人はなぜ戦争をするのか

循環器と抗加齢医学の専門医が健康長寿を目指す「人」と「社会」に送るメッセージ

憲法9条は本当に時代遅れなのか!?

2015年05月28日 12時30分13秒 | 社会
「憲法9条はもはや時代遅れだ」という意見がある。本当に時代遅れなのだろうか。その答えは生命進化の歴史を紐解くことによって見えてくる。我々の祖先はガン細胞であった。ガン細胞は自らの欲望に従って無秩序に増殖する。周りの細胞のことはお構いなしである。生命進化の歴史においてガン細胞だけの時代が約10億年続いた。なぜガン細胞は我々人間という個体にまで進化できたのか。それは、周りの細胞と争わないための遺伝子を獲得したからである。
生命は進化の過程で、細胞同士が協調して暮らすことの方が、争って増えるよりも安定して子孫を残すことができると学んだ。戦争をしないために身に付けた遺伝子は「接触阻止」装置をコードする遺伝子であった。「接触阻止」とは細胞同士が接触した時に、お互いが増殖をやめる装置である。この装置のおかげで、怪我をしても元通りに修復される。血管の裏打ちをしている内皮細胞が一層に保たれているのもこの装置が働いているからである。接触阻止装置をコードする遺伝子に傷がつき、この装置が機能しなくなると、細胞は他の細胞と接触しても増殖を停止せず、その上に盛り上がって戦争状態になる。これでは、人体というグローバルな小宇宙を形成することはできない。生命は細胞同士が争わないことによって多細胞化し、臓器を形成し、個体に進化したのである。接触阻止遺伝子の獲得は細胞の生存戦略として極めて理に適っている。細胞同士の争いを禁止した「接触阻止」装置の獲得は、まさにガン細胞が不幸な歴史の中で培った憲法9条だったのだ。
憲法9条を改正することは人間社会の進化の歴史に逆行し、未分化な社会へと後戻りすることに他ならない。なぜそのような脱分化現象がおきるのか。我々の体に尋ねてみるとわかりやすい。過食、運動不足や喫煙といったよくない生活習慣が細胞の先祖返りを引き起こすのである。よくない生活習慣で細胞内の環境が悪化すると、「接触阻止」の遺伝子に傷がつくことがある。生活習慣病と発ガンは密接に関連しているのである。貧困、経済格差、民族や宗教の対立、これらはまさに文明社会が被った生活習慣病である。今、そういった影響がわが国にもおよび、存立危機事態という名目の下、人間社会にとって最も進化した遺伝子である憲法9条が傷つこうとしている。
生命進化の歴史と人間社会の歴史は一緒にできないと反論されるかもしれない。しかし、人間社会は間違いなく生命進化の歴史を踏襲すると考えている。なぜなら、人間が考えていることは細胞が考えていることに他ならないからである。さらなる人間社会の進化、すなわち、すべての国家や民族が協調して幸福に暮らすグローバル社会を目指すためにわが国が為すべきことは何か。それは、憲法9条を傷つけようとする生活習慣病の治療に積極的に乗り出すことである。真に平和国家として歩み続けるのであれば、「接触阻止」を世界に広める先導役を務めるべきである。武力ではなく、地球儀を俯瞰する外交努力で戦争の抑止力を高めることこそが「積極的平和主義」の本当の意味ではないかと思う。
憲法9条は時代遅れではなく、人間社会の進化を先取りした憲法であることはお解かりいただけたと思う。現行憲法がGHQに押し付けられた憲法であり、自主憲法を制定したいと言うならば、憲法9条は戦争を可能にする形に変えるのではなく、専守防衛を強化する形に改正すべきである。今後も憲法9条が危機に陥る機会は多々あるかも知れない。100年、200年先、真にグローバル化した世界で「あの時日本が憲法9条を守り抜き、その理念がやがて世界中に浸透したからこそ、今日の人類の繁栄がある」と讃えられる日が必ず来ることは生命進化の歴史が保障しているのである。

このブログは風詠社出版の拙著『長生きしたければミトコンドリアの声を聞け』の一部を抜粋、編集したものです。小著では少子高齢化社会を生き抜く真のサクセスフル・エイジングとは何かをテーマに、健康長寿を目指す「人」と「社会」に向けてミトコンドリアの立場と視点からメッセージを送っています。私たちはミトコンドリアの声に真摯に耳を傾け、幸福な少子高齢社会への道を歩んでいかなければなりません。それこそが、ミトコンドリアがリードした生命進化の頂点に君臨する人類の責務であると思うのです。