Story
ドイツの有名オーケストラで、女性としてはじめて首席指揮者に任命されたリディア・ター(ケイト・ブランシェット)。天才的能力とたぐいまれなプロデュース力で、その地位を築いた彼女だったが、いまはマーラーの交響曲第5番の演奏と録音のプレッシャーと、新曲の創作に苦しんでいた。そんなある時、かつて彼女が指導した若手指揮者の訃報が入り、ある疑惑をかけられたターは追い詰められていく。(映画comより抜粋)
2022年/アメリカ/トッド・フィールド監督作品
評価 ★★★☆☆
ベルリンフィルの首席指揮者のリディアは名実ともに女性マエストロとしての地位を築いているのですが、性的マイノリティの彼女が、パートナーや楽団員、その他利害関係者たちと摩擦を起こしながらも、マーラー作品のコンプリートに向けて、交響曲第5番の公開収録に没頭し、次第に精神を蝕んでいく。
トッド・フィールド監督の前作「リトル・チルドレン」では、時を司る神クロノスをモチーフにしていましたが、本作ではタクトを取ることで時間を支配する指揮者が主人公。監督はこういったテーマに関心があるみたいですね。冒頭の延々と続くインタビューシーンには、そのテーマを提示する意図があったのかと思いました。
指揮者の彼女が、日常の音の数々、メトロノーム、冷蔵庫のチャージ音、ノック、悲鳴など、見えない脅威に翻弄され追い詰められていく姿を直截的なショック描写なしにサスペンスフルに描く手腕はさすが。ベルリンの寒々とした景観と相まって、観客もまた、狂気に染まっていくリディアの目撃者となっていきます。
最後の場面、東南アジアの某国(地獄の黙示録のロケで〜、というセリフからフィリピン?)でコスプレイヤーを前に指揮をとるリディアには、堕ちたマエストロのイメージと同時に、ついに自分の居場所を見つけた吹っ切れた感もあるのでした。
2時間半を超える長尺にも関わらずスクリーンに釘付けされる緊迫感はあるのですが、終盤で遂に自我崩壊する彼女がちょっと唐突すぎる印象があるのと、私はクラシックに詳しくないので音楽ネタがよくわからなかったので、今ひとつの採点になってしまいました。
評価 ★★★★☆
wancoはこの映画は今ひとつの採点になったようですが、私は同じ女性の立場から観たせいか、音楽ネタが分からなくても、この映画結構、心理的にくるものがあって面白かったです。
このリディアという女性は知的で社交的でもあり、音楽家としてとても才能があるのに、ライバルになりそうな指揮者の女性たちに嫌がらせをしたり、自分の講義で教え子を追いつめたりと、人としては共感できない部分をたくさん持ち合わせた女性でした。
本当なら音楽界を牽引する女性マエストロとしての地位と、同性パートナーと養女の愛する家族もいて、誰もが羨むようなとても満ち足りた生活を送っているはずなのに、人に対して礼節を欠いた性格のせいか、自分自身に災いが降り掛かってくるようになり、次第に精神を蝕んでいくんですよね。
その災いがリディアを嫌っている人たちの嫌がらせなのか、それとも、リディア自身の妄想なのか、どちらともとれる描写になっていて、二時間半以上の長尺にもかかわらず、そのずっと続く緊迫感が最後まで楽しめました。
トッド・フィールド監督がケイト・ブランシェットが出演しなかったらこの映画の企画は成り立たなかったというくらい、本当にケイトの演技は見事でした。前述したようにリディアという人物はとても複雑なキャラクターなので、それを演じ分けられるような説得力のある演技のできる女優さんでないとダメだと思うんですよね。この映画はひとり芝居のようなシーンが多く登場するのですが、ずっと緊迫感のある状態で観客をスクリーンに惹き込むことができるのは本当にケイトのような実力のある大女優だからこそと思いました。
映画『TAR』公式サイト
(「TAR/ター」2023年 5月20日 立川シネマシティ にて鑑賞)
ドイツの有名オーケストラで、女性としてはじめて首席指揮者に任命されたリディア・ター(ケイト・ブランシェット)。天才的能力とたぐいまれなプロデュース力で、その地位を築いた彼女だったが、いまはマーラーの交響曲第5番の演奏と録音のプレッシャーと、新曲の創作に苦しんでいた。そんなある時、かつて彼女が指導した若手指揮者の訃報が入り、ある疑惑をかけられたターは追い詰められていく。(映画comより抜粋)
2022年/アメリカ/トッド・フィールド監督作品
評価 ★★★☆☆
ベルリンフィルの首席指揮者のリディアは名実ともに女性マエストロとしての地位を築いているのですが、性的マイノリティの彼女が、パートナーや楽団員、その他利害関係者たちと摩擦を起こしながらも、マーラー作品のコンプリートに向けて、交響曲第5番の公開収録に没頭し、次第に精神を蝕んでいく。
トッド・フィールド監督の前作「リトル・チルドレン」では、時を司る神クロノスをモチーフにしていましたが、本作ではタクトを取ることで時間を支配する指揮者が主人公。監督はこういったテーマに関心があるみたいですね。冒頭の延々と続くインタビューシーンには、そのテーマを提示する意図があったのかと思いました。
指揮者の彼女が、日常の音の数々、メトロノーム、冷蔵庫のチャージ音、ノック、悲鳴など、見えない脅威に翻弄され追い詰められていく姿を直截的なショック描写なしにサスペンスフルに描く手腕はさすが。ベルリンの寒々とした景観と相まって、観客もまた、狂気に染まっていくリディアの目撃者となっていきます。
最後の場面、東南アジアの某国(地獄の黙示録のロケで〜、というセリフからフィリピン?)でコスプレイヤーを前に指揮をとるリディアには、堕ちたマエストロのイメージと同時に、ついに自分の居場所を見つけた吹っ切れた感もあるのでした。
2時間半を超える長尺にも関わらずスクリーンに釘付けされる緊迫感はあるのですが、終盤で遂に自我崩壊する彼女がちょっと唐突すぎる印象があるのと、私はクラシックに詳しくないので音楽ネタがよくわからなかったので、今ひとつの採点になってしまいました。
評価 ★★★★☆
wancoはこの映画は今ひとつの採点になったようですが、私は同じ女性の立場から観たせいか、音楽ネタが分からなくても、この映画結構、心理的にくるものがあって面白かったです。
このリディアという女性は知的で社交的でもあり、音楽家としてとても才能があるのに、ライバルになりそうな指揮者の女性たちに嫌がらせをしたり、自分の講義で教え子を追いつめたりと、人としては共感できない部分をたくさん持ち合わせた女性でした。
本当なら音楽界を牽引する女性マエストロとしての地位と、同性パートナーと養女の愛する家族もいて、誰もが羨むようなとても満ち足りた生活を送っているはずなのに、人に対して礼節を欠いた性格のせいか、自分自身に災いが降り掛かってくるようになり、次第に精神を蝕んでいくんですよね。
その災いがリディアを嫌っている人たちの嫌がらせなのか、それとも、リディア自身の妄想なのか、どちらともとれる描写になっていて、二時間半以上の長尺にもかかわらず、そのずっと続く緊迫感が最後まで楽しめました。
トッド・フィールド監督がケイト・ブランシェットが出演しなかったらこの映画の企画は成り立たなかったというくらい、本当にケイトの演技は見事でした。前述したようにリディアという人物はとても複雑なキャラクターなので、それを演じ分けられるような説得力のある演技のできる女優さんでないとダメだと思うんですよね。この映画はひとり芝居のようなシーンが多く登場するのですが、ずっと緊迫感のある状態で観客をスクリーンに惹き込むことができるのは本当にケイトのような実力のある大女優だからこそと思いました。
映画『TAR』公式サイト
(「TAR/ター」2023年 5月20日 立川シネマシティ にて鑑賞)
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