
やがて人々の行進は始まり
ワイワイガヤガヤ
うるさいことだ
僕もやがて行進に加わり
ワイワイガヤガヤ
うるさいことだ

XXX 

酒と煙草と
それにやっぱり赤いバラ
誰でもそんな時が
一度は訪れることを望んでいる

自堕落な一生には恐れても
時には女に声をかけたい

昔は良かった
吉原女郎屋
今もなかなか
トルコでアワオドリ

不倫の恋に慄きながら
それでも窓に忍び寄り
小さな石を投げ込んだ

シェークスピアはハムレット
ロマンスならチャタレイ婦人
庶民も負けじと隣の年増後家

金貸しついでに
義理も貸し
金を返せと
娘を妾

昔も今もをかわらずに
僕らはいつも
女が欲しい