恩恵無害の原則(Do Good and No Harm)

2014-01-25 14:02:12 | 看護/医療全般
  前回からだいぶ空いてしまったが元気にしている。昨年秋は例年と同じく、通訳の仕事は忙しかった。国内外の出張もあった。東京医療保健大学大学院のケアマネジメント講座で「国際看護の動向」というテーマで11月授業をした。一昨年につづき2度目であった。それらに関する話題はまた、別の時にしたいと思う。

 昨年12月15日に「多文化共生センターきょうと」というNPOの重野理事長からの依頼で「医療通訳の質とは?」について講演をした。第4回医療通訳を考える全国実践者会議「医療通訳の現在・未来を考える」の「医療通訳の質を考える」という分科会での基調講演でそのあと、医療通訳者のコーディネートや教育関係者とのパネルディスカッションが続いた。
http://www.tabunkakyoto.org/医療通訳/医療通訳を考える全国会議/第4回/

 先日、報告書を出すということで、担当の前田さんから書き起こしの校正原稿が送られてきた。2月に発行の予定とのことである。医療通訳の現状と未来展望といった大きなテーマの会議であった。スウェーデンの先進的な取り組みの報告のセッションもありそれらも含めた報告書になる。貴重な資料になるだろう。今日は、その医療通訳を考える全国実践者会議であった議論の中から、表題のように医療職者の恩恵無害の倫理原則について述べる。

 これは看護師や医師など医療専門職にとっては、基本的な倫理規定「(患者に対しては)善をなし害を成さない」ということである。医療の職業教育の最初に叩き込まれることである。ナイチンゲール誓詞やヒポクラテス宣誓といった形で「誓い文」として暗唱した時代もあった。(私もその時代に看護を勉強した者の一人である。)

 英語では、標題のようにDo good and no harm. またはDo good and do not harm. あるいは、Beneficence and Non-maleficence となる。

 医療通訳者は多職種医療チームの一員になると、医療専門職のベースの倫理である恩恵無害の原則を守らなくてはならない義務が生じる。全米医療通訳協議会(National Council on Interpreting in Health Care, NCIHC)の2004年版の倫理規定に続く説明のセクションに 'Beneficence'という項目で以下のように記載されている。(http://www.ncihc.org/assets/documents/publications/NCIHC%20National%20Code%20of%20Ethics.pdf)

  A central value of the health care interpreting profession is the health and well-being of the patient. This is a core value that is shared with other health care professions. It means that the members of these professions have as their essential obligation and duty to support the health and well-being of the patient and her/his family system of supports (e.g., family and community) and to do no harm.

(医療通訳職にとって患者の健康と安寧は最も重視すべきことであり、この価値観は他の医療専門職と共通のものである。つまり医療専門職者には患者とその家族によるサポートシステム(家族やコミュニティーなど)の健康と安寧を支援し、害を与えない義務と責務があるからである)

 医療専門職と同じく医療通訳者も倫理のジレンマには絶えず遭遇するだろう。例えば守秘義務(Confidentiality)との関係では、業務上自分が知り得た情報で患者に害になると考えられることは、恩恵無害の原則からチームの適切な医療職者に伝える、という行動が必要になる。患者(の健康に関する)情報はチームで共有しそれ以外の部外者には漏らさないのが守秘の基本原則で、これも他の医療職者と同様である。手順としてはあくまでも患者自身から医療職者に伝えるように勧め、それができない場合は患者を害から守るために守るべき倫理である。(健康は身体的、精神的、社会的側面を全て含んだものになるので患者の生活状況などの背景情報も健康に関する情報である。)

 通訳者と医療職者に共通することは、仕事の中で常に倫理的ジレンマに遭遇し判断を求められることだ。医療通訳者はそう意味で、通訳と医療の両方の倫理(共通するものもあるが個別の状況もある)を頭に入れて仕事をする必要がある。

 医療通訳者の倫理規定は海外のものを参考にすることが多いが、一度出来たら恒久的なものというのではなく、役割に関する議論が進み研究エビデンスと照らし合わせ内容を更新していく必要があるようだ。そのような発言が、第4回医療通訳を考える全国実践者会議のワークショップでグループディスカッションをした時の参加者からあり、とても印象深かった。/div>
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