未来を拾いに

aikoのことしか頭にないひとのブログ

石井慧 金メダルへの執念

2008-08-31 03:34:38 | 雑記

NHKスペシャル。「熱投413球 女子ソフト・金メダルへの軌跡」も良かったですが、この話は更に良かった。いい番組。とてもよくまとまっていました。 


オリンピックにはたくさんの競技がありますが、私がいつも見る競技はほとんど柔道、野球。余裕があれば陸上って感じで、他のはあんまり見る機会がありません。特に今回は時差がないから深夜(=平日でも家にいる時間)に見ることもできないし、丁度忙しかった時期も重なって、柔道もほとんど全く見られなくて。 

男子で金メダルを獲ったのは、この100kg超級の石井と、66kg級の内柴だけですよ。 

今、世界の柔道の流れは、「しっかり組んで一本を目指す柔道」からどんどん離れていっています。この番組内では、NHKのナレーターは、この競技を、「ジェイ・ユー・ディー・オー」と敢えて呼んでいました。「JUDO」というわけですな。 

「JUDO」は、日本人からすると潔くなく、見ていて面白くなく、柔道っぽくありません。まともに組まないんだもの。組んだ後の、「どちらがいつ技をかけるか、かけられるか。投げられるか、投げるか」っていう、瞬きもできないような緊張感や間がなくて。試合を決定づける技も、技ともいえない技で、体勢が崩れて、背中が畳についただけで、「技あり」。 

技ありですよ技あり! 

柔道の試合で、技ありを取られることはおおごとです。甘い審判なら下手したらそれで一本って言われてたかもわかりません。残り時間で、技ありを返さないと追いつきません。それができなきゃもう一本を取るしか勝てる道が残されません。もう1回技ありを取られたら即負け。 

組み手争いしてるのに、すぐ「消極的」とみなされて指導が入る。組み手争いもできない。ていうか相手も「組む」意志がないし。寝技に入ってもすぐ「待て」がかかります。 

「胴着を着たレスリング」という異名もあるとかね。とっても残念な流れというほかないです。 

私もシドニーやその前はどこだっけ。アトランタでしたっけ。試合を見ていて、あれのどこが技あり?って思うことが何度もありました。あんな汚い、技ともいえないその技のどこが一本なんですか、とか。何回も画面にツッコミを入れてました。ポイントを稼いで逃げ切る柔道ね。はっきり言って「セコイ」。特に重量級に多かったような気がしますが、日本選手は苦杯を舐めました。 

100kg級の鈴木桂治の負け方なんか酷かったですよね。相手は襟も袖も掴ませず、鈴木の両足を両手で刈りにいって持ち上げる。強烈なひきつけ。身体を預けられて、そのまま仰向けにめくり上げられて、一本負け。 

なんですかこれ。相撲ですか。 

私も日本柔道の信奉者なんでしょうね。すっげー納得がいかないんですよ。「こんなの柔道じゃない」って思ってしまう。 

私ですらそう思うのですから、柔道でメダルを狙おうっていうような柔道家たちにすれば、「こんなの柔道じゃねぇ」と思うひとも多いと思います。で、それでも「柔道」を貫いて勝ちたいんじゃないでしょうか。 

そして、負けてしまうんです。 

鈴木選手は言い訳をしませんでした。モンゴルの選手は諸手刈りが得意なのはわかっているわけだし、それで負けてしまうのは自分の弱さだって言ってました。 

そんな中で、綺麗な勝ち方で金メダルを獲っちゃう田村亮子や、野村忠宏ね。古賀稔彦さんも好きだったな。懐かしい時代。 


石井選手は、違います。 

五輪代表を決める全日本選手権。準決勝。相手は本命の棟田選手。前半は相手に組ませません。
「自分のいい所も出せないけど、組ませないというか、相手にいい所を出させないという考えだったッス」
技がでない相手に教育的指導。優位に立った石井は、ますます相手に技をかけさせない。結局、指導(=効果)の差で勝利。 

決勝では、変則的な組み手。足を掴みにいってでもポイントを狙う。有効でリード。以後は、そのリードを保って勝つことに徹して優勝、代表の座を掴みました。 

「効果や指導でも勝ちは勝ちなんで。・・・勝ちは勝ちなんで。自分の中では関係ないです」 

石井選手が「ヒール」と言われる所以がこのあたりにあります。 


21歳と若い石井選手ですが、考え方が柔軟です。「JUDO」を肌で感じるために、フランスの国際大会の合宿に参加してね。私は知らなくて驚いたのですが、世界一のJUDO大国はフランスなんだそうです。柔道人口55万人。日本のおよそ3倍だって。 

私はてっきり日本の柔道人口が一番多いだろうと思っていました。 

斉藤仁コーチ、厳しい中にも愛情が感じられる指導ですね。斉藤さんを見ると、ソウル五輪の表彰台のてっぺん。涙で顔の部品を真ん中に寄せて、日の丸の掲揚を見ながら君が代を聞いている顔がいつも思い出されます。 

「一瞬のことで審判に一本と言われたら終わりなんだ!2回目だからなこれで。勝負の怖さなんだ!心してかからんと金メダルどころじゃねーぞ!えー?わかったか!」といって石井選手の頭をピシャリ。 

そうそう、柔道の先生ってこんな感じです(笑)高校の顧問の先生そっくり。 

それはおいといて。 


石井選手が語った印象に残る言葉のいくつか。 

「神様っちゅうのは何でもかんでも欲しがってもくれないんですよ。全部我慢して、欲しいもの全部我慢して・・・(そうしたときに)ほんまに欲しいものをくれるんです」

「本当に勝つヤツというのは力が強かったり、才能あったり、努力するやつが勝つんじゃなくて、
その、変わっていく環境にいち早く順応できる人が勝つ。そういう柔らかい考えを持った人が、勝つ」 

「日本はたぶん・・・ずっと進化していないけど、外国は進化している」 


「一番勝つヤツは力が強いやつでも技がきいたりテクニックがあるやつでもなくスピードがある
やつでもない。そのおかれてる状況に早く順応できるやつが一番強くなれる」 

「みんなが気づかないところに早く気づく。織田信長が最初に鉄砲に気づいたのと一緒のように」 



北京五輪決勝。 

石井選手は先行して攻めまくりました。一本取るためではなくね。勝つために。開始2分過ぎ、相手に指導。石井は全く攻めなくなり、組み合わなくなりました。 

「一本取るじゃないです。自分の柔道をするぞ」 

防御に徹しました。そのまま優勢勝ち。初めての五輪。見事に金メダルを掴みました。 

勝つために何をするべきか。先の「順応」というのもそうですが、「作戦」というのもものすごく重要視するそうです。勿論練習も。 

石井選手の耳は腫れて膨らんで、そのままになっています。いわゆる柔道耳ってやつです。稽古しまくるひとは、寝技で耳が潰れることが多くて。耳の中で出血したりして、そのままこんな風に奇形になっちゃうんですよ。 

練習の虫。すげぇ練習したんだろうなー 


4位に終わった野球の星野監督は、こんなことを言ったとか。「ストライクゾーンがまったく他の世界でやってるような感じだった。それで戸惑った感じだった」って。 

確かにストライクゾーンは怪しかったですが、それは他の国も一緒ですよね。オリンピックの舞台は世界です。「他の世界でやってるような感じ」ではなくて、「他の世界でやっている」のです。

番組の最後に紹介された石井選手の言葉。こう語っていました。 

「今はもう漢字の柔道じゃないです。横文字のJUDOです。けど、心は漢字の柔道を持っとかないといけないです。サムライとして。でももう、今はもう、横文字のJUDOになったんです。それを認めないと。生き残れないです。自分は生きるか死ぬかの戦いをしているんで、こんなところで意地を張ってられない。というのがあります。」 

若いのにこういうしっかりした考え方を持ってるってスゴイですよね。

ロンドンでは25歳。 

「日本柔道を救った男」の戦いは、続きます。