オートバイと共に月光仮面に欠かせない小道具はピストルである。しかし、「憎むな!殺すな!赦しましょう!」のキャッチフレーズどおり、ピストルは悪人を殺傷するためには用いられない。相手の武器を弾き飛ばすか、威嚇用である。祝十郎が射撃の名手であることを示すシーンがあった。たしか彼は国内射撃選手権のチャンピオンであり、世界選手権3位の実力であったとされている。今回の鍋ネタは月光仮面が愛用するピストルの考察である。
月光仮面のTVシリーズではオートマチック、映画シリーズではリボルバーが使用されている。私は映画シリーズがあまり好きでない。その理由としては、前述のオートバイの車種と同様、リボルバーが月光仮面のキャラクターにはミスマッチの感じがするのである。
映画版月光仮面に使用されたピストルの種類はおそらくS&WのM38チーフスペシャル(1950~)かコルト・ディテクティブスペシャル(1928~)であろう。(もちろん映画用のモデルガンであって本物ではない)
戦後の日本はGHQの政策によって銃の所有が厳しく制限されていた。民間人である祝十郎(月光仮面)がアメリカ製の銃を手に入れるには、米軍の横流しなどの闇ルートで手に入れるしかない。正義の人が、こんなせこい不正を行うとは到底考えられないのである。(笑)
一方TV版の方のピストルの種類はベルギー製のブローニング1910(1910~)であろう。この銃は戦前から日本でも馴染みの深い銃である。旧日本軍では将校になると銃や軍刀は官給品ではなく、私費で購入するものであった。戦前、「やっとこ少尉に、やりくり中尉」という言葉があったそうだ。少尉や中尉では給料が安いために家計のやりくりが大変だという例えである。給料が安いからというわけでもないだろうが、ブローニング1910は性能の良さのわりには安価で、青年(下級)将校たちが好んでこの銃を購入したそうである
戦前、私の父は外地で警察官をしていた。父の話では当時の官給品の銃は国産の南部式かモーゼルであったそうだ。南部式は故障が多く、時には暴発事故が発生した。またモーゼルは大きくて重いので携帯に苦労した。そこで官給品を使用せず、私費でブローニングとベレッタを購入したそうだ。特にブローニング1910は大きさや重量も手ごろで大変扱いやすく、命中精度も高かったそうだ。ピストルの名機といわれる所以である。
月光仮面(祝十郎)の並外れた射撃の腕前と格闘術。さらにオートバイに乗馬(小説では白馬に乗って登場する)も得意とすれば、一体どこでそれらを体得したのであろうか。また祝十郎は頭脳明晰で探偵術に長けている。おそらく彼は陸軍軍人、しかも特殊教育を受けたのではないかと推察する。つまり陸軍中野学校出身者ではなかったのだろうか。
陸軍中野学校の目的は軍人養成ではなく諜報活動・宣撫工作要員の養成にあったので、軍人らしくないタイプが選ばれたそうである。頭脳明晰で語学も堪能。国際人的なタイプも多く、大学在学中の学生も選出対象になったという。また意外なのは、校内はリベラルな雰囲気があり、天皇制の是非についても討論されたといわれている。祝十郎に軍人臭さがないのはこのせいなのか?
祝十郎は祝(ほふり)の苗字からして、由緒ある神社の子息として生まれた。(川内氏はお寺の子息)そして子供の頃から神仏の教えに親しんだ。高い倫理観と愛と正義の心を持ち、大学在学時代にその優れた身体能力と頭脳の良さが買われて陸軍中野学校に召集される。数年後、青年将校として終戦を迎えた。そして敗戦国日本に迫る新たなる危機を感じ取り、真の敵と戦う事を決意する。愛用の銃を密かに隠し、行動の時を待った・・・ざっとこんな経歴である。ブローニング1910はそんな経歴の持ち主に相応しいピストルなのである。
たかが子供向けのドラマのヒーローに、そこまで考えるかと思われる方も多いであろう。(笑)しかし、川内氏は小説月光仮面の中で戦中派の思いを日本人の誇りや生き方を登場人物の言葉を借りて読者に訴えかけている。1958年は終戦から13年後にあたるが、戦争体験者達にとっては記憶に新しい出来事であった。ドラマのヒーローには作者の思い入れが強く反映されるものである。
戦後導入された欧米の思想や社会システムは一見、民主的で先進的であるかに見えて、実はその害毒が日本人の心を蝕みつつあることを川内氏は読者に伝えたかったのではないだろうか。後に川内氏は著書で痛烈なアメリカ批判を展開している。
月光仮面に登場する悪人達は悪に心を売り渡し、外国の組織の手先となって悪事を働いている。そしてその背後には世界を操る国際陰謀団が存在する。私はこの背後に潜む巨悪が何故かユダヤ金融勢力(シークレットガバメント)とかぶってしまうのである。(笑)
最後にもう一度、川内氏が当時の子供達に向けたメッセージをご紹介しておこう。
「少年少女諸君!この本に書かれたことは、いまの日本に、本当に存在はしない。だがこれに似た事件は、実際にあるし、これから先も起きる可能性がある・・・」
「完」
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