パピとママ映画のblog

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25年目の弦楽四重奏 ★★★★

2013年09月09日 | な行の映画
結成25周年を迎えた弦楽四重奏団のチェリストが難病を患い引退宣言したことで、残された楽団員の関係に不協和音が生じていく人間ドラマ。狂っていく音程の中で演奏するルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの名曲、弦楽四重奏曲第14番に着想を得て、個々のエゴや嫉妬など、長い人生の過程で生じてくるさまざまなひずみに直面したメンバーの葛藤を描く。オスカー俳優のフィリップ・シーモア・ホフマンとクリストファー・ウォーケン、キャサリン・キーナーら実力派キャストによる演技合戦は圧巻。

<感想>制作・脚本・監督のヤーロン・ジルバーマンは、本作の前に長編ドキュメンタリーを監督しているが、これは劇映画第1作目になるらしい。しっかりとした演出ぶりである。高名な弦楽四重奏の危機を、フィリップ・シーモア・ホフマンら4人の名優たちがNYを舞台に格調高く描いている。
クリストファー・ウォーケンがチェリストのピーターを演じるという、それだけで観に行った私なんですが、なぜか豪華キャストと豪華スタッフが集結。設定も興味深く、がぜん期待は高まるが、優秀な教師でもあるピーターがクラスで学生に語る巨匠カザルスとの思い出は必聴です。エリオットの詩も印象深く、久々の教養映画とも言えるでしょうか。

それに、弦楽四重奏団のいわば“要”役であるチェロ奏者のクリストファー・ウォーケンは、この映画の中でも登場人物たちをまとめる父親的存在感を放っているのである。華麗なスポットを浴び、主旋律を奏でる第1のヴァイオリン奏者のダニエルに、マーク・イヴァニールが、彼を引き立て正確なリズムを刻む第2ヴァイオリン奏者ロバートには、フィリップ・シーモア・ホフマン。ロバートの妻であり曲全体に繊細な陰影を与えるヴィオラ奏者ジュリエットっを演じるのはキャサリン・キーナー。

中でも、カリスマ的役柄の得意なフィリップ・シーモア・ホフマンが、チェリストのピーターが引退をすると言うことで、ダニエルと交替で第1ヴァイオリンを弾きたいと言い出す。ロバートは2番手のヴァイオリニストだが、1番のソロに合わせて“あうん”の呼吸で演奏する方が難しいのではと思ったのだが。
かつては学生時代に、妻ジュリエットの恋人であったダニエルの才能に、ロバートは複雑な思いを抱いているらしい。それに、愛する妻のジュリエットがいるのに、フラメンコダンサーとの浮気のベットシーンに驚く。

そして、ダニエルは未だに独身を貫く芸術至上主義者だ。だが、少々魔がさしたように、彼に憧れる若く才能あるアレクサンドラとの愛にのめり込んでいく。だが、アレクサンドラはロバートとジュリエットの娘である。

完璧主義者にあるまじき愚かな行動?・・・しかし、人間とはそうしたものなのである。世の常のごとく、人間とは失敗から学んでゆくものだから。それぞれ超一流の演奏者である彼らは、世の常識からみるなら自己愛に取り憑かれた、どこか不完全な人物たちであろう。
そして何よりも驚いたのは、最後に登場するチェリスト、ニナ・リーの存在感。彼女の演奏する姿は、アスリートより躍動する筋肉に本物を知った思いです。

パーキンソン病を宣告され、今季限りの引退を決心した四重奏団「フーガ」のチェロ奏者ピーターは、25年間の活動をしめくくる最後のステージに驚くべきフィナーレを用意していたのです。それはベートーベンが死の前日に作曲した「弦楽四重奏曲第14番」の演奏において、いわばタブーとでもいうべきショッキングな行為だったのですね。
この曲は、楽章の間に休みを入れずに演奏するという画期的な曲で、休みなく40分間も演奏を続けると楽器の音程がバラバラに狂っていき、演奏家たちは演奏を止めてチューニングし直すべきか、調弦が狂ったままで最後まで続けるのかの判断に迫られる。その様子はそのまま人生にも当てはめることができ、「長きに渡って緊張感を伴う人間関係にも、微調整が必要なのではないか?」という、まるで合わせ鏡にしたような人間ドラマ、とでも言ったらいいだろうか。出演者がみな巧いので、その葛藤を含めたアンサンブルは、見応え十分でした。

つまり、ピーターは途切れることなく演奏するという約束事を破って、途中で演奏を中断し、彼の後継者として若く美しいチェロ奏者ニナ・リー(この映画の演奏を担当しているブレンターノ弦楽四重奏団のチェリストである)を舞台に迎えいれたのです。ショッキングで、しかも感動的な終幕に唖然としました。
さらにクラシック音楽ファンであれば、そうでない人の100倍楽しめるのは間違いない。ラストの新結成の「フーガ」は、まるで憑き物でも落ちたかのように、かつて試みたことのない暗譜演奏をもってピーターを送るシーンに感無量。
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