宮本輝の同名小説を、「八日目の蝉」の成島出監督が映画化した人間ドラマ。人生の岐路に立つ大人3人と幼い少年が、最後の桃源郷と呼ばれる地で新たな一歩を踏み出す。日本映画初の長期パキスタンロケによる雄大な自然の映像に心が洗われます。出演は、佐藤浩市、西村雅彦、吉瀬美智子、小池栄子、AKIRA他。
あらすじ:バツイチサラリーマン遠間憲太郎(佐藤浩市)は、50歳を過ぎて取引先の社長・富樫(西村雅彦)や骨董店オーナーの篠原貴志子(吉瀬美智子)と出会い、互いに友情を深めていく。そんな折、彼らは母親から虐待を受けて心に傷を負ってしまった幼い少年と出会い、その将来を案じる。やがて偶然見た写真に心を動かされた彼らは、世界最後の桃源郷と呼ばれるパキスタンのフンザへと旅立つ。
<感想>厳しい現実に希望を見失いがちな現代の日本で、それでもこれからの人生に向かって、新たな一歩を踏み出そうとする人々の姿を力強く描いた感動作です。原作は芥川賞作家、宮本輝が、95年の阪神・淡路大震災による自宅全壊後に出かけた、6700㎞に及ぶシルクロードの旅に起因する同名小説。映画では舞台を当時の神戸から東日本大震災後の東京に移して、今を生きる私たちの心により響く内容にしながら、人生の岐路に立った者たちの姿をじっくりと見つめていく。
年頃の娘と2人暮らしの男が、彼が50歳を過ぎて親友として付き合うことになる同い年の経営者、富樫の西村雅彦。大阪に本社を置く「カメラのトガシ」の経営者。関西人らしく明るく人情にもろいが、経営する店が他店に押され業績が悪化し、苦渋の末リストラに踏み切るが、状況は好転せず、東京からの撤退を考えている。そんな悩みを遠間に語り、一緒にフンザへ旅をすることに。
そして遠間に惹かれていく陶器店の女店主、貴志子の吉瀬美智子。町でタクシーの窓越しに見かけた女性に心惹かれる遠間。彼女の店に通い高額な(18万円の壺)陶器を購入し、何度も店に通いづめ、2人で食事をする仲になった彼女に、フンザの写真集を見せられたのを機に、胸に秘めた辛い過去の話をする。
大人の3人がそれぞれ空虚な心を抱えながら、次第に交流を深めていく。そんな折、遠間は心を閉ざす4歳の男の子、圭輔と、あるカメラマンの撮ったパキスタンの風景と村の子供たちに老人のドアップ顔、4人はフンザの写真に魅了される。それは雄大な自然に、生き生きとした人々の顔。そこに106歳の老人の顔の写真があり、・・・。
実年齢52歳の佐藤浩市が、50歳の遠間役の実感をリアルに体現。元妻は女医さんで再婚しており、実は遠間の方が浮気をして、奥さんが家を出て行ったという。同じく52歳の西村雅彦がコミカルに演じた、関西弁の富樫と遠間の絶妙な掛け合いが大人の友情ドラマとして味わい深くしている。さらに吉瀬美智子の着物姿が綺麗で、凛としたたたずまいが美しいですね。
そして、圭輔の育児を放棄する母親役に、小池栄子の鬼気迫るすっぴんの演技に圧倒され、昨今立て続けに起きる凶悪な事件、子供への虐待や育児放棄の問題なども作品の中で、見る者に考えさせます。
今後の生き方を模索する4人は、遠間に、富樫、貴志子、圭輔を連れて“世界最後の桃源郷”と呼ばれるフンザへと、運命を言い当てる老人が住むパキスタンの山岳地帯へ、新たな自分を見つける旅に出る。
小さなバスで砂埃を舞いながら行く山岳地帯。羊飼いの106歳の老人が、「正しいことを繰り返しなさい」と説く。顔の皺に刻まれた年輪。そして夜の満天の星空。次の日、真っ白い砂の砂漠を登る4人。白い砂の山を真っ赤なシャツ姿で一生懸命に登っていく圭輔、幼い彼がこれからのことを思っているのか(孤児院へと)、それとも若くはないが新しい父親と母親を見つけた喜びだろうか、後姿の全身にその喜びを表しているように見えた。
この後に遠間と貴志子が、2人で圭輔を育てて行こうと決心するシーンがあります。この撮影の前の晩に吉瀬さんが裸足になって砂漠を歩くというので、撮影で綺麗な足首を見せるためゴシゴシと綺麗に磨き上げた足が見れるのですが、実は風呂場で転んで骨折していたのに、痛みをこらえての裸足の演技だったそうです。
思うに、主観の違いなのかもしれません。わざわざパキスタンのフンザまで行かなくても、自分が行きたいところへ旅に出て、毎日の仕事の疲れと心の洗濯をしに行き、リフレッシュして、リセットして、明日からまた頑張ろうと思う気力ですよね。
ラストの「未来を信じていいのかな」という台詞も、簡単に決めることではないけれど、遠間が惚れた陶器店の貴志子と一緒に育てることになるきっかけにも、貴志子が一度結婚して子供が産めなくて離縁されたこと。二人の間に圭輔という言葉を発しない子供が、年老いた二人で助け合いながら育てて行こうという、明るい未来があるのではないかしら。圭輔が心を開いて貴志子にすがりつく姿が、少しずつ言葉を話すようになる圭輔が愛らしいと思った。
タイトルの「草原の椅子」とは、フンザの山のふもとに歩き疲れたら一休みするようにと、木製のベンチがありました。それは、これから二人で夫婦として、圭輔を育てて行こうとする二人の姿があり、またフンザの人たちが仕事に疲れて一休みする椅子でもある。
フンザはパキスタン北西部に位置し、中国のウイグル自治区への通商路沿いにある地域。首都イスラマバードから陸路で20時間ほどで、景観の素晴らしさから最後の桃源郷と呼ばれる。宮崎駿の「風の谷のナウシカ」の舞台のモデルという説も。
2013年劇場鑑賞作品・・・34 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ
あらすじ:バツイチサラリーマン遠間憲太郎(佐藤浩市)は、50歳を過ぎて取引先の社長・富樫(西村雅彦)や骨董店オーナーの篠原貴志子(吉瀬美智子)と出会い、互いに友情を深めていく。そんな折、彼らは母親から虐待を受けて心に傷を負ってしまった幼い少年と出会い、その将来を案じる。やがて偶然見た写真に心を動かされた彼らは、世界最後の桃源郷と呼ばれるパキスタンのフンザへと旅立つ。
<感想>厳しい現実に希望を見失いがちな現代の日本で、それでもこれからの人生に向かって、新たな一歩を踏み出そうとする人々の姿を力強く描いた感動作です。原作は芥川賞作家、宮本輝が、95年の阪神・淡路大震災による自宅全壊後に出かけた、6700㎞に及ぶシルクロードの旅に起因する同名小説。映画では舞台を当時の神戸から東日本大震災後の東京に移して、今を生きる私たちの心により響く内容にしながら、人生の岐路に立った者たちの姿をじっくりと見つめていく。
年頃の娘と2人暮らしの男が、彼が50歳を過ぎて親友として付き合うことになる同い年の経営者、富樫の西村雅彦。大阪に本社を置く「カメラのトガシ」の経営者。関西人らしく明るく人情にもろいが、経営する店が他店に押され業績が悪化し、苦渋の末リストラに踏み切るが、状況は好転せず、東京からの撤退を考えている。そんな悩みを遠間に語り、一緒にフンザへ旅をすることに。
そして遠間に惹かれていく陶器店の女店主、貴志子の吉瀬美智子。町でタクシーの窓越しに見かけた女性に心惹かれる遠間。彼女の店に通い高額な(18万円の壺)陶器を購入し、何度も店に通いづめ、2人で食事をする仲になった彼女に、フンザの写真集を見せられたのを機に、胸に秘めた辛い過去の話をする。
大人の3人がそれぞれ空虚な心を抱えながら、次第に交流を深めていく。そんな折、遠間は心を閉ざす4歳の男の子、圭輔と、あるカメラマンの撮ったパキスタンの風景と村の子供たちに老人のドアップ顔、4人はフンザの写真に魅了される。それは雄大な自然に、生き生きとした人々の顔。そこに106歳の老人の顔の写真があり、・・・。
実年齢52歳の佐藤浩市が、50歳の遠間役の実感をリアルに体現。元妻は女医さんで再婚しており、実は遠間の方が浮気をして、奥さんが家を出て行ったという。同じく52歳の西村雅彦がコミカルに演じた、関西弁の富樫と遠間の絶妙な掛け合いが大人の友情ドラマとして味わい深くしている。さらに吉瀬美智子の着物姿が綺麗で、凛としたたたずまいが美しいですね。
そして、圭輔の育児を放棄する母親役に、小池栄子の鬼気迫るすっぴんの演技に圧倒され、昨今立て続けに起きる凶悪な事件、子供への虐待や育児放棄の問題なども作品の中で、見る者に考えさせます。
今後の生き方を模索する4人は、遠間に、富樫、貴志子、圭輔を連れて“世界最後の桃源郷”と呼ばれるフンザへと、運命を言い当てる老人が住むパキスタンの山岳地帯へ、新たな自分を見つける旅に出る。
小さなバスで砂埃を舞いながら行く山岳地帯。羊飼いの106歳の老人が、「正しいことを繰り返しなさい」と説く。顔の皺に刻まれた年輪。そして夜の満天の星空。次の日、真っ白い砂の砂漠を登る4人。白い砂の山を真っ赤なシャツ姿で一生懸命に登っていく圭輔、幼い彼がこれからのことを思っているのか(孤児院へと)、それとも若くはないが新しい父親と母親を見つけた喜びだろうか、後姿の全身にその喜びを表しているように見えた。
この後に遠間と貴志子が、2人で圭輔を育てて行こうと決心するシーンがあります。この撮影の前の晩に吉瀬さんが裸足になって砂漠を歩くというので、撮影で綺麗な足首を見せるためゴシゴシと綺麗に磨き上げた足が見れるのですが、実は風呂場で転んで骨折していたのに、痛みをこらえての裸足の演技だったそうです。
思うに、主観の違いなのかもしれません。わざわざパキスタンのフンザまで行かなくても、自分が行きたいところへ旅に出て、毎日の仕事の疲れと心の洗濯をしに行き、リフレッシュして、リセットして、明日からまた頑張ろうと思う気力ですよね。
ラストの「未来を信じていいのかな」という台詞も、簡単に決めることではないけれど、遠間が惚れた陶器店の貴志子と一緒に育てることになるきっかけにも、貴志子が一度結婚して子供が産めなくて離縁されたこと。二人の間に圭輔という言葉を発しない子供が、年老いた二人で助け合いながら育てて行こうという、明るい未来があるのではないかしら。圭輔が心を開いて貴志子にすがりつく姿が、少しずつ言葉を話すようになる圭輔が愛らしいと思った。
タイトルの「草原の椅子」とは、フンザの山のふもとに歩き疲れたら一休みするようにと、木製のベンチがありました。それは、これから二人で夫婦として、圭輔を育てて行こうとする二人の姿があり、またフンザの人たちが仕事に疲れて一休みする椅子でもある。
フンザはパキスタン北西部に位置し、中国のウイグル自治区への通商路沿いにある地域。首都イスラマバードから陸路で20時間ほどで、景観の素晴らしさから最後の桃源郷と呼ばれる。宮崎駿の「風の谷のナウシカ」の舞台のモデルという説も。
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