浮遊脳内

思い付きを書いて見ます

カナン ラフ2-7稿

2010-09-22 00:40:27 | ラフ 虎の学士 カナン
とりあえず進めるのです。
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「待って!」
 不意の声に、思わず体が応じた。
 跳ねるように動いて、声の向きとは違うところへ槍先を向けていた。
 囲みの男へと向かってだ。
「待ってください!」
 声は違うところから届いていた。男からではなく、先の女のさらに背後からだ。その先から蹄の音が響いてくる声はその上からのものだ。ようやく馬の鞍にしがみついているというていの声で、また若い男の声でもある。
「その人は、違います!」
 馬の蹄の音と、そのくつわを取っているだろう足音が、囲みの女のすぐ後ろまでやってくる。囲いもまたざわめいた。退くのは今かもしれない。俺は思った。
「その人は違います」
 馬の上の男は、へばりかけのままさらに言う。くつわ取りの手を借りて、ようやく地面へと降り立ったようだ。
「その人は、神がついています。けものを追って遣わされた人です」
 女の声が応じる。
「確かなのか?学士どの」
 だが女は俺に向けた鋭い意を外さない。囲みの男も同じくだ。新たな男だけは、囲みの様子に気づく風でも無い。
「確かです」
 ようやく息を整えて男は言う。
「だから、あなたも槍をおろしてください。さむらいは、あなたの獲物ではないし、あなたを狩りに来たものでもありません」
 いいように思わず笑いが漏れた。笑いは獣のものではない。また山に入る狩人のものでもない。
 それはさとにおりたもののものだ。俺は構えをはずし、槍を地に立てた。
「お前の言うとおりだ、男よ」
「無礼な言いようをするな」
 なぜか女が憮然と応じる。声の響きも先までの張りつめたものとも違う。先までの様子が虎だとしたら、今は虎猫ほどのものだ。男の様子をうかがいながら、頬でもふくらませているのだろう。
 俺は笑った。
 男の気配には、なんのかわりも無いのだ。あるのは戸惑いの気配ばかりで、それは声をあげて笑う俺へのものだ。
「何がおかしい!」
 女が高く声を上げる。女というものは、こういう時ばかりは猫よりも勘が効く。だが尾を太らせてすごむ虎猫を誰が恐れるというのだ。俺は笑い、女はだまれだまれと声をあげ、男は戸惑いの気配を深めるばかりだ。
 やがて、俺を囲む輪の中から、野太い笑い声が響き始める。犬の気配の男だとわかった。つづいて、輪の男たちもつられたように笑い始める。
「お前たちまで、何がおかしい!」
 女の声が笑い声の中に響く。

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