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冥土院日本(MADE IN NIPPON)

月光仮面 スーパーヒーローとバイクとピストル ④

●月光仮面の愛車は神社仏閣スタイル?

月光仮面の登場を契機に一大ブームとなるヒーロー物にマフラーと乗り物はつき物であった。まぼろし探偵(バイク)に少年ジェット(スクーター)もマフラーをなびかせて颯爽と登場した。昭和28年はまだ日本のモータリゼーションは開花しておらず、ドラマで自動車とともに颯爽とヒーローが登場するのは後日を待たなければならなかった。

もっとも月光仮面のドラマコンセプトは鞍馬天狗の現代版であったから、馬がオートバイ(鉄馬)になったという必然性はある。身体の全部がむき出しになるオートバイは主人公のコスチュームや風になびくマフラーやマントが映えて、視覚的にも演出効果が高いという利点もあった。

月光仮面の白い愛車の車種が『ホンダドリームC70』であることは高校生になって初めて知った。このバイクは月光仮面放送開始前年の1957年(昭和32年)の10月1日に発売された。放送開始が翌年2月24日であるから、発売早々(もしくは発売前)の新車が小道具として使用されたわけである。

ホンダドリームC70は価格が172,000円であったから、約2回分の製作費に相当する。お金をかけないことが、このドラマのもう一つの眼目であったので、もしこの車が製作費で購入されていたのならば、スタッフも随分と張り込んだものである。

予算がないため、主演の「大瀬康一」も当時は無名の大部屋俳優であった。月光仮面がターバンにサングラスという設定も、顔が分からないから代役を立てやすい事が本当の狙いであった。また国際陰謀団の手下達が覆面姿というのも、役者を使う予算がなく、製作会社の宣弘社の社員を出演させるための設定であったという。

スタジオにセットを組む予算がなく、撮影はオールロケで行われた。祝探偵事務所は宣弘社社長の自宅の応接室。どくろ仮面のアジトは同じく社長宅のガレージを使用したそうである。後日一躍人気番組となり30分番組になっても1本当りの制作費は60万円であった。(東映は30分枠で製作費500万円を提示したという話がある)

重要な小道具とはいえ、よくもまあ新車を奮発したものだと思ったが、よく考えると宣弘社は広告代理店であった。新車PRの一環としてホンダに無償提供させたのかもしれない。しかしタイトルバックにはホンダの協力クレジットが見あたらない。これも月光仮面の謎の一つである。(笑)

さて本題に戻ろう。当時の日本のバイクメーカーは現在の四大メーカー以外に多数存在し、まさに百花繚乱の時代であった。そして海外メーカーのコピーを脱してメーカー独自の個性を出そうとエンジニア達が知恵を絞り、腕を振るった時代であった。

ホンダは創業者の本田宗一郎氏が陣頭指揮を取り、ホンダ独自の路線を走り始めた時期であった。C70にはホンダの技術力の総てが注ぎこまれ、その車自体に”日本のホンダ”であることが表現された。発売と同時にC70のデザインは見る人を驚かせた。

当時のバイクデザインはパイプフレーム、テレスコピックに代表される丸味を帯びたデザインが常識であった。しかるにC70はおよそそれらしくない曲面と直面のつながりで出来上がっていた。このデザインは『神社仏閣スタイル』と呼ばれた。宗一郎氏が奈良や京都の神社仏閣を見てまわるうちに閃いたイメージから誕生したと伝えられている。

寺社の屋根に見られる反り。みなぎる張り。柱の力強さなどがバイクデザインに表現されている。独特のフェンダーデザイン。四角いプレスタイプのフロントフォーク。ライトもメーターもミラーも四角。何とリアショックさえ四角いデザインである。タイヤとホイール以外は丸いデザインが見られないのである。

当然ながらこのデザインは賛否両論であった。しかし排気量247CC、並列2気筒4ストロークエンジンが生み出す、リッターあたり72馬力という高出力は当時の外国車の水準をはるかにしのぐもので、一躍人気のバイクとなっていった。

桑田次郎氏が描く漫画版のバイクは外国車の大型バイクのイメージがあり、映画版では他のバイクが使用されていたと思う。しかし月光仮面の愛車は『ホンダ ドリームC70』が一番良く似合う。それはTV版のイメージが強いからではない。日本が生んだ神仏混淆のスーパーヒーロー月光仮面には、神社仏閣スタイルのバイクこそが最も相応しいからである。(笑)

次回に続く


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●ホンダドリームC70車両解説
http://www005.upp.so-net.ne.jp/seevert/c70text.html

●今なおベストコンディションのC70
http://yahey72.cool.ne.jp/dream70/dreams/c7075.html

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