通訳実習B(大東文化大学大学院通訳プログラム:ビジネス・経済・政治学系)

2013-01-30 11:58:00 | 通訳教育
  表題は、大東文化大学大学院経済学研究科の通訳プログラムの中の私の担当する講座の1つ。基礎的な通訳理論と技術、そしてその習熟を、ビジネス・経済・政治学といった社会学系の題材を使いながら訓練する。今日はこの2年間、この講座で何をやったかを記す。

 看護を始めとした医療関係の方々には、直接関係がないが、会議通訳者の訓練とはこういうことをしているということで、関心があれば読んでいただきたい。発声訓練などは、人前で話すときの参考になるかもしれない。次回の「通訳実習 D」で使われている教材は、現在の医療の動向などをとりあげているので、興味がもてるかもしれない。

 このプログラムは1995年に創設されたもので私は第一回目の修了生である。会議の通訳専門職の教育を目指して作られたもの。詳しくは大学および個別のHPをご覧いただきたい。
http://www.daito.ac.jp/education/graduate_school/department/economics/interpreter/index.html

 通訳論や論文指導はもちろんがあるが、通訳実習はAからFまであり、理論に根差し研究的視点で技術をとらえることができる通訳専門職の教育を目指す。私は通訳実習のBとDを担当している。「通訳実習 D」は、私の専門である医療保健のテーマに特化した講座である。「通訳実習 D」については、明日に書く予定だ。

 一昨日に、補講で同時通訳の集中訓練が終わって、3月には修了生を出す。講座は一年ものなのだが、2年間での最終到達点を見据えて組み立てきた。ここで書くのは、実践の記録みたいなものだ。私がこのプログラムで学び、通訳者そして教育者として、効果的であったと、組み入れてそして修正してきた内容になる。

1年目
2011年 前期
・通訳とは何か:起点言語から目標言語への意味の再構成であること。等価の意味を自分の言葉で再構成していく創造的活動。必要な通訳理論をダイジェストに引用
・発声訓練:声帯をしっかり開いた輪郭のはっきりした張りのある地声を作る(これが一番マイクの乗りが良い)。「五十音」(北原白秋)や歌舞伎の口上の「外郎売」など、音声訓練の定番の教材をまず使って無声化、アーティキュレーションの明瞭化をマスター。あとは自分で朗読教材を持ってきて、授業最初の10分間で必ず朗読する
・通訳スキル:リプロダクション、要約、メモリー訓練、頭からの訳、サイトトランスレーション、同時通訳(原稿あり/なし)、ノートテーキング、逐次通訳
・対人コミュニケーション理論:通訳に必要な部分のレビュー。推論と文脈の重要性
  拙書『対人コミュニケーション入門 看護のパワーアップにつながる理論と技術』(ライフサポート社刊)から、関連ポイントをまとめなおして説明している。
・通訳倫理
・通訳市場の動向
教材は、江戸時代以降の日本の歴史(農業国から工業国、グローバルコミュニケーションの時代)の変遷を抑えた政治学者のスピーチ、日本型経営の論文(日英)、現在の製造業の経営(インタビュー、ジャーナルなど)。前期では、現在の国際情勢の中での日本の理解を重点に置きながら、通訳スキルを身に着けていく。

2011年 後期
 前期で学んだ通訳スキルを習熟させる。特に逐次通訳、サイトトランスレーションの強化(英日両方)
教材は、Creating a World Without Poverty(Muhammad Yunus)を学生ら分担して発表(英語日本語両方でのプレゼン)ほかの学生はそれを逐次通訳する。途上国経済、マイクロクレジットなど学ぶ。この音声教材も使い、訓練を行う。その他、カナダの移民政策などのスピーチ。自分で英語と日本語のスピーチを作り行うことで、重点を中心に論点を取捨選択し、相手に分かり易い効果的に論理を組み立て、音声を調整するなど、通訳におけるパブリックスピーキングの基礎要素が身につく

2年目
2012年 前期
 さらにスキルを習熟させる。特に 日→英通訳の強化。逐次から同時通訳へ重点をシフト
・日本通訳翻訳学会の船山会長のジャーナル寄稿文、消費減税のペーパー
・マネー資本主義(リーマンショックなど)
・アジア開発銀行総裁インタビュー
・白熱教室(動機か結果かどちらが大切か)
・投資家広報(IR):何冊か本を担当して、発表する。ほかの学生はそれを通訳

2012年 後期
 総仕上げの半期
・Negotiation(交渉)について、コミュニケーション理論を読む:分担プレゼン(英日両方)、他の学生はそれを通訳
・未来への提言(ドナルドキーン)
・IMFレポート Can Women Save Japan?
  翻訳スキルのレビュー
・語用論、フェイス、ポライトネス(間接的表現についての考察):分担発表(英日両方)、他の学生はそれを通訳

通訳マラソン
(別途説明する)
 
 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 入院したときのこと | トップ | 通訳実習D(大東文化大学大学... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

通訳教育」カテゴリの最新記事