影法師のような真っ黒い人型が私の顔を覗き込む
「何を見てる?」と 耳元で囁き 口もないのに笑った
「く・くくくくっ…」 そのねっとりしてべたついた笑い方は実に耳障りだった
「何も見ないなら その目玉 俺にくれよ」 と 影は言う
やるわけねーだろ と言おうとしたら 声が出ない…
よく見たら自分の口がない
「ほーらな 自分の言葉をしゃべらねえから無くなるんだよ」
と 影は偉そうな口調で言う
「だからよ その目も無くならねえうちに俺にくれよ」
影は 2本の黒い手を伸ばし 私の眼球を取ろうとした
焦った私は 影の手を振り払おうとしたら 自分の手がなかった
逃げ出そうとしたら 足もなかった
「く・くくくくっ…」 また耳障りな笑い方で嘲笑する影
「じゃあ こうしよう 消したくても消せないお前の憐憫の情は何だ?
それがわかったら 楽にしてやる」
影の言う 楽とは… 私は影の言う問答よりそっちの方が 気になっていた