アメリカ在住中、ある老人からこういう話を聞いたことがある。
老人がまだ若者であった頃、アメリカのGM(ジェネラルモータース)が自動車の販売数を拡大するためにとった方法である。GMはある地区に路線を持つ鉄道会社を買収した。GMが鉄道経営に参画したことで、鉄道会社の経営が安定すると考えた地区の住人はそれを歓迎した。次にGMはその地区にGMの販売店を多数開店した。そして事もあろうか、全ての路線を廃止したのである。
日常の足を奪われた鉄道路線の周辺住民は、GMの車を買うしか方法がなかった。車が買えない貧しい人々は、長年住み慣れた土地から引越しせざるを得なかったそうである。若者の一家も住み慣れた土地を離れた。以後彼は生涯GMの車だけは買わないと心に誓ったそうだ。
アメリカの闇を見るような、トップ企業の卑劣極まる行為である。しかしこれらの計画は法律家のアドバイスの下に巧妙に計画され、GMに肩入れする政治家の根回しもあって合法とされたそうである。
●目先の利益と同胞の命を天秤にかけた日本の自動車メーカー
日本の自動車メーカーでここまで悪どいことをしているメーカーはさすがに無いと思うが、次のような前科がある。今から十数年前、NHKのドキュメンタリーで日本車の衝突安全性について触れた番組が放映された。国内と海外で同時に販売されている車種の衝突安全対策が全く違っているという告発的な内容であった。
当時欧米では車の衝突安全性への一定基準が決められていたが、日本では法的基準はなかった。輸出仕様車は正面衝突に対するフレーム補強や側面衝突に対するサイドインパクトバーの追加などの対策が施されていたが、表向きは安全性を謳いながら、国内仕様車は全くの未対策であったのだ。
放映終了後、視聴者の反応はすごかった。その憤りを知るや否や、数ヵ月を経ずして国内メーカーは輸出仕様と同仕様で国内販売を開始したのである。しかも価格は据え置きであった。この対応のすばやさは見事なほどであっただけに、自動車業界の確信犯的な姿勢がより鮮明となった。
車の衝突安全性を高めるには当然コストがかかる、欧米は対策をしないと販売が出来ないから、コストが嵩んでも対策をする。片や国内では法規制がないからコストの安い未対策車を販売するという考えである。自動車は人命を預かる特別な製品である。そして命の重みは世界中皆同じである。人命や安全性よりも目先の利益を優先し、同胞の信頼を裏切った国内メーカーに非難の声が集中した。
「続く」
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