酒呑みの正しい生活

ガンマナイフ

だんだんと身体の麻痺の面積が増えて行きます。

まだ普通に動かせる右手でしたが、この頃になると字が書けなくなりました。
病院で記入するように言われる問診票に自分の名前が書けません。

書いたつもりでも、その字は初めて自分の名前を書いた幼稚園児より酷い字で、漢字として成立していないんです。

脳腫瘍と言えば、ちょっと前までは開頭手術しかありませんでした。
ですが成功率も低い上に、散々病魔に犯された今の自分の身体では、手術に持ち堪えられる体力もありません。

自分に残された唯一の手段。
それはガンマナイフという放射線治療でした。


レントゲンやCTなどで使うX線とは異なるγ線を200箇所から患部の1点に照射します。

虫眼鏡で太陽光を1点に集めた時のように、ガンマ線が集まった箇所だけが焼き切られる仕組みです。
ですがこのガンマナイフ、1時間半もの手術中頭を動かす事が出来ません。
もし0.5mmでも頭が動いたら、正常な脳の部分が欠損する事になります。

またガンマナイフ治療には他にも制約があります。
それは腫瘍の直径が2cm以内の大きさであること。
もうひとつは腫瘍が脳の表面付近にある事なのです。

物凄く精密な技術と治療を求められる術式で、この日も再度のMRI撮影が行われました。
このMRI画像を元に、ガンマナイフの焦点を決めます。

自分に残された最後の手段のガンマナイフ。
そのMRIの写真を見て、日本医科大のA医師が土日にも関わらず対応してくれた意味が解りました。

5日前に日本医科大で撮影した時の腫瘍の直径は1.7cm。
ところがこの日の撮影では1.95cmに広がっていました。
ガンマナイフの限界ギリギリです。


ガンマナイフでは頭が絶対に動かないように、ボルトで金具を固定します。

固定と言っても、ボルトで頭と顔を締め付けるので、当然ボルトの先は皮膚を破って頭蓋骨に食い込みます。
そして金具ごと専用の手術台に固定するんです。

咳をしてもくしゃみをしても頭は動きません。
当然手術中は全身麻酔が行われますが、麻酔から覚めた後も鎮痛剤として大量のステロイドが投与されます。

【数々のハードル】

自分に残された最後の手段のガンマナイフ。
ガンマナイフ自体は普通の手術より遥かに患者の負担も少なく、腫瘍を取り切れなかった場合は何度も繰り返し行えるそうです。

ですが、それは患部が脳腫瘍だけだった時の話し。
自分には他の患者には無いハードルがあったのです。

まず最初のハードルが、酸素カプセルに入れないこと。
術前術後に酸素カプセルに入り高濃度酸素を吸引する事で、治癒も回復も早くなります。
ですが自分は肺炎と気胸を患っている身、酸素カプセルは諦めなくてはいけません。

そしてふたつ目のハードルがステロイドアレルギーが見つかったこと。
前回の肺炎治療で、自分にステロイドのアレルギーが見つかりました。
それに加えて、ステロイドは体内の糖質を大幅に増加させます。

自分は十二指腸と一緒に膵臓も半分切除しています。
そのために体内の糖分を分解する能力も半分になっているんです。

アレルギーと糖尿病が併発すれば、今度は別な意味で命の危険があるでしょう。
そうなると、ガンマナイフが何度も行える訳も無く、1回限りで全てを成功させなくてはなりません。

そこに加えて、脳の別な場所に新たな転移が見つかりました。
S医師はそこへの対処も含めて、1回の手術で対応すると言っています。

タイムリミットが迫る中、手術は早朝6時半から開始されました。
こんな朝早いのに、自分の為に10人以上のスタッフが準備を整えてくれています。

1回目の麻酔が投与され、頭に金具が固定されます。
そして金具が装着された頭が手術台に固定された時、2回目の麻酔が投与され意識を失いました。




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