アメリカ海軍の特殊部隊ネイビーシールズ史上最悪の惨事と呼ばれるレッドウィング作戦の全貌を映画化した戦場アクション。実際に作戦に参加し唯一生還した兵士の回顧録を原作に、極限状況下の戦場の真実をリアルに描く。監督は、『ハンコック』などのピーター・バーグ。『ディパーテッド』などのマーク・ウォールバーグを主演に、『バトルシップ』などのテイラー・キッチュ、『メッセンジャー』などのベン・フォスター、『イントゥ・ザ・ワイルド』などのエミール・ハーシュら実力派が共演する。
<感想>戦争映画です。それも観客が受け入れやすいように加工された戦争ではなく、目をそむけたくなる現実から目を背けずに、血の滴る肉の塊をそのままぶつけたような戦争映画である。舞台はアフガニスタン。数多くの米兵を殺害したタリバンのリーダーを倒すべく、海軍特殊部隊が派遣される。最初は過酷な特殊部隊の訓練シーン。あまりにも肉体に辛いと感じたら鐘を鳴らして除隊できるという。そして、訓練に耐え忍んだ者だけが選ばれ、現地に送られる。
最初は順調に、リーダーとそのグループの黙視に成功するが、作戦を開始する矢先にタリバンの一団に襲われ激戦に突入する。これはもうお馴染みの筋書き。
熟練の戦士たちが悪者を倒すわけだから、ハリウッド映画の定石どおりに見えるところだけれど、それが違うんです。
この部隊がタリバンに襲われたきっかけは、通りがかった村人たちに見つかったからで。村人たちは米兵を攻撃したわけではないし、武装もしていないので、ルールに従うなら敵とみなして殺すわけにはいかない。
だが、村人を逃がしてしまえば、当然のように米兵のことがタリバンに伝えられて戦闘になることは確実。殺しも逃がしもせずに、ただ動けないように拘束して米兵が移動するという方法もあるけれど、この寒さのなかで拘束すればやはり死んでしまう。さぁ、どうする、というシチュエーションなのだ。
上官に助言を求めようとしたものの無線は通じず、4人は激しい激論の末に前者を選ぶ。つまり解放したのだ。ところが、この人道的には正しい選択と通信不調の問題が、のちに取り返しのつかない厄介なことに発展していく。映画はこうした想定外の事態が起こりうる戦場での決断の困難さと、その結果、もたらされる皮肉な運命を生々しく描き、じわじわと不吉なサスペンスを高めていく。
通信を確保するために山頂をめざす途中、迫りくるタリバン兵を察知した4人が、もはや戦闘はさけられないと覚悟を決め、ラトレルが最初の銃弾を放つまでのただならぬ緊迫感にハラハラ、ドキドキです。
実際の戦場における4人は、自分たちが何十人、何百人を相手に戦っているのか皆目見当がつかなかったはず。いくら迎え撃っても無限に湧いてくる黒ずくめの敵兵を前にした彼らは、想像を絶する恐怖を味わったに違いありません。
むろん本作はドキュメンタリーではなく劇映画ではあるが、このリアルな戦場のシーンでは、体験しえない極限状況の映像に度肝を抜くことでしょう。
平地ではない山岳地帯。無数の岩が転がっている急斜面の荒野は、走ることもままならず、なおかつ敵の自動小銃やロケットランチャーの猛攻を絶え間なくあびる状況下では、どの方向に退避すべきかも判断しがたい。
高地なれしたタリバン兵にとっては自分の庭状態。まさに完全アウェーです。エミール・ハーシュ演じるディーツが、「何故彼らはあんなに速く動けるのだ」と切羽詰った台詞が緊迫感ありあり。
背後は断崖、人間が転落するというアクションを、かつてこれほどまでに凄まじく、恐ろしく映像化した映画はないでしょう。まさに、転げ落ちるという、その下には尖った岩があるというのに。
それでも戦闘は終わらず、満身創痍のシールズ4人の抵抗は、3人が息絶え、一人が戦闘不能に陥るまで続いていく残酷さである。ハリウッドの映画ならこんな時には、騎兵隊が来るに違いない。この映画でも実際にヘリが2機やって来るのですが、なんと1機は乗組員が脱出するまもなく攻撃されて爆発炎上し、残りの1機は断念して引き返すというシーンもありました。
その圧倒的なリアリティと迫真性を画面にみなぎらせたスタッフの仕事ぶりは、兵士それぞれの人間性を力強く体現したキャストの、熱演とともに高く評価されるべきでしょう。
そして、悪夢のような戦闘映画は、精根尽き果てたラトレルに手を差し伸べる、意外な救世主の出現によって急展開を見せる。だが、このフィクションではあり得ない驚きを呼び起こすのである。先にラトレルが山羊飼いを殺すか生かすかの選択を迫られたように、村人の救世主がまた見知らぬ米兵を救うべきか否か、自らの生死に関わる決断を迫られる。
そこへ、タリバン兵がかぎつけて村人を責め立てる。ラトレルも助かったのはいいが、自分で銃弾をナイフで取り出し、足の飛び出た骨は手で押し込むという荒治療。よく生き残ったと思う。
たった一人の米兵の生還の裏側にあった、幾つかの究極の決断のドラマは、このうえなく劇的であり心揺さぶられずにいられない。
観終わって見れば、気軽に楽しめるレベルのスリルや爽快感とはかけ離れて、どうしようもない痛みと苦しみが入り交じった複雑な余韻が残る戦場実話である。
2014年劇場鑑賞作品・・・65 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング
<感想>戦争映画です。それも観客が受け入れやすいように加工された戦争ではなく、目をそむけたくなる現実から目を背けずに、血の滴る肉の塊をそのままぶつけたような戦争映画である。舞台はアフガニスタン。数多くの米兵を殺害したタリバンのリーダーを倒すべく、海軍特殊部隊が派遣される。最初は過酷な特殊部隊の訓練シーン。あまりにも肉体に辛いと感じたら鐘を鳴らして除隊できるという。そして、訓練に耐え忍んだ者だけが選ばれ、現地に送られる。
最初は順調に、リーダーとそのグループの黙視に成功するが、作戦を開始する矢先にタリバンの一団に襲われ激戦に突入する。これはもうお馴染みの筋書き。
熟練の戦士たちが悪者を倒すわけだから、ハリウッド映画の定石どおりに見えるところだけれど、それが違うんです。
この部隊がタリバンに襲われたきっかけは、通りがかった村人たちに見つかったからで。村人たちは米兵を攻撃したわけではないし、武装もしていないので、ルールに従うなら敵とみなして殺すわけにはいかない。
だが、村人を逃がしてしまえば、当然のように米兵のことがタリバンに伝えられて戦闘になることは確実。殺しも逃がしもせずに、ただ動けないように拘束して米兵が移動するという方法もあるけれど、この寒さのなかで拘束すればやはり死んでしまう。さぁ、どうする、というシチュエーションなのだ。
上官に助言を求めようとしたものの無線は通じず、4人は激しい激論の末に前者を選ぶ。つまり解放したのだ。ところが、この人道的には正しい選択と通信不調の問題が、のちに取り返しのつかない厄介なことに発展していく。映画はこうした想定外の事態が起こりうる戦場での決断の困難さと、その結果、もたらされる皮肉な運命を生々しく描き、じわじわと不吉なサスペンスを高めていく。
通信を確保するために山頂をめざす途中、迫りくるタリバン兵を察知した4人が、もはや戦闘はさけられないと覚悟を決め、ラトレルが最初の銃弾を放つまでのただならぬ緊迫感にハラハラ、ドキドキです。
実際の戦場における4人は、自分たちが何十人、何百人を相手に戦っているのか皆目見当がつかなかったはず。いくら迎え撃っても無限に湧いてくる黒ずくめの敵兵を前にした彼らは、想像を絶する恐怖を味わったに違いありません。
むろん本作はドキュメンタリーではなく劇映画ではあるが、このリアルな戦場のシーンでは、体験しえない極限状況の映像に度肝を抜くことでしょう。
平地ではない山岳地帯。無数の岩が転がっている急斜面の荒野は、走ることもままならず、なおかつ敵の自動小銃やロケットランチャーの猛攻を絶え間なくあびる状況下では、どの方向に退避すべきかも判断しがたい。
高地なれしたタリバン兵にとっては自分の庭状態。まさに完全アウェーです。エミール・ハーシュ演じるディーツが、「何故彼らはあんなに速く動けるのだ」と切羽詰った台詞が緊迫感ありあり。
背後は断崖、人間が転落するというアクションを、かつてこれほどまでに凄まじく、恐ろしく映像化した映画はないでしょう。まさに、転げ落ちるという、その下には尖った岩があるというのに。
それでも戦闘は終わらず、満身創痍のシールズ4人の抵抗は、3人が息絶え、一人が戦闘不能に陥るまで続いていく残酷さである。ハリウッドの映画ならこんな時には、騎兵隊が来るに違いない。この映画でも実際にヘリが2機やって来るのですが、なんと1機は乗組員が脱出するまもなく攻撃されて爆発炎上し、残りの1機は断念して引き返すというシーンもありました。
その圧倒的なリアリティと迫真性を画面にみなぎらせたスタッフの仕事ぶりは、兵士それぞれの人間性を力強く体現したキャストの、熱演とともに高く評価されるべきでしょう。
そして、悪夢のような戦闘映画は、精根尽き果てたラトレルに手を差し伸べる、意外な救世主の出現によって急展開を見せる。だが、このフィクションではあり得ない驚きを呼び起こすのである。先にラトレルが山羊飼いを殺すか生かすかの選択を迫られたように、村人の救世主がまた見知らぬ米兵を救うべきか否か、自らの生死に関わる決断を迫られる。
そこへ、タリバン兵がかぎつけて村人を責め立てる。ラトレルも助かったのはいいが、自分で銃弾をナイフで取り出し、足の飛び出た骨は手で押し込むという荒治療。よく生き残ったと思う。
たった一人の米兵の生還の裏側にあった、幾つかの究極の決断のドラマは、このうえなく劇的であり心揺さぶられずにいられない。
観終わって見れば、気軽に楽しめるレベルのスリルや爽快感とはかけ離れて、どうしようもない痛みと苦しみが入り交じった複雑な余韻が残る戦場実話である。
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