あの世
《聖なる戦いに倒れた私》を待つはずのあの世の様を想う。
ラァ、トゥ ネ コルドル エ ボォテェ
(彼の地、なべては調和と秀麗)
リュックス、カルム エ ヴォリュプテェ
(豪奢に静寂、また悦楽)( L'invitation au voyage 朗読(82秒)を聴く(MP3) )(litteratureaudio.com)
しかし、一抹の不安。
この世は苦痛に過ぎるが、あの世はきっと退屈に過ぎやせぬか。
美味と官能の永遠、美しき乙女らに傅かるるこの世のものならぬ佳肴の数々を満喫し、たおやかなる乙女らが舞い奏づる甘美きわまる歌舞音曲を堪能せねばならぬ永劫。ほどなく倦怠と止めどなき肥満に見舞わるるに違いなき日々。
それとも、朝、目覚むると、過ぎし日の記憶はすべて失われており、あらゆる悦楽は日々新たに感ぜらるる永劫こそあの世なのか。
あの世にちょっと注文。
美しき乙女、大いに結構だが、私の好みはどちらかというとうら若き人妻、それも細身がいい。無論、美形でなくてはならぬ。「一盗二婢三妾」の王道を歩む私なのである。
食卓には是非うまい刺身が欲しい。むろん魚だ。それと魚の煮付け、大の好みは「ブリかま」だ。飲みものは極上の吟醸酒。
《聖なる戦い》に身を捧げるのだ。この程度の注文をつけても罰は当たるまいさ。
(了)