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再生可能エネルギーで持続可能で安全な未来を志向し、カラフルで、多様性豊かな多文化社会を創ろう!

東(ひがし)洋(ひろし)FB詩集「腐乱する都市」IV

2025-01-27 03:44:42 | 日記
“腐乱する都市”では纏められない日常が開けてきた。一人で暗く斜に構え、世を恨んでいたのは、日々の生活にとけ込めない己の不甲斐なさに対する絶望でもあった。ただ、外国と言えども日々生き延びれば、新しい世界は開けてくるものだ。私はドイツに来て一年が過ぎ、友も何人か説明のつかない偶然が私に恵んでくれた。したことは、誠意をもって真摯に生きること。だからといって、いつも暗く独りであったばかりではないことを友は示していくれている。もう、ハンブルクも「腐乱する都市」ではなくなった。新しい章に進みたい。青春の残像を残す“雑詩“はまだ相当書きなぐったものがある。次はどんな章となるのか。期待なさらず今暫くご猶予願います。
これまでのFB詩集「腐乱する都市」は全て纏めて私のブログ(https://blog.goo.ne.jp/admin/entry)に掲載するので、よろしければご笑覧願います。

“影が歩く”

基本的には独りである
どこかに忘れてきたのは
祖国だったか
夢だったか
影が歩く
意味を喪えば記号でしかない
しかし
知人は愛想を崩さず
千のクサビを私に打ち込んで
宙に舞う風車
黒と白
朝露のように鮮やかな格子模様の空
の下
影が歩く
誕まれてきてよかった
海の底で生産する
あれは
私の母であったのか
黒く燃え上がる落日に
明日を祈れとは
おかあさん
実に適切な忠告ではありませんか
戯れに
独りであるということは
目が知っています
黄金にくらむ
私の時空が
基本的に独りであることによって
問われているのは
そろそろ自明のことと言わなければ・・・

東 洋FB詩集「腐乱する都市」III

2025-01-27 03:39:48 | 日記
“ドイツ連邦共和国”

ドイツ連邦共和国
自由主義圏におけるもっとも政治的に安定した国
新聞記者が、アナウンサーが
ちょっとしたいい気分と
ちょっとした醜い誇りをもって
ドイツ連邦共和国国民に
忘れないで!
と注意を促す
とりわけ新しくも珍しくもないが
歴史的である
ラテン・ヨーロッパの共産主義者は
狡猾で取引上手だから
アジア、アフリカ、ラテン・アメリカは
後進国だから
いつも国を騒がす
レンガ色の風景と歩行者天国の平和は
一家族一匹のダックスフンドと伴に
イタリア人を見ては笑い
ウディ・アミンを読んではほくそ笑み
中国人を見ては顔をしかめ
フランツ・ヨゼフ・シュトラウスに
感涙の泪を流す
過ぎし日の過酷こそ我らの誇り
この豊かさは
美しいドイツランドと
賢明なゲルマン民族の
個有の創造物である
たしかに
アジア、アフリカ、ラテン・アメリカの
貧しさは
ラテン・ヨーロッパの底抜けの陽気さは
ドイツ連邦共和国の責任ではない

“歴史性を貫徹する流儀”

法則に全ては従う
時も空も驚きさえ
解読困難な花の美しさも
そして
流儀は百代の過客にして
時折
駅の待合室にまで
プラットホームの広告板にまで
あの歴史性を貫徹する

“聞き飽きた宣戦布告”

駆ける
青春の喜びとは
なんと
不鮮明な!
悲惨であればまだしも
十中八、九
歓喜とは
清らかな自涜の祝祭を
司どる
彩る栄誉の無戮性は
さて
何も観ないことにした
聞き飽きた宣戦布告
口を開いては
ああ、またか!

“思いつめては、ああ花のヨーロッパ!”

少年Kの窃盗は
母の恋狂いが原因だった
よくあるやつで
母の愛があまりにも人間的であった悲惨
と軽々しく解説を加えて
劇場を飛び出して行った
不良少年
馬上の青春がナナハンに変わっても
断固として貫徹する
不埒な贋造紙幣の価値法則
思いつめては
カムチャッカに非合法上陸
思いつめては
ああ、花のヨーロッパ!
書き忘れた言い訳を
出あいがしらに口走り
うろたえる牛歳誕まれの秦始皇帝
まさか
きみではないだろう?
君恋し、父の家出は
君恋し、笹の昼寝は
それは真夏白昼に起こらなければならなかった
それは突然、暴動よりも正当性をもって
巨樹の間、紅金の星に照らされ
視界千キロのユーラシアを越えて
千騎の少年兵を従え
誕れ堕ちたマリアを凌辱するため
思いつめては
カムチャッカに上陸し
思いつめては
ああ、花のヨーロッパ!

“思いがけないことではない”

思いがけないことで
我を忘れたのではない
いつも思っていたことに
驚かされただけだ
              家を売り
              家具を競売し
              見廻り品をトランクに詰めて
ハイウェイを高速道路を走らなければ
              明日がない
              父は死んだ      
              おまえは新しい父を見つけるだろう
事実に惑わされてはいけない
              恐ろしいのは  
              失意の隠蔽
              悲しいのは
              隠蔽の事実
明日からは私が仕事に出る
              起こったことより
              起こることに身構えよう
これからもまた思いつづけて
              父の死に驚かされても
思いがけないことではないと
              胸を張って
              悲しむために

“神風特別攻撃隊の悲劇”

早朝五時、膀胱の充満に耐えきれず
出勤拒否の決意を急ぐ
厠に立ち
夜露が乾く朝陽の中
日本の精神を劇化する
スーパーマーケットの大廉売
ヤマトダマシイが五千万円とは
コドモダマシも度がすぎる
腐敗した無償の行為の復権を
セスナ機の翼に乗せて
今日
立川基地第一滑走路を飛びたつ
ガソリンを満載したタンクが
唯一の科白
この一週間心ゆくまで濡れた
この一週間心ゆくまで慄えた
日本武尊の女好きには
まだ納得できないが
ヒロヒトの無邪気さは高雅である
歴史的正当性をもって闘った敵
亜米利加!
その走狗に成り下がった売国奴は
ヒロヒト?
コダマ?
東宮御所に向かって一礼し
端正にうろたえながら
いきなり
全身を戦慄が走り
脳裏をあの女が走り
滑走路をセスナが走った

“借金”

彼の寂しさは
後ろ姿の雨ではない
彼の優しさは
旅発ちの朝のそれではない
そんな男が
今日私のドアの前に立っていた
心から歓迎したのは
僕の責任かも知れない
心から退屈したのは
僕の非礼かも知れない
彼は
慄える
未来と伴に
ハチミツが一番好きだと言った
彼に
それが君の現実ではないと言った
僕は
なにかを同時に喪った
未練に後ろ髪引かれる彼では
ないが
一人の人間を抹殺しなければならなかった
惨劇の会話はそれでも続く
テーブルの前に座るのが好きだが
台所を駆け回るのはいやだと言った
彼に
それが君の現実だと言った
僕は
何かを同時に感じた
彼の消えた部屋
間断なく雨滴の叩く窓から
最後の別れを彼に告げた

”アウトゥロ・ウイを観に行って“

切符の売り子にはまいった
あんなに親切に
丁重にやられたのでは
いやまいった
あんまり早く行きすぎたので
一番後ろの
一番端の
席を二割高で売ってくれるなんて
おかげで
あまりの嬉しさに
心臓ドキドキ
精神が高揚して
芝居の筋など追ってられるか
ハイル、ヒトラー!
ユダヤ人を叩き出せ!
なんて美しいんだろうドイツランド!
切符の売り子の愛国心に応え
今夜の観客はドイツ人だけ
ああ
僕が劇場に行ったのは
きっと僕の責任なんだ
僕がゲルマン民族でないのは
きっと僕の罪なんだ
せめて背広を着て
ネクタイを首に巻いて行けば
ブレヒトは喜んでくれただろう
売子はきっと
最もブレヒトを理解していたに違いない
今日の出来事は
とにかくドイツ的であった
なによりも

“ミヨちゃんらしき子が手招きする”

電信柱の陰に
下駄をはいたミヨちゃんらしき子が
膝までしかない着物着て
僕を呼ぶ
行っちゃいけない
行けばそこは地獄
歯のない口をしばたき
瞳のない目をむきだして
微笑しながら
ミヨちゃんらしき子が手招きする
行っちゃおうか
地獄だって
しれきった明日を待つよりはましだろう
だけど
どうしてミヨちゃんらしき子が
僕を呼ぶのか
もう少し時間をかけて検討しなきゃ
別に世に未練があるわけじゃない
あの娘とも寝たいし
時計の値上がりしたことにだって
腹が立たないわけじゃない
そんな風に考えると
ミヨちゃんらしき子はいつの間にか
電信柱の陰になってしまう
僕は
ああ助かった
と思いながら
やっぱり地獄なんて
僕とは関係ないなあと
つくづく
午後の自分を憶って
顔を赤らめる
だからといって
これからは地獄なんて絶対に口に出さない
と決意表明なんかしないけど

”オディプスコンプレックス“

長さ一メートルの及ぶ父の顔
唇をめくり
歯を合わせて
二ッと笑う
目覚めた俺の秩序に
正座する
長さ一メートルの及ぶ父の顔
眼を開けるな!
殺意が走る
<殺される!>
長さ一メートルに及ぶ父の顔を
俺は瞼を閉じたまま
石のように見る
天井に足裏で吸いついた母が
オカキの袋を胸に抱き
ユラユラ揺れる
悪意と饒舌の間を
往きつ戻りつ
動くな!
石化せよ!
<殺される!>
長さ一メートルの及ぶ父の顔に
眼をつり上げ
痙攣する眉間
天井を踏み抜くように
恫喝する母
殺される!
いわれの無いことではない
躰を鋼鉄のように張り
夜の弁明に
石のように唱和する
いわれの無いことではない

“出勤拒否を決意する”

早朝
端正に出勤の途を急ぐ
一番電車
目的の無い祈りにも似て
恍惚の迷いだったか
街路の下で
亡と白む西の空に
小鳥たちの囀りを聞く
またとない機会だ
立ち止まり
空を仰ぎ
深く息を吸って踵を返す
呼びかける神も
呼び止める母も
俺には無縁だった
強いて言っているのではない
海底の砂丘にも似て
誰に識られることも望まず
俺は人々の間に居た
働くということ
それだけで一つの価値を産む
その神聖なさりげなさが
俺の目を被っていたとて
後悔することはない
明日の出勤拒否を決意するため
今日最後の別れを告げてくると
俺はいつも出掛けた
そして明日も出勤拒否を決意するため
最後の別れを告げに出かけるだろう
それでも
無念を隠し切れないのは
働き続ける者の
権利の今なお生き続けていることを証している

“前科九十九犯の少年”

飛び交う小鳥たちの囀りに
理由のない憎悪をむき出して
たとえば
独り(の)少年が泪の森を彷徨う
朝陽が
木枝の間を透って
白い光線(矢)を射す頃
仰げない少年の目に
泪が涸れる
いつも思わせ振りに開ける朝
巨樹に囲まれて
雪シダのように世界が歩いてくれるなら
少年の想い出箱に
抜け落ちた憎悪の牙を
しまい込む必要もないだろうに
恐喝
押し込み強盗
そして銀行襲撃
世界の法則が
海底砂漠のように孤独であってくれたら
少年が
泪の森にさ迷い込むこともなかっただろう
知っているか
少年の前科が九十九犯であることを
知っているか
裁判長が添い寝刑を言い渡したことを
知っているか
いつも愛と黄金に裏切り続けられたことを
少年の憎悪の牙が
いま泪の森を刺し抜き
世界の由来について
考え始めたことを

”愛のカラクリ箱“

君の瞳が
木洩れ陽みたいだから
僕は思わずつまづき
世界を漂白してしまった
緑の髪が
枯葉色の風に流れて
秋が
寂しそうに頃が落ちる頃
素足の君は
白い樹立の間を
スキップを踏んで
転々と跳び弾ねているんだもの
僕は
思わず嬉しくなって
泪の泉に飛び込んでしまった
そんな二人の前に
ただ一本の道が
まっすぐ脇目も振らず伸びていてくれるなら
石にだって
感謝するのだけれど
そんなことを
波頭に乗せて
遠い南の島に運んでくれるなら
時だって
信じるのだけれど
それが
愛のカラクリ箱の囮だと
つまらなさそうに
言わなければならない
二人が愛し合うには
世界はまだ若すぎるのだ

東(ひがし)洋(ひろし) FB詩集「腐乱する都市」II

2025-01-27 03:39:48 | 日記
暫く雑用に追われ、書き綴っていた青春の記録をご笑覧いただく作業を怠っていた。これは私の紛いのない孤独なハンブルクでの闘いの足跡を辿り、希望と絶望の間を振り子にぶら下って不様に行ったり来たりしていた二十五を超えて間もない頃の記録です。よろしければ、今暫くお付き合い願います。

“コーネリア”

意地悪な夜陰にからまれ
“欲望という名の電車”に
いきなり饐えた風が吹き込む
コーネリア
孤独である
断固として不安である
欄干のない橋の上で
未来永劫に倒れ続ける帝王学
韻律を落として
最も単純な方程式の中を彷徨う
“邂逅”とは難しいものですと
どうして
正面図の中に君の肖像画を架け
小さなロウソクに灯を点せないのか
コーネリア
時として
昨日誕生を祝ったばかりの猫までが
金色の目を光らせ
氷結した影の暴力の中で
哂う
木霊する階級興亡の冥府
必ずややって来る腐臭軍団
それから
一切の正当(統)性を黙殺し
肥満した言葉の脂身を剥ぎ
雪崩れてゆけたら
コーネリア!
黄金に輝く四頭立ての馬車、
死臭を放って駆け抜ける車の爆音
君を密告くしたい
コーネリア
捜索願の出て久しい
主人殺しの女中を讃え
紅金の巨樹に囲まれる
コーネリア
君を追憶する
耳そばだてて走る売僧の操るタクシーの中
秘かに耽る桜泥棒の夢
とても耐えきれない
正統(当)であるということ
無頼であるということ
そしてなによりも
二十世紀後半の風景の中に遊ぶ
一匹の孤蝶であるということ
ああ
コーネリア
むしろ
魂の構造改革に向け
コルト45の撃鉄を打てと
君は言うが
影る
陰る時の翻る
五月のあおぞらに
次元を歪めて忽然と
消えてゆけたら
コーネリア!

取り返しのつかない遅刻
君を呪殺したい
コーネリア

見捨てられた屍体の呻きを
もう一度夢のカリフォーニアで掘り出し
鳴動する地の底へ逆措定する
コーネリア
悲しかった
諦念が木霊する
それでもなお快活に
静止した朝夕の挨拶を
情念のカオスに引き込むあの
姿勢の美学に酔いしれることが出来るなら
千年の昔、その第一夜に
血糊を群衆の前で讃えたという
シシリアを旅し
君に手紙だって出せるだろうに
コーネリア
しかし
今は酷寒の時代だ
誰も言い訳さえすることなく
千人を殺して泣くことのない時代だ
さあ
歌を
唄え!
唄いながらまた殺戮し
その死を超えて
鳴動する地の底へ
厚い血の手紙をたずさえて
墜ちてゆくんだ
コーネリア!

”再び首都へ!“

再び首都へ
燃え上がる思慕の情
こめかみの痙攣にためて
一気に
空翔ける
首都へ 再び
いつも
不死身の理論武装に触発され
一切の抒情を拒否して
僕達は端正であった
あふれる思慕の情は
予定通りの結末に一刻
目を見開きはしたが
この愛しい重みを下ろすつもりはない
時よりも早く駆け抜けた
僕達であれば
いま
一刻の休息をも拒否して
駆けつづけていること
言うまでもない
おおよ!
首都は深い失望の底で
肥え桶かついだ僕達の入場を懸命に待っているではないか
浄化された精悍な
風呂桶の中の教条主義者よ
非難の声に火をかけて
スクラムハーフの鋭敏と
鉛をつめたフロントを楯に
血塗られた弁明の記者会見を
放屁一発 完璧のコンビネーション
中央突破して
首都へ 再び!

“今日も家でゴロゴロしているよ”

辞書をめくり
景気の悪い鼻風に悩まされ
いきなり
”慶祝”という字を見つけた
まずは祝え!
ブラボー!エエゾ!
ニイチャン、イッテコマセ!
万歳をしなかった
日本系米国人を
複雑な感情と呼ぶ
それとも
米国系日本人?
頭痛が伴わないだけ
毒気も薄められて
自動販売機の牛乳みたいだよ!
真っ白でさ
久し振りに見た鮮やかさ
真っ白な娘は
去年の夏
前ぶれもなく米国へ帰っちゃった
気がふれたように
追憶も一緒に
突然
昨日受け取った手紙に
返事は書かない
本当は
手頃なところで手を打つべきだけど
しゃくだから
百日咳かしらと
疑ってみたりして
今日も医者には行かず
家でごろごろしているよ

“歴史過程 Ⅱ”

まったくひどい話さ
この期に及んでアレルギーなんて
楽しみにしていた
“ブレヒトの夜“も諦めなきゃ
君との約束は守るけど
事態の経過については
責任はもてない
“そんな!”
なんて言ってくれても
ちっとも悲しくなんかない
本当は歌いだしたような気分さ
ウキウキ酩酊するグッピーのようなもので
どこといって
たいした深刻さはないさ
ちょっとトンボ返りをして
一直線にそのまま駆け抜け
喘ぎながら笑い出すのも
一つの悲しみの形じゃないだろうか
山を見て
樹々のそよがない風景を想像できる僕達だから
南スペインで途方に暮れるのもわかるけど
僕は
母国をうらまないことにした
乾くのも濡れるのも
丸い洗濯桶の中で
木もれ日に包まれて沐浴することも
いつとはなしに
斑点におおわれ
まだらな熱に操られて
楽しくはないと思うようなもので
大したことじゃないんだ

“午前三時、夜鳴き鳥が”

夜鳴き鳥の
なんてあけっぴろげなお喋り
快活に
ここには闇のないことを見抜いているように
形のない世界から
フラッシュを叩く
きょうは
どういう訳かひきちぎるような
音をまき散らし
午前三時
一秒だって狂わないギリシャ正教の鐘を聞きながら
欺瞞を満載した車の交通が激しい
だからからかうように
口を大きく開けて
全ての力を舌の一点にこめ
おもいっきり
いたずらっぽく叩く
その後で
誰もいなまわりを見回し
恥じ入るように快心の微笑みを
浮かべて夜鳴き鳥が
午前三時
過ぎたところで
前ぶれもなく
おしあげるように近づき
一気に鐘の余韻を奪って
走り去った車に
真っ赤な舌を出して
快活な夜鳴き鳥が
憔悴した
午前三時を訪れた

”惨劇の交差点“

信号機の誤算が
霞む
惨劇の交差点
星辰
白昼に舞う赤児の亡霊を
鎮めよ
地蔵盆にはゆかたがけで
北区花町の憂鬱
“あれは”なんて口走ると
すぐ故郷を想い出す脆弱さ!
なんて薄汚いんだろう!
まるでマンションみたいじゃないか!
街角から“あの”タバコ屋が消えても
一般的なことに変わりはないだろ!
饒舌な路面電車だった
愉快な車屋さん!
夜ごと夜ごとの
天体観測にも飽きた
次は
公式通りに白昼の通り魔
二尺三寸の抜身に
積年の怠惰をこめ
北区花町八丁目の角
地蔵尊の前で
懸命に弁明する
信号機は地上五メートルで
危険を通告したまま
車はとだえ
人通りはなく
白昼に星降る
今日も死者

”詩的に蘇生する首都“

午後一時
最も反詩的な刻にも
拡散した犯罪の追跡は止めない
警視庁
その直截性において
唯一教条主義者の存在を許す
爆破せよ!
抽象化された不条理が
漂う自立の独立宣言を黙殺する
春の影が揺れる
黄色い矢車 ふくじゅそう
わきあがる歓喜 東のすずめ
堕ちてゆくかげろう 西の恋人
春の陽が日時計を盗んだ
まるで散歩をとりあげたヒトラーのように
裏切りが行進する体系化されたスターリン
人間をやきいもみたいにしたのはカリー中尉
彼は殺したとは言わなかった“駆除した”のだ
巣鴨の十三階段
凶悪な秩序の正当性を
爆破せよ!
鹿鳴館の敷石を砕き
東宮御所の壁板をはぎ
経団連会館のカーテンを引きちぎり
霞が関ビルを
バリケード封鎖せよ!
午後一時
空を舞う武装ヘリコプタ―
戦車
戦闘準備完了!
いつものように
首都は今
詩的に蘇生する

“タイムカードは焼き捨てた”

揺れる食料品店の陳列棚
いつも
台所で悲哀する冷蔵庫
不可視のハッピーエンドを
夢見る他ない
ベッドはいつも不安だった
一刻の
正餐を祈る
つつましい夫婦の絆が
諦念だった日の悲惨
なんと
めめしい生産活動だったことだろう
それでも都市はいつも夜を運び
じつに多様に朝は明けた
太陽に追われ
恫(恐)喝する星に犠牲(生贄)を捧げて
かろうじて
延命する労働日とは何か
祝祭日こそ
充たされることのない老年時代だと
トランジスタラジオ製造工場の
休憩時間は伝えている
一秒だって越えられない
文字盤上の抑圧された秒針
たかが一秒が
決定する
飢餓と飽満の
失喪
タイム・カードは
今日焼き捨てた

”星辰にしんと立つ“

こんなに豊かな太陽に恵まれていながら
僕達が不幸だなんて
そんなこと
本当は言っちゃいけないんだ
猜疑するよりは
信頼することが
どんなに難しいか知っているからと言って
人に会って
挨拶しないなんて
本当は決意しちゃいけないんだ
饒舌に沈黙し
星降りに星傘さして
しんと
星雪の白原に起ち
素朴であること
無垢であること
純真であることに
恥じない単純明快さを
獲得せよ!
君!
と呼びかける押し付けがましさを
超えて
てらいなく道行く
魂の有様を
木立や街の家並みの中で
獲得せよ!
こんなに豊かな太陽に恵まれていながら
僕達は今日まで気づかなかったなんて
そんなこと
無念だなんて言わずに
星辰の雪原にしんと起たなければ

東(ひがし)洋(ひろし)FB詩集「腐乱する都市」I

2025-01-27 03:21:53 | 日記
東(ひがし)洋(ひろし)FB詩集「腐乱する都市」
また北ドイツで書き溜めた詩紛いのモノをここに笑覧に曝します。もとより、嘲りと軽侮、冷笑は覚悟の上。確かに心が疼くが、そこにある以上、隠すことなど思いも及ばない。お騒がせすることを平にご容赦願い、一刻お付き合い願います。

“死を剥奪する”

閉じ込められた鉄箱の中で
さらに小さく蹲り
頭をかかえ口唇を慄わせて
懸命に弁明(自己弁護)する
おまえ!
おまえは狡猾である
    矮小である
そしてなによりも臆病である
一つの星さえ見詰め続けることのできない
底の浅いおまえの決意が
世界を不幸にしているのだ
そしてなによりも人間を否定している
閉じ込められた鉄箱の中で
さらに小さく体を折り
ふとんを被って眠り込み
ついに目を開けようとしない
おまえ!
おまえは卑怯である
    怠惰である
そしてなによりも臆病である
一人の少女さえ見詰め続けることのできない
底の浅いおまえの“愛”が
同志を裏切り
姉兄を売り
そしてなによりも母から優しい微笑みを奪った
おまえ、
おまえに宣告する!
いかなる神も
おまえを救いはしない
おまえを責めはしない
そしてお前から死を剥奪する!

“腐乱してゆく二十世紀後半”

霧と雨と民家の屋根を押しつぶすように
空を覆う鉛色の雲
それは何でもない
それは絵ではない
それは僕の精神を映しもしなければ
腐乱してゆく二十世紀後半の時代を象徴ってもいない
ただ
それは北ドイツで太陽を隠蔽し
全てを
単純明快に説明しているだけだ

最新型のアルファ・ロメオにパリを着た娘達
黄金のティー・テラス
それは何でもない
それは絵ではない
それは僕の懶惰を挑発することもなければ
輝く“我らの時代”を祝福してもいない
ただ
それは北ドイツで人間の感性を改造し
全てを
縦横無尽に嘲笑しているだけだ

“栄養失調の精神”

時は初夏
透きとおるように浄化された大気の中
さりげなく昇る朝陽
ゆっくり全てを確かめ
今日もまた新しい生命の誕生に向け
まっすぐ
なんと大胆な祝福の仕方だろう
この一条の光
爆裂音が大地を震する
砲撃は四方八方
ところかまわず灼熱の尾火を引く火球
手足を引き裂かれ
それでも死にきれず呻く
万人の生活者
それでも
時は晩秋に移り
大きく躍り上って飛びだす
大火球が
宙宇を一瞬のうちに
飛び超え
朝もやの立ち込めた高原の湖畔に
一日の
実り豊かな到来を告げる
人々は
栄養のみごとに失調した精神を抱え
会員制の大舞踏会の宿酔に
忘れてきた大肥満の恋を追憶する
その時
初雪が舞わなければ
大それた
北極探検を試みることもなかっただろうに
ペストを恐れて
北の端という出発点に発ち
少しは
今世紀最大の悲惨について
七五調で
歌うこともできただろうに

“今日もとにかく退屈だった”

いつまでたっても見えてこない
なにを見たいのか
いつまでたっても浮かんでこない
今日もとにかく退屈だった
明日もきっと今日だろう
平和が裏返しにされて恨まれている
人の肉を喰って生き延びて
それで、この平和か
一日、一日
女のことばかり考えて
あいつに手を出しゃ骨が折れる
こいつに口出しゃ金がいる
部屋の隅に蹲り
今日もとにかく退屈だった

そんな平和を
消化しきれず
胸やけにぶ厚い焦燥をそえて
重い胃酸の
心もとない弁明を聞いている
なるほど
今日も世界は開かなかった
ヴェールはいつも薄いのに
影を見ることもできなかった
真摯であるということ
誠実であるということ
なんと
衰弱した朝夕の挨拶であることか

見えても見ず
見えないものを見て
今日も一日
恐怖を喰らって
快活に
僕達は不安だった

“悪意の時刻表”

いきなり
一人の女を憎悪する
理由がないのが気に入った
久し振りに味わう
閉ざされた自愛の前で戦慄する
この快感
必ずしも正確ではない
悪意の時刻表だけが
弛緩しきった柵の中の泉に
石を投げ込む
着水点を中心に
真赤な同心円を描いて繰り返す
女を憎悪するということ
夢に嫉妬するということ
風が匍匐前進するということ
それら全てが小さなガラス箱の中の
出来事だと識っても
やっぱり恐怖するか

“時の屍の上で”

私が何かを喪ったのは確かだ
透きとおるようなプラスティックの壁に
囲まれた部屋で
私が何かを喪いつつあることは
“喪った”ということより確かだ
それが
時の屍の上に
かろうじて咲く
生の姿であると
時は私をおびきだし
私を閉じ込め
私を透きとおった壁の中に置き去り
喪失の中の
生を今も繰り返している

”記号Aについての物語“

置き忘れられた記号A 
その観念性が妙に冷たい
と言って泣く君
記号Aの影が消えた朝
君は一つの悲惨を生んだ
疾駆する伝令
今は都市
追う記号がよくある街角を折れる
いきなりよくある通りに出て
勝ち誇ったように喘ぐ記号A
嘲う悲惨
都市は今
有史以来の平安の底で乾く
君が泣く
記号Aの身上話は
喪った影
自身の影を焼き払った都市であれば
君の泪が
悲惨よりも影を慕ったとて
二十億年の仮説は
今もなお
都市の上に燦然と輝く
記号Aの観念性は
全て存在するものの具体性より
二十億年の仮説の下に消え去った
その影のように
悲惨ではない
だから
君は泣きながら悲惨を産んだか
地球よ

記号Aの留置は
君にとって
致命的だった

“威風堂々風に乗って”

おお
君の行為に素朴な無頼さはあっても
悪意のないことは
誰よりも風が知っている
だから
風に乗って無邪気に
真空の都市を駆け抜け
恋人たちのいる風景に
彩色する
<拒絶すれば俺は君を本当に愛してしまう>
優しく恫喝する
二十世紀後半の君は
いきなり予定通りの世紀末に突入して
心おきなくうろたえるか
いや
文部省国民痴呆化局義務教育課に推薦され
勇気を千倍にして
鼻をかもう
ああ
この惚れ惚れするような
しれきった明日は誰のもの?
だからといって
嘆くな君
風は吹く
論理的必然をもって吹く風に
大地が呼応し
なによりも恋の積乱雲は
あんなにも力強く
真夏の白い海の彼方で
微笑んでいるではないか
夢よりは君
風に乗ろう
風に乗って
恋の港に
威風堂々
明日を訪ねて
今日入港するんだ