浮遊脳内

思い付きを書いて見ます

グローサーフント イン アクション 6

2011-07-06 23:00:22 | Weblog


 地を蹴ってチャペック軍曹は駆ける。
 装甲戦闘服の力によれば、今のように軽く駆けても、生身の全力疾走のような速度を出せる。
 彼等の頭上をロケット弾が越えてゆく奇跡の列を広げながら、彼等の目指す森へと降り注いで行く。緑の中に突き刺さり、続いて列成して爆炎が吹き上がり、焼けた弾片がまき散らされて飛び散る。少し遅れて轟音が押し寄せ、けれど装甲と防護グラスにほとんど阻まれ、通り過ぎてゆくだけだ。敵は森にいる。だからそこへ向かってチャペック軍曹らは駆け進む。敵が対処を準備を整える前に森へ突入し、近接戦闘で排除しなければならない。楽な攻撃などどこにもない。
 軍曹の左手で、同じく速く機械の犬どもも駆ける。四匹の、いや四機のグローサーフントだ。長い脚で大股に地を蹴り、砂塵を跳ね上げる。犬どもは恐れを抱かない。威嚇するように前かがみに横列成して駆ける。
 小隊のさらに左を砂塵が押し進んでゆく。二両のナッツロッカーだ。背の高い砲塔が小刻みに動き、横に大きく張り出したアンテナが震える。装甲戦闘服の駆け足に合わせて進んでいるけれど、それはホバークラフトであるナッツロッカーにとっては這うようなものだ。硬式スカートから砂塵を吹き出すようにして、半ばそれに包まれながら進んでゆく。中隊配備の重火器小隊に所属する二両の任務は中隊の直接支援だ。レーザガン攻撃のみではない。
それら二両のナッツロッカーは重火器小隊のものだ。中隊に配属され、中隊を直接支援する。レーザで攻撃するのみではない。重装甲を生かして敵からの攻撃を引き受けることもその役割だ。中隊はナッツロッカーを中心に楔隊形で進む。
 さらに先んじて森の目前に迫っているのがノイスポッターだ。低く浮かぶ案山子のような姿は、ロケット弾の名残の白煙を前に、探査アームを伸ばし、地へと向ける。そのままゆっくりと森の中へと分け入ってゆく。見かけどおり森の妖怪そのものだけれど、任務は中隊尖兵だ。中隊本隊が敵に発見される前に敵を発見し、攻撃を誘導する。
 早速、軍曹のヘッドセットに着信注意音が鳴る。警報音ではない。ノイスポッターからの状況情報がアップロードされたのだ。駆けながら軍曹は胸元のマルチディスプレイへと目を走らせる。
「宛:独立第681機動歩兵中隊各機 内容:状況情報 認知圏内背景雑音レベル上昇。自然背景放射外雑音に対し有意変化。敵存在蓋然性:高」
 敵がいるのはわかっている。いまもう一つ判ったことは、敵はこちらを森の中に引きつけて戦うつもりであるらしいことだ。
 頭上を砂色の機影がとびぬける。揚力胴を傾けて巻き込むように切り替えし、森の上空には踏み込まない。空中指揮をとる中隊長の機体だ。
『中隊本部より各小隊へ、前進継続。警戒厳重と成せ。森へ突入せよ』
 了解符号を送信し、つづいて駆けながらチャペック軍曹は命じる。
「第一小隊グローサーフントへ、第一小隊長より口頭命令確認。先決のとおりに二機セル維持、セル間距離を維持せよ。横隊配置」
 四機からすぐに応答符号が来る。続いて軍曹は命じる。
「第一小隊、森へ突入する。森内では徐行。近接戦闘に備えろ。後衛は距離をつめろ」
『了解』
『重火器小隊戦車、森林へ突入する』
 通知と共に、二両のナッツロッカーは森へと押し入ってゆく。さらに速度を落とし、硬式スカートで下生えや茂みを押し切ってゆく。砂埃と共に枝葉が舞う。あの巨体では森の中では自由には動けない。視野も効かず、射線も通らない。森へ突入したらナッツロッカーの火力も装甲も十分には生かせない。
 森での接近戦でこそ装甲戦闘服がものを言う。森はもう目の前だ。
「第一小隊、林縁到達」
 チャペック軍曹は駆ける足を緩め木の一つへと身を寄せる。防護グラス越しに見る森は静かだった。今までと違うところに入り込んで、いきなりじたばた動くのは危険だ。戦術知識というより兵隊の知恵だ。
 ナッツロッカーを除けば森は静かといっていい。森とは言っても、乾燥地帯の森だ。進めないほど密に詰まっているわけではない。木々の向こうにノイスポッターの姿が見え隠れする。装甲戦闘服にとっては不自由なく通り過ぎることができる。少し大柄であるがグローサーフントたちにとっても同じだ。彼らは森に立ち異形の頭部を巡らせて見回している。まるで犬が宙のにおいをかぎ取ろうとしているようだ。実際、シーカーを使って似たようなことをしている。
「第一小隊グローサーフント、前進」
 グローサーフントらは犬に似た長い足で大きくゆっくり踏み出す。枯れ草色の下生えに先に撃ちこまれたロケット弾の跡が点々とある。枯草色の下生えが大きく穿たれ、また黒くすすけた筋は、弾片のなぎ払った跡だ。
 警報音が鳴った。ノイスポッターからの通報だ。確認する前に、光ではない何かが森を飛びぬける。ナッツロッカーの方だ。
 わずかに遅れて、ナッツロッカーは煙弾を射出した。煙の尾を引いて、扇のようにまき散らされる。それが宙でさらに炸裂した。燃える子弾が幕のように下りてゆく。対レーザスモークバリアだ。レーザエネルギを吸収するエアロゾルの防護壁だ。
 だがふたたび、金属的な衝撃波が森を走った。レーザじゃない、ミサイルでもない。それはスモークバリアを貫き、輪のように吹き散らす。ナッツロッカーから何かが飛び散る。スモークとは違う煙がはじける。地に引っかかるように砂塵を巻き上げ動きを止める。
「前方より射撃!」
 軍曹は見た。木々の向こうを低く何かが走る。丸みある姿は敵のスーパーAFSに似ている。けれど違う。
「戦車沈黙!前方に敵!第一小隊は即時交戦に備え」
 軍曹は命じた。
「ドナート、バックアップしろ。俺は敵に食いつくぞ」
『了解。第一小隊後衛はバックアップ』
「第一小隊グローサーフントは接近戦に備え!自由射撃許可。早足前進!前へ!」
 初めから食いつくつもりだった。警戒交互前進など命じるつもりも無かった。敵は逆襲してきたのだ。その踏み込みに応じて斬りつける。
 了解符号がすぐにヘッドセットに届く。忠実なグローサーフントたちは、森の奥へと踏み込んでゆく。
 警報が鳴った。前にいるノイスポッターからだ。木陰を何かがすばやく滑り動く。低く構えた姿はスーパーAFSに似ているがそうじゃない。四方に細い足を張り出させ、それをすばやくうごかして木陰に消える。
 何かが放たれた。砲声は無い。だが衝撃波が木っ端を散らし、森を飛び過ぎる。
 グローサーフントがすぐさま左腕のレーザアームを伸ばす。光を放った。木々のはざまに突き刺さる。
 たちまち森に光と音の死が飛び交う。

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