歴史上の人物のイメージは、自分が観た映画やTVでの俳優が演じるところのイメージに重なります。貴方がイメージする忠臣蔵の大石内蔵助像は次のどれでしょうか。
●尾上松之助
目玉の松ちゃんこと「尾上松之助」演ずる大石内蔵助。昭和元年「実録忠臣蔵」日活。
無声映画時代の大スターのフィルムが最近発見されました。
尾上松之助の作品は10本位しか現存しておらず、大変貴重な発見だったそうです。この映画の記憶がある方はかなりのご高齢でしょうね。
●大河内伝次郎
あの独特の不明瞭な(失礼)セリフ回しを物まねのネタにされた「大河内伝次郎」です。大河内が演じた大石内蔵助の作品は昭和5年「元録快挙大忠臣蔵」日活。昭和9年「忠臣蔵」日活京都。昭和32年「赤穂義士」東映作品でも大石を演じています。私的には大河内伝次郎と言えば「丹下左膳」のイメージが強烈ですが。戦前の作品もぜひ見てみたいですね。
●阪東妻三郎
田村三兄弟の父、「バンツマ」こと「阪東妻三郎」演ずる凛々しい大石内蔵助です。昭和13年「忠臣蔵・天の巻、地の巻」日活。
この作品では清水一学に「嵐寛寿郎」小林平八郎に「月形龍之介」とチャンバラ映画の「七剣聖」と呼ばれた立ち回りに秀でた名優達が出演しています。
今改めて出演作を見ると長男の故・田村 高廣が父親の面差しを一番受けついでいますね。妻三郎は顔に似合わぬ豪胆な面もありました。戦時中に軍徴用による出頭命令に応じようとせず、「役者の阪妻がお国の役に立たなくて、田村伝吉(本名)に何の用がおます」と啖呵を切り、出頭せずじまいで済ませてしまったそうです。その点が公儀も恐れぬ、内蔵助の豪胆さに通じるような気がします。
●8代目松本幸四郎(松本白鸚)
8代目「松本幸四郎」主演の「忠臣蔵・花の巻、雪の巻」昭和29年松竹作品です。この作品は母に連れられて、映画館(二番館)で観た記憶があります。私が映画で観た最初の大石内蔵助です。エンターティメント的な東映時代劇とは一味違った文芸路線の松竹映画。そのテイストの違いと幸四郎の重厚な演技は幼心にも何となく伝わってきました。
幸四郎は昭和37年東宝作品の「忠臣蔵」にも内蔵助役で主演を務めています。また大石主税役で市川染五郎(9代目松本幸四郎)が親子共演しています。ちなみに浅野内匠守を演じたのは29年版「高田浩吉」37年版「加山雄三」でした。
●市川歌右衛門
昭和31年の東映創立十週年記念映画「赤穂浪士・天の巻、地の巻」です。当時の東映を代表する二大スターの一人、北大路の御大「市川歌右衛門」です。しかし歌右衛門は「旗本退屈男」のイメージが強すぎます。要するに殿様キャラなんです。家臣役や町人役には向いていない。この作品の内蔵助役よりも後述の昭和34年作品「忠臣蔵・櫻花の巻、菊花の巻」での「脇坂淡路守」の方がカッコ良くて、私は好きです。
息子の「北大路欣也」は大石主税役で、34年の作品に出演しています。もう一人の山の御大「片岡千恵蔵」を主役にして、歌右衛門が文字通り脇(笑)にまわったので、新人の北大路を出番の多い役に大抜擢したという感じがします。キャスティングに対するスタッフの気の使い様が伺えます。
●長谷川一夫
大石内蔵助と言えばやはりこの方!「長谷川一夫」です。昭和33年「忠臣蔵」大映作品。写真は四十七士引き揚げのワンシーンですね。歴代内蔵助の中で一番育ちの良さそうな、品のある内蔵助でした。
桜井長一郎の物まねで有名になった「おのおの方、いざ出立でござる・・・」の名セリフは、昭和39年のNHK大河ドラマ「赤穂浪士」で、四十七士が討ち入り前に集結した、門仲の蕎麦屋のシーンでのセリフです。
当時忠臣蔵の浅野内匠守は若手の美男俳優が演じるのが定石でした。33年作品では「市川雷蔵」の水も滴る美男子ぶりが印象的でした。
●片岡千恵蔵
前回の記事でも紹介した「忠臣蔵・櫻花の巻、菊花の巻」昭和34年東映作品の「片岡千恵蔵」です。千恵蔵にとって大石内蔵助役はハマリ役だったようです。
この作品の前に、昭和27年「赤穂城・続赤穂城」昭和28年「女間者秘聞 赤穂浪士」後に、昭和36年「赤穂浪士・前編 後編」(東映)で内蔵助を演じています。さらに戦前の大河内伝次郎、阪東妻三郎主演の3作品では、いずれも浅野内匠守を演じています。私が知っている千恵蔵はいかつい顔をした晩年の千恵蔵ですから、ちょっと驚きましたが調べてみると・・・
●若かりし頃の片岡千恵蔵
納得しました。かなりのイケメンだったのですね。
千恵蔵は「しかしてその実体は・・・」の決め台詞、「七つの顔を持つ男」でのアクション現代劇や「いれずみ判官シリーズ」など、軽妙な役もこなす俳優さんでした。昭和30年の内田吐夢監督の名作「血槍富士」で見せた槍持ち権八の名演技は忘れられません。
●三船敏郎
男は黙って・・・の「三船敏郎」です。意外なことに映画での大石役は一度も無いみたいです。その理由は何となく分かるような・・・。どこかのブログで常時臨戦態勢の大石内蔵助と評していました。前述の昭和37年東宝作品では「俵星玄蕃」の役で出演しています。内蔵助よりは玄蕃の方が適役ですね。この人、浪人役は本当にハマるんです。
写真は「大忠臣蔵」昭和46年 NET(テレビ朝日)。一年間続いた民放大河ドラマでした。昔は民放も大河やってたんですよ。今、千葉テレビで午後に再放送しています。
●高倉 健
亡くなって早一年。「高倉健」のストイックな大石内蔵助です。「四十七人の刺客」平成6年 東宝/日本テレビ。
現在のところ、最後の忠臣蔵映画ですね。それにしても健さんのヅラを着けた姿は珍しいですね。健さんの時代劇と言えば「宮本武蔵」での佐々木小次郎役が想い出されますが。この時は髷ではなく総髪でしたから、大変貴重なちょんまげ姿です。
さて、トリを飾るのは映画界ではなく、あの世から特別出演の本物の「大石内蔵助」です(笑)。
内蔵助の肖像画はいずれも死後しばらく経ってから、想像で描かれたもので実際の容姿を写し取ったものではありません。一体どのような人であったか興味がわきます。
そこで「福来友吉博士」の研究で注目を浴びた超能力者「三田光一」による念写による「大石内蔵助」です。この写真の真贋論争は横に置いておくとして。
史実に残る内蔵助は、赤穂藩主浅野家にも姻戚関係がある上級武士の出身で、育ちが良く、若いころは昼行燈と呼ばれていました。口数は少ないが人の話を良く聞いたそうです。そんな穏やかな人柄をこの写真は表しているような気がします。武張った感じでもなく、いかにも頭が切れそうな顔でもない、凡庸だが誠実そうな顔立ちだったのかもしれませんね。
●念写の大石内蔵助
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