のんきに介護

母親と一緒の生活で、考えたこと書きます。

さわりの部分だけ・・・

2008年05月11日 19時17分16秒 | Weblog
初勤務日、同じように勤務についた人間がいた。利用者の介助を始めようとすると、

割って入ってきた。


「あんた、何だ?」と訊くと「監視だ」と応える。僕が信用できないから、見張れと、

上の方から指示があったらしい。



利用者に関わろうとすると、その男が横槍を入れてきた。何かというと、「俺は監視

しているのだ」と言って、自分の考えを押し付けてきた。僕としては、施設の方針が

そうだと言うなら、従うしかない。仕方なく、観察する側に回った。

それで気づいたのは、重症心身障害者に対する食事介助の仕方が大変に強引だ

ということだった。利用者の名前をK君とでもしておこうかな。



K君は全盲者の子供だった。母親とは幼いとき死別している。施設で引き取ったと

き、それまで食事と言えば、コンビニ弁当しか食べたことのなかったらしい。初めて

見るご馳走にK君が喜び、テーブルの上で踊りだしたという。たまたま施設長が来

て、その目撃するところとなり、

「お猿さんのような真似はさせるな」と注意したとのことだった。

笑いながら、ヘルパーさんらが語っていた。笑うような話ではないと思うが、皆はそ

れを大変喜んでいた。僕の監視員という男、N君とでも名づけておこうか、も嬉しそ

うに、その詰まらん話に同調していた。

K君の嫌がって口をそむける姿がその伝説と対照的で、これでいいのかという疑問を

感じさせた。自分が見たままに、連絡帳に次のように感想を書いた。

「何年も前に机に乗って喜んだからと言って、強引な食事の仕方をさせていいもので

はない」と。

ヘルパーさんは、6人ぐらいいたのかな。全員を初日から敵に回すことになった。夜

中、K君は、牛のごとく食べたものを口に戻し食べ直しをしていた。

それを指摘しても、K君のそれが自然な食べ方だと言って、誰も僕の話を訊かなかっ

た。僕も最初はずっと遠慮していた。しかし、午前1時頃になっても、牛の反芻のよ

うな行為が続いた。僕は克明にその事実を連絡帳に書きとめ続けた。



「医者が異常ないと言ってる!」

ヒステリックな声で、抗議された。僕を見る目つきが親の敵を見るようなそれだった。


「医者がGoと言えば、命を奪っていいと思っているのか?」と、僕は問い返した。

そして医学書を調べ、反芻のような食べ方は、”逆流性食道炎”の症状だと突き止め

た。それを読ませると、反省してくれるかと思ったら、益々憎悪の念を募らされただ

けだった。



もう一人、介助のやり方を巡って、他の職員と対立した利用者にY君がいる。一見、

おとなしい人だ。しかし、特異な癖がある。

絶対音階の持ち主で、唄を歌わせると、まるでピアノを演奏しているよう歌い方をす

る。信じられないかもしれないけれど、これが武器なのだ。

ある曲のワンフレーズを繰り返し繰り返し聞かされるのだ。僕はその人に対して、平

気を装えばいいと主張していた。つまり、放っておけということだ。

僕の監視員N君は、力で抑え込む主義だ。Y君が声を上げる度、柔道の寝技で首を締

め上げるような介助をしていた。あまりのやり方に、怒りさえ覚えた。

それでY君に向かって、

「お~い、聞こえるか? 黙って締め上げられてたらあかんで。蹴り上げたれ。頭

やったら、足で殴れるぞ~」

僕の忠告を耳にしたY君は足を振り上げて、N君の頭を懸命にけっていた。N君は、

長い間、Y君が言葉を解する人だとは知らなかったようだ。掃いて捨てるほどの優秀

な職員を多数抱えているはずの施設なのに、Y君が言葉を解する人だということに気

づけた者がいなかったというのは、他人事ながらちょっとショックだった。



僕がこの後、Y君の言語能力を立証することになるのだが、他の職員たちの妬みや嫉

みを招く元になる。

僕には何もするなといわんばっかりの雰囲気になった。

そんなこんなで約半年が経過した。職員全員を集めてミーティングをやることになっ

た。理事も全員参加した。ミーティングの目的は、新しく入った人の気概を引き出す

ことにあるようだった。



ある一人の女性スタッフが唇を震わせながら、Y君の処遇の難しさを訴えていた。寝

技がうまく出来ないのだろう、どうしていいかわからない様子だった。その女性には

監視員はついていない。全面的に信頼されているのだ。しかし、ヘルパーたちが余計

なアドバイスをするため、話をややこしくしてしまっているのが読み取れた。

可笑しさをかみ殺しながら、意見してあげることにした。

「あのな、君。よう聞きや。ここの職員、”介護のプロ”やちゅう顔してるやろ。そ

れ、みな忘れよう。Y君は目で追い回してたらええねん。それが最高の介助や。分

かったか? 耳に栓することや。アドバイスがアドバイスになってへんのや」

その場に居合わせた人は、何も言えない状態になった、「はぁ?」という以外!

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3 コメント

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Unknown (トッペイ)
2008-05-11 20:31:58
見えるものが見えない、見るべきものが見えない、自分の眼で見ようとしない、そんな介護のプロって、いったい何なんでしょうか?
 
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ありがとう・・ (obichan)
2008-05-11 20:36:24
涙が・・止まりません。。。

後は忠太さん、あなたの心ゆくままに・・・
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もしも・・・ (obichan)
2008-05-13 12:27:13
少し考えたんですけど・・

もしも、私が・・
誰かを介護するようになったとき・・
見えるものが見えない、見るべきものが見えない、
自分の知らぬうちにそんな介助をやっていたとしたら・・
流されるままにやっていたとしたら・・

誰が、自分の眼で見ようとさせてくれるのでしょうね?
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