日暮しトンボは日々MUSOUする

よぎる不安


再度脳梗塞で倒れた父は、喋り方に少し障害が残った。 まだ口がよく動かないせいか、少しモゴモゴしているが、聞き取れないほどではないので普通に会話はできる。 私が替えの
寝間着を持って行った時に、ちっとも病院に顔を出さない母のことを、どっか体の具合でも悪いのではないかと心配して私に訪ねた。 私は思わず、母の薄情な態度を思いっきり病室で愚痴ってしまったのである。 言い終わった後に、少し言い過ぎてしまったかな…と反省したが、正直、モヤモヤしていたものを吐き出して少し気持ちがスッキリしたのも事実だった。 私も仕事と病院と行ったり来たりの生活が続いたので多少疲れていたのかもしれない。 そして父は、おぼつかない口調で「俺が急に倒れたから、母さんはきっとどうしていいかわからなくてパニックになっただけだ」と言って私を宥めた。その時は父の言った通り、思いもよらない状況に混乱状態になっただけなんだと思うようにした。 

それから間もなく父は退院した。後遺症のせいか、体の左半分が思うように動かないらしく、
箸は持てるが茶碗をうまいこと持てないので、皿にご飯やらおかずなどを盛って、それを
テーブルの上に置いてスプーンで食べるようにしている。 当然口も左側がマヒしてるので、
横から食べたものがボロボロこぼれ出て、テーブルや床にボトボト落ちる。 父が床を汚す
たびに、母は雑巾で拭きながら「まったく、赤ん坊じゃあるまいし、いい年してみっともない」
と、嫌みを言う。別に父は、ふざけて母を困らせているのではないし、まして嫌がらせをし
ているわけでもないのだ。にもかかわらず、母は本気で文句を言っている。 母には今のこの
状況がまるでわかってないのだ。病院に行かないので、病室での父の様子も知らないし、
父の病気の説明も直接先生から聞いていないので、脳梗塞という病を軽く見ているのだ。
いくら拭いても次から次へ床を汚していく父に、「もうやってられない」と、雑巾を流しに
投げ捨てて隣の部屋へ行き、ふてくされながらテレビを見る母。この人は本気で迷惑がって
いる。 もはや父のことをただの厄介者が帰ってきたとしか見ていない。 こんな態度をとる
母を見て、私は不安がよぎった。
果たして この人に父の世話ができるのだろうか…  

私は市の介護保険課へ相談に行き、要介護認定を受けてもらうことにした。 その結果、5段階あるうちの要介護度2と認定された。 私は要支援くらいかと思ったが、父の状態は思うほど軽くはなかった。  そして父にケアマネージャーがついた。 ずっと入院していたので、
一人では満足に歩けなかったとは気がつかなかった。 当時の父は太っていて、体重はたしか90キロくらい。 それと対照的に母は小学生なみに背が小さく痩せているので体重も40キロ以下である。 だから父が倒れても起こすことができないのだ。 要介護者は大体において下半身が弱い。私は母に言われて工務店に頼んで、特に危険な階段と廊下に手すりをつけてもらった。 それでも父は風呂場で倒れ、トイレでも倒れ、何回か救急車で運ばれた。 ケアマネージャーには、手すりをつけるなら風呂場とトイレは特に重要だと言われた。 母は自分の両親の面倒を見たことがないので、そういったことはさっぱりわからないのだ。 ケアマネージャーから度々注意をされ、イライラしていた母は再びキレた。「私はこんなに一生懸命やっているのに、何で誰も認めてくれないの」と、例のごとく足で床をドンドン叩き喚き始めた。 
父が退院してわずか2ヶ月で母は根をあげた。




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