Story
2010 年、自給自足で生活するキリスト教一派の村で起きた連続レイプ事件。これまで女性たちはそれを「悪魔の仕業」「作り話」である、と男性たちによって否定されていたが、ある日それが実際に犯罪だったことが明らかになる。タイムリミットは男性たちが街へと出かけている2日間。緊迫感のなか、尊厳を奪われた彼女たちは自らの未来を懸けた話し合いを行う―。(公式HPより)
2022年/アメリカ/サラ・ポーリー監督作品
評価 ★★★★☆
アーミッシュのような昔ながらの生活をしているコミュニティで、女性を薬で気絶させて男性に暴行されてしまうという事件が何度も繰り返されるんですね。ある時、その事件に目撃者が出たことにより、やっと犯罪として立証されて、男性たちが保釈のために街へ出かけることになります。その男性たちが留守している二日間の間に、暴行事件を許せない女性たちが納屋に集まって、男性たちに対して彼らを「赦す」か「男たちと戦う」か「この村を出て行く」かの3つの選択肢を作って、その選択肢のどれかに結論が出るまでひたすら話し合います。
過去の事件の映像なども少し映し出されたりするんですが、ほとんどが女性たちの議論を中心に物語が展開されていくので、下手な監督が作ったらつまらない映画になったかもしれません。でも、この作品は面白かった。アカデミー賞の脚色賞を受賞したのも頷けるくらい脚本の構成が見事で、女性たちの会話劇に終始、惹きこまれました。
納屋に集まった女性たちは皆、男性からの性被害を経験していて、絶対に許せないので「男たちと戦う」と言う女性がいたり、キリスト教の精神から今回の事件も「赦す」と言う女性、そして、男たちから逃げることで事件を乗り越えようと「この村を出ていく」と言う女性もいたりと、色々な立場から様々な意見が展開されて、最後の最後でやっと皆が納得のいく結論が出ることになります。
その議論の様子を読み書きのできない女性たちのために書記をしてくれる男性が一人登場するんですね。この男性はコミュニティを一度追放されたことがあり、大学にも行った教養のある男性で、彼の存在が唯一、女性たちを安心させて和ませてあげるように感じました。
この男性は、時おり事件を思い出して感情的になってしまう女性に対して、男性の立場からこの現状を変えるにはどうしたらいいか意見を求められるシーンがあります。彼の言うセリフ「こういう事件が生まれないためには早期教育が必要だ」と持論を展開していくシーンがとても良くて、被害者の立場の女性たちだけで意見を決めるのではなく、きちんと教養のある男性からも意見を聞くというところに、この映画の良さが伝わるような感じがしました。
「この村を出ていく」という意見を述べた女性を演じたルーニー・マーラがとても良かったです。刺激的な役柄が多い彼女ですが、この映画では性被害にあって妊娠してしまったにも関わらず、その子供を愛そうとする天使のような穏やかな女性を好演していました。このルーニー・マーラが演じた女性と書記をつとめた男性はお互い密かに想い合っていたわけですが、女性たちが出した結論により、その恋は報われずに終わります。でも、最後のお別れする前の男性と女性のやり取りがすごく良くて、こんな素敵な思い出があったら、お互いにずっと生きていく上での支えになるのかなと思って観てました。
長くなってしまいましたが、ずっと深刻なシーンが続くわけではなくて、議論の最中に休憩しようと言ってお茶するシーンもあったり、子供たちが野原で楽しそうに遊ぶシーンもあったりと、あえて物語に緩急をつけているといった印象がありました。
この映画を撮ったサラ・ポーリー監督はもともと子役からスタートした俳優だったそうで、あのヒットした映画「死ぬまでにしたい10のこと」や私の大好きなホラー映画「ドーン・オブ・ザ・デッド」にも出演していた美人女優さんだと知ってびっくりしました。女優、監督、脚本家と本当に多才で、これからも面白い作品を作り続けてほしいです。
評価 ★★★★☆
"彼女たちの選択"に関するネタバレがあります。まだ見てない人は読まないでください。
閉鎖的な環境の中、性的暴行を受けた女性達がこれからどうするかを議論するディスカッションドラマです。一歩間違えると単調になりがちなお話なのですが、nyancoも書いてましたが、所々に子供達が無邪気に遊ぶ場面や過去の出来事なども入れて飽きさせない工夫がされています。
映画の全体的な印象として、現実世界からちょっと離れた雰囲気で物語が進む感じがあり、そもそも設定は2010年なのですが、彼女達の生活はまるで20世紀初頭のようです。
それから、男達が2日間留守にしている中で議論が進むのですが、回想場面も含めて男達が登場する場面がほぼ無いのも何か隔絶されたようで、彼女たちが話し合う場所が納屋の2階というのも宙に浮いたような寄る辺なき感じが出ていました。
最終的に女性達は出ていく決断をするわけですが、南十字星を頼りに進路を決めるという無謀さもさることながら、この先直面するであろう様々な困難を女性と子供達だけでどう乗り切るのか不安になってしまいます。ただ、心に留めておくべきなのは、この物語はこの時点でまだ生まれてなかった主人公オーナの娘の回想という形をとっているということ。母親から聞かされたであろう、彼女達の苦難をオーナの娘が頭の中でファンタジーに昇華した物語と捉えることができます。普遍的な問題を神話的な世界に置き換えて展開させたことから、深刻な題材ながらもある種爽やかな印象を残す結果になったのだと思います。
男達の姿が現れないということは、彼女達の勝利を暗示しているようにも受け取れます。
書記役を仰せつかったオーガストが唯一の男性なのですが、彼女達におちょくられながらも健気に役目を果たす姿が微笑ましく、教育者の彼が、まだ世間に染まっていない子供達を導いていくだろうという希望を抱かせるのでした。
映画『ウーマン・トーキング 私たちの選択』公式サイト
(「ウーマン・トーキング 私たちの選択」2023年 6月 立川 キノシネマ にて鑑賞。)
2010 年、自給自足で生活するキリスト教一派の村で起きた連続レイプ事件。これまで女性たちはそれを「悪魔の仕業」「作り話」である、と男性たちによって否定されていたが、ある日それが実際に犯罪だったことが明らかになる。タイムリミットは男性たちが街へと出かけている2日間。緊迫感のなか、尊厳を奪われた彼女たちは自らの未来を懸けた話し合いを行う―。(公式HPより)
2022年/アメリカ/サラ・ポーリー監督作品
評価 ★★★★☆
アーミッシュのような昔ながらの生活をしているコミュニティで、女性を薬で気絶させて男性に暴行されてしまうという事件が何度も繰り返されるんですね。ある時、その事件に目撃者が出たことにより、やっと犯罪として立証されて、男性たちが保釈のために街へ出かけることになります。その男性たちが留守している二日間の間に、暴行事件を許せない女性たちが納屋に集まって、男性たちに対して彼らを「赦す」か「男たちと戦う」か「この村を出て行く」かの3つの選択肢を作って、その選択肢のどれかに結論が出るまでひたすら話し合います。
過去の事件の映像なども少し映し出されたりするんですが、ほとんどが女性たちの議論を中心に物語が展開されていくので、下手な監督が作ったらつまらない映画になったかもしれません。でも、この作品は面白かった。アカデミー賞の脚色賞を受賞したのも頷けるくらい脚本の構成が見事で、女性たちの会話劇に終始、惹きこまれました。
納屋に集まった女性たちは皆、男性からの性被害を経験していて、絶対に許せないので「男たちと戦う」と言う女性がいたり、キリスト教の精神から今回の事件も「赦す」と言う女性、そして、男たちから逃げることで事件を乗り越えようと「この村を出ていく」と言う女性もいたりと、色々な立場から様々な意見が展開されて、最後の最後でやっと皆が納得のいく結論が出ることになります。
その議論の様子を読み書きのできない女性たちのために書記をしてくれる男性が一人登場するんですね。この男性はコミュニティを一度追放されたことがあり、大学にも行った教養のある男性で、彼の存在が唯一、女性たちを安心させて和ませてあげるように感じました。
この男性は、時おり事件を思い出して感情的になってしまう女性に対して、男性の立場からこの現状を変えるにはどうしたらいいか意見を求められるシーンがあります。彼の言うセリフ「こういう事件が生まれないためには早期教育が必要だ」と持論を展開していくシーンがとても良くて、被害者の立場の女性たちだけで意見を決めるのではなく、きちんと教養のある男性からも意見を聞くというところに、この映画の良さが伝わるような感じがしました。
「この村を出ていく」という意見を述べた女性を演じたルーニー・マーラがとても良かったです。刺激的な役柄が多い彼女ですが、この映画では性被害にあって妊娠してしまったにも関わらず、その子供を愛そうとする天使のような穏やかな女性を好演していました。このルーニー・マーラが演じた女性と書記をつとめた男性はお互い密かに想い合っていたわけですが、女性たちが出した結論により、その恋は報われずに終わります。でも、最後のお別れする前の男性と女性のやり取りがすごく良くて、こんな素敵な思い出があったら、お互いにずっと生きていく上での支えになるのかなと思って観てました。
長くなってしまいましたが、ずっと深刻なシーンが続くわけではなくて、議論の最中に休憩しようと言ってお茶するシーンもあったり、子供たちが野原で楽しそうに遊ぶシーンもあったりと、あえて物語に緩急をつけているといった印象がありました。
この映画を撮ったサラ・ポーリー監督はもともと子役からスタートした俳優だったそうで、あのヒットした映画「死ぬまでにしたい10のこと」や私の大好きなホラー映画「ドーン・オブ・ザ・デッド」にも出演していた美人女優さんだと知ってびっくりしました。女優、監督、脚本家と本当に多才で、これからも面白い作品を作り続けてほしいです。
評価 ★★★★☆
"彼女たちの選択"に関するネタバレがあります。まだ見てない人は読まないでください。
閉鎖的な環境の中、性的暴行を受けた女性達がこれからどうするかを議論するディスカッションドラマです。一歩間違えると単調になりがちなお話なのですが、nyancoも書いてましたが、所々に子供達が無邪気に遊ぶ場面や過去の出来事なども入れて飽きさせない工夫がされています。
映画の全体的な印象として、現実世界からちょっと離れた雰囲気で物語が進む感じがあり、そもそも設定は2010年なのですが、彼女達の生活はまるで20世紀初頭のようです。
それから、男達が2日間留守にしている中で議論が進むのですが、回想場面も含めて男達が登場する場面がほぼ無いのも何か隔絶されたようで、彼女たちが話し合う場所が納屋の2階というのも宙に浮いたような寄る辺なき感じが出ていました。
最終的に女性達は出ていく決断をするわけですが、南十字星を頼りに進路を決めるという無謀さもさることながら、この先直面するであろう様々な困難を女性と子供達だけでどう乗り切るのか不安になってしまいます。ただ、心に留めておくべきなのは、この物語はこの時点でまだ生まれてなかった主人公オーナの娘の回想という形をとっているということ。母親から聞かされたであろう、彼女達の苦難をオーナの娘が頭の中でファンタジーに昇華した物語と捉えることができます。普遍的な問題を神話的な世界に置き換えて展開させたことから、深刻な題材ながらもある種爽やかな印象を残す結果になったのだと思います。
男達の姿が現れないということは、彼女達の勝利を暗示しているようにも受け取れます。
書記役を仰せつかったオーガストが唯一の男性なのですが、彼女達におちょくられながらも健気に役目を果たす姿が微笑ましく、教育者の彼が、まだ世間に染まっていない子供達を導いていくだろうという希望を抱かせるのでした。
映画『ウーマン・トーキング 私たちの選択』公式サイト
(「ウーマン・トーキング 私たちの選択」2023年 6月 立川 キノシネマ にて鑑賞。)
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