今世紀になって、コーポレートガバナンスが企業の重要な指針として認知されるようになったが、実態は実にお粗末である。2000年以降の大企業の不祥事を上げてみると・・・
●三菱ふそうトラック・バス及び三菱自動車→リコール隠し
●雪印食品→自社による牛肉の産地偽装
●日本ハム→関連会社による牛肉の産地偽装
●西武グループ→有価証券報告書の虚偽記載
●三井物産→DPFデータねつ造
●三菱地所→土壌汚染隠し
●明治安田生命保険、損害保険ジャパン、三井住友海上など→保険金の不当な不払い
●NHK→不祥事の多発
●東横イン→建物の不正改造
●三菱マテリアル→土壌・地下水汚染データー隠し
●神戸製鋼→環境データー捏造
●パロマ工業→湯沸器事故での稚拙な対応
●伊藤忠ハウジング→宅建業法上の行政指導を受けていながらマンション買主に対し名誉毀損や脅迫と開き直り
●王子製紙(王子コーンスターチ)→排水データーを3700回以上も、基準値を超えないように改ざん
●ミスタードーナツ→日本国内での使用が認められていない食品添加物使用
●不二家:賞味期限切れ牛乳使用。基準値以上の雑菌を含む商品販売など
(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より
ほんの1週間前のこと、皆さんも良くご存知のように、三菱ふそうは再リコール、ミスタードーナッツは異物混入事件を起こしている。まったく懲りない企業ばかりである。「コンプライアンス」は日本語では法令遵守と訳されているが、この言葉には法律を守るばかりでなく社会的規範や企業倫理を守ることまでもが含まれている。企業は法律や基準さえ守っていれば何をしても良いというわけではないのである。
そこで今回はその問題を考える良き題材として『安部 司』著『食品の裏側』の一部をご紹介したい。
■『食品の裏側』から抜粋掲載
●私の人生を変えたミートボール事件
その日は長女の3回目の誕生日でした。当時の私は絵に描いたようなモーレツサラリーマン。午前様が当たり前で、家で食事をすることもめったになく、だからこそ娘の誕生日ぐらいは日頃の埋め合わせをしなければと、仕事を早々に切り上げて帰宅しました。食卓には妻が用意したご馳走が、所狭しと並んでいます。そのなかに、ミートボールの皿がありました。 可愛らしいミッキーマウスの楊枝がささったそれを、何気なく口に放り込んだ瞬間、私は凍りつきました。
それはほかならぬ、私が開発したミートボールだったのです。私は純品の添加物ならほぼすべて、食品に混じりこんでいるものでも100種類ほどの添加物を、舌で見分けることができます。いわば「添加物の味きき」「添加物のソムリエ」と言ったところでしょうか(ただ、ワインのソムリエと違い、あんまりなりたいという人はいないでしょうが・・・)。コンビニの弁当などを食べるときも、「このハムはちょっと『リン酸塩』が強すぎるな」「どうしてこんなに『グリシン』を使わなくてはいけないんだ」などと、ついつい「採点」をしてしまうくらいです。
そのミートボールは、たしかに私が投入した「化学調味料」「結着剤」「乳化剤」の味がしました。「これどうした? 買ったのか? ××のものか? 袋見せて」慌てて訊くと、妻はこともなげに「ええ、そうよ。××食品のよ」と答え、袋を出してきました。間違いありません。自分の開発した商品でありながら、うかつにもミッキーマウスの楊枝と、妻がひと手間かけてからめたソースのために、一見わからなかったのです。
「このミートボール、安いし、○○(娘の名前)が好きだからよく買うのよ。これを出すと子どもたち、取り合いになるのよ」見れば娘も息子たちも、実においしそうにそのミートボールを頬張っています。「ちょ、ちょ、ちょっと、待て待て!」私は慌ててミートボールの皿を両手で覆いました。父親の慌てぶりに家族は皆きょとんとしていました。
●ドロドロのクズ肉が30種類の添加物でミートボールに甦る
そのミートボールは、スーパーの特売用商品として、あるメーカーから依頼されて開発したものでした。発端はそのメーカーが、「端肉」を安く大量に仕入れてきたことでした。端肉というのは、牛の骨から削り取る、肉とも言えない部分。現在ではペットフードに利用されているものです。このままではミンチにもならないし、味もない。しかしとにかく「牛肉」であることには間違いない。しかも安い。この「端肉」で何かつくれないか、と私に相談がきたのです。元の状態では形はドロドロ。水っぽいし、味もなく、とても食べられるシロモノではありません。これを食べられるものにするにはどうしたらいいか・・・そこが発想の出発点でした。
まず、安い廃鶏(はいけい)(卵を産まなくなった鶏)のミンチ肉を加え、さらに増量し、ソフト感を出すために、「組織状大豆たんぱく」というものを加えます。これは「人造肉」とも言って、いまでも安いハンバーグなどには必ず使われています。これでなんとかべースはできました。しかしこのままでは味がありませんから、「ビーフエキス」「化学調味料」などを大量に使用して味をつけます。歯ざわりを滑らかにするために、「ラード」や「加工でんぷん」も投入。
さらに「結着剤」「乳化剤」も入れます。機械で大量生産しますから、作業性をよくするためです。これに色をよくするために「着色料」、保存性を上げるために「保存料」「PH調整剤」、色あせを防ぐために「酸化防止剤」も使用。これでミートボール本体ができました。これにソースとケチャップをからませれば出来上がりなのですが、このソースとケチャップも、いわゆる「市販」のものは使いません。そんなことをしていたら、採算が合わず値段を安くできないからです。コストを抑えるために添加物を駆使して「それらしいもの」をつくり上げるのです。
まず「氷酢酸を」薄め、「カラメル」で黒くします。それに「化学調味料」を加えて「ソースもどき」をつくるのです。ケチャップのほうは、トマトベースに「着色料」で色をつけ、「酸味料」を加え、「増粘多糖類」でとろみをつけ、「ケチャップもどき」をつくり上げます。このソースをミートボールにからめて真空パックにっめ、加熱殺菌すれば「商品」の完成です。添加物は、種類にして20~30種類は使っているでしょう。もはや「添加物のかたまり」と言っていいぐらいのものです。本来なら産業廃棄物となるべきクズ肉を、添加物を大量に投入して「食品」に仕立て上げたそれがこのミートボールだったのです。
●「添加物のかたまり」でピルが建った
この私の開発したミートボールは、売値がーパックたったの100円弱。そこまで安い値段設定ができた理由は、原価が20円か30円だったからです。それは、発売を開始するやいなや、たちまち大ヒット商品となりました。もう笑いが止まらないほど売れ行きがよく、そのメーカーはこの商品だけでビルが建ったと言われたほどです。
(中略)
●自分も家族も消費者だった・・・
「パパ、なんでそのミートボール、食べちゃいけないの?」ミートボールの製造経緯に思いをはせていた私は、子どもたちの無邪気な声にはっと我に返りました。「とにかくこれは食べちゃダメ、食べたらいかん!」皿を取り上げ、説明にもならない説明をしながら、胸がつぶれる思いでした。ドロドロのクズ肉に添加物をじゃぶじゃぶ投入してつくったミートボールを、わが子が大喜びで食べていたという現実。「ポリリン酸ナトリウム」「グリセリン脂肪酸エステル」「リン酸カルシウム」「赤色3号」「赤色102号」「ソルビン酸」「カラメル色素」……。それらを愛する子どもたちが平気で摂取していたという現実。
このミートボールは、それまでの私にとって誇りでした。本来なら使い道がなく廃棄されるようなものが食品として生きるのですから、環境にもやさしいし、1円でも安いものを求める主婦にとっては救いの神だとさえ思っていました。私が使った添加物は、国が認可したものばかりですから、食品産業の発展にも役立っているという自負もありました。しかし、いまはっきりわかったのは、このミートボールは自分の子どもたちには食べてほしくないものだったということです。
そうだ、自分も、自分の家族も消費者だったのだ。いままで自分は「つくる側」「売る側」の認識しかなかったけれども、自分は「買う側」の人間でもあるのだ。いまさらながらそう気づいたのです。 その夜、私は一睡もできませんでした。 添加物のセールスこそが自分の生涯の仕事と決め、日本一の添加物屋になってみせると意気込んでここまでやってきた。添加物で日本の新しい食文化を築こうと本気で考えていた。
しかし、自分の「生涯の仕事」は何かがおかしい。なんのためらいもなく、添加物を売りさばくことしかなかった自分。営業成績が上がることをゲームのように楽しんでいた自分。職人の魂を売らせることに得意になっていた自分・・・。たとえは適切ではないかもしれないが、軍事産業と同じだと思いました。人を殺傷する武器を売って懐を肥やす、あの「死の商人」たちと「同じ穴のむじな」ではないか。
このままでは畳の上では死ねない・・・そう思いました。
(掲載終了)
続く
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■出版社 / 著者からの内容紹介
廃棄寸前のクズ肉も30種類の「白い粉」でミートボールに甦る。コーヒーフレッシュの中身は水と油と「添加物」だけ。「殺菌剤」のプールで何度も消毒されるパックサラダ。虫をつぶして染めるハムや健康飲料・・・・。
食品添加物の世界には、消費者には見えない、知らされていない「影」の部分がたくさんあります。「食品製造の舞台裏」は、普通の消費者には知りようがありません。どんな添加物がどの食品にどれほど使われているか、想像することさえできないのが現状です。
本書は、そんな「食品の裏側」を、食品添加物の元トップセールスマンが明した日本ではじめての本です。いま自分の口に入る食品はどうできているのか。添加物の「毒性よりも怖いもの」とは何か。安さ、便利さの代わりに、私たちは何を失っているのか。本書は、それらを考える最良の1冊になっています。
著者:安部 司
1951年福岡県生まれ。山口大学文理学部化学科卒。食料、添加物商社勤務後、現在は自然海塩「最進の塩」研究技術部長。有機農業JAS判定員。水質第1種公害防止管理者。