「ゴロワース」異変

ガールフレンドと、昔、アラン・ドロンとジャン・ギャバンが共演する映画を見に

行ったことがある。

同じ男でも、美男子ドロンなんて、不可解きわまった。


映画の後、彼女から話を振られた。

「日本の俳優で、ドロンに似ている人って、誰と思う？」

「・・・」

（知るか、そんなもん）

正直に言えば、ふて腐れてるのが丸出しなので沈黙を守った。

彼女はしばらく考えた後、

「中村敦夫かな」と納得したようにいった。

中村敦夫って「木枯らし紋次郎」で主演していた俳優さんだ。

（そうか、女性から見て、あれがモテ筋なんやな）と理解した。しかし、どっちに

しろ僕には縁がない。

別れ際、小さな声で彼女が言った。

「将来、ジャン・ギャバンのようになると思うよ」

「誰がや、ドロンがか？」

「・・・」

頭を振りながら、しばらく間をおいてから教えてくれた。

「あなた」だと。

えっ、えー！

以来、ジャン・ギャバンのファンだ。基本的に、僕ってお調子者なんだ。

ところで、昨夜、「ゴロワース」（タバコの銘柄）の製造元のアルタディス社がイ

ギリスのタバコ会社に買収されたことを知った。

「ゴロワース」は、ジャン・ギャバンが愛したタバコだ。

（このタバコがないと、ジャン・ギャバンが困るんだけどなぁ！）



別に、「ゴロワース」がこの世から姿を消すわけではないだろう。しかし、このタ

バコ、名優が口にくわえていたという事実だけでなく、古代ローマの支配に抵抗し

たガリア人を連想させる名称だからこそ価値があった。サルトルも吸い、画家ピカ

ソも愛飲したのも、そのためだろう。やっぱり「ゴロワース」は、本社がガリア人

の国、フランスにあってこそ、「ゴロワース」と思う。