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こちら様から
mach_09の今日の創作お題は『男性』『緑色の髪』『黒色の瞳』『ファンタジー世界の学生』です。
「先生!」
彼は部屋へと駆け込みけれど、向けられた鋭い目に口ごもり、足を止めた。
満ちる魔力が光を放ち、部屋に斑に影を投げかけている。そこは学生風情には立ち入りの許されぬはずのところだった。教授たちは誰一人口を開くことなく、その魔道の源を見上げている。彼も口を閉ざしそれを見上げた。
弧を描く石壁に囲われた高い天井の下、それは輝く珠のようだった。光と影を斑に放ち、天井と壁と床に光と影の紋様をうごめかせている。彼はただただその珠を見つめ続けていた。目を離すこともできなくなっていた。この場に体を取り残して、魂が吸いつけられているようだ。見えているのも光と影の紋様だけではない。何かが流れてゆく。
天空を日が巡り、夜と昼とが入れ替わる空を絶え間なく雲が流れ、月が飛ぶように行き過ぎる。大地が緑に変わり生気にざわめきやがて枯れ葉色に落ち着いて白く雪に閉ざされる。命が生まれ命が消えて、それは無数のつぶやきのようにざわめきのように、あるいは泡の群れのように彼に向かって押し寄せてくる。それは叫ぶのだ、思い思いの声を、無念の言葉を、助けを求めて、今際のきわの吐息を、恐れとともに、体を刺し貫かれ、焼かれ、つぶされ、犯されながら。
「!」
声を上げたのが自分自身だったのかさえ、彼にはわからなくなっていた。
『・・・!』
誰かが呼ぶ。誰が誰を呼んでいるのかさえもうわからない。
『しっかりしなさい!』
心の中に声が響く。押し寄せる声の群れにも、強く。
それは、声の群れを吹き払い、声の響きを遠ざける。
そうしてもなお、残るものに彼は気づいた。
彼自身だった。
身を抱え、石畳にひざをついて、震えている自分自身だった。寒くてたまらない。震える肩に暖かい手が置かれている。彼はのろのろと顔を上げた。
「・・・先生?」
彼の恩師はいつもの温和な顔を、けれど厳しく引き締めて彼を見つめていた。
「大丈夫だな?」
彼はかろうじてうなずいた。恩師は言う。
「君にはまだ早かったかもしれない。だが、君にも力を振るってもらわねばならない」
「・・・はい」
恩師は顔を上げ、あたりを見回した。
「諸君、予言は示された。奴は復活する」
ざわめきすら起きなかった。誰もがあれを見ていたのだ。恩師は続ける。
「我らも動かざるを得ぬ。学院の掟の封を解かねばならぬ」
恩師の声を聞きながら、彼は足に力を込める。ここでうずくまっているわけには行かない。彼は、選ばれてここに来たのだ。彼よりずっと学びを重ねた魔道士たちに求められて来たのだ。
緑の髪は、森族の血を受け継ぐものの印。それは彼の髪の色だ。
森族の血を受け継ぎながら、人の中に生まれ、育ったものにしかできない役割を果たすために。
こちら様から
mach_09の今日の創作お題は『男性』『緑色の髪』『黒色の瞳』『ファンタジー世界の学生』です。
「先生!」
彼は部屋へと駆け込みけれど、向けられた鋭い目に口ごもり、足を止めた。
満ちる魔力が光を放ち、部屋に斑に影を投げかけている。そこは学生風情には立ち入りの許されぬはずのところだった。教授たちは誰一人口を開くことなく、その魔道の源を見上げている。彼も口を閉ざしそれを見上げた。
弧を描く石壁に囲われた高い天井の下、それは輝く珠のようだった。光と影を斑に放ち、天井と壁と床に光と影の紋様をうごめかせている。彼はただただその珠を見つめ続けていた。目を離すこともできなくなっていた。この場に体を取り残して、魂が吸いつけられているようだ。見えているのも光と影の紋様だけではない。何かが流れてゆく。
天空を日が巡り、夜と昼とが入れ替わる空を絶え間なく雲が流れ、月が飛ぶように行き過ぎる。大地が緑に変わり生気にざわめきやがて枯れ葉色に落ち着いて白く雪に閉ざされる。命が生まれ命が消えて、それは無数のつぶやきのようにざわめきのように、あるいは泡の群れのように彼に向かって押し寄せてくる。それは叫ぶのだ、思い思いの声を、無念の言葉を、助けを求めて、今際のきわの吐息を、恐れとともに、体を刺し貫かれ、焼かれ、つぶされ、犯されながら。
「!」
声を上げたのが自分自身だったのかさえ、彼にはわからなくなっていた。
『・・・!』
誰かが呼ぶ。誰が誰を呼んでいるのかさえもうわからない。
『しっかりしなさい!』
心の中に声が響く。押し寄せる声の群れにも、強く。
それは、声の群れを吹き払い、声の響きを遠ざける。
そうしてもなお、残るものに彼は気づいた。
彼自身だった。
身を抱え、石畳にひざをついて、震えている自分自身だった。寒くてたまらない。震える肩に暖かい手が置かれている。彼はのろのろと顔を上げた。
「・・・先生?」
彼の恩師はいつもの温和な顔を、けれど厳しく引き締めて彼を見つめていた。
「大丈夫だな?」
彼はかろうじてうなずいた。恩師は言う。
「君にはまだ早かったかもしれない。だが、君にも力を振るってもらわねばならない」
「・・・はい」
恩師は顔を上げ、あたりを見回した。
「諸君、予言は示された。奴は復活する」
ざわめきすら起きなかった。誰もがあれを見ていたのだ。恩師は続ける。
「我らも動かざるを得ぬ。学院の掟の封を解かねばならぬ」
恩師の声を聞きながら、彼は足に力を込める。ここでうずくまっているわけには行かない。彼は、選ばれてここに来たのだ。彼よりずっと学びを重ねた魔道士たちに求められて来たのだ。
緑の髪は、森族の血を受け継ぐものの印。それは彼の髪の色だ。
森族の血を受け継ぎながら、人の中に生まれ、育ったものにしかできない役割を果たすために。